美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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今話、ぼくにしては中々のボリュームになりました。


第十話 親友とお兄様の密会

放課後の校舎というのは意外なことに人気がないというわけではない。教室でおしゃべりをする者、部活動に励む者、今日の授業の復習をする者、用途は様々だが放課後であっても校舎からはそう人気がなくなるわけではなく、完全下校時刻になるまではそこそこの賑わいをみせている。

とはいえそれは普段生徒達が主に授業を受けている本校舎、美術室、音楽室、理科室などの特別な教室がある第二校舎に限っての話であり、時折思い出したかのように授業で使われてはいるものの、殆どが空き教室で、取り壊しも検討されている旧校舎には人の気配など微塵もない。

 

その、空き教室の一室。

そこに二人の男女がいた。

 

 

「薫、お前から呼び出すとは珍しいな」

 

「まぁ、学校では声かけるなと達也に言ったのはアタシだからな」

 

 

人気のない旧校舎の空き教室に男女が二人きり……と、邪推せずにはいられない状況ではあるものの、この二人に限ってはそういうこともないのだろうと確信できる空気感がそこにはあった。

 

 

 

「お前とお前の妹はとにかく目立つからな、なるべく関わりたくないんだよ」

 

「……薫と美月も同じようなものだと思うが」

 

 

達也の言葉に薫は顔をしかめ、達也は小さな笑いを漏らした。

薫のそれが達也の呟きが気に入らないものの、言い返すことが出来ずに飲み込んだがゆえの表情であることを知っていたからだ。

 

 

 

「達也、実はお前に頼みがあるんだ」

 

「お前がか?それは本当に珍しい…いや、初めてじゃないか?」

 

 

薫は基本的に人に頼ることをしない。

一人で大概のことは出来てしまうし、人に借りを作ることを酷く嫌う性分だからだ。

 

 

 

「ふん、お前に借りを作るのが嫌だっただけだ。お前に借りなんてそれこそ何を要求されるか分かったもんじゃない」

 

薫のあんまりな言い方に今度は達也が一瞬、顔をしかめるが、すぐにやれやれ、といった具合に肩をすぼめ、ため息を吐いた。

 

 

「はぁ…そう思うなら俺への頼みというのは」

 

「……それだけ大事ってことだ」

 

 

大概のことは一人でできる、それも何を要求されるか分からないとまで考えているらしい達也に頼むということは相当のことだ。

達也は一体どんなことを頼まれるのかと薫の言葉に耳を傾けた。

 

 

 

「達也、お前美月を惚れさせろ」

 

 

 

「は?いや、待て!俺が?美月を?お前は何を言っている!?」

 

「つべこべ言わずに美月を落とせば良いんだよ!姉弟子の頼みが聞けねぇーてのか!?」

 

 

薫の突拍子もない頼みは、とても即答で了承できるものではなく、そもそも目的が分からない。疑問で返すのは同然なのだが達也は理不尽にも襟首を掴まれガクガクと体を揺らされる。

 

 

「何故俺がキレられねばならない!?第一、美月大好きで過保護なお前が、俺に美月を惚れさせろ?ありえないだろ!」

 

「なっ!?だ、誰が誰を大好きだと!?」

 

 

薫が顔を赤くして狼狽えた一瞬の隙に達也は薫から距離をとる。残念なことに達也は男女の差があって尚、この少女に体術では勝てないことを痛みと共に散々思い知らされていた。言葉で隙を作りでもしないとyesと答えるまで体を揺らされ続けたことだろう。

 

 

「俺と深雪が美月に接触するのでさえ、半年近くも待たせたお前が良く言う。ツンデレというやつか?」

 

「誰がツンデレだ!てめぇー、そんな言葉どこで覚えてきやがった!」

 

「美月だが?」

 

「だろうな!」

 

 

美月大好き、過保護、ツンデレ、等と達也の言葉にいちいち顔を赤くして突っかかっていた薫だったが、美月によって達也までもが侵食?されている現実に頭を抱えた。達也からツンデレなどという一部で使われているような俗な言葉が飛び出してきたことは、薫にとって美月の恐ろしさを再確認させるには十分なものだったのだ。

 

 

 

 

 

「それで、どうして美月を惚れさせろなんて頼みを俺にしたんだ?」

 

「……お前は顔はそこそこだが、アタシと戦えるくらいには強いし、頭も良い。性格がひん曲がっているのがたまに傷だが、まあ、美月を任せてもいいと思ったんだよ」

 

「今まで散々裏で美月から男を遠ざけていたお前にそう言われるのは光栄だが……それは嘘だな」

 

「う、うう嘘じゃねぇーよ?」

 

「無理をするな、お前は口は悪いが嘘を吐くのは上手くない。いや、確かに嘘は言っていないかもしれないが本当のことも言っていないだろう……正直に話せないなら、この話は受けられない」

 

 

薫から睨み付けられても、達也はすました顔で受け流す。体術において決定的な上下関係があるのと同じく、こうした口での戦いでは薫は達也に勝つことができない。

 

 

「……笑ったら殺すぞ?」

 

 

物騒な言葉とは裏腹に何故か顔を赤くし涙目でモジモジしている薫は、失礼なことに達也の持っている薫へのイメージとは違い、実に女の子らしいものだった。

 

 

 

 

「……あー、つまりなんだ。お前の好きな男が美月を好きだと、そういうことか?」

 

 

 

薫がたどたどしく語った話を要約して、達也はそう結論を言った。瞬間、薫の顔が真っ赤に染まり、拳が達也に飛んでくる。同然、達也が無防備にそれを食らうわけもなく、受けとめようとするわけだが、そこは達也が体術では勝てないと認める薫、すんでのところで達也のガードをすり抜け、強烈な拳は鳩尾に突き刺さった。

 

 

「……そーだよ、好きだよ!美月に告白するために頑張るあいつに惚れたよ!悪いか!」

 

「ゲホッ……ハァ……誰も悪いとは言ってないだろ!お前のその口より先に手が出る癖を止めろ!俺の身が持たない」

 

 

 

最初はいつものように、美月を狙う男を潰しとこうと呼び出した。名前も知らない、男子生徒。

適当に脅して、美月が男に興味がないことを伝えたらそれで終わるはずだった。

 

 

 

『……そっか、ならアタシが手伝ってやるよ』

 

 

気がついたらそんなことを言っていた。

美月を想う気持ちが真剣で、何もおかしなことなんてないとばかりに見詰める瞳が純粋で、助けてやってもいいかな、なんて思ってしまったのだ。

 

それから何度も休み時間や放課後に二人で美月を落とす方法を考えたり、アプローチしてみたりした。その時の美月のちょっとした反応で一喜一憂するが佐藤が妙に可愛くて、薫はもっといじめたい、構いたいという気持ちにかられた。佐藤の一生懸命に頑張るけどちょっと残念な姿が薫には堪らなく壺だったのである。だから、それが恋に変わるまでそう長い時間はかからなかった。

 

 

 

「話は分かったが、俺に美月を落とす気はない。お前も知っているだろ、そもそも俺に恋愛感情なんてものは存在しないんだ」

 

「それは今のお前だろ?……変わるさ、お前は間違いなく。理屈なんて関係ない 、これから美月に関わっていけば、お前は変わる」

 

 

 

絶対的自信に満ち溢れたような、確信を持った表情はすぐに笑みへと変わった。

 

 

「だってアタシがそうだったからな」

 

 

薫の笑みは達也が思わず見惚れてしまう程に魅力的で美しかった。

 

それはきっと美月に出会う前の薫には絶対にできない、本当の笑顔なのだから。

 

 

 

 

薫の用件が終われば、二人が一緒にいる理由はない。下手をすれば、達也と文字どおり四六時中一緒にいる深雪よりも長い時間を共に過ごした二人ではあるが、二人の間にある友情は少々特殊なもののようで、雑談に興じるというようなことはそうあることではなかった。

 

 

「ああそうだ達也、お前の気持ち云々は分かったが……さっさと惚れさせないとどうなるか分からないぞ……特にお前の妹がな」

 

「深雪が?……そういえば最近深雪の様子がおかしいんだか…お前何か知らないか?」

 

だからこそ、去り際、薫のした冗談とも思える忠告を達也は真剣に受け止めた。受けとめた上で考え、妹の様子がおかしいことに思い至ったのである。

 

 

 

「達也の妹とは話したこともないが……具体的にどうおかしいんだ?」

 

 

薫には深雪と面識がない。

 

深雪が達也と薫が師事している「忍術使い」九重八雲の寺を訪れるようになったのは中学一年生の十月ごろ。その頃には既に薫は九重八雲の寺にはいなくなっていた。

それからは少々特殊な友情を築いている二人だ、達也は特に妹を薫に紹介することはなく、薫もまた特に関わろうとはしなかった。それどころが、目立ち過ぎて鬱陶しいという理由で学校での接触を絶ったのである。

 

当然、達也もそれを知ってはいたが、妹の異常と薫の忠告には何か接点があるような気がして、とりあえず妹の異常を話してみることにする。

 

 

 

「なんでもない時に急に顔を赤くしたかと思うと、何やらぶつぶつ呟き出してその後暴れ出すんだよ。しばらくすれば元に戻るから、俺も指摘すべきか悩んでいてな、執拗に唇を気にしているようだったが特に病気ではないようなんだ」

 

 

達也の話をきいて薫の頭には先日、美月から聞かされた事件とも言うべき出来事が過っていた。

薫は深雪の反応はまず間違いなくそこに起因するものだと確信すると同時に、美月さんマジぱねぇー、と美月に畏怖の念すら抱いた。

 

 

 

「………………思春期の女子には良くあることだ、何も言わずに見守ってやれ」

 

 

超絶シスコンである達也に、お前の妹、美月に落とされる寸前だぜ、と伝えることは流石の薫も出来なかったのか、そうやんわり誤魔化すと真剣な表情で達也の肩に手を置く。

 

 

 

「……ただ一つ言っておくが美月を惚れさせるの、マジで急いだ方が良いぞ。妹が新しい扉を開ける前にな」

 

 

そして、そう言い残すと達也を一人残し、部屋を去っていく薫。

 

 

「新しい扉?」

 

 

それを唖然と見送った達也は、意味の良く分からない単語に首を傾げ、しばらく考えた後、何らかの答えを導き出せたのか、静かに教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司波が旧校舎で桐生さんとイチャついてただとぉお!?」

 

「美月だけじゃなく、姐さんにまで手を出しやがって!」

 

「あんな超絶美少女の妹がいるくせにまだ足りないってのか!」

 

 

「「「許すまじ、司波達也!」」」

 

 

 

 

二人は知らなかった。

最近新築されたサッカー部の部室から、二人の密会していた教室が丸見えであったことを。

 

 

こうして達也はこの中学の男子生徒全員と、一部の女子生徒を敵に回すこととなったのである。

 

 




(; ̄Д ̄)達也「なんだかあらぬ誤解を招いたような気がする」


[壁]`∀´)Ψヶヶ 薫「なーんか面白いことになってるけど黙っとくかww」

(( ;゚Д゚))ガクブル 美月「か、薫が楽しそうにしてるっ、絶対良くないことだよぉ…」






達也はオチ担当がぼくの二次小説では安定です(笑)

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