美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

16 / 81
なんとか一ヶ月以内に投稿(汗)
もう一つの作品が完結したら本気出します!(きっと)



第十五話 超人と日陰者の計略

「美月、俺と付き合え」

 

 

 

えっ?えっ?えっ?いやいやいや、聞き間違いかな?達也がぼくと付き合うみたいなこと言ったような気がしたんだけど?うん、ぼく疲れてるみたい。今日は帰ろう、そして寝よう。なんだか顔が熱いし、たぶん風邪だ。こういうのは無理しちゃいけない。

 

ぼくは覚束ない足取りで下駄箱に向かう。すると、はっとしたように佐藤くんがフリーズから復活し、耳元で何やら囁いてきた。

 

 

「……きっと達也は偽の恋人として柴田さんの盾になるってことが言いたかったんじゃないかな?ほら、柴田さんに恋人、それも完璧超人の達也が恋人になれば告白しようなんて男子はいなくなるじゃない」

 

 

ぼくの耳元で小さな声で佐藤くんが教えてくれた意見。そのおかげで熱くなっていた顔もクールダウンしていく。なんだ、そういうことか。達也は言葉が足りないんだよ。変な勘違いしちゃったじゃん。

いやー、最近、達也と佐藤くんが仲良さ気にしていたから佐藤くんは分かったんだろう。よくよく考えてみれば達也がぼくに告白なんてあるわけないよね。あの一言から達也の考えを読み取るなんて中々やるではないか。流石は達也の唯一の男友達!

 

 

「達也、そういうことならよろしく!」

 

「ああ、美月」

 

 

ぼくは達也とがっちり握手する。

 

 

何故か達也の笑顔が、とある新世界の神志望の大学生のような『計画通り』と言わんばかりのものの気がするけど気のせいだろう。

 

 

「う、ううう嘘です!何かの間違いです!」

 

「はぁぁああああ!?」

 

 

 

ぼくは遅れて復活した深雪と薫の驚きの叫び?を聞きながらそんなことを考えていた。

 

 

 

時は遡ること数日前。

 

 

放課後、旧校舎の教室で美月、薫、司波兄妹で集まることが二年の後半から増え始めていたわけだが、進級と共にその恒例イベントも変化した。

というのも、旧校舎の教室にわざわざ集まる必要がなくなったからである。

 

何故なら今年、教職員がトチ狂ったのか、彼女達は全員が同じクラスだからだ。

今年の三年A組のあまりのカオスっぷりに、この学年の誰もが教師陣の頭を疑ったくらいである。

 

 

「達也と深雪、兄妹なのに同じクラスなんだね」

 

「そういうこともあるだろう。まあ、初めてだがな」

 

「お兄様と同じクラス……なんて素敵なのかしらっ」

 

「おいおい、このクラス混ぜるな危険をなんの躊躇いもなく混ぜやがったな」

 

「うん……桐生さんもその一人だけどね……」

 

 

クラス結成時、そんな会話がされたわけだが薫の言うことはもっともな意見だった。

 

超人にして、全男子の敵、司波達也。その達也の妹にして、才色兼備の超絶美少女、司波深雪。学年二位の才女にして、元天才サッカープレイヤーにして、現役のイラストレーター(他称)、柴田美月。その親友にして、深雪に優るとも劣らない美少女、桐生薫。ついでに佐藤。

 

これでこのクラスに何も起きないわけがない。

 

 

「とりあえず委員長は佐藤だな」

 

「えっ!?」

 

 

そしてそのカオスなクラスの委員長に任命(押し付けられた)された佐藤は日々数々の難題を抱えながらも中々に上手く委員長職をこなしていた。

 

そんな佐藤は現在、絶賛片想い中であり、複雑な事情の片想いに耐え兼ね口の固そうな友人に相談したものの結果は現状維持。片想いの相手、薫には未だに美月のことが好きなのだと勘違いされ続けたままであり、恋愛に発展する気配など微塵もなかった。それどころが、定期的にどんな風に美月にアプローチすればいいのか話し合うことになっている始末だ。この話し合い自体は薫と二人っきりになれる数少ないチャンスなため無くすことはしたくないが、佐藤が美月ではなく薫に恋愛感情を抱いている以上、話し合いの内容は極めて不毛なものであった。

 

 

 

「佐藤、少し相談があるんだが……今日の放課後大丈夫か?」

 

「問題ないけど……」

 

 

 

先日、複雑な片想いについて相談したばかりの達也から、逆に相談があると言われれば、喜んで聞くし、真剣に考える所存の佐藤であるが、達也から相談されるということに何故か緊張していた。

 

達也が一人で解決できないようなことを相談されたところで、期待には答えられそうにないという不安もあったのだろう。

 

 

しかし、いざ蓋を開けてみればなんてことはない、達也の悩みは自分と変わらない思春期男子特有の甘酸っぱい青春の一ページに過ぎなかったのだ。

 

 

難しい言い回しというか、遠回しというか、堅苦しく複雑な言葉で達也は長々と語ったが、佐藤的翻訳で略すと、結局は「美月が気になって仕方がない」ということだったのだから。

 

恋愛などとは無縁そうだ、と思っていただけに佐藤は意外感を覚えずにはいられなかったが、達也とて自分と同じ男子中学生、色恋の一つや二つあってしかるべきだ。いかに達也が超人であっても結局、悩むことは同じで自分とそう変わったところなどない。

そう思えば、今までどこか距離を置いていた達也とも今まで以上に腹を割って話せるような気がした。

 

 

「結局、達也はどうしたいの?」

 

 

「分からない。だが、あいつが誰かと付き合うのは面白くない」

 

 

それは単純に嫉妬なんじゃないだろうか、と長々と話した末に達也が出した結論に思わず笑いそうになった。難しい顔をしてそんなことを言う達也が妙に面白かったのだ。

 

 

 

「そうだな、佐藤。ここは協力しよう」

 

 

「協力?」

 

「ああ、お前は薫に美月に恋愛感情を抱いていると勘違いされていて困ってる、俺は美月を誰とも付き合わせたくない……なら一つ、二つの問題を一度に解決できるかもしれない方法がある」

 

 

さながらピンチに陥った主人公が仲間に一発逆転の作戦を伝えるように、達也は言う。

 

 

 

「俺が美月と付き合えば良い」

 

「ちょっと何言ってるのか分からないかな」

 

 

真剣な顔で何を言うのかと思えば、全男子がそれが出来れば苦労しない!と叫ぶのが目に見えている発言。皆、そこに到達するために悩むのであり、それが難しいからこそ思春期男子に限らず全人類永遠の悩みとして恋愛があるのだ。

 

確かに、達也はモテる。

 

深雪がいるがゆえに自分から告白しようなどという猛者はこの学校にはいないが、運動も勉強もでき、大人びたクールさを兼ね備えた超人を少なからず慕っている者はいるのだ。

 

 

「それは難易度が高すぎるよ」

 

 

しかし、いかに達也がモテようとも、今回ばかりは相手が悪い。

 

なぜなら─

 

 

「だって、柴田さんの恋愛対象、女性じゃないか」

 

 

─越えられない壁が存在するからだ。

 

 

「分かりたくはなかったが、分かっている……深雪が狙われているしな」

 

 

達也は苦笑い気味に答える。

達也の気持ちはかつて美月に片想いをしていた身としては痛いほどに分かるため佐藤はその絶望感を知っていた。

 

 

「だから今回は絡め手を使う」

 

「絡め手?」

 

「ああ、美月のここ最近の状況を考えれば無理なくいけるはずだ」

 

 

美月はここ最近告白ラッシュに襲われ大変疲弊していた。美月は恋愛事において鈍感極まりないようで、今までそういったことはあまりなかったらしく、気苦労が絶えないのだろう。

 

 

「まず、俺が最適だと判断したタイミングで美月に俺と付き合うように言う」

 

「いきなり告白とか達也さんマジパネェっす」

 

 

何が絡め手だというのだろうか、圧倒的王道、正々堂々過ぎる一手じゃないか、と佐藤は口には出さずに思ったが、それは早計というものだった。

 

 

「まあ、作戦の本題はここからだ。この作戦には佐藤、お前の協力が鍵になってくる」

 

「僕の協力?……そりゃ出来ることなら手伝うけど」

 

「何、簡単なことだ。お前は一言、俺が美月に『付き合え』と言った後、他の誰にも聞こえないように美月に囁けばいい」

 

「耳元で囁くって意外と難易度高いんだけど……何を言えばいいの?」

 

異性の耳元で囁くなんてことは勿論佐藤に経験はなく高難度のミッションなのだが、相手が美月ならできないことはない。美月はこちらがびっくりしてしまう程に男子との距離が近い。上手いこと言えば耳を貸してくれることだろう。

 

 

「『俺が偽の恋人として美月の男避けになる』。それをお前の言葉で伝えろ」

 

「……なるほど、それなら柴田さんも頷くかも。柴田さん随分疲れてるみたいだし」

 

 

美月は男子をあまり異性として認識できていない。分かってはいるが感覚がついてこない、という感じだろう。美月にとって恋愛対象は女子であり、男子はそうでないのだから当然とも言えるが。

 

美月がこうまで頑なに前世の恋愛感を引き継いでしまっているのは、一重にその環境のせいだろう。

幼少より出来る友達は男ばかりであり、サッカーに夢中だった美月は女としての感性をいまいち理解することなく成長してしまったのである。

 

その美月が男子からの告白ラッシュを受ければ当然疲弊する。

美月としては仲の良い男子から告白され気まずくなるのは嫌だし、勇気を出して告白してくれたのにそれを断るというのは中々につらいものがあった。

 

それを達也が盾になることで、無くせるというのなら美月はきっと喜んで達也の申し出を受けることだろう。

そうなれば、達也の『美月を他人と付き合わせたくない』という希望は叶うし、佐藤も薫に本当のことを言う良い機会になる。二つの問題を解決できるかもしれない。

 

 

 

「でもそれなら別に僕の口から言わなくても上手くいくんじゃ……」

 

「俺からではなく、俺以外の誰か(・・・・・・)がそれを言うことに意味があるんだ」

 

 

 

一瞬、達也の言っている意味が分からなかった佐藤だったがすぐに達也の思惑に気がつく。

 

 

 

「……まさか!?」

 

 

「……俺は(・・)別に『男避け』になるとは一言も言っていない。お前の囁きで美月が勝手に(・・・)勘違いするかもしれない(・・・・・・)というだけだ」

 

 

まるで詐欺。

達也もあまり良くないことであるのは自覚しているのか、佐藤の方を見ずに窓の外へと視線を送っている。

 

 

 

「呆れた。達也、君僕の想像以上に性格悪いね」

 

「良く言われる」

 

 

佐藤の嫌みに堂々と答える達也。もはや言われなれているのか、これも自覚しているのか。

その態度はさらに佐藤を呆れさせた。

 

 

「大体、そんなんで柴田さんと付き合っても後が大変だと思うけど」

 

「安心しろ。一度手にいれたものを手放す気はない」

 

 

達也はこちらも堂々と答える。

佐藤にはとても言えない、というより考えもしない『そうなる前に美月を自分のものにして見せる』という強気な発言だが、達也が言うと本当に実現しそうなのだから恐ろしい。

 

 

「あーあ……こんなのに目をつけられちゃって、柴田さんご愁傷様」

 

 

心の底からそう思った佐藤は両手を合わせて合掌。

もはや美月が達也から逃れることはできそうにないな、と確信に近い予想が容易く出来たからである。

 

 

 

「お前はその『こんなの』に手を貸すわけだが……」

 

 

あまりにあんまりな自分の扱いに達也も佐藤に嫌みを一つお見舞いするが……。

 

 

「僕も被害者だよ」

 

 

佐藤はケロッとした顔でなんでもなさそうに答えた。

 

 

 

「お前も大概性格が悪いんじゃないか?」

 

 

今度は達也が呆れる番だった。

 

 

「そうかな?」

 

「そうだ」

 

 

二人は小さく笑いを漏らして握手をする。

本当の意味で二人が友人になった瞬間だった。

 





( ゚ρ゚ )ポカーン 深雪「お兄様が美月と……うふっ、うふふふふ」

ヽ(´Д`lll)ノ 佐藤 「うわ、深雪さんがかなりヤバイ状態に……達也!なんとかしてよ!」


ヾ(゚ー゚*) 達也「ふむ、任せた委員長」


Σ(゜Д゜) 佐藤「まさかの丸投げ!?無理!僕には無理だよ!」


( ̄。 ̄) 達也 「大丈夫だ、お前なら出来る。俺が信じるお前を信じろ」


(*`Д´)ノ 佐藤 「そういう台詞、僕の目を見て言おうか!せめて本から顔を上げてから言おうか!棒読みで言うの止めようか!」






| |д・) ソォーッ… ???「うふふ、随分と楽しそうね」


∑(゚Д゚)マサカ!? 達也「!?」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。