美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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第十七話 お兄様の計画

薫は門人達を完膚なきまでに叩きのめし、堂々とした足取りでぼくたちのいる本堂の前までやってくると、気だるげに頭を掻きながら一言。

 

 

 

「……あー、なんだ。これはアタシが嵌められたってことでいいのか」

 

「痛い!痛いよ薫ちゃん!」

 

 

薫は九重八雲先生の頭を掴むとギリギリと握りつぶすように力を込める。

あれは痛い!ぼくも幾度となくやられてきてるけどいくらやられても慣れる気配はない。

 

 

 

「僕は頼まれたんだよ!達也くんに!」

 

「そんなことは分かってんだよ、アタシが言いたいのはなんでてめぇーはそうアイツに手を貸しちまうのかってことなんだよ!」

 

「だって仕事の依頼ってわけじゃなかったし!ほら、美月くんもいるじゃない!」

 

「あっ?」

 

 

達也が目に入った時点で頭に血が上っていたらしい、今時のキレやすい若者の薫は、散々九重八雲先生を痛め付けたところでやっとぼくの存在に気がついたようである。ちょっと悲しい。

 

 

「うー、しくしく、薫が無視するよー」

 

「……」

 

 

ぼくが薫の気を引こうと泣き真似をしてみるけど冷たい眼差しで黙殺された。すごく悲しい。

 

 

「で、なんでお前はここにいんだ?それも大事な妹様と彼女様を連れて」

 

「俺はほぼ毎朝ここで修行をさせてもらっている。この時間は大体いるが?」

 

「そんなことは知ってるんだよ。その『大体』から外れて(・・・)んのが日曜日だろうが」

 

「……知ってたのか」

 

「その日はここに来るの避けてたからな、んじゃ、てめぇの悪巧みを吐いてもらいましょうかね」

 

 

薫が達也を引きずるようにして本堂の裏に連れていってしまった。うん、達也よ、短い間だったけど良い彼氏だったよ。

 

 

 

「というわけで深雪、ぼく達はぼく達で楽しもうか……ぐふっ」

 

「お兄様ー!?私少しまずい状況に!?」

 

 

 

 

妹が窮地に追い込まれているころ、達也もまた別の修羅場の中にいた。

 

 

 

「で、なんでアタシを駄師匠に頼んでまで呼び出した?」

 

 

薫はそう頻繁にはこのお寺にやってこない。それが早朝ともなればなおのことだ。

今日、わざわざ薫が足を運んだのは九重八雲からの連絡を受けたため。

九重八雲からの呼び出しというのは滅多にあるものではなく、素直に応じてしまったのだ。

が、蓋を開けてみればそこには両手に花状態の達也がいた。達也はほぼ毎朝、九重八雲の元で修練を重ねているが、日曜日の朝だけは例外だった。中学生にして既に多忙である達也はフォアリーブステクノロジーにて仕事をするため、日曜日の朝はほとんどこのお寺にはやってこない。それを薫は知っていたからこそ、朝早くからの呼び出しに応じたというのもあるわけだが……。

 

薫は一瞬にして自分が嵌められたことを悟った。

達也が九重八雲を使って自分を呼び出してもらったのだと。

九重八雲の少し申し訳なさそうな顔と、達也の計画通りと言わんばかりの顔を見ればそれは確定だった。

 

 

 

 

「俺達とデートに行って欲しくてな」

 

 

「はぁ?なあ達也。お前まさかと思うが今日美月とデートか?」

 

「ああ」

 

「お前どこの世界に妹を連れて女とデートに行く兄貴がいるんだ!」

 

 

妹同伴でデートなどともはや異常性癖と言っても過言ではない、と戦慄した薫。

しかし──

 

 

 

「いや、美月が言い出したんだが……」

 

 

「……すまん、納得した」

 

 

 

──達也が一言真実を告げれば、それはため息へと変わり、純粋な気持ちで謝罪した。

達也も苦労しているのだ。

 

 

場を何とも言えない空気が支配するが、薫とて今更後には引けない。

少々勢いを失いつつも達也に詰め寄る。

 

 

 

「ま、まあそれはそれとして、アタシを誘う理由はなんだ?」

 

「……俺一人で美月の面倒を見るのは無理だ。手伝ってくれ」

 

「はぁ?なんでアタシがそんなこと……」

 

 

達也の提案に当然とばかりに顔をしかめる薫。

 

 

 

「お前には貸しがあるはずだ」

 

「貸し?……ん?あぁー!?」

 

 

達也、お前美月を惚れさせろ。

 

それは二年のとき、薫が達也にした依頼であり、それを達也は現在進行形で行っているところだ。依頼主である薫がそれをサポートすることは決して不自然なことではない。

 

 

「お前、自分が美月に惚れた癖にそうやって……性格悪いぞ!」

 

「惚れた腫れたはよく分からないが……とりあえず手元に置いておくことにした」

 

 

特に表情を変えるでもなく、そう言い放った達也に薫はげんなりとした様子で。

 

 

「前言撤回だ……お前、壊滅的に性格悪いな」

 

「別に断ってくれてもいいぞ、無理に頼もうとは思っていない。……ただ、俺がつい口を滑らせて『お前から依頼されたこと』を美月に漏らしてしまったらすまんな」

 

「はあ!?」

 

「きっと泣くな、泣いてお前に付きまとい、離れないだろうな」

 

「鬼か!?性格最悪か!?」

 

「ふっ、それが嫌なら今日のところは大人しく付いてくるんだな」

 

 

薫は恨めしげに達也を睨みながら渋々と口を開いた。

 

 

「……今回だけだ」

 

「助かるよ、快く(・・)引き受けてくれて」

 

 

 

薫は達也の顔面に一発かましたいのを、どうにか堪えてせめてもの抵抗とばかりに達也から顔を背けた。

 

 

 

 

 

「深雪ー照れなくて良いんだよ!ほらおいでって!」

 

「うわ、美月くん意外と力あるね」

 

「先生!絶対に離さないでください!」

 

 

 

達也と薫が戻ると、そこはカオスと化していた。

目をハートにして涎を滴ながら手足をバタつかせる美月とそれを羽交い締めにしてなんとか押さえている九重八雲。そして、それを涙目で怯えたように木の後ろに隠れて見ている深雪。

 

 

 

「……あー、断りてぇー」

 

「……報酬は弾もう」

 

 

そのカオスを見て呟いた薫の心からの言葉に、達也はそう付け足した。

 

 

 

 




(´・д・`)美月「達也って性格悪いよね」


( ・д・)薫「ああ、深雪もなんであんなのを慕ってるんだかな」

(*`Д´)ノ!!深雪「お兄様は性格が悪くなどないわ!貴女たちは一体お兄様の何を見ているの!頭脳明晰、容姿端麗、文武両道!素晴らしいお兄様よ!」


( ゜д゜)美月・薫「「容姿端麗……これは洗脳されてますね」」





(つд;*)達也「流石に酷くないか?」








今作の正式タイトルをついに決定いたしました!
皆さんの中には、どうせ今作も(仮)のままなんだろ、なんて思っていた方いたのではないでしょうか?
残念、正式タイトルには(仮)はつかないのです(ドヤ顔)

その正式タイトルですが、明日の0時に次話の投稿と同時に変更したいと思っていますのでお楽しみに。


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