美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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一章 中学生編〈上〉
第一話 司波兄妹


司波兄妹は校内で知らない人間はいないってくらいの有名人だ。

 

兄、司波達也は歳の割に落ち着いた、とても中学生とは思えない言動をする男子生徒で、成績は飛び抜けて優秀、スポーツは何をやらせても一流、恐らく妹がいなければ恐ろしくモテたことだろう。

 

妹、司波深雪は毎日のように男女問わずラブレターを押し付けられる程の美少女だ。もはや『美少女』という種族なんじゃないかというような別次元の美少女である彼女は、その容姿に加え、兄同様中学生とは思えない言動、それも、生粋のお嬢様なのであろう上品さというか気品がその仕草の一つ一つから溢れていた。まあ、そんな妹がいたんじゃ兄の司波達也に告白しようなんて勇気のある女子は中々に現れない。それに、中学二年生になってからというものの、司波深雪は兄にべったりだから難易度はMAXだ。勇者が初期装備でいきなり魔王と戦おうとするぐらい無謀な挑戦なのである。

 

 

「ぐぬぬぬ…また負けた」

 

 

一位 司波達也

 

二位 柴田美月

 

三位 司波深雪

 

 

テストの度に張り出される順位表。上位三十名の名前が張り出されるわけだが、この中学校に入学してからというものの、毎回、毎回、ぼくは二位である。有名人であるものの、去年一年間は他クラスだったし、ぼくがサッカーに打ち込んでいたということもあり、一度の関わりもなかった兄妹。その兄である司波達也にぼくはどうしたって勝つことが出来ない。今回のテストはサッカー部にも顔を出さず、テスト一週間前から勉強したってのに結局、勝つことが出来なかった。

 

朝一番で、順位表を見に来たことが完全に仇となった。テンションガタ落ちでもう何もやる気がおきない。

 

 

 

「お、お兄様ぁ…」

 

「深雪は頑張っていたよ、俺の教え方が悪かったんだ」

 

「そんな!お兄様は完璧でした!なのに私は……お兄様のご期待に答えることが出来ず……」

 

「深雪、そう落ち込む必要はないよ、学年で三位なんだ、十分立派な成績だよ」

 

 

 

そんな、もうお家帰りたい状態のぼくの横で桃色空間を展開している男女がいた。というか司波兄妹だった。おい、司波達也、その距離は兄妹の距離じゃないぞ!司波深雪、兄から頭撫でられて恋する乙女みたいな顔をするんじゃない!中学生で禁断の愛とかお姉さんあまりおすすめは出来ないな!

 

 

「…とりま、隣で桃色空間展開するの止めてもらっていいですかね?さらにテンション下がるので」

 

「桃色空間?……君は…柴田美月さんだね」

 

 

内心でツッコミを入れて耐えようとしたものの、桃色空間の甘い空気に耐えきれなくなったぼくはつい声に出していたようで、司波達也から疑問の声が上がった。

 

 

「なんでぼくのことを?」

 

「毎回こうして名前を見る機会があるからね、顔と名前くらいは記憶しているよ…たしかC組だったかな」

 

 

背後の順位表を親指で指差しながらそう答えた司波達也にぼくは少し意外感を感じた。なんだか他人への興味が薄そうだと勝手に思っていたからだ。

 

 

「そうだね、ぼくはC組だよ。そういう司波くんはB組、司波さんはA組だよね」

 

「司波くん、司波さんでは面倒だろう、名前でいいさ」

 

「そうかい?それは助かるよ達也、ぼくのことも美月でいいよ」

 

 

ぼくの言葉に一つ頷くと、達也は意外とフランクな提案をしてくれた。これからは遠慮なく達也と呼ばせてもらおう。

 

 

「深雪さんもいいかな?」

 

「え?あっはい、よろしく美月」

 

 

自分のことは女だと認識しているけど、やっぱり女の子を呼び捨てにするのは難しい。名前で呼べるようになっただけでも結構成長だったりする。

 

 

「達也は凄いな、今回も勝てなかったよ、密かに打倒司波達也!で頑張ったんだけど」

 

 

 

ぼくがそういうと何故か達也がくすくすと笑いだした。ぼくが達也に勝てるわけがないと、そう言いたいのか!?ぼくはジトッとした目で達也を睨む。

 

 

 

「ああ、いやすまない。そういう意味で笑ったのではなくてな、実は深雪が……」

 

「お兄様!」

 

「今回のテストでは柴田さんに勝つんだって意気込んでいたんだよ」

 

 

達也が深雪の制止も無視して、頭をポンポンと触りながらそう言えば、深雪さんの顔は真っ赤に染まった。

 

 

「はははは、ああそういえば、ぼくが達也に負け続けているように、深雪さんもずっと三位だったね。うむ、ぼくに勝てるように精進したまえ」

 

「美月も俺に勝てるようにな」

 

「ぬぐっ」

 

 

取り敢えず胸を張ってドヤ顔をしてみたが、達也の一言に変な顔になる。くそー転生知識もあるのになんで勝てないんだ!

恐らく本人は意識していないだろうけど、達也の無表情がぼくを小バカにしているように感じる。なんでかドヤ顔の深雪さんは可愛いだけなのでスルーだ。

 

 

「美月、次こそは私が勝つわ」

 

「ぼくこそ、次は達也に勝ってみせるよ」

 

「そう簡単に負けるつもりはないがな」

 

 

ぼくはこうして司波兄妹と友達(ライバル)になった。




今作の美月は司波兄妹と同じ中学校に進学した設定です。


さて、明日も0時に更新します。

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