美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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第二話 勝負

普段、ぼくの通う中学校では2クラス合同で体育を行っているのだが今日は珍しく3クラスで合同になった。つまり、A、B、C組の3クラスである。

 

ぼくはこれを運命だと思った。

いつもはD組と合同で達也と体育の授業を受けることはないが、友達(ライバル)になったその日にこうしてテストでの雪辱を晴らすチャンスが与えられたのだから。

 

 

「達也!サッカーで一対一の勝負だ!」

 

「遠慮させてもらう」

 

 

が、達也に勝負を持ちかけてみればあいつはあっさりと拒否しやがった!

 

 

「体育は原則、男女別だ。そして今日の授業は男子がバスケ、女子がバレー、サッカーは授業時間内にやるスポーツとして適切ではない。よってその勝負は受けられない」

 

 

「な、なら放課後に勝負しよう!それなら何も問題ないはずだ」

 

 

正論で口撃されると反撃は不可能。ぼくは仕方なく放課後に勝負をするよう変更する。まさか逃げないよな、という感じの顔をするのも忘れない。

 

 

「はぁ……断ったら断ったで何時までも付きまとってきそうだからな、仕方ない……一回だけだぞ?」

 

「わーい!ありがとう達也!」

 

 

ふふふ、テストの雪辱、晴らさせてもらう!

 

 

 

 

 

「おっぱいのせいだぁぁああああー!!」

 

 

大得意のサッカーで僅差とはいえ達也に敗北したぼくの叫びが放課後の校庭にこだました。一体何事かと、周囲の生徒の視線が集まっているのが分かる。

 

 

「美月、女の子がなんてことを叫んでいるの!」

 

「だって、重いんだもん。これのせいで負けたんだもん」

 

 

ぼくの胸は中学校に上がってからというものの、急激に成長を続け、今や小ぶりなメロンくらいのサイズになっていた。走るのに邪魔だし、重いし、肩凝るし、最悪である。

 

 

「男女の差があるんだ、自分で言うのも何だが男でも俺より動ける奴はそういない」

 

 

「ううぅぅっ!その余裕がムカつく!」

 

 

流石に汗一つかいていない、というわけではないが呼吸はほとんど乱れていない。まさかこの男、サイボーグだとでも言うんだろうか。

 

 

「だったら触ってみろ!本当に重いんだから!」

 

「そんなの無理に決まって……っ!?」

 

 

ぼくは涙目で達也の手を掴んで自分の胸に押し付けた。むにゅり、と潰れる胸。ふふん、どうだ、これでぼくがどれだけのハンデを背負っていたか分かっただろ!

 

 

「み、みみみみ美月!あああ貴女は何てことをっ!」

 

「どした深雪さん?顔赤いし……ってあれ?なんか寒い?…寒っ!えっいやいや今六月ですけどっ!?」

 

 

何故か急激に下がる気温。

夏場のはずなのに、まるで極寒の吹雪の中にいるように痛いくらいの凍てつく冷たさ。

 

 

「深雪っ!」

 

 

ぼくの胸に手を押し付けられたまま固まっていた達也が、物凄い勢いでぼくから離れ、深雪さんに抱きついた。おお!今度はちっぱいの感触も確かめるというのか!そのためなら妹すら餌食にする、なんという鬼畜!流石です達也さん!

 

 

「…申し訳ございません、お兄様。私また…」

 

「いや、今のは俺が悪かった。まさか美月があんな行動に出るとは…完全に油断した」

 

 

そのまま二人の世界に入る司波兄妹。ちょっとーぼくは放置ですかー?

仕方ないので体育座りで地面に『の』の字を書いて過ごす。誰かかまってよー。

 

 

「美月…お前は少し恥じらいというのを持つべきだな」

 

「何さ何さ、女の子のおっぱいを触れたんだからもっと喜べばいいのに」

 

 

 

しばらくして、達也が呆れたというような顔をしながら説教をかましてきた。なんだねその顔!普通、男子中学生なら土下座してでも触りたいものだろ、おっぱい。

 

 

 

「…そういうのを止めろと言っているわけだが」

 

「以後気をつけまーす」

 

 

 

達也の隣で深雪さんが洒落にならない程怖い笑顔をしてくるので一応反省した風を装っておく。なんだあの笑ってない笑顔は。危うくチビるところだった。

 

 

「そんなことより、さっきの何なの?なんか深雪さんからぶわーって冷たいのが溢れてたけど」

 

 

深雪さんが怖いので話題を転換してみる。実際気になるし、使いこなせるなら夏はエアコン要らずだ。暑いときは常に深雪さんの近くにいよう。

 

 

「あー、美月は魔法師についてどの程度知識がある?」

 

「んー、魔法が使える人を魔法師って言うんでしょ?なんかスマフォみたいなの操作してぎゅーん!っていうのをテレビで見たことあるよ」

 

「つまりほぼ知らないと」

 

「そういう見解もあるね」

 

 

ぼくは魔法師についてほぼ何にも知らない。というのも、この世界が魔法科高校の劣等生の世界であると気がついた時点で、魔法師について調べるのを止め、なるべく情報が目に触れないようにしていた。だって魔法には関わらないって決めたのに、そういうのを見たり聞いたりしちゃったら興味が出てきちゃうもん。ぼくの男の子の部分が刺激されて魔法師になりたくなっちゃうかもしれない。実際、テレビで魔法師の学生がやる九校戦っていう体育祭みたいなのを見たときはめっちゃ興奮した。魔法が使えたら楽しそうだなーってちょっと思ってしまう。でも、ぼくは平穏に今世を過ごしたいのだ。魔法師なんて殺伐としてそうなものになるなんてナンセンスだ。平穏と魔法の天秤が魔法に傾いてしまわないように、ぼくは魔法、魔法師関連の情報をシャットアウトしている。

 

 

「美月にも分かりやすいようにザックリと言うと、魔法の暴走だ。深雪は才能があり過ぎてな、普通の魔法師では到底起こり得ない現象だよ」

 

「ふーん、魔法…か」

 

 

霊子放射光過敏症は普段OFFの状態にしており、勿論今もOFFっている。けど、魔法を光や形で捉えることができるこの瞳なら達也の言う魔法の暴走とやらも見ることができただろう。

魔法の暴走と言う普通の魔法師では起こり得ないという珍しい現象を観測できなかったのはとても残念だ。

今度は是非とも霊子放射光過敏症をONにした状態で見てみたい。そのための準備としてまずは比較対象、暴走していない状態も見ておこう。

 

そんな軽い気持ちだった。

 

 

「…わぁ」

 

 

神秘的。

それは人間が発するにはあまりに美しく、深雪さんの容姿と相まってこの世のものとは思えない、思わず涙さえ溢れてしまいそうになるそんな、光景。

 

でもそれはぼくにしか見えていない。その芸術はぼくにしか表現できない。

 

残したい、この光景を描きたい。

 

 

「美月?どうかしたか?」

 

 

心臓がドキドキする。

ぼくは今、最高に興奮していた。

 

世界の全てが希望に満ち溢れていて、進むべき道が一本、光に照らされている、そんな人生の歩むべき道が決まったかのような感覚。

 

 

この感覚は前にも体験したことがある。

 

 

そう、それは前世において、父親に連れていってもらったプロサッカー選手の試合を見た時。

 

ぼくはサッカー選手になるんだってそう決めたあの瞬間のようだ。

 

 

だってぼくは、この光景を絵にするんだって決めてしまっているのだから。




ぼくっ娘美月ちゃん暴れたい放題。

さて、明日も0時に更新します。

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