美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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第三十話 美月の決断

クラウド・ボール決勝の観戦を終え、お昼を食べたぼくたちは午後の競技である、アイス・ピラーズ・ブレイクを観戦するべく、会場に来ていた。

アイス・ピラーズ・ブレイクは高さ二メートルもある氷の柱を十二個も使った大掛かりな競技で、相手陣内の氷柱を先に全て倒した方が勝ちという、いわばスーパー棒倒しみたいな競技である。

全競技の中で一番迫力がありそうだし、何よりこの競技……女の子が可愛いのだ。

 

この競技の性質上、純粋に遠隔魔法のみで競い、肉体を使う必要がないため、公序良俗に反しない限り、ユニフォームは自由であり、女子のアイス・ピラーズ・ブレイクは九校戦のファッションショーとまで言われているのだ。

当然?この競技には容姿に自信がある者の比率が高く(偏見)、ネットでは美少女のバーゲンセールや、九校戦最かわ決定戦などと話題になっており、ぼくはとても楽しみにしていた。

 

 

そう、楽しみにしていたのだけど……。

 

 

 

「着信102件、メッセージ215件……水波ちゃん怒ってるよぉ……」

 

 

水波ちゃんからとんでもない数の連絡が来ていたのだ。

実は昨日からずっと連絡があったんだよね……絶対仕事のことだからスルーしてたんだけどいつの間にかこんなことに。

いくつかメッセージを読んでみたけど、急ぎの仕事で、締切が厳しいけど大きな仕事だからやって欲しいとのこと。

最初は事務的な感じだったのに、どんどんメッセージの内容が脅しに近くなっていって、最後のころは泣きそうという水波ちゃんサイクルになっていった。

水波ちゃんが泣いてしまうのは心苦しいので、ぼくはもう帰らなくてはならない。

くっ、涙目の水波ちゃんが待っていると思うと帰らずにはいられない……これが作戦だとしたらぼくはもう人を信じられなくなるね。

いや、女の子の涙に騙されるのは仕方ないか。

 

 

 

「ぼく、もう帰らないといけなくて」

 

「なんだ、今日はまだ真由美の決勝しかみていないじゃないか」

 

「うう、ぼくだってこの後のアイス・ピラーズ・ブレイク観たいですけど……」

 

 

決勝しか観れなかったのはぼくのせいだから、帰って録画しておいたのを見るとして、アイス・ピラーズ・ブレイクは生で観なくてはならなかった。

いくらぼくの瞳でも、直接見なくては美少女の()()を捉えることができない。

それじゃあ、意味がないんだよ!深雪みたいな逸材を発見できたかもしれないのに。

 

 

「まあ、用事があるならば仕方がないな。出口まで送ろう」

 

 

でも、この人と知り合えただけでも九校戦に来た価値は十分にあった。

それに七草の双子姉妹とも知り合えた。

三人もの美少女と知り合えたのだ。なんてかけがえのない時間だろう。

真由美さんの応援はろくに出来なかったけど得たものは大きい。

 

 

 

「ごめんなさい、お世話になったのに明日の摩利さんのバトル・ボード、応援できなくて」

 

「構わないさ、それに応援してくれる必要はない」

 

 

相変わらずぼくの手を引いている摩利さんは、ぼくを冷たく突き放した……かに思えたが不敵に笑ってぼくに言う。

 

 

「私の優勝は揺るがない」

 

 

 

惚れるわ!

 

 

一瞬にしてやられた。

なんだろうこの人、もしかしてぼくを落とそうとしているのだろうか。だったらそう言ってくれればいいのに。ツンデレがぼくにも発動しているのか。

素直に誘ってくれれば即オーケーなのだけど。

ぼくは摩利さんが誘いやすいように体を密着させる。

 

 

「なんだ鬱陶しい、くっついてくるな」

 

「摩利さん、デレ期はいつくるんですか?」

 

 

ツンデレというのはツンとデレの落差が大きいほど強力なものになる。

こんな摩利さんがデレたのならどれ程の威力か。考えただけでも恐ろしい。

 

 

「そんなものは一生こない!」

 

「えー、()()()、ですか?」

 

「は?来年?」

 

 

呆けたように固まる摩利さん。

そういう表情も凛々しいとは、なんと反則的なイケメンさか。

この顔を見れただけでも()()()()かいがあったというものだ。

 

 

「だーかーらー、来年、()()()()()()()()()()、ですか?」

 

「後輩……後輩!?美月、一高を受験するのか!?」

 

 

 

摩利さんはぼくの言葉に口をあんぐりと開けて驚き、素晴らしいリアクションを見せてくれた。

やはりサプライズというのはこのリアクションを見た瞬間が一番楽しい。

 

 

「迷ってましたけど決めました。

だって真由美さんや摩利さんがこんなにも輝ける学校、通ってみたいじゃないですか」

 

 

もし、芸術科高校に行ったとして、こんなにもキラキラ輝いた先輩に出会えるだろうか。

九校戦のような普通では出来ないような経験を出来るのだろうか。

 

きっと無理だろう。

 

魔法という、魔法師でなくては出来ないことが、この輝きを、経験を、与えてくれるのだろうから。

 

 

 

「はあ、ならお前が入るまでに風紀委員を増員しなくてはな。順当に行けば、真由美は生徒会長、私は風紀委員長だ。全く、厄介な年に重役をやらされることになりそうだ」

 

「酷い!」

 

 

摩利さんはため息を一つ吐くと、頭を軽く掻いてぼくから目をそらし、片目を瞑ってニヤリと笑った。

摩利さんのちょっと意地悪な笑顔、ぼく命名、摩利さんスマイル(そのまま)だ。

 

この時ぼくは、摩利さんの言葉の裏に『歓迎しよう』という意味が含まれていることを真由美さんに聞くまで全く分からなかった。

本当に酷かったのは摩利さんのツンデレ具合だったのである。

まだまだぼくは摩利さんを知り尽くせていないようだ。

 

 

とにかく、ぼくは国立魔法大学附属第一高校を受験することにした。

明日から地獄の受験勉強コースが確定したわけだけど、不思議と不安はなかった。

 

だって今は、来年が楽しみで仕方がないから。

こんな先輩たちと、深雪や達也と、過ごす学校生活を思い浮かべて、ぼくは胸を一杯にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「一高を受験することを決めたんだってな。良かったよ、俺が水波と協力して作った、このスケジュールが無駄にならなくて」

 

 

帰宅後、『仕事』と『勉強』の文字だけがびっしりと書かれたスケジュール表が達也から突きつけられ、心が折れそうになるのだけど、この時のぼくはまだ知らなかった。

 

 

合格・不合格の前に過労死しちゃうんじゃないかな……ぼく。

 




─そのころの司波家─


(・_・?) 深雪「お兄様、水波ちゃんと何を為さっているのですか?」

( ̄ω ̄)達也「美月のスケジュール調整だよ、一高を受験するとなれば、勉強と仕事を両立できるようにギリギリの調整が求められるからね」




(;・ω・)深雪「……(このスケジュール……美月、死んでしまうのではないかしら?)」




( ´△`)達也「水波、美月なら後二倍仕事を増やしても大丈夫だろう。アメさえ与えとけば、どこまででもやれるやつだ」

( ̄。 ̄)水波「そうですね、なら勉強時間も二倍にしておきましょう。あれで頭は良いですし、これだけやれば一高でも上位が狙えます」




(´・ω・`)深雪「(美月、帰ってきたら、めいいっぱい優しくしてあげましょう)」




(・∀・)ニヤッ 達也「(アメの確保は完了したな)」計画通り






次話から原作に入っていこうかと思います!
中学校の修学旅行編とか、美月の修行編とかやりたいことはまだあるんですけど、その辺は追々やっていこうかと思います。


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