美月転生。~お兄様からは逃げられない~ 作:カボチャ自動販売機
かなりの独自解釈があります。
一色愛梨は不安だった。
事情があって一緒に進学できなかった、親友である二人がいない、というのはこうも不安になるものだったのかと友人の大切さを噛み締めながら。
愛梨は自分が誤解を受けやすいタイプだというのを知っている。昔から、あまり同性には好かれなかった。
家柄の釣り合う者としか付き合わなくなったのは、自分と価値観の合う人間とでなくては長く続かないことを良く分かっていたからだ。
自分のプライドや誇りを、理解のない人間にまで押し付けるのは、愛梨の望むところではない。
つまり、こうして入学式の会場である講堂に座っている愛梨は、友達ができるかどうか不安で仕方がなかったのだ。
そして、入学式が会式五分前になったころ、愛梨の不安は加速した。
会式五分前ともなれば、ほぼ全ての新入生がここに集まっているはずで、実際、見渡す限り席は殆ど埋まっていた。
なのに…。
──どうして私の隣には誰も座らないの!?
愛梨の両隣は空いていた。
そこだけぽっかりと、隔離されたようになっていたのだ。
これは別に、入学式前からいじめが始まったとかそういうことではなく、自然とそうなったものだった。
愛梨は知らぬことであるが、不安と緊張により、愛梨は周囲の人間を畏怖させるようなオーラを発していたのである。
これは愛梨本来の、気品溢れる圧倒的存在感と合わさって凶悪なものとなっていた。
長い金髪を煌めかせ、中世の貴族のように姿勢良く座る愛梨に、「お前が私の隣に座るの?へー、ふーん」と値踏みされているように感じられて、皆隣に座ることを躊躇ったのだ。
当然、そんなことを知るよしもない愛梨は焦る。
焦った結果、
「お座りにならないのかしら?もう時間ですけど」
「ひゃ、はい!すいません!」
誤解された。
近くで席を探しうろうろしていた新入生に、私の隣空いてますよ、と伝えたかっただけなのだが、緊張していた愛梨は大分険のある言い方をしてしまい、相手を怯えさせてしまったのだ。
そんなに、怯えなくてもと少し落ち込んだ愛梨だったが、表情にはそんなこと、おくびにも出さない。
それがさらに誤解を加速させるのだが、愛梨は知らぬことだ。
「隣良いかな?」
そんな中、フレンドリーに声をかけられて、愛梨は内心飛び上がらんばかりに歓喜した。
「どうぞ、お気になさらずに」
実際に出てきた返答は、そんな冷たいものになってしまったが。
やってしまった、どうして私はこうなのかしら!、と後悔するが、声をかけてくれた少女は笑顔でお礼を言うと静かに座った。
予想外の良い反応に、愛梨は早速話してみたくなったが、入学式が始まってしまった。
そして、始まってしまえば、意識は一人の少女に吸い込まれた。
その姿はまるで神話の女神のように、人間離れした美しさ。彼女の前では如何なる装飾も意味を成さず、彼女が彼女であるというだけで美しいのだということを一瞬の内に理解させられる。
魂が震えた。
新入生総代、今学年のトップ。
それがこんなにも高い壁であることに。
──一高に進学して本当に正解だったわ
これから三年間、競い合うライバルの存在に、愛梨は心から感謝した。
◆
入学式を終えれば、後は窓口でICカードを発行してもらい、今日の予定は終了だ。
一高進学にあたり、実家を離れ、一人で暮らしている愛梨は、この後はまだ不馴れな新居(高層マンションの一室)近辺の探索でもしようかしら、と予定を立てながら、自分の番がくるのを静かに待つ。
そうして発行されたカードには、B組の文字。
成績順にAクラスから割り振られているわけではないので、どこのクラスでも構わなかったが、なんとなくAの方が良かった、と思うのは愛梨が負けず嫌いだからか、単に子供なのか。
「さっきぼく、隣の席だったんだけど覚えてる?」
カードを眺めていた愛梨のすぐ近くでニコニコと笑顔を浮かべているのは、入学式で隣に座っていた少女だった。
「ええ、随分と熱心に先輩方のお話を聞いているようでしたから、記憶しておりますわ」
実際はそんな理由ではなく、声をかけてくれたことが嬉しくて覚えていたのだし、機会があれば話してみたい、とさえ思っていたのだが、それを口にするのは恥ずかしいし、何より自分のキャラではない。
結果、堅苦しい言い方になってしまったのだ。
「クラス、何組だった?」
「B組ですわね」
「本当に?ぼくもB組なんだよ!」
愛梨の同級生にするには不自然に堅苦しい言い方を特に気にした様子もなく、自分と同じクラスになれたことを喜んでくれた少女に、愛梨はなんとかハイタッチを返した。
なんか友達っぽい!っと少し思ったのは内緒である。
「ぼくは柴田美月。とりあえずは一年間、よろしく」
そう名乗りながら、右手を差し出す少女。
自分が緊張しているのも、不安だったのも、彼女は全部分かっていて、それで声をかけてくれたのかもしれない。
そう感じさせる優しい笑顔。
「私は、一色愛梨。こちらこそよろしくお願いしますね」
気持ちはすっかり楽になった。
交わした握手が妙におかしくて、愛梨は堪えきれずに、美月と顔を見合せてくすりと笑い声を漏らす。
──一高に進学して良かった
そう思ったのは二度目。
いつの間にか愛梨は自然と話せるように、笑えるようになっていた。
愛梨 (*´ω`*)「早速友達が出来たわ」
愛梨(`・ω・´)「まあ、師補十八家、一色家の長女ともなればこれくらいは当然の結果ね!」
愛梨(;・ω・)「…………明日になったら、知らんぷりなんてことないわよね……?」
愛梨(。ŏ﹏ŏ)「……大丈夫よね?」
結構心配性な愛梨さんであった。
◆
番外編なので、スレのおまけは一旦お休み。とりあえず次話でスレは一区切りするのではないかと。
愛梨ちゃんの今後の活躍に乞うご期待!