美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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第三十八話 電波系天然美少女降臨

エリカが調べておいたらしいケーキ屋は、実際のところ、デザートの美味しいフレンチのカフェテリア、だったため、そこで昼食を済ませ、短くない時間おしゃべりに興じて、家に帰り着いたのは夕暮れも近い時間だった。

家に帰る頃には、深雪も()()()()機嫌を治しており、達也は良い店を紹介してくれたエリカに感謝した。

 

 

『達也ぁ……帰れなくなった……』

 

 

そんな電話が美月からかかってきたのは、達也が深雪の淹れてくれたコーヒーを、飲み終わろうか、という瞬間だった。

 

 

「はあ、今どこだ?」

 

『……駅……朝と同じとこ』

 

 

迎えにいく、とだけ告げて達也は電話を切る。駅まで辿り着ければ帰れるかと思っていたが、どうやら駄目だったようだ。

 

 

「お夕食のしたくはしておきますね」

 

 

達也が伝えるまでもなく、深雪はそう口にした。

 

 

「美月に『あまりお兄様のお手を煩わせないように』とお伝え下さいますか?」

 

「俺は別に構わないのだが」

 

「お伝え下さいますか?」

 

「……ああ」

 

 

どうやら深雪は達也の思っている以上に怒っていたらしい。

これは長期化しそうだ、と考えながら、達也はさっさと家を出た。

とりあえず、この空間に居続けることは、御免だった。

 

 

 

 

 

「達也くん、オハヨ~」

 

 

九重八雲に入学の報告をした後、余裕を持って登校した達也は、深雪と別れ、自分のクラスである一年E組の教室に入ってすぐ、陽気な活力に満ちたエリカに挨拶された。

昨日の内に顔合わせを済ませた生徒も多いようで、既に教室のそこかしこで雑談の小集団が形成されており、エリカはその一つから、一人の女子生徒を伴って抜け出してきた。

 

 

「おはよう、エリカ」

 

 

深雪の機嫌が悪かった()()()()、エリカとはお互いに名前呼びする程度には仲を深めていた。

あの場を乗り切るためには二人の協力が必要不可欠であったため、妙な連帯感が生まれたからだ。……このことを深雪に知られれば、また機嫌が急降下することは間違いないのだが。

 

 

 

「ほら、未亜も」

 

「お、おはようございますっ」

 

 

そのエリカに促されるようにして挨拶をした女子生徒は、随分と緊張している様子でカチコチに固まっており、今にもエリカの後ろに隠れてしまいそうな勢いだった。

 

 

「本郷未亜と言います、よろしくお願いします!」

 

 

ペコペコと必要以上に頭を下げられて、困惑気味の達也。何もしていないのに、こうも頭を下げられては、何かしてしまったような気になる。

 

 

「面白いでしょ?今朝仲良くなったの」

 

 

それをエリカはニヤニヤと見詰めていた。その様子は、新しい玩具を与えられた子供のようで、エリカと未亜の関係がどのようなものなのか、あっさりと看破できた。

 

 

「よろしく、本郷さん」

 

 

若干の哀れみを瞳に乗せて、達也は未亜に返事を返す。

 

 

「お二人は入学前からお知り合いだったのですか?」

 

 

達也が物腰柔らかく接した成果なのか、未亜は緊張が解れた様子で、そう問いを投げ掛けた。

 

 

「いや、昨日話す()()があってな」

 

「そ、昨日が初対面よ」

 

 

苦笑い気味に答えた達也に、同じような表情でエリカが付け足す。

針の筵のような時間を共有したが故に、であるがために、あまり良い()()ではなかったからだ。

 

 

「ほへぇ……お二人は進んでるんですね……」

 

 

しかし、未亜の捉え方は少々特殊であった。顔を赤らめて、二人を見る未亜にエリカが慌てて訂正をする。

 

 

「なんでそうなるのよ!?」

 

「え、だってお二人は初対面で恋に落ちて今日にはもう付き合い始めているんじゃないんですか?」

 

「誰もそんなこと言ってないでしょ!どういう構造してんのよ、あんたの頭は!」

 

「エリカさんと頭の作りは大体同じだと思うんですが……」

 

「そういうことじゃないわよ!バカにしてんの!?」

 

 

 

未亜の中では、二人は入学式でお互いに一目惚れし、両想いになって、デートした、ということになっている。

未亜はかなりの天然であった。

 

達也は二人が口論しているのを止めることはせず、自分の端末を探すべく、目をやった。

 

 

「ちょっと達也くん!一緒に誤解を解いてよ!」

 

「そのうち、美亜も誤解に気がつく。そうムキにならなくても良いだろう」

 

「なんでそんな冷静なの!?」

 

「ほぁ……やっぱりお二人は……」

 

「ああ!また誤解が加速してる!?」

 

 

まだ何やら争っているエリカと未亜を尻目に、達也は自分の端末を見つけると、IDカードをセットし、インフォメーションのチェックをする。

履修規則、風紀規則、施設の利用規則から、入学に伴うイベント、自治活動の案内、一学期のカリキュラムまで、高速でスクロールすれば達也の頭に叩き込まれた。

そして、受講登録を一気に打ち込んでやっと顔を上げる。

すると、前の席から目を丸くして手元を覗き込んでいる男子生徒と視線があった。

 

 

「……別に見られても困りはしないが」

 

「あっ?ああ、すまん。今時キーボードオンリーで入力するヤツなんて珍しいもんで、つい見入っちまった」

 

「慣れればこっちの方が速いんだがな。視線ポインタも脳波アシストも、いまいち正確性に欠ける」

 

 

達也は、そう男子生徒に説明しながら、そういえば美月もキーボードオンリーであることを思い出した。

彼が美月と知り合う前から美月はキーボードオンリーだったようで、本人曰く、慣れているから、らしいが、どうやら美月は視線ポインタや脳波アシストがあまり好きではないらしい、ということも達也は知っていた。

つまり、美月がキーボードオンリーなのは、慣れているから、というだけでなく、視線ポインタや脳波アシストを使いたくないがために、選択肢がそれ一つしかなかっただけなのである。

 

 

「自己紹介がまだだったな。西城レオンハルトだ。親父がハーフ、お袋がクォーターな所為で、外見は純日本風だが名前は洋風、得意な術式は収束系の硬化魔法だ。

レオでいいぜ」

 

「司波達也だ。俺のことも達也でいいぞ」

 

「OK、達也。それで、得意魔法は何よ?」

 

 

 

『分解』と『再成』です、とは口が裂けても言えない。しかし、そうなると達也に得意な魔法など心当たりがなかった。

 

 

「実技は苦手でな、魔工技師を目指している」

 

「なーる……頭良さそうだもんな、お前」

 

 

魔工技師、あるいは魔工師は、『魔法工学技師』の略称で、魔法を補助・増幅・強化する機器を製造・開発・調整する技術者を指す。

社会的な評価は魔法師より一段落ちるが、業界内では並みの魔法師より需要が高い。一流の魔工師の収入は、一流の魔法師を凌ぐほどだ。

魔法師の必須ツールであるCADも、魔工技師による調整抜きでは埃をかぶった魔法書以下なのだから。

 

故に、実技が苦手な魔法科生が魔工師を目指すのは珍しいことではない。

 

 

「司波君、魔工師志望なんですか?」

 

 

エリカが何事か言っているのを無視して、達也たちの元へやってきた未亜。

マイペースというか、天然ここに極まれり、な少女である。

 

 

「ああ、そのつもりだ」

 

 

達也が未亜の質問に頷くと、未亜の顔が綻ぶ。

未亜の笑顔を見るのは勿論初めてだったが、少女の歳が実際には何個か下なのではないかと、錯覚してしまうような幼げな、あどけない笑顔だった。

 

 

「ちょっと未亜!あんた他人が話しているのを全無視(フルシカト)とは良い度胸ね!」

 

 

「達也、コイツ、知り合いか?」

 

 

髪を逆立てて怒りを露にするエリカを、やや引き気味に指差してレオは訊ねた。

 

 

「うわっ、いきなりコイツ呼ばわり?しかも指差し? 失礼なヤツ、失礼なヤツ!失礼な奴っ!!モテない男はこれだから」

 

 

天然過ぎて怒りをぶつけられない未亜の分まで、怒りを乗せて放たれたその言葉は、辛辣かつ強烈な一撃となってレオを撃つ。

 

 

「なっ!?失礼なのはテメーだろうがよ!少しくらいツラが良いからって、調子こいてんじゃねーぞ!」

 

「ルックスは大事なのよ?だらしなさとワイルドを取り違えているむさ男には分からないかもしれないけど。それにな~に、その時代を一世紀間違えたみたいなスラングは。今時そんなの流行らないわよ~」

 

「なっ、なっ、なっ……」

 

 

とりすました嘲笑を浮かべて斜に見下ろすエリカと、絶句が今にも唸り声へと移行しそうなレオ。

どちらが悪いのか、といえば、もうこうなってしまった時点でお互い様だ。

 

 

「司波君、ライバル出現ですよ!これが噂の昼ドラ展開、という奴ですか!どろどろの三角関係ですね!」

 

「違うと思うが」

 

 

何故か目を輝かせている未亜に、達也が冷静なツッコミを入れるが、おそらく未亜には届いていないだろう。

彼女は既に自分の世界に入ってしまっていて、そうなっては全ては無駄だった。

 

 

「ああ!また未亜が変な設定を!」

 

 

一触即発の空気が、未亜のおかげで霧散する。究極の天然は、時にこうして人のためになることもあるらしい。

 

 

「たぶん二人は幼馴染みですね、私知ってますよ、こういう場合、二人は子供の頃に結婚の約束をしているものです!」

 

「おい、どうやら二人は婚約しているようだぞ」

 

 

未亜の突飛もない発言は、二人にとって、とても許容できるものではなかった。

 

 

「はあ!?なんであたしがコイツと!」

 

「そうだ!なんでこんなヤツ!」

 

 

同じような気の強さ、似たような負けず嫌いに、実はこの二人、気が合うのかも知れんな、と考えていた達也だったが、気が合うのと、仲が良いというのは別問題だったらしい。

 

 

「これがツンデレという奴ですね、私分かります!」

 

「何も分かっていないと思うが」

 

 

最初の、ビクビクとした未亜は何処へやら、キラキラと目を輝かせて、間違った知識をドヤ顔でひけらかす姿は、可愛らしくはあったが、無意識に火に油を注ぐこの少女に、達也はため息を吐くしかなかった。




――今朝の深雪さん――


( ̄ω ̄;) 達也「俺たちは師匠のところに行くが、お前はどうする?」

(´Д`)美月「んー……止めとく。なんか鍛練させられそうだし」



(´。・д・)ジー・・・ 深雪「……」



(´・ω・`)美月「深雪、どうかした?」

o( ̄^ ̄o)深雪「いいえ、なんでもありません」

( ̄▽ ̄;)美月「何故に敬語?」

( ̄ヘ ̄;)深雪「特に理由はありません」


(・ω・。)ノイッテキマース♪美月「ふーん、なら良いけど……じゃ、ぼく先学校行ってるね!」





(≧ヘ≦)プイッ 深雪「……もう本当に知らない」



この後、気配を消して忍び寄った八雲が、八つ当たりでとても怒られたという。





新ヒロインについてはネタバレになってしまうので一切解説できないのですが、ちゃんと色々考えてます(笑)

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