美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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ちょっと新作を2・3個書いてみたり、もう一作の方を書いたりしていたら、この様……。


今日は駆け足投稿なので、誤字脱字注意です(小声)。


第四十四話 ミカエラ・ホンゴウ

全国に九つしかない魔法科高校の立地条件から必然的に、遠方から進学してくる生徒もいる。

 

だというのに、第一高校には寮が無かった。

 

 

とはいえ今の時代、二十四時間教育で、学生寮を教育の場として重視している全寮制の特殊な学校以外で、学生寮という施設を見ることは無いのだから、一高が例外というわけでもない。

 

HAR(ホーム・オートメーション・ロボット)が一般家庭に普及し日用品の買い物もオンライン注文・戸別配送で済ませられる現代、学生の一人暮らしでも不自由は全く無く、寮という施設の需要が無いからだ。

そのため、自宅から通えない生徒は学校近くに部屋を借りて一人暮らしをすることになる。

 

本郷未亜もその一人で、学校から電車(キャビネット)で二駅の、現代の交通事情を考えればすぐ近くといえる場所にマンションを借りて住んでいた。

 

そのマンションの扉を開けて中に入るとすぐに、未亜は全身が映る姿見の前に移動してくるりと回る。

 

 

「はあ、やっぱり無理があると思うんですけど……」

 

 

長い制服のスカートを摘まんでヒラヒラとさせながら、未亜はため息を吐いた。

 

 

「まさか、もうUSNAのハイスクールを()()()()()()()()()()()()()()()()、制服を着させられるなんて」

 

 

本郷未亜、というのは、彼女の本名ではない。

今回の任務のために与えられた、使い捨ての名前だ。

 

彼女の本名はミカエラ・ホンゴウ。

外見は少し肌の色が浅黒いか? という程度で、それでも日本国内で特に珍しいという程ではなく、ほとんど日本人と区別が付かないが、立派な日系アメリカ人である。

 

 

「軍は私の年齢、間違えているのかしら」

 

 

彼女の本職は放出系魔法を研究する国防総省所属の魔法研究者であり、高名な研究者からも一目置かれている才媛だ。

そんな彼女が何故、日本の、それも高校生に紛れているのかといえば、それは本人にも分からなかった。

 

確かに彼女は最近著しく技術の発展している日本の魔法師の秘密を探るべくUSNAで密かに計画されていた今回の任務に志願した。

 

トーラス・シルバーの正体が日本人なのではないか、というのは有力な説であったし、最近話題の新進気鋭の技術者、セレネ・ゴールドも日本人だろうという噂だ。

 

次々と現れる天才に、USNAは日本に派遣しているスパイの増員を決定した。

 

研究に少々息詰まっていた彼女は、これ幸いとこの任務に志願したわけだが、蓋を開けてみれば、何故か自分は高校生になっていた。

 

3年間が任務の目安だとは言われていたが、それが高校生活の意味だと誰が予想できるだろうか。

 

未亜はてっきり、共同研究の名目で来日した大学生とか、どこかの企業のセールス・エンジニアとして魔法大学に潜り込むことになると思っていたのだから。

 

 

「良い歳した大人が制服なんて着ちゃって……これは私の名誉のためにも絶対バレるわけにはいきませんね」

 

 

未亜は確かに『良い歳をした大人』なのだが、制服を身に纏ったその姿に違和感は一つもない。

可憐で初々しい、高校一年生そのものだった。いや、むしろもっと幼くさえ見える。

しかし、本人はやはり年齢から無理があると感じているようで、鏡に映る自分を見てはため息を吐いている。

 

 

「もしバレたりしたら、もう日本の地は一生踏めませんよ……物理的にも、精神的にも」

 

 

スパイ活動をしていてた、ということがバレれば当然、日本の地はそうそう踏むことは出来なくなるが、未亜がもっとも懸念していたのは、良い歳をした大人が制服を着て高校生に混じっていた、という事実が明るみに出てしまうことだった。

そんなことになれば、日本、という国名を聞くだけで死にたくなるに違いない。

 

日本の地など踏めるはずもなかった。

 

 

「一応、高校生っぽいキャラを()()()()()()、まだバレてないわよね?」

 

 

自分が15歳・16歳の時を思い出して、キャラを作ってみたが、少々やり過ぎたような気がしないでもない。

未亜の中で学生といえばなんでも話を恋愛方面に持っていくイメージがあったのだが、日本人は違うのかもしれない。

とはいえ、キャラを作ったといっても、彼女は訓練された諜報員でも、本職のスパイでもない。

後半はほとんど素の状態と変わりなかった。

 

 

「はあ、何時までもこうしていても仕方ないか……報告書、できるところまでやっとこ」

 

 

報告書、と言っても、少しでもリスクを避けるために、USNAへ提出するのは三年後、一高を卒業した後になるのだが、生真面目な未亜は、初日から報告書を書き始めることにした。

 

 

「といっても、私二科生になっちゃったし……教育の根本となる教師とはあまり関われそうにないんだよね」

 

 

未亜の目的は、トーラス・シルバー、セレネ・ゴールドの正体を暴くこと……はあくまで趣味で、彼女の本職である放出系魔法のさらなる発展のためのヒントを得ること、である。

しかし、それとは別に、軍へ提出するレポートには、色々軍からのリクエストがあり、その中の一つが、『教育』だ。

未亜が魔法科高校に入学させられたのも、その情報を軍が欲したからなのだろう、と未亜は思うことにした。

魔法科高校には、日本の表側(・・)の魔法研究の、最先端を収めた文献資料にアクセスできる端末があったりと、スパイをする上では意外と理にかなっているとも言えた。

 

 

「うう、魔法師としてやっていける自信がなかったから研究者になったとはいえ、まさか高校生より劣ってるなんて……落ち込むな……」

 

 

未亜は学生時代、自分の魔法師としての才の無さを嘆いたことを思い出す。

魔法に関われる仕事は何も魔法師だけではない、と気がつき、それを受け入れられるまでは、劣等感や不安に押し潰されそうになったこともあった。

一科生、二科生と明確な差をつけて区別してしまうことは、そういう過去の未亜のような気持ちをより増大させ、若い才能を潰してしまう原因になりかねないと懸念していた。教育、の面では、独自の判断で様々な方向に魔法的価値を見いだす、自国の方が勝っているように感じた。勿論、身内贔屓もあるが、それが率直な未亜の意見だった。

ただ、どれだけ詭弁を並べたところで、結局、未亜の魔法師としての能力はこの国の基準では一科生にもなれないのだ、ということに変わりはない。

 

 

 

 

「でも、言い訳ってわけじゃないけど……高校生にしてはレベル高いかな」

 

 

未亜は今日出会った学生達のことを改めて分析し、そう結論を出した。

 

 

「七草家の長女は当然としても……司波くんはレベルが違うわね」

 

十師族の娘である七草真由美は、サイオンそのものを弾丸として放出する、魔法としては最も単純な術式を見ただけでも、その完成度の高さが伺える。

起動式のみを破壊し術者本人には何のダメージも与えない精緻な照準と出力制御は、射手の並々ならぬ技量を示しており、高校生のレベルを逸脱していた。

しかし、未亜が最も評価していたのは、二科生であるはずの司波達也だった。

 

「明らかに実戦経験を積んでるし、あの時使おうとしたのは……たぶん術式解体」

 

 

未亜は、研究者であって、実戦を経験したことはないが、軍の人間と関わる機会は多い。

そして、達也の動きはその、軍の人間と遜色ないものだった。

 

そして、術式解体。

圧縮されたサイオンの塊をイデアを経由せずに対象物に直接ぶつけて爆発させ、そこに付け加えられた起動式や魔法式と言ったサイオン情報体を吹き飛ばすことで、魔法を無効化する……という単純な力任せなのだが、並みの魔法師では一日かけても搾り出せないほどの大量のサイオンを要求するため使い手は極めて少ない、超高等対抗魔法だ。

 

 

「日本の軍の関係者……か、それともどこかの『家』の縁者なのか……どちらにしても彼が二科生というのはありえないし、力を隠している……間違いなく、ただの高校生ではない」

 

 

未亜は勘違いしている――達也が二科生なのは力を隠しているからではない――が、真実を掴みかけていた。

未亜は諜報員としては、多少の手解きを受けただけの未熟者だったが、この学校の誰よりも早く達也の異常性、その正体に踏み込んでいた。

 

 

「目下の観察対象は『司波達也』、高校生にして術式解体の使い手……っと。あっ、一応、妹さんが新入生総代っていうのも追記しておこう」

 

 

報告書を書くのにはまだ慣れていないのか、日記のように、今日あったことを書き綴っていくと――情報漏洩のリスクを少しでも下げるために紙に書いている――今後の予定として、司波達也を観察してみることにしたようで、達也の特長や気がついたことなどを書いていき、最後に優秀な妹がいることを付け足した。

魔法は血筋に左右される技能であるのだから、この事実は達也が二科生であることが『力を隠しているから』という未亜の勘違いに拍車をかけていた。

 

 

「あっ、もうこんな時間か……明日も学校だしもう寝なくちゃ」

 

 

時刻は深夜一時の少し手前、明日も学校がある()()()はもう寝るべき時間を疾うに過ぎていた。

明日に備え、ベッドに入った未亜だったが、しばらく天井を見つめた後、再び起き上がった。

 

 

「や、やっぱり、ちょっとだけドロップキックの練習、しておこうかな……っ!」

 

 

何がそんなにも未亜を駆り立てるのかは不明だが、彼女はドロップキックというものに素で憧れていた。彼女の感性ではアレは格好良かったらしい。

 

「高校生の話題に着いていけないとまずいものね、うん」

 

誰に言い訳をしているのか、キョロキョロしながらそんなことを呟いた後、一人はしゃぎながら、ベッドの上でドロップキックの練習をする未亜であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、マンションの管理人から、下の階の住民からクレームがあった、と説教されることになるのだが、それは今の未亜の知るところではなかった。

 




――USNAの某所にて――


(*´ω`*)すごく偉い人「やっぱり、あの娘には制服が似合うと思っていたのだよ」

(´・ω・`)そこそこ偉い人「あの一高の制服を見たときから、我々の計画は動き始めましたからね」

(・`ω・)超偉い人「研究所では半場アイドル扱いされていて、我々でも手が出せんからな、彼女が日本へ行きたいと思っていることを知って、即座にこの作戦を計画したよ」

“〆(^∇゜*)すごく偉い人「流石です」





・・・(;´Д`)ちょっと偉い人「(…………大丈夫なのか、この国は?)」







USNAの陰謀編、あとがきでこっそり不定期スタート。

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