美月転生。~お兄様からは逃げられない~ 作:カボチャ自動販売機
純粋に忙しかったんだよ……(言い訳)
愛梨が可愛い過ぎてヤバイ。死ぬ。萌え死ぬ。
昨日は愛梨と買い物に行って、一緒に夕飯を食べて……幸せでした。
ハンバーグはかなり気合入れて作ったのだけど、もうあの愛梨の幸せそうな顔ときたら!
普段ツンケンしている愛梨の子供のような笑み!ぼく、メイドでもなんでもやるんで愛梨の家で雇ってくれないかなっ!そしたら毎日愛梨を愛でてウハウハなんだけど!
「で、なんで遅刻したの?」
「ね、寝坊したんだよ」
その愛梨から、ぼくは今、尋問を受けていた。
うん、昨日の可愛い愛梨はどこに行ってしまったんだ。
ぼくが今日、学校に登校したのは、一限目どころが、二限目の途中だった。勿論、ガッツリ怒られました。
こういう時、指導員がいない二科生がちょっと羨ましかったり。
「本当に?怪しいわね」
「うん、目がキョロキョロしてるしね」
ジトッとした目で愛梨とエイミィから視線を送られ、思わず後ずさってしまう。
くっ、確かに遅刻した原因は寝坊じゃない。ぼくはいつも通りの時間に目が覚めたし、いつも通りの時間に家を出たのだ。
しかし、いつも通りでなかったのは、達也と深雪が迎えに来てくれなかったことである。
『このままじゃ何時まで経っても一人で登校できないでしょうから、今日から一人で登校しなさい』
即座に連絡するも、深雪はぼくに無慈悲な言葉をぶつけて電話を切り、その後、一切連絡はつかず。
当然、達也にも連絡してみるけど、繋がらない。
なんで!?
ぼくはこの異常事態に、しかし、どうにか学校に登校しようと、駅を目指した。
目指したのだけど……。
「いやー、二限目には間に合って良かった」
学校どころが、自分の現在地すら見失っていた所を、奇跡的に、一高の先輩に発見され、ここまで登校することが出来たのだ。
案内役がいたのに遅刻したのは、道中で、近道しようとしたぼくが、先輩とはぐれ、迷子に。
それを先輩が探しだしてくれる、という一連の無駄な動きのせいである。つまりぼくのせいだった。
先輩もまず間違いなく遅刻しているだろうから、昼休みにでも改めて謝罪とお礼をしに行こうと思う。名前は聞いていなかったけど、居場所は名探偵美月さんによって導き出されている。
「はあ、まあ本当は美月が遅刻した理由なんて、そんなに興味なかったし、別になんでも良いのだけどね」
「酷い!」
昨日の可愛い愛梨カムバック!今日はどうしてかツンが強い。
ぼくが遅刻してしまった理由は、まあ、運命のイタズラというか、神様のオチャメというか、簡単に言うと迷子なのだけど、それを口にするのは格好悪い。折角積み上げた(?)美月さん株がだだ下がりだ。
だから、ぼくの演技力でこの状況を寝坊ということで突破しようと思っていたのだけど、愛梨が無関心なくらいなら、さらけ出すよ!裸の美月さん大公開だよ!
「……ただ美月がいないと寂しいじゃない」
美月さんイヤーは、愛梨のとても小さな呟きを聞き逃さなかった。
ツンっとそっぽを向いたまま、呟かれたその一言の威力は計り知れない。ぼくの中の何かのゲージが一気に振りきれた。
「愛梨ー!」
「な!?ちょ、美月!?」
抱き締めて、頬擦りする。
どうやら愛梨は萌えの戦略級魔法師だったらしい。
なんだろう、愛梨はぼくを喜ばせるためだけにどこかから送り込まれたのだろうか。こんなに可愛い娘がこの世に存在する奇跡にぼくは感謝したい。
「……二人はやっぱり仲良しだね」
どこか遠くを見るような目で傍観しているエイミィ。
そんな彼女にぼくが言えることはたった一言だ。
「愛梨の後はエイミィだからね?」
「へ?」
この後、エイミィは美味しく愛でさせて頂きました。
ぼくの高校生活は最高に楽しいです。
◆
「酷い目にあったわ……」
「美月のスキンシップはなんかこう……イケない感じの触り方なんだよね……」
昼休み。
ぐったりとした二人とホクホクのぼく。
もっと二人を愛でていたいのだけど、今日はちょっと用事がある。
食堂で食事を終えた後、ぼくは二人と別れ、一人生徒会を目指していた。
今日の朝、ぼくを助けてくれた先輩に名前を聞くのを忘れていたけど――絶賛大遅刻中でそんな暇なかった――遅刻が確定して半泣きで謝るぼくに、『俺は君の先輩で、君が困っているのだから助けるのは当然だ。……それに俺は生徒会副会長だしな』と、格好良すぎる言葉をかけてくれて、その言葉から、彼が生徒会の副会長であることは分かっている。
つまり、お昼休みは生徒会室にいるっ!
生徒会役員は、生徒会室で昼食を食べるのが常識!もしいなくても、真由美さんに聞けば、その正体は丸分かり!ぼくの策は完璧だ!
「生徒会室……どこ……」
――生徒会室に辿り着ければね!
無理だったよ!手元の携帯端末に表示された校内図を見ながら来たんだけどね!辿り着けないよ!
「……また君か」
入学式の時に、達也と時間を潰していたベンチの近くで途方に暮れていたぼくの前に現れたのは、今日の朝、ぼくを助けてくれた先輩だった。
「まさか、迷子だなんて言わないよ……な」
言っている内に、ぼくが迷子であると気がついたのだろう。段々と顔がしかめられ、最後にはため息混じりだ。
「迷子です!」
「何故偉そうなんだ!?君が手にしている携帯端末に表示されているのは校内図だろ!それがあれば小学生でも迷わんぞ!」
「酷い!ぼくは小学生以下だって言うんですか!」
「少なくとも迷子になった回数はその辺の小学生より多そうなものだけどな!」
胸を張ってドヤ顔で迷子宣言をすれば、先輩から小学生以下という評価を下されてしまった。
確かに数百回は迷子になっているけども!いくらなんでも小学生以下はないと思う!
「はぁ、全く……それで、どこに行きたかったんだ?」
「何だかんだ言って、結局は案内してくれるとか……先輩、男のツンデレはぼく無しだと思います」
「誰がツンデレだ!人の親切をなんだと思っているんだ!」
この先輩は真面目で良い人なんだけど、だからこそ、からかい甲斐あるというものだ。
いくらでも遊んでいられるね!
「今朝はありがとうございました!それを言いたくて、生徒会室に向かっていたんです」
「俺は基本、昼食は部室で食べるし、生徒会室は正反対の方角なんだが……」
呆れるを通り越して、可哀想なものを見るような目で見てくる先輩。
うん、ぼくも自分がスゴく残念に思えて仕方がないよ。
「まあ、また困ったことがあったら、言ってくれ。これでも一応、生徒会の副会長を務めている。それなりに、頼りになるつもりだ」
自分自身のあまりの残念さに落ち込み気味のぼくに、そう声をかけてくれる。
なんという良い先輩!でもたぶん苦労人なんだろうな、という気がしないでもない。
「そういえば、名前がまだだったか。俺は二年B組、服部刑部」
「へー、忍者みたいな名前……あっ、もしかして、はんぞーくん!?」
「誰がはんぞーくんだ!?その名前はどこから出てきた!?」
「真由美さんですけど」
「……会長」
前に真由美さんから『はんぞーくん』という名前は聞いていたのだけど、それがまさか先輩のことだったとは。確かに真由美さんの言っていたイメージともピッタリだし、真由美さんの好きそうな人柄ではある。遊び相手的な意味で。
「真由美さんが、『あれだけ、からかい甲斐のある後輩も珍しい』って褒めてましたよ」
「それは褒められているのか!?」
「摩利さんも爆笑しながら同意してました」
「そっちは間違いなく褒められていないだろうな!その光景がありありと目に浮かぶよ!」
この言葉から摩利さんが、はんぞー先輩をどういう扱いをしているのかが、良く分かる。
はんぞー先輩、色々押し付けられてそうだ。
「はあ、先輩方には後でお話をするとして……間違っても、『はんぞーくん』などと口にするなよ」
「了解です、はんぞー先輩」
「はんぞーを止めろ!」
そろそろ昼休みも終わる時間、というわけで、「俺の名前は服部刑部だー!」などと、叫んでいるはんぞーくんに手を振って、教室へと戻ることにする。
何がそんなに嫌なんだろうね、はんぞーくん。可愛いと思うんだけど。
というわけで、ぼくは『はんぞーくん』と呼び続けることにする。名前の呼び方一つでここまで反応するのが面白くて、止められないわけではないよ?たぶん。
この後、一人で教室に帰れず、次の授業に遅刻した、ということは内緒である。
(;´∀`)男子A「服部、お前後輩の女子に、はんぞーくんと呼ばせて悦に浸っていたって本当か?」
(*`Д´)ノ服部「そんなわけあるか!なんだその話は!?」
( ̄ω ̄;)男子A「いや、噂になってるぞ?なんでも一年生の女子が、はんぞくーん!たすけてー!なんて叫びながら校内を巡回していたらしい」
(。`Д´。)ノ服部「アイツか!」
( ゜д゜)ヒソヒソ 女子A「なんか幻滅しちゃったな、服部くん」
( ̄ー ̄;)ヒソヒソ 女子B「ちょっと良いかなって思ってたけど……流石にねー」
(|||ノ`□´)ノ 服部「誤解だぁああー!!」
このストレスのせいもあり、放課後、服部は達也に絡むのだった。
ちなみに、服部のクラスメイト達、ぐるになって服部を弄っているだけで別に噂は誤解だと知ってたりする。
∵ゞ(≧ε≦o) クラスメイト一同「「「やっぱアイツおもしれーw」」」