美月転生。~お兄様からは逃げられない~ 作:カボチャ自動販売機
また四位だった。
僕は勉強では誰にも負けないってくらい勉強をしてきた。実際、塾ではいつも一位だし小学生のころは誰にも負けたことがなかった。それが中学校に入ってみればどうだろう。僕は毎回毎回、テストの度に四位だった。
「柴田美月さん…か」
自分より上位、常に学年二位である女子生徒の名前を呟く。
司波兄妹はなんかもう負けても仕方ないかなって思えてしまう。こうして同じ中学校に通っていることを不思議に思ってしまうようなとんでも兄妹だからだ。
それに比べて柴田美月さんはどんな人なのか。司波兄妹は校内の有名人だからこそ、教室の隅でひっそり勉学に励む日陰者の僕でも知っていたわけで、普通、一度も同じクラスになったことのない人を詳しく知っているわけがない。
僕はひっそりと柴田美月さんを目で追うようになった。
◆
柴田美月さんは不思議な人だ。
一見、ゆるふわ系の美少女で、読書とかピアノとかを嗜んでいそうな感じなんだけど、実際は考えるまえに即行動!というような体育会系の元気いっぱい美少女。ついでに言うとぼくっ娘だ、ポイント高いぞ。
女子サッカー部に所属していて、かなり上手いらしい。僕もこっそり見学したが素人目に見ても凄かった。まるでボールが体の一部なんじゃないかってくらい自由自在に動かしていた。いや、本当に体の一部がボール……ってなんでもございません。別にゆさゆさ揺れてて途中からサッカーを見てなかったなんてことは決してありません。………また暇な時に見学にこよう。
さ、さて、そんな運動神経抜群の柴田さんは学年で二位を入学以来ずっとキープしている才女でもある。他クラスの友人に聞いた話だと、授業中は寝ていることもしばしばあり、時には机につっぱしてぐっすり眠っていることもあるらしい。その時、机に押し付けられた二つの果実が大変に眼福なんだとか。いやいや、これはあくまで僕の友人の意見であって、僕の意見ではありませんよ?全然、羨ましくなんてありませんよ?……うん、次いこうか。
運動も勉強も出来て美少女な柴田さん、当然のようにモテるはずなのだが、そういう噂を聞かない。
なんでだろうと考えたのだが、その答えは早々に分かった。
彼女、柴田さんはとんでもない鈍感だったのだ。何人もの男子が告白を流され、心を折られたという。
何故か柴田さんは男子から告白されるなんてことはあり得ないと思い込んでいるらしい。
「また、四位か」
結局、柴田さんも僕みたいな凡人とは違うということだ。天然でちょっと抜けてるけど、勉強も運動も出来る、『持っている』人間なのだ。
「おっ、田中君じゃないか!万年四位の!」
「うん、柴田さん、初対面の君にそこまで言われて僕は酷く傷ついているわけだけど。そして僕は佐藤なんだけど」
「あはは、悔しかったらぼくを越えてみろー!」
「……そうだね、そうするよ」
そんな人間に僕がお近づきになろう、なんて言うのはおこがましいことなのかもしれない。
あーいや、そんなことを考えていちゃ何時まで経っても彼女に近づくことなんて出来やしない。
─告白なんて出来やしない。
まずは自信を付けるところから始めよう。
筋トレして、人並みには運動を出来るようにして、もっと勉強して、柴田さんにテストで勝って。
そしたら告白しよう。
まずは今度の期末試験だ。死ぬほど勉強して、きっと…。
「ぷふー、山田君また四位じゃん!」
「うん、僕は佐藤なんだけど。そして肩をバジバシ叩くの止めて欲しいんだけど」
……告白は無理かもしれない。
山田……佐藤君は今後もちょくちょく登場予定です。
さて、明日も0時に更新します。