美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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今回ちょいと長めな上、かなり難産だったので、誤字脱字注意です。


第四十八話 セレネ・ゴールドと必殺技

「世界で始めてループ・キャスト・システムを実現した天才。フォア・リーブス・テクノロジー専属、その本名、姿、プロフィールの全てが謎に包まれた奇跡のCADプログラマー、トーラス・シルバーは有名ですが、それに対抗するように、昨年、突然現れた魔法工学技師、セレネ・ゴールド!

『黄金の錬金術師』の名で呼ばれるセレネ・ゴールドは革新的な術式、プログラムの面で高い評価を得ているトーラス・シルバーとは対照的に、刻印型の術式を用いた武装一体型のCADを専門としていて、感応性の合金に刻み、サイオンを注入することで発動するという性質上、燃費が悪すぎるということで、近年あまり使われることの無くなった刻印型術式を、全く新しい形でアレンジすることで、その燃費を従来の物の十分の一以下にまでした天才中の天才!」

 

 

大興奮するあーちゃん先輩を前にして、摩利さんが、セレネ・ゴールド?どこかで聞いたことがあるような、などと口にしてしまったのが運の尽き。

普段のオドオドした態度が嘘のように、目を輝かせながら話し始めたあーちゃん先輩はもう止まらない。

 

堰を切ったように、怒濤の勢いで溢れる知識。

周囲の皆のひきつった表情も目に入っていないのか、言葉の最後には両手を大きく広げてポーズ。

 

やだ、可愛い。

 

 

 

「トーラス・シルバー同様、本名、姿、プロフィールの全てが謎に包まれている上、クローバー・クリエイティブという全く無名の企業の所属……」

 

 

本名、柴田美月。

姿、深雪と同じ美容院で、適当に、とお願いすると完成するフワフワのミディアムロングヘアー。

プロフィール、国立魔法大学付属第一高校の生徒で一年生。イラストレーターとしても活躍しており、高校生、魔工技師、イラストレーターという三つの顔で大忙しの毎日を送っている。好きな人は深雪。

クローバー・クリエイティブ、真夜さんから、何か適当な企業名を考えてくれ、と言われて三秒で考えた企業名。実際はフォア・リーブス・テクノロジー本社の一室で、社員はぼくと達也と何人かのスタッフ、バイトで水波ちゃん。

 

 

うん、謎なんてなかった(震え声)。

 

大体、セレネ・ゴールドって名前自体、企業名と一緒に、トーラス・シルバーみたいな偽名を考えて、と言われて、頭の片隅にあった月の女神の名前に、シルバーならゴールドで良くね?という安易な考えでゴールドをくっつけただけの適当な名前だし。

 

 

「そして、何より特徴的なのが、全てのCADが完全受注生産だということです!これはCAD業界では前例のほとんどないことで、さらに、企業にそれほど生産する力がないのか、その予約数は極めて少なく、予約開始から数秒で売り切れるため、超プレミア値で取引されているんです!金のエンブレムが刻まれた『ゴールド・シリーズ』は、元値が何百万円もするのにですよ!?」

 

 

生産する力がない、とか言われてもこれ以上ぼくの仕事を増やしたら本気で死んでしまうので勘弁してください……。達也の仕事を見てて、ぼくも何かいけそうだなーって思って真夜さんに言ってみたら、いつの間にか企業が出来てただけなんです。

真夜さんって、頭おかしいのかな……。

 

 

「何百万円って……そりゃ特殊なタイプのものはメーカー売価で100万円前後というケースもあるんでしょうけど……」

 

 

真由美さんの疑問はごもっとも。

ぼくは、作るだけで売り出す値段にはノータッチだけど、CAD一台に何百万円って高いよね。政府からの補助金で九割負担されているのに、この値段だからね?

 

ぼくの担当は刻印とデザインで、他の部分は、別のスタッフに任せているから良く分からないけど、手間がかかっているのかもしれない。

達也曰く、信頼できる技術スタッフチームに任せているらしいんだけど。確か、牛みたいな名前の人がリーダーだったはず。

 

 

「特殊な作りな上、刻印型の特性上、どうしても人の手が多く入りますからね、値段も相応に高くなりますよ。ちなみに、昨年発売されたゴールド・シリーズの初代は、プレミア値で一千万円以上だそうですよ!まだ、セレネ・ゴールドの名前が売れる前ということもあり、その生産数は十もないのではないか、と言われていますし仕方がないといえば仕方がないのですが」

 

 

真夜さん曰く、武装一体型を専門に取り扱っている企業は少なく、まだまだ市場には参入の余地があって、このレベルなら、十分に利益を期待できるって話だったけど、こうやって消費者側の意見を聞いていると本当にそうなのかもしれない、と思ってしまう。

頭おかしいとか疑って申し訳ない。

 

 

「そんなあまり数が出回らないため、希少価値が高いセレネ・ゴールドのCADですが、なんと、その正体を隠していながら、指名依頼を受けており、特注でCADを作ることも出来るんです!

武装一体型はCADの中でも特殊ですから、高くてもオリジナルで作りたいと言う人はそれなりに多く、依頼が殺到しているようなのですが、セレネ・ゴールド本人がやりたいと思った仕事しか受けないようで、一年に数件程度しか行っていないようです」

 

 

指名依頼、ぼくが選り好みしているわけじゃないからね!、と心の中で言い訳。

実際は、真夜さんとか、達也の指示で仕事を受けてる。

 

 

「セレネ・ゴールドの正体については様々な憶測が飛び交っており、名前に関しては、セレネ、というのは、ギリシヤ神話に登場する月の女神の名前、ゴールドというのは、トーラス・シルバーをライバル視したため、というのが有力です」

 

別にトーラス・シルバーとかいう人をライバル視したわけじゃないけど、適当につけた名前だと思われるよりはマシだ。

そういえば、トーラス・シルバーって、まだ会ったことないけどどんな奴なんだろ?同じ会社内にいるのに全く会わないというのもおかしな話だ。

 

 

「この名前から、セレネ・ゴールドの正体は女性である可能性が高い、と言われています」

 

「まあ、女神の名前ですものね」

 

 

確かに、よくよく考えたら月の女神の名前なんて使ったら、女性です!と宣言しているようなものだった!

まさかこんな大事になるとは思ってなかったし、適当に決めすぎたかな。

 

 

「そしてこのことから、セレネ・ゴールドは、かなり自己顕示欲の強い人物で野心家である、と言われています。トーラス・シルバーをライバル視しているのは明らかですし、セレネは、月が形を変えるように三つの顔を持つ、魔法の女神である、とも考えられていますから。 魔法の女神を名乗るのは、大きな自信の現れです」

 

 

大きな誤解が生まれてるーっ!?

違う!全然違うよ!自己顕示欲も野心もないよ!セレネが魔法の女神とか知らなかったし、トーラス・シルバーとか何とも思ってないよ!?

 

ただ微妙に、三つの顔を持つ、とか当たってて怖い……。

 

 

 

「中条さん、時間も限られていますから、今日はこの辺で」

 

 

まだまだ話を続けようとするあーちゃん先輩を止めたのは、クールビューティー先輩こと、市原先輩。

基本的に、ヒートアップした役員を冷静に止めるのが、生徒会でのこの人の役割なのかもしれない。深雪も割とヒートアップ――深雪の場合、ヒートではなくcold(コールド)かもだけど――するとヤバイからこれからも頑張って欲しい。

 

 

「あっ……すみませんっ!私、一人で盛り上がっちゃって……」

 

 

市原先輩の言葉で、興奮状態から冷めたのか、ハッとしたように我に帰ると、顔を真っ赤にして小さくなった。

 

 

「さて、時間も押しているし、美月、やるぞ」

 

「はーい」

 

 

 

そんな微笑ましいあーちゃん先輩に、温かい視線を送りつつ、ぼくは、靴を履き替えて、試合前の準備体操を始めた。

 

 

いつまでも真っ赤なままで、けれど視線はぼくのCADに釘付けな、あーちゃん先輩が可愛かった。

 

 

 

 

 

 

 

「双方配置に付いたようですので、ルールを説明させて頂きます」

 

ぼくだけでなく、先輩である摩利さんに向けての言葉だからか、はんぞーくんは敬語で話始めた。

 

 

「さっき聞いたばかりなんだが」

 

「模擬戦前の規則ですから。それに、ルールの変更もありますし」

 

「ちっ、頭の堅い奴だ」

 

 

若干イラついた様子ではんぞーくんの説明をスキップしようとした摩利さんだったが、はんぞーくんの正論にあっさり論破された。

この場合、はんぞーくんが頭堅いっていうより、摩利さんが我が儘な気がする……。

 

 

 

「直接攻撃、間接攻撃を問わず相手を死に至らしめる術式、回復不能な障害を与える術式、相手の肉体を直接損壊する術式は禁止。

但し、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は許可します。蹴り技を使いたい場合は靴を履き替えてください。

尚、武器の使用は本来禁止なのですが……今回は特例で認めます。

勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不可能と判断した場合に決し、ルールに従わない場合は、その時点で負けとします」

 

 

合図があるまでCADを起動してはいけないルール。だからといって、何も出来ないわけじゃない。

ぼくは、はんぞーくんの説明を聞きながらも、摩利さんをじっと()()

 

 

目の動き、呼吸、些細な筋肉の動き。

 

 

「それじゃあ二人共、準備は良い?」

 

 

集中していると、いつの間にかはんぞーくんの説明は終わっていて、何故か真由美さんから確認が入る。

 

 

「いつでもどうぞ」

 

「こちらもな」

 

 

木刀を構える摩利さん。

やくもん先生から少し習った程度のぼくとは違って、芯の通った気迫のある構え。

 

ピリピリとした緊張感が、演習室を支配する。

 

 

 

「では――始め!」

 

 

 

試合開始の合図と同時に、距離を詰める摩利さん。

 

開始時点でのぼくらの距離は五メートル、魔法による試合が想定されているだけあって、この距離なら、態々接近するより、()()()魔法の方が早い。

 

実際、はんぞーくんは、セオリー通り、試合開始と同時に魔法を発動させようとしていた。

 

この勝負、ルール上、先に魔法を当てた方が勝ちみたいなものだから、普通に考えれば、はんぞーくんのように開幕ぶっぱが主流になるのは当然。

だって、最初の一撃さえ当てられれば、もしそれで倒せなかったとしても、魔法によるダメージを受けながら、それでも冷静に魔法を構築できる高校生なんて、そうはいないから、そのまま畳み掛ければ大概倒せる。

 

それでも、摩利さんが接近してきたのは、先程のはんぞーくんと達也の試合を見て、ぼくも達也のように一瞬で間合いを詰められる可能性がある、と判断したのか、それとも単に戦闘狂なのか。

 

どちらにせよ、この場合、ぼくも達也のように一瞬で間合いを詰めることは簡単なのだから、正解と言えば正解である。

 

 

ただ――

 

 

 

「ほーい」

 

 

 

――セオリー通りではないのは、ぼくも同じこと。

 

 

 

 

ぼくは、右手のCADを、摩利さんのやや上に、ぶん投げたのだ。

 

 

 

「なっ!?」

 

「あー!!」

 

 

摩利さんの驚愕の声と、あーちゃん先輩の悲鳴が同時に上がる。

 

摩利さんの足が一瞬止まって、その凛々しくも可愛らしいお顔は驚愕に染まり、視線がぼくから、上空をくるくると回転しながら飛んでくるCADに移された。

 

それは、大きな隙になる。

 

 

「必殺!スーパースカート捲り!」

 

 

ぼくが全力で右足を天高く上げると同時に、巻き起こった風が、ぶわっ!と大胆にスカートを捲れ上げた。

 

ぼくの脚力と、やくもん先生の元で鍛えた武術の合わせ技!

 

綺麗なお臍が丸見えになるどころが、裾が摩利さんの頭より上にくるくらい、完全に捲れ上がり、すっぽりと摩利さんを隠した。

だから、その真っ赤になっているだろう顔は見えないけど、スカートという鎧を失った摩利さんのパンツがガッツリとお目見えしていた。

 

黒。

吸い込まれそうな錯覚さえ覚える闇のような黒。

黒い糸で施された複雑な刺繍が花や葉となって下着全体を飾り、摩利さんの鍛え上げられた脚線美、その太ももの白とのコントラストが犯罪的なまでの美しさを作り出していた。

 

いつまでも見ていたい、完成された芸術品、ただ、今のぼくには、それを眺めている時間はない。これは試合なのだから。

 

 

スカートで視界を覆い隠されている摩利さんの背後に一瞬で移動し、足払い。

 

 

「うわっ!?」

 

 

バランスを崩した摩利さんのブレスレット型のCADが付いた腕を掴みながら、そのまま床に組伏せる。

 

そして、丁度良く降ってきたCADを掴み、その切っ先を、唖然としてる摩利さんの顔に突き付け――

 

 

「ぼくの勝ちー」

 

 

――勝者、柴田美月、という、やや詰まり気味のはんぞーくんの声が、静まり返った部屋に、響き渡った。




(*´д`*)ハァハァ あずさ「今日は何の記念日ですか!?私の誕生日なんですか!?明日死ぬんですか!?」


(ノ; ゚□゚)ノイヤイヤ 真由美「今日は普通の平日!あーちゃんの誕生日は今日じゃないし、明日死ぬなんてこともないから!」


(;´∀`)ヤレヤレ 摩利「これはかつてない程に興奮しているな」


(*´Д`*)ハァハァ あずさ「トーラスにセレネですよ!?この二つを一緒に見れるだなんて、滅多にないことなんですよ!?ああ、触りたい、撫でたい!むしろ舐めたい!」


Σ(゚口゚;)//エッ 真由美「あーちゃん!?」




その夜、羞恥のあまりベッドでのたうち回ることになることを、このときのあずさはまだ知らない。







最近、諸事情により暗いあーちゃんしか書いていなかったからか、その反動で本編でもあとがきでも、こんなことに。

……うん、あーちゃん可愛い。

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