美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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第五十二話 初めての風紀委員会

 

 

朝。

いつものように、達也と深雪が迎えに来てくれて、ぼくは遅刻することなく、学校に登校することができた。

とはいえ、どうやら今日から(達也曰く昨日の夜から)USNAの監視が付いているようで、いつものように、と言うのは無理があるかな。

 

全く、年頃の女の子を付け回すなんて……ぼくがやりたいくらいだよ!

 

 

 

「監視は相変わらず三人、校内には入ってきていないようだが、警戒はしておけ」

 

 

達也はそんなことを言っていたが、魔法師の巣窟である学校で、潜入なんてリスキーなことしてこないと思う。というより、そんなずっと警戒して学校生活を送るなんてぼくには無理なのだ。

第一、結局同じ校内に達也はいるわけだから、何かあったらなんとかしてくれるだろう。

というわけで、ぼくは普通に過ごすことにする。

 

 

 

「で、風紀委員の仕事ってどんなだった?」

 

「昨日は説明だけで、実際に何かした、ということはなかったわ」

 

「へー、じゃあ出遅れてないんだ」

 

 

仮に出遅れてたとしても、達也に全部説明させるから問題はないのだけど。

 

 

「……そういえば、昨日は何の用事だったの?」

 

 

「再従兄弟が家に来るのすっかり忘れてたんだよ。あんまり帰りが遅いから、母さんから電話かかってきちゃって」

 

 

 

嘘だ。

愛梨に嘘を吐くのは、胸が痛むのだけど、正直に全部話してしまっては、愛梨も巻き込んでしまうことになってしまう。

それに、全部正直に話そうと思ったら、四葉のことも話さなくてはいけないわけだし、どうせ誤魔化すことになるのなら、最初から言わない方が良い。

 

 

 

「……そうなの」

 

 

愛梨が少し沈んだように見えたのは気のせいだろうか?

あ、もしかして、昨日、ぼくが最後まで一緒にいられなかったから寂しかったのかな?

よしよし、ここはぼくがハグしてあげようじゃないか。

 

「愛梨ー」

 

 

スッ、と。

ぼくのハグは空を切った。

 

 

「なんで避けるのさ!」

 

「暑いもの」

 

「ちょっとじゃん!ちょっとハグハグさせてくれればそれで良いんだよ!」

 

 

それからぼくと愛梨の攻防は、1限目が始まるまで続いた。

くっ、結局ハグ出来なかった!

 

 

「わわ!ちょ、美月!?」

 

 

だからとりあえず、エイミィを可愛がって我慢しました。

うん、ちっちゃくって抱き心地が抜群で、ぼくは満足です。

 

 

「愛梨助けてー!!」

 

 

 

エイミィの叫びが聞き届けられることはなく、昼休みに屍となったエイミィが発見されたとか、されなかったとか。

 

 

 

 

放課後。

今日こそは!と気合い十分で愛梨と風紀委員会に向かう。

USNAの騒動のせい、というかおかげで、ぼくの仕事の量はかなり減っている。

なんせ、セレネ・ゴールドとしての仕事をしなくて良いことになっているからね。

ぼくが監視されている状態で、フォア・リーブス・テクノロジーに向かうことなんて出来ないのだから仕方がない。うん、仕方がないのだ!

嬉しい。

 

 

 

「何故お前がここにいる!」

 

 

風紀委員会本部の扉を開けてすぐに聞こえたのは、そんな怒声だった。

 

 

「いや、それはいくらなんでも非常識だろう」

 

 

続いて聞こえてきたのは、困った、というより呆れたような達也の声。

うわ、流石トラブルホイホイの達也さん。風紀委員会でも早速問題を起こしているよ。

 

 

「なにぃ!」

 

 

達也のやれやれとでも言うような態度が気に入らなかったのか、相手の男子生徒は今にも掴み掛からんとする勢いで達也に近づく。

 

 

「やかましいぞ、新入り」

 

 

が、ここは風紀委員会本部。

当然、風紀委員長たる摩利さんもいて、不機嫌そうな摩利さんの一喝に、男子生徒は顔を青くしている。

 

 

「まあいい、座れ。美月と一色もな、そろそろ全員揃うだろう」

 

 

摩利さんの言う通り、数分もしない内に、二人の三年生が次々に入ってきて、室内の人数が九人になり、全員が席についたところで摩利さんが立ち上がった。

どうやらこれで全員らしい。

んー、やっぱり女の子は少ない。でも、あのボーイッシュなショートヘアの娘は可愛い。

ちょっと強気な感じで、でも摩利さんには甘えちゃうギャップが良い。

 

 

「そのままで聞いてくれ。今年もまた、あの馬鹿騒ぎの一週間がやって来た。風紀委員会にとっては新年度最初の山場になる。

この中には去年、調子に乗って大騒ぎした者も、それを鎮めようとして更に騒ぎを大きくしてくれた者もいるが、今年こそは処分者を出さずとも済むよう、気を引き締めて当たってもらいたい。

いいか、くれぐれも風紀委員が率先して騒ぎを起こすような真似はするなよ」

 

 

 

摩利さん、くれぐれも風紀委員が率先して騒ぎを起こすような真似はするなよ、のところでぼくの方を睨むの止めてもらえませんかね!

ぼくより達也の方がそういうのには縁があると思うんです!

 

 

「今年は幸い、卒業生分の補充が間に合った。紹介しよう。立て」

 

 

事前の打ち合わせも予告もなく、突然ぶち込んできた摩利さんだけど、全員無難に、まごつくことなく、すぐさま立ち上がれた。

ふう、ちょっとウトウトしてたから危なかった。

 

 

「1ーAの森崎駿」

 

 

直立不動の生真面目そうな男子生徒。

緊張と熱意、それに達也への敵意が感じられる。まあ、この部屋入ったときから分かってたことだけど、早速問題の種があるわけか。

 

達也さん、もうちょっと敵を作らないようにしてくれませんかね。

 

 

「1ーBの一色愛梨と柴田美月」

 

一色、の名前に一瞬ざわつく。

やっぱり師補十八家のネームバリューは大きいみたいだ。隣の森崎君も驚いているみたいだし。

 

 

「1ーEの司波達也、以上四名だ。今日から早速、パトロールに加わってもらう」

 

1ーE、で愛梨の時以上に、大きくざわつく。

が、それも長くは続かない。

摩利さんが睨みを利かせているからだ。

 

 

「多いですね」

 

「去年の騒動を踏まえて今年から『教職員選任枠』を二人に、新たに作った『()()()()()()()()』として一人、増員した。と言っても増員は一人だけの予定だったのを……無理矢理もう一人追加しただけなのだがな」

 

「彼ですか?」

 

 

二年生の男子生徒が、達也に目を向けながら言う。

風紀委員長の特別推薦、なんて無理矢理な制度を摩利さんが作ったらしいことを、ぼくは今初めて知ったけど、そんな無茶をやるくらいの人材、って考えると達也の可能性が一番高いよね。

二科生が風紀委員になった前例ってないみたいだし。

 

 

「いや、彼女だ」

 

「イエス、ぼくなのだ」

 

 

摩利さんが、ため息混じりにぼくを指したから、取り敢えずドヤ顔。

すると、何故かぼくを睨み付けてくる先程目をつけていた二年生の女子生徒。

ぐぬぬぬ、と言わんばかりの表情で、流石のぼくも、ちょっとどう反応して良いか分からない。

 

 

「さて、前回も説明したが、部員争奪週間は問題が多発するからな、各自単独で巡回する。勿論、新入りであっても例外じゃない」

 

「大丈夫なんですか?」

 

 

達也の左胸に目線が向けられたまま、二年生の男子生徒が疑問を口にした。

その表情から、別に二科生を見下しているから、というわけではなく、単に、魔法技能の劣る二科生が一人で巡回をする、ということを心配している様だった。

 

 

「ああ、心配ない。今年は特に優秀でな、全員使えるヤツだ」

 

 

摩利さんがニヤリと笑みを浮かべながら言うと、姐さんがそう言うなら、と二年生の男子生徒は引き下がった。

 

 

「他に言いたいことのあるヤツはいないな?」

 

 

有無を言わさぬ喧嘩腰の口調。これは、姐さんと呼ばれますわ。

まあ、誰も気にしている様子はないし、日常的な光景なんだろうけど、トップがこれじゃあ、そりゃ、風紀委員は脳筋になりますよ(偏見)

よし、愛梨がこうならないよう、ぼくがしっかり守らないと!

 

 

「これより、最終打合せを行う。巡回要領については前回まで打合せのとおり。今更反対意見はないと思うが?」

 

 

ここで異議を唱えられる人なんていないと思う。

……ぼくも今後、姐さんって呼ぼうかな。

 

 

「よろしい。では早速行動に移ってくれ。レコーダーを忘れるなよ。一年生については私から説明する。他の者は、解散!」

 

 

摩利さんの一声で、全員が一斉に立ち上がり、踵を揃えて、握りこんだ右手で左胸を叩いた。

代々風紀委員会が採用している敬礼とのことだったけど、なんだろうこの中二感。

ぼくは好きだけどね!

 

 

「まずこれを渡しておこう」

 

 

ぼくらを除いた六名が出て行ってすぐ、摩利さんは薄型のビデオレコーダーを手渡してきた。

 

 

「今後、巡回のときは常にそのレコーダーを携帯すること。違反行為を見つけたら、すぐにスイッチを入れろ。スイッチは右側面のボタンだ。まあ、撮影を意識する必要は無い。風紀委員の証言は、原則としてそのまま証拠に採用されるからな。念の為、くらいに考えてもらえれば良い」

 

 

胸ポケットに入れておけ、ということだったけど、正直窮屈だ。これは女子用に改良の必要があるんじゃないかな。そんな提案をしてみたら、摩利さんと愛梨から、とんでもない目で睨まれた。なんでだ。

 

森崎くんに聞いてみたけど、顔を赤くするばかりで答えてくれないし、達也には黙ってろ、と一言で一蹴された。

本当にぼくの扱い酷くないかい!?

 

 

「各々の携帯端末に、委員会用の通信コードを送信しておいた。

報告の際は必ずこのコードを使用、こちらから指示ある際も、このコードを使うから必ず確認するように。

分かったな、特に美月」

 

「なんでぼくだけ名指し!?」

 

 

やっぱり、ぼくの扱いって酷いよね!?あんまりだよね!?

必死で抗議するも、摩利さんはぼくを無視(シカト)して話を進める。

 

いよいよ泣きますよ!?

 

 

「最後にCADについてだ。風紀委員はCADの学内携行を許可されているわけだが使用についても、一々誰かの指示を仰ぐ必要は無い。

状況を判断して適切に使用してくれ。無いとは思うが、一応言っておくと、不正使用が判明した場合は、委員会除名の上、一般生徒より厳重な罰が課せられることになっているからな。

一昨年はそれで実際に退学になったヤツもいる。甘く考えないことだ」

 

 

摩利さんの言葉に、森崎くんがゴクリと唾を飲み込んだのが分かった。

心なしか顔色も悪い。いよいよ初仕事だと思って緊張しているのかな。

 

 

「説明は以上だが、何か質問はあるか?」

 

 

摩利さんは何カップなんですかー、とか質問したいことはあるのだけど、そんなことを口にしようものなら、どうなるかは簡単に想像できるので黙っておく。

人間とは学習する生き物なのである。

 

 

「CADは委員会の備品を使用してもよろしいでしょうか?」

 

 

「……構わないが、理由は?釈迦に説法かもしれないが、あれは旧式だぞ?」

 

 

達也の質問に摩利さんは意外そうな顔をしながらも、どこか興味が抑えられないような様子。

ぼくはそれほどCADの種類に詳しい方ではないけど、達也は違う。なんせ、フォア・リーブス・テクノロジーの社畜。その知識量はプロ並だ。

そして、当然のようにCADにも並々ならぬ拘りを持つ。自社の製品だからかもしれないけど、CADは基本的にトーラス・シルバーの物しか使わないし、いつもメンテしたりして弄っている。

言うならばCADオタクだ。その達也がなんでまた態々旧式のCADを?とはぼくも思う。

 

 

「確かに旧モデルではありますが、プロ仕様の高級品ですよ。調整は面倒ですが、設定の自由度が高く応用範囲の広い点が一部で熱狂的に支持されている機種です」

 

「……そうなのか」

 

「ええ、多分、あれを購入した人がファンだったんでしょう。バッテリーの持続時間が短くなるという欠点に目を瞑れば、処理速度も最新型並みにクロックアップできますから、しかるべき場所に持ち込めば、結構な値段がつくと思いますよ」

 

「……それを我々はガラクタ扱いしていたということか。なるほど、君が片付けに拘った理由がようやく分かったよ」

 

 

CADが旧モデルとはいえ高級品で、最新型並みの性能を発揮できることは分かったけど、そもそも高級品の最新型を持っている達也が、それを使う意味ってなくない?

 

 

「……トーラスは目立つからな。それにこれはこれで使いようがある」

 

 

考えていることが顔に出ていたのか、達也が小さな声で本当の理由を教えてくれた。

確かに、あのあーちゃん先輩の興奮具合を見ちゃうと止めた方が良いかも、と思ってしまう。

あーちゃん先輩程のオタクはそうそういないにしても、魔法科高校なのだ、CADが大好き!という生徒は沢山いるだろうし。

 

 

「そういえば、あーちゃん先輩ならこのCADのことも知っていたんじゃないですか?もしかして、部屋が汚すぎてCADが目に入らなかったとか?」

 

「失礼な!中条は怖がって、この部屋には下りてこないだけだ!」

 

 

あーちゃん先輩、小動物可愛い。

あれほど完成された小動物もそういないんじゃないかな!

ビクビクしながらこの部屋の様子を伺っているあーちゃん先輩を想像して萌えた。

 

 

「コホン。まあ、備品のCADなら好きに使ってくれ。どうせ今まで埃をかぶっていた代物だし、他に誰も使わんだろう」

 

「では……この二機をお借りします」

 

「二機……? 本当に面白いな、君は」

 

 

いつの間にか、自分用の調整データを複写しておいたらしい二機のCADを左右の腕に装着した達也。

 

そういえば前に達也から、CADを二つ同時使用することでキャストジャミングの真似事が出来る、ということでやり方を解説されたのだけど、はいはい、と適当に流していたから良く分かってない。

CADを二つ同時使用するのは、魔法を並列起動させる高等テクで難しいらしいけど、二刀流ってかっこ良くね?というわけでちょっと練習したら出来た。

ぼくでも出来るんだし、たぶん達也も出来るんだろう。

 

 

「では、これで解散にする。私は部活連本部へ行かないといけないからな。各自、風紀委員としての自覚を持って行動するように」

 

 

ここからは単独行動になる。

本当は愛梨と二人が良いのだけど、通常時は二人一組で行動する様だし、 今回は我慢しておこう。

 

初めての風紀委員としての仕事、しっかりやり遂げて見せますよ!

監視されている現状、風紀委員としての仕事も安全な校内に違和感なく居座れるということで、推奨されており、大手を振って出来るのだ。

 

 

 

「委員長、巡回は一人ずつの単独行動ということでしたが」

 

「ああ、そうだが、何か問題があったか?」

 

 

今日から巡回があることは、達也から聞いていたから、今日は『輝夜』じゃないCADを持ってきた。

『輝夜』は金色だし、剣だし、大きいしで、とても目立つから、コンパクトなものにしたのだ。

事前準備を怠らない、うん、風紀委員の鑑だね。

 

よーし、張り切って行くぞー!

ぼくは風紀委員室を出て、早速動き出した。迅速な対応!ぼく、出来る娘!

 

 

 

 

 

 

 

 

「美月を一人にして大丈夫なのか、と」

 

 

「すぐ、追いかけてくれ!行方不明になる!」

 

 

 

 

達也の風紀委員としての最初の仕事は、ぼくを捕獲することだった、とぼくが聞いたのは少し後のことである。




――その後の二人――


(ノ_-;)ハア… 摩利「美月を一人にするとは、なんて愚考を……」

( ̄^ ̄)エッヘン 達也「安心してください。こんな時のために、美月の携帯端末のGPS情報を確認できるようにしています」

ヽ(●゚∀゚)ノ゙ 摩利「用意周到だな!よし!」




(;・ω・)達也「……駄目でした、電源が入っていないようです」

(*`Д´)ノ! 摩利「なんでだ!大体携帯端末の電源を切っていてはこちらからの指示が通らんだろうが!馬鹿なのか!?」

(; ̄Д ̄)達也「馬鹿なんだと思いますが?」


(≧Д≦;)ノ 摩利「そうだったな!すまん!言っても仕方のないことだった!」








(・`ω・)美月「なんだか失礼なことを言われているような気がする」


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