美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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シリアス難し過ぎて、結果無くなった……。


第五十六話 羽ペンと捕獲

「――以上が剣道部乱入事件の顛末です」

 

 

閉門時間間際の部活連本部で、本日遭遇した剣道部の騒動について報告を行った、達也の前には三人の男女。

向かって右に生徒会長、七草真由美。中央に、ある意味で彼の上司である風紀委員長渡辺摩利。そして左の男子生徒が、部活連会頭、十文字克人だ。

身長は一八五センチ前後。見上げるような大男、という訳ではないが、分厚い胸板と広い肩幅、制服越しでも分かる、くっきりと隆起した筋肉で、巌のような男だった。

 

流石は真由美、摩利と並んで第一高校三巨頭に数えられる人物、と達也はその外見と印象だけで納得した。

十文字、の名は伊達ではないようだった。

 

 

「もう!みーちゃん、危ないことはしないって私と約束したわよね!?どうしてこんなことしたの!」

 

「だって危なかったし、ぼく風紀委員だし……」

 

「達也くんがいたでしょ!」

 

「おい七草、柴田は職務を全うしただけで、何もそこまで叱りつける必要は……」

 

「十文字君は黙ってて!」

 

「……うむ」

 

 

その、十文字克人が、押し黙る程、今の真由美には迫力があった。

 

 

「大体、高周波ブレードを素手で止めようなんて!私なんて、その話を聞いたとき、気を失いそうになったのよ!?」

 

「素手じゃなくて、ちゃんと振動系魔法で相殺してましたよ!」

 

「それでも危ないことに変わりはないでしょ!どうしてそう無茶するの!」

 

 

摩利は完全に呆れた様子で、真由美の好きにさせる方針のようで、達也は特に助け船を出そうとは思っていない。

自分に任せておけば良い、とは達也も少なからず思ったことであるからだ。

これで美月が自重するなら、良い薬だ、と黙りを決め込んだ。

 

 

「とりあえず、みーちゃんは1ヶ月風紀委員はお休みにします!」

 

「ええ!?」

 

「七草、それはいくらなんでも職権濫用なのでは……」

 

「十文字君は口出ししないで!」

 

「……うむ」

 

 

真由美の突飛な発言に、意を唱える十文字であったが、またも真由美の一言に、押し黙ってしまった。

意外に押しに弱いようだ。

 

 

「達也くん、こっちはこっちで話を進めようか」

 

「……はい」

 

 

こってりと絞られている美月の横で、至って冷静に、摩利が達也に言った。

何となく、三巨頭のパワーバランスを理解した達也であった。

 

 

 

 

 

「うぅ、まさか真由美さんに怒られることになるとは……」

 

「まあ、流石に過保護過ぎな気はするが、良いことじゃないか。それだけ美月のことを大切に想ってくれているということだ」

 

「……そうだけどさぁ」

 

 

結局、話し合いの末、1ヶ月から二週間になったものの、風紀委員の仕事を暫く『謹慎』することとなった美月は膨れっ面であった。

 

「もう、こんな時は癒しが必要だ!深雪ー!」

 

「深雪なら先に帰らせたぞ」

 

「嘘!?」

 

 

美月が驚くのも無理はない。

美月が知る限り、達也たち兄妹が片方を置いて先に帰るなんてことはなかった。

それに、深雪の性格上、達也がどれだけ遅くなろうとも、一人健気にいつまででも待っているだろう。

 

 

「勿論、一人では帰していないさ。エリカとレオも一緒だ。それに、四葉()の護衛も付いている。と、言ってもエリカやレオに気取られない程度には離れたところからだがな」

 

「それにしたって、達也が深雪を一人で帰すなんてありえないよ!」

 

「……お前が何故そう頑なに俺の言うことを信じないのかは、この際置いておくとして、だ。

学校に待たせておく方がリスクが高い(・・・・・・・)、と判断した」

 

「なんでさ?」

 

 

達也と口論している内に、校舎内でも、まだ美月の来たことのないところへ来てしまっている様だった。

 

 

 

「――校内に、俺たちを監視している人間がいるからだよ」

 

 

 

言うと同時に、達也は振り返ると、懐から取り出したペン(・・)を勢い良く投げた。

魔法によって加速したペンは、廊下の曲がり角へと飛んでいき、すぐに、ドスッと壁に突き刺さった音が聞こえて――

 

 

「ひゃあ!?」

 

 

――同時に、可愛らしい悲鳴が響いた。

続けて、あわわわわ!?という大慌ての見本のような声が聞こえてきて、既に、その声の主が判明してしまっていた。

 

 

 

「さて、どうしてこんなことをしたのか聞かせてもらおうか――未亜」

 

 

そして案の定、廊下の曲がり角には、ポールペンでブレザーを縫い付けられ、大慌てで脱ごうとしている未亜の姿があった。

 

 

「くうっ!」

 

 

姿を見られ、もう形振り構っていられないと思ったのか、左腕に装着されたCADを操作して魔法を発動させる――が。

 

 

「悪いが魔法の無効化は得意なんだ」

 

 

魔法は、達也の得意魔法、術式解体でその効果を発揮せずに霧散した。

 

 

「それは予測済みです!」

 

 

しかし、それは事前の調査で予測済み、手のひらサイズの筒のようなものを投げつけると、そこからガスが吹き出した。

 

 

「催涙ガスか!?」

 

 

強力な催涙ガス、訓練を受けた軍人でも、足を止めてしまうほど強力なそれを、高校生が無防備に受けて無事なわけもない。

未亜は、縫い付けられたブレザーをその場に残し、逃走を謀る。

 

 

――その手を、誰かが掴んだ。

 

 

「――悪いが、そういうもの(・・・・・・)は効かない体質なんだ」

 

 

「そんなことって……」

 

 

愕然とした様子で呟いた未亜を、達也はテキパキと拘束していく。

 

 

「ちょっ、達也!ぼくは大丈夫じゃないんだけど!」

 

 

そんな中、離れたところにいたおかげで、なんとか魔法によって催涙ガスを防ぐことに成功した美月が窓を開けて、そのまま魔法でそこにガスを誘導していく。

 

 

「……美月、そのCADで良く防げたな」

 

「空調操作の魔法の()が入ってたんだよ、それを応用したから、なんとか間に合った」

 

 

美月が左手でくるくると回しているのは、羽ペン。

羽ペン、と言っても、それは鳥の羽で出来ているわけではないらしく、鈍い銀色。

羽ペンのような形をした、CAD、というのが正しい。

 

それは達也が、美月の誕生日に贈った――勿論トーラス・シルバー製の――CADだった。

美月が偶然生み出した革新的な魔法の使い方――それに特化したもので、達也にしてみれば、技術的な意味はあるものの、実戦的ではなく、お遊びのためのCAD、という印象だったため、それしか持ってきていないらしい美月に苦い顔だ。

 

 

「そのCADは咄嗟の時に対応が遅れる欠点がある。普段持ち歩くには、あまりおすすめは出来ないんだが」

 

「んー、でも達也からの誕生日プレゼントだし……気に入ってるから」

 

「……そうか、そんなに気に入っているなら後でもっと実戦的なものに改良しよう」

 

「あのー、私がいるの忘れてませんか……」

 

 

相変わらず、差ほど表情に変化はないものの、知り合ったばかりの未亜ですら分かるほど嬉しそうな雰囲気を出している達也に、未亜は思わず、苦言を呈した。

 

 

「いや、忘れていないさ。美月、念のため、魔法的拘束もしておいてくれ。どうも俺はそういうのは苦手でな、足を切り落とすくらい(・・・・・・・・・・)しか思い付かん」

 

「ひぃっ!?」

 

 

全くの真顔でそんなことを言う達也に、すっかり怯えた様子の未亜だったが、美月にはそれが達也なりの冗談であり、本気で言っていない、ということが分かった。

 

 

「もう達也!未亜が怯えてるでしょ」

 

 

自分が監視されていた、ということを忘れているのか、ロープで拘束されている未亜に、怖くないよー、と頭を撫でながら、CADを向けた。

 

すると、未亜の背にサイオンの模様(・・・・・・・)が浮かび上がる。

 

 

「平衡感覚を狂わせる魔法だよ。少しの間だけだから、我慢してね」

 

 

手足を拘束された状態で、さらに平衡感覚を狂わされてはもう何も出来ない。

それどころが、魔法の影響なのか、クラクラとして、こうして床に転がされているだけのはずなのに、体を揺らされている様だった。

 

 

「こうして持続的に効果を発揮できる、という点は強みではあるな」

 

「ぼくとしては、いかにも魔法!って感じで格好いいってところを評価して欲しいんだけど」

 

 

その、未亜の様子を見て、冷静に分析する達也に、美月は不満気に頬を膨らませる。

美月としては、この簡易式刻印型魔法(・・・・・・・・)の真骨頂は、そこではなかったらしい。

 

 

「サイオンを刻印のパターンで投影することによって、刻印型魔法を使う……純粋な魔法師では、まず思い付かんだろうな」

 

「CADに刻印の型を保存しておけば、刻印を描く手間は省略できるし、何より、一度にいくつも魔法を使えるっていうのが魅力なんだよね。――こんな風に」

 

 

美月がCADを向けると、サイオンの模様が未亜に浮かぶ。

未亜本人は、これによってどんな変化が起きたのか、分かっていない様子だったが、達也たちからしてみれば、一目瞭然だった。

 

 

「光学迷彩か……」

 

「うん、これで未亜を運び出せるよね。外に車、用意してるんでしょ」

 

「お見通しか、良く分かったな」

 

「達也ならそうするかなって思っただけ。ここで尋問するのはリスクがあるし、何より、情報の信憑性を確かめるのにここは不便。そうなると、そうだね、先生のところに運ぶんじゃないか、って思っているんだけど、どうかな?」

 

「……正解だ。美月、まさか心を読んでいないだろうな?」

 

「読んでないよ、でも、そろそろ使っておこうかな。未亜が何を考えているのか、分かった方がいいでしょ?」

 

 

先生のところ、とはどこなのか、心を読む、とは何なのか、未亜にはさっぱり分からなかったが、何だか達也と美月の夫婦のようなやり取りがイチャイチャしているような気がして、この場にいるのがツラかった。

もう、何なら、耳を塞いで欲しい。

 

 

「では未亜、これから君を学校から連れ出すが、下手な真似はしないでくれるとありがたい。――俺も人の肉を裂くのはあまり好きじゃないんだ」

 

 

 

やっぱり耳を塞いでください!っと、未亜は心から懇願した。

 

 

代わりに口を塞がれた。

ガムテープで。

 




――そのころの真由美さん――


(゚Д゚;)真由美「あああああ!!どうしよう!みーちゃんに嫌われちゃってたらどうしよう!」

(゜-゜)摩利「はぁ、もう散々話したろ。美月がそう簡単にお前を嫌うわけがないだろう」

(。 >﹏<。)真由美「でも落ち込んでたわよ!?ああ、そういえば最近、メールをする回数も減っている気がするし!私、もう既に嫌われてるの!?そうなの!?」

(゜-゜)摩利「入学直後で色々あるんだ、メールの回数だって減るさ」

((( ;゚Д゚)))真由美「だって、前は、1日に何十件もメールのやりとりをしていたのよ!?それが今では……」

(-。-;)摩利「君らは恋人か何かなのか……もう面倒だな……よし、あいつに押し付けるか」


数分後。


(* ̄▽ ̄)ノ 摩利「というわけで、後は任せた。あたしは帰る」

Σ( ̄ロ ̄lll)服部「は?何がというわけなんですか!?というかなんで会長は泣いているですか!?ちょっと!?」


急に呼び出され、面倒なのを押し付けられるも、何だかんだで、親身に話を聞いてあげる服部であった。





USNA編、本格始動。

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