美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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今話、砂糖注意です。



第五十八話 二人の約束

空間の光分布に作用する収束系の系統魔法である 流星群(ミーティア・ライン)は、光の分布を偏らせることで光が100%透過するラインを作り出し、有機・無機や硬度、可塑性、弾力性、耐熱性を問わず対象物に光が通り抜けられる穴を穿つ、あらゆる物理・魔法防御が困難な、超攻撃力の魔法。

 

発動してしまった以上、対抗するには、使い手が殆ど居ないと云われている無系統魔法の超高等対抗魔法、術式解体(グラム・デモリッション)のように魔法式を無意味にするか、領域干渉によって「光の分布」という単一要素に対する干渉力で術者を上回る必要があるのだが、その弱点とも言えない弱点すら、今、この場においては存在しない。

 

アンジー・シリウスには、その二つの手段は使えないからだ。

さらに、この場には達也がいる。

 

術式解体(グラム・デモリッション)どころが、術式解散(グラム・ディスパージョン) を難なく使いこなす、魔法無効化を得意とする達也が。

 

つまり、アンジー・シリウスは魔法を使わず、真夜の 流星群(ミーティア・ライン)を防がなくてはならない。

 

当然、いくらUSNA最強の魔法師と言えど――

 

 

 

「いやー、四葉お抱えの魔法師は優秀だね。僕の出番なんて全く無かったよ」

 

「先生の仕事は、ここにアンジー・シリウスを一人で突入させた時点で達成されていますから出番というならそれで十分では?」

 

「まあ、僕は忍びだしね。裏方に徹しているというのは、良いことなのかな」

 

 

 

――簡単に拘束されるしかない。

 

そもそも、この部屋に一人で突入してしまった時点で、全ては達也たちの掌の上だったのである。

アンジー・シリウスは当初、チームで行動していた。いくら高校生相手とはいえ、未亜を誘拐している以上、ただの高校生とはUSNAも考えていない。

油断なく、万全の体制で任務は開始された。

 

しかし、万全の体制であったのは、USNAだけではない。

アンジー・シリウスを含むスターズが入国しているという情報を、どこからか(・・・・・)入手した真夜は、午前中の内から達也に指示を出し、体制を整えていた。

 

 

「でもまさか、美月君のために、四葉家の当主である貴女が直接来るとは思いませんでしたよ」

 

「達也さんと婚約している以上、既に美月さんは四葉の人間ですから、守るのは当然ですわ」

 

 

アンジー・シリウス率いる部隊は、このホテルに辿り着くまでに、何度か交戦し、ホテルの直前でも足止めされ、結果、隙を見てアンジー・シリウスが単独で突入することになったのだが、それこそが巧妙に仕組まれた罠だったのである。

 

 

「確実に無傷で捕らえるには、私が一番適任ではありますしね」

 

「貴女相手に単独、それも達也君がいては万に一つも負けはないでしょうね、考えうる限り最強と言っていい。あ、そういえば、美月君は?」

 

「未亜の心を読んで情報を入手した後は、そっちの部屋で寝てますよ。急に(・・)眠くなったんだそうです」

 

 

未亜を椅子に拘束した後、すぐに尋問をせずに放置したのは、迫り来る尋問に情報を整理している未亜の心を読み、情報を抜き取るためだった。

トリシューラの情報は、こうして手に入れたのである。

尋問が始まった時点で、未亜の持っている情報は全て筒抜けだったのだから、すぐに尋問が終わるのは当たり前であった。

 

 

「俺や叔母上が、万が一にも負傷した場合、『再成』があったとしても、その場面を見られれば、暴走するかもしれませんから」

 

 

そして、その後、美月が急に眠くなったのは、達也が睡眠薬を飲ませたからである。

もし、アンジー・シリウスが一人で突入して来なかった場合、アンジー・シリウス以外は処分(・・)することになるだろうし、もし交戦して、負傷したところを見られれば美月が暴走してしまうかもしれない。

どちらにせよ、見せるわけにはいかず、かといって美月の行動を完全にコントロールすることは難しいと考えた達也が、安全策として眠らせたのだ。

 

 

「あら、私もなのかしら?」

 

「美月は叔母上の事を慕っていますよ。九校戦を一緒に観戦した、と何度も自慢されました」

 

「そ、そう?」

 

 

あまり、そういう類いの純粋な好意を向けられたことがないのか、真夜は照れながらも、嬉しそうであり、達也としては意外感と共に、誰にでも好かれる傾向にある美月に感心した。

 

 

「では、俺は予定通りここで。後の処理はお任せします」

 

「そうですね。流石にアンジー・シリウスを捕らえたとあっては隠蔽も出来ませんし、達也さんは初めからここにいなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・)、ということにしないといけませんから」

 

 

USNAが本格的に動きだし、交戦した以上、事は既に国家間の問題にまで発展しようとしている。

四葉家といえど事態の真相を丸々隠蔽するのは不可能だ。

が、今回の騒動そのものを無くすことは出来ないにしても、部分的に隠すくらいは難しくない。

 

達也と四葉の関係は勿論、まだセレネ・ゴールドの正体も明かす気はない真夜は、これからそういった隠蔽のため、情報操作などの工作を行った後、日本魔法協会の関東支部のある、横浜ベイヒルズタワーに向かう予定であった。

セレネ・ゴールドが襲われアンジー・シリウスを捕らえたことを、魔法協会へ報告しなくてはならないからだ。

 

 

「恐らく、緊急で師族会議が開かれることになると思いますから、そこで計画通り(・・・・)に話が進むよう操作はしてみますが、もしダメならまた選定(・・)はやり直します。達也さんも候補から選んでおいて下さいね」

 

「ええ、リストには目を通しておきます」

 

 

こうして、真夜の元を後にした達也は、眠ったままの美月と共に、四葉の車で自宅に帰宅したのだった。

 

 

 

 

 

 

「いつまで膨れてるんだ」

 

「……達也が謝るまで」

 

「すまなかった」

 

「駄目、心がこもってない」

 

 

司波家の客室にて、ベッドに座って枕を抱いた美月は、頬を膨らませて、達也と目も合わせず、つんとそっぽを向いていた。

アンジー・シリウスを確保したとはいえ、まだUSNAと日本の間で、何の取り決めもされていない今、追撃がないとも限らない。

だからこうして安全のために、美月は今晩、司波家に泊まっていくことになったのであるが、もうすぐ日付が変わるというこの時間まで二人が話しているのは、それとは全く関係がないことであった。

 

 

「ぼくに情報を取らせるだけ取らせて、用が無くなったら眠らせるとか……。

今回ばかりはぼくも本気で怒っているからね!もう達也が謝るまで口聞かないから!」

 

「こうして謝っているだろ」

 

「ぼくの耳は今達也の言葉を全カット中ですー、何も聞こえませんー」

 

 

ベッドに寝転がると布団を頭から被って、達也の言葉を完全にシャットアウトする美月。

そんな美月に、これはもう今日は駄目だ、と感じた達也は、腰かけていた椅子から立ち上がり、部屋から出ようとドアノブに手をかけた。

その時。

 

 

 

「……本当はね、分かってるよ。達也がぼくのためにしたって。……でも、それを許すか、許さないかは、別。ぼくを除け者にした代償は大きいからね……」

 

 

 

小さな声だった。

達也には、こんな美月の声は聞いたことがない。小さなはずの声なのに、どうしてか、良く響いて、どうしてか――胸が締め付けられるような違和感を感じる。

 

 

 

「……じゃあ、どうしたら許してくれるんだ?」

 

 

 

達也は、美月の信頼を利用して、睡眠薬を飲ませて眠らせた、だからこうも怒っているのは仕方のないことだ、と自分の非を完全に認めていた。

だから謝っているし、本当に悪いことをしたと思っているのだ。

 

 

――でもそれで、美月が許してくれるはずもなかった。

なぜなら達也は、美月が怒っている理由を、何一つ理解できていないのだから。

 

 

美月は、自分のために、達也が傷ついてしまうことが、嫌だったのだ。

だから、今回は(・・・)役に立てると、足手まといにならずに済むと思っていた。

魔法を学んだ。体術を学んだ。あの時(・・・)の自分とは違うのだから。

 

しかし結果は、眠っている間に全ては終わっていた。

良く考えれば、分かったことだった。

美月は戦いというものを知らない。そんな素人を、達也が戦わせるなんてするわけがなかったのだ。

 

結局、何も出来なかった自分。何もさせてくれなかった達也。

 

理不尽だと、自分本意だと、そんなことは分かっている。

 

拗ねて、駄々をこねて、達也を困らせているだけなんだと。

 

それでも、許せないことはある。許しちゃいけないことはある。

 

誰かが教えてあげなくちゃいけない。伝えねばならない。

 

 

――達也が傷つくと、他の誰か(ぼくや深雪)も痛いんだ。治るとか治らないじゃなくて、その事実が痛いんだ。

 

 

このままの達也では、いつか消えてしまいそうな気がした。

手の届かないどこかへ、行ってしまいそうな気がした。

 

 

 

「……ぼくの言うことなんでも一つ、叶えてくれるなら許してあげる」

 

「なんでもって、なんだ?」

 

「……まだ考え中。思い付いたら言う」

 

 

 

 

――どこにも行かないで。

 

 

口から出てしまいそうになった言葉は、何とか胸の内に留めた。

なんでそんなことを言おうと思ったのか、一瞬後には全くの謎となったのだが、一瞬とはいえ、そんなことを思ってしまったのは確かで、どうもそれが凄く恥ずかしいことのような気がして。

 

顔が赤くなる。布団を被っていて良かったと心の底から思った。

こんな顔を見られては、もうしばらく、顔を合わせることも出来なかったかもしれない。

 

 

 

「はあ、分かった。それで良い」

 

 

 

達也が了承するのと同時に、のそのそと、布団から顔を半分ほど出した美月は、まだ少しむくれているようであったが、こうして布団から顔を出したということは、達也シャットアウトは終了した、ということなのだろう。

美月にとっては幸いなことに、まだ少し赤い頬は達也からは、布団に隠れて見えることはない。

 

 

「約束だかんね」

 

「ああ、約束だ」

 

 

達也が返事をすると、美月はどこか安心したように、小さな寝息を立てて眠り始めた。

達也はゆっくりと近づいて、顔を半分まで隠してしまっている布団をかけ直してやると、優しく髪を撫でる。

 

柔らかい黒髪は、深雪のものとはまた感触が違って、でも、手からサラサラと溢れ落ちていくのは同じで。

 

 

そして、深雪の時にはない、心揺さぶられるような、温かい『何か』は美月と一緒にいるとき、幾度か感じたことのあるもので。

 

 

 

それが『愛しい』という『感情』なのだと、この日、達也が気がつくことは、最後までなかった。

 




(。_。)深雪「ついに自宅のシーンですら登場できなくなりましたか……」


(´-ε -`)ブーブー 深雪「なんでもUSNAからまた美少女が来たとか」


(_ _|||)深雪「こうなっては、もう私っていらない娘ですよね……」


(つд;*)深雪「……寂しい」


やさぐれ始めていた深雪さんであった。




これから砂糖多めで本格的にラブコメを始めていこうと思います!

ではまだ次話で!

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