美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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番外編は時系列がバラバラになってしまっているので、こんなこともあったんだな、程度に考えてもらえればと思います。


番外編 剣道系美少女降臨

私が桐原君と試合をしてからもう一週間と少しが経った。

 

「紗耶香、最近そうやって意識飛ばしてるけど、何か悩み事?」

 

「へ?あ、ううん、悩み事……というのとはちょっと違う、かな?」

 

 

ここ最近、何だか自分が自分じゃないみたいだった。劣等感に押し潰されそうになって、ただがむしゃらに剣を振るっていた。

強くなれば、劣等感なんて無くなると思っていた。二科生でもこれだけやれるって見せてやりたかった。

 

でも、それってきっと私が勝手に劣等感を抱いているだけだったんだって気がついた。

環境が私を虐げていたのではなく、結局、自分で自分を貶めて、悲劇のヒロインを気取っていただけ。

確かに、一科生と二科生の間には格差があって、時には虐げられることも、差別されることもある。でもそこで、私は二科生だから、と二科生であることを言い訳にして逃げていたのは私自身の弱さだ。

実力が足りなかったから二科生なのであって、自身の劣等感を二科生であることのせいにするのは、間違っていた。

 

たったそれだけのことに気がつけば、なんだか視界が大きく開けた様な気がした。

今まで見えなかったものが見えるようになって、越えられなかったものが越えられるようになった。

 

 

そうすると不思議と思い出すのは、あの日の出来事。

 

 

高周波ブレードによって真剣へと変わった桐原君の竹刀がもうそこまで迫っていて、ああやっぱり、とどこかで私は諦めていて、なのに、怖かった。

直前に、桐原君の竹刀を胴に掠めてしまっていたこともあって、斬られる、という恐怖がその一瞬、大きく膨れ上がっていたのだ。

 

そんな恐怖の中、彼女は現れた。

桐原君の竹刀を指一本で止めて、そのまま桐原君の腹部に掌底を放ち、意識を奪った。

振動系の魔法で、高周波ブレードを相殺していたとはいえ、相手は桐原君だ。

桐原君の本気の一撃を、ただの竹刀だったとしても指一本で止めるだなんて不可能だ。

なのに彼女はそれを、命の危険がある高周波ブレード相手に意図も簡単にやってのけた。

 

あの時、体育館にいたのは、武道経験者や、少なからず武道に興味がある者が殆ど。

彼女のやったことの異常性に誰もが唖然とし、会場は静まり返った。

 

 

『……何か文句がある奴は出てくると良いよ。――今ここでこいつみたいになる覚悟があるならね』

 

 

桐原君がやられたことで、頭に血が上っていたのだろう、彼女に向かって飛び出そうとしてた剣術部の部員達が、まるでその場に縫い付けられたかのように動けなくなっていて、中には腰を抜かしている奴だっていた。

 

 

『大丈夫でした?怪我とかないですか?』

 

 

そんな圧倒的存在感を見せた彼女は、気絶した桐原君を、もう一人の風紀委員に任せると、人懐っこい笑みを浮かべて私に言った。

 

この時、私は死の恐怖から解放された安心感で気が緩んでいたんだと思う。

彼女の言葉に、細い糸のように、ギリギリの所で私を支えていたものが切れてしまったのだろう。

情けないことに、私はその場で腰を抜かして立てなくなってしまったのである。

そんな私に、彼女は微笑みかけると、保健室まで運びますね、と私を優しく抱き上げた。お姫様抱っこで。

 

今思い出しても顔が赤くなる。叫びたい。とりあえず何か叫びたい。壬生紗耶香、一生の恥だ。

私は恥ずかしくて恥ずかしくて、つい両手で顔を覆ってしまったのだけど、これが更なる羞恥への過ちだった。

 

 

『試合の時の先輩は格好よかったけど……今は凄く可愛い。耳、真っ赤なの丸見えですよ』

 

耳元で、囁くように言ってくる彼女。

君は私をどうしたいの!?そんな心の叫びはもう余裕のない私の口から出てくることはなく、借りてきた猫のように、彼女によって保健室まで運ばれるしかなかった。

 

 

「紗耶香、顔赤いよ?大丈夫?」

 

「へ!?あ、う、うん!全然平気よ」

 

「もう、本当に大丈夫なの?今日は部活休みなんだからゆっくり休みなさいよ」

 

 

友人との会話の途中であったことも忘れて、回想に耽っていたらしく、心配をかけてしまった。頬に触れてみると、未だ熱を帯びていて、たぶん私の顔はまだ赤いのだろう。

 

 

「一人で帰れる?駄目そうなら送っていくわよ?」

 

「ありがとう。でも大丈夫よ、私のことは心配せずに早く部活行きなさい」

 

 

女の子らしくない、と言われることもあったし、自分でも時折そう思うことはある。

花の女子高生、としては、ちょっとズレているな、と。

 

でも私だって、多少はおしゃれにも興味があるし、それなりに女子高生している……と思う。

 

 

「それじゃあ、私行くけど……」

 

「本当に大丈夫、ほら急がないと遅刻するわよ?」

 

 

私を心配しつつ、教室を出ていく友人を、小さく手を振って見送ると、私は一人、教室に残って考える。

 

そりゃ、助けてくれた時は格好良かったし、優しく抱き上げて、耳元で囁かれた時には……ドキドキもした。

 

でも、けど、だとしても、それ(・・)そう(・・)である、と決めつけるにはまだ早い。

いくら私が女子っぽくなくても、花の女子高生としては落第でも、そんなことはないはずなのだ。

 

 

「そうよ、だから今から会いに行くのも、あの日のお礼を言うため。ドキドキしているのは緊張しているから。はい解決!この話はおしまい!」

 

 

私は無理矢理思考を打ち切ると、誰もいない教室を早足で飛び出した。

 

 

 

 

「美月は今謹慎中なんだ」

 

「謹慎!?もしかして私のせいですか!?」

 

「……あー、いや、そうと言えないこともないんだが、簡単に言うとお姉さん気取りの過保護だな」

 

 

苦笑いのような微妙な顔をしている渡辺先輩が指差す方を見てみると、何やら紙の束を持った生徒会長が、階段から降りてきたところだった。

 

 

「ちょっと摩利!後輩に変なこと吹き込まないでくれる?」

 

 

ぷくっと頬を膨らませた姿は愛らしくて、先輩なのだけど、少し背伸びした少女のようにも見える。

相変わらず可愛い人だ。

 

 

「元々みーちゃんが風紀委員になるの、私は反対だったのよ。それなのに、摩利が負けちゃうから」

 

「うっ、あれは事故みたいなものだ!次は負けん」

 

 

喧嘩する程仲が良い、とはこの人達のことだろう。しょっちゅうからかったり、からかわれたりしているけど、それが彼女達にとってはコミュニケーションで、とても楽しそうにみえる。

 

 

「そういえば壬生、美月なら自分の教室にいると思うぞ」

 

「そうね、達也くんと深雪さんを待ってるんじゃないかしら?」

 

 

二人から聞いた話によると、彼女、柴田美月さんは、上級生の間でも既に何かと話題になっている兄妹と、同じ中学校の出身らしく、一緒に帰るのが日課になっているらしい。

仲が良いんですね、と言うと何故か苦笑いを返されたが。

 

 

「あら、会長。凄い紙の束ですね」

 

 

不思議そうな顔をしながら風紀委員会本部に入ってきたのは、金髪の女子生徒だった。

一高には、クォーターやハーフの生徒は珍しくないけど、ここまで綺麗な金髪となると他にいないだろう。一色愛梨、彼女もまた、今年の一年生の中で特に注目されている一人だ。

 

 

「そうなのよ、九校戦の書類なんだけどもう今年は大変!今から準備しても間に合わないくらいだわ」

 

「生徒会だけでは手が回りきらなくて、あたしも手伝わされているくらいだからな。ああ、そうだ一色。美月はまだ教室にいたか?」

 

「美月なら、エリカと一緒に帰ると言ってましたね。随分渋られていましたが、結局エリカが折れるでしょうから、今頃もう帰っているじゃないでしょうか」

 

 

どうやらこの一色さん、柴田さんと同じクラスで仲が良いらしい。柴田さんが風紀委員になったのもそれが関係しているらしいし。

 

 

「へぇ、美月はエリカと帰ったのですか……私のところには何の連絡もありませんでしたが」

 

「ちょ、ちょっと深雪さん!?部屋の室温が急激に下がっているわよ!?」

 

 

その美貌は、男女問わずにあっさりと魅了し、その実力は、三巨頭に並ぶほど。

今年の一年生で、もっとも注目されている彼女、司波深雪さんが、それはそれは美しい笑みを浮かべながらやってきた。

び、美人の笑顔が怖いっていうのは本当ね、寒気さえ感じるわ。

 

 

「落ち着け深雪、美月ならさっきカフェテリアで千代田先輩達と話しているのを見た……まあエリカも一緒だったが」

 

 

その深雪さんを呆れたように見つめながら入ってきたのは、彼女の兄である司波達也君。

二科生でありながら、風紀委員に抜擢された二科生の星で、入試時のペーパーテストでとんでもない点数を叩き出した、という噂もある。本当にこの兄妹は、とんでもないわよね。

 

 

「花音とか?あの二人はまだ一度しか会ったことがなかったと思ったんだが」

 

「五十里先輩もいましたが」

 

「いや、五十里とも特に接点は無かったと思うが……真由美、何か知っているか?」

 

「んー、はんぞー君経由で知り合ったとか?ほら、みーちゃん、はんぞー君と仲良いでしょ」

 

「仲が良いのか?あれは一方的に美月が迷惑をかけているだけの様な気がするが」

 

 

はんぞーくん、というのは服部君のことなのだろう。私達の学年ではたぶん最強の使い手である彼は、二科生を軽視するような発言が目立っていたけど最近は無くなった。人を貶めるより自己の向上に努めるべき、でないと簡単に追い抜かれる、と言っていたらしいということは、部活の友達から聞いていたから、たぶん、何か心境の変化があったのだろう。

 

 

「壬生、どういうわけかは知らないが、美月はカフェテリアにいるらしい。行ってみたらどうだ?」

 

「はい、ありがとうございます。あ、司波君も先週はありがとう、柴田さんと一緒にいたの、司波君だよね?」

 

「いえ、確かに自分はあの場にいましたが、やったのは美月ですから」

 

 

なんだか無表情で、ちょっと怖そうって思っていたけど、話してみると司波君も案外普通の男の子だった。ただ、司波さんから物凄い視線が飛んでくるから、あまり話していない方が良さそうだ。

 

 

私は、もう一度皆にお礼を言ってから、カフェテリアへと向かった。

それにしても、司波さんと一色さんって仲悪いのかしら?なんだか火花を散らしていたような気がしたのだけど。

 




――その後の深雪さん達――


(´・ω・`) 達也「美月が久しぶりに深雪の手料理が食べたいと言っていたぞ」

(//・ω・//) 深雪「そ、そうですか、仕方ないですね」

(。・ω・。) 達也「じゃあ美月に連絡しておくから、俺も楽しみにしているよ」

(*ゝ`ω・) 深雪「はい!腕によりをかけて作らせていただきますね!」


数分後。


(´д`|||) 達也「……」

(*゚∀゚) 深雪「あ、美月から連絡ですか?今日は以前に美月が美味しいと言っていたものを作ろうと思っているのですが――」

(ー_ー;) 達也「……『愛梨と約束があるから今日は無理!』だそうだ」

(゜-゜) 深雪「」



(・∀・)ニヤニヤ 愛梨「……ふっ」


次の日、美月が深雪に冷たくされることとなった。



°°・p(≧□≦)q・°° 美月「完全に理不尽だよ!」




深雪のご機嫌を取ろうとしてやらかした達也さん(笑)

感想返しが間に合わないかも知れませんが、ちゃんと読んでますのでどしどし下さい!

ではまた次話で!

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