美月転生。~お兄様からは逃げられない~ 作:カボチャ自動販売機
短編とか出して、リハビリしたのですが、今話はちょっと短めです。
間話1 メイドの一日
「リーナ、朝だよ」
「んみゅ……ミヅキ、おはよう……」
「うん、おはよう」
眠い目を擦りながら、少々舌足らずな発音の怪しい口調のリーナに、美月は微笑みながら頭を撫でた。
この家に来てから、リーナの朝は、美月の声から始まる。
軍人だった頃は、寝る時間は遅い上、休みの日でも訓練のために、早朝から、けたたましい目覚まし時計の音で目覚めることが殆どだったリーナとしては、人の声で優しく起こされる、この朝がすっかりお気に入りだった。
「ゆっくりで良いから、着替えたら下に来てね」
「はーい」
まだ眠そうなリーナに、そう言い残して美月が部屋を出る。リーナはぼーっとしばらく停止した後、やっとベッドから出ると着替え始めた。
リーナがこの家に来た当初こそメイド服だったものの、今では特別な理由(主に水波が来るとき)がない限りは、着ることもない。
着替えを終えたリーナが部屋を出ると、美味しそうな朝食の匂いが、食欲を刺激した。
「今日は洋風にしてみました」
テーブルに並んだ料理は、ホテルの朝食のようだった。ふわふわのオムレツに、カリカリのベーコンと添えられたミニトマト。温かいオニオンスープに、透明なボウルに盛られたサラダ。その、サラダのために用意されたドレッシングは美月のオリジナルだ。主食のパンはこんがりと焼けているクロワッサン。今日のクロワッサンは既製品をオーブンで焼いたものだが、時間さえあれば手作りでパンを作れる、というのだから驚きである。美月の女子力は、料理に全振りなのだ。
「んん!今日も美味しいわ」
「ありがとう、デザートにリンゴがあるから、食べ終わったら切るね」
美月は殆ど使用することはないが(美月の幼少期には大いに役立っていた)パンを焼いたり、コーヒーを淹れたりできるだけでなく、簡単な料理まで行うことができるロボットがこの家には備え付けてあり、当然、果物を切るくらいのことも可能なのだが、美月は態々自身の手で果物を切った。器用なもので、危なげなくスルスルとリンゴの皮を剥くと、食べやすいように何等分かに切り分ける。慣れているのか、数分でテーブルにはリンゴが並んだ。
「リーナ、ぼくは制服に着替えてくるよ」
朝食が終わると、美月は学校へ行くための準備をする。簡単な料理をこなせるロボットがあるように、食器の洗浄もロボットがこなす。料理は趣味として、自身の手で作る美月ではあるが、食器の洗浄という手間はロボットに任せる。美月の性格上、面倒なことを好き好んでやる様なことはしないのだ。
「今日は風紀委員の仕事もないし、いつもより早く帰ってくるから……あ、何か夕飯のリクエストはある?学校の帰りに買い物してこうと思うんだけど」
「ミヅキの料理は全部美味しいからミヅキに任せるわ」
一高に通い始めて数週間、達也が何日もかけて考え出した美月の通学路ならば、学校から迷わずに帰れるようになっていた。風紀委員を謹慎になっていた間、何度も地図を片手に往復した結果である。
その、達也考案の通学路にはスーパーがあり、そこにならば寄り道をしても、家まで迷わず帰ることが出来るのである。
「じゃあリーナ、お留守番よろしくね」
「ええ、ミヅキ。いってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
こうして、美月は学校へ向かい、ここからはリーナ一人の時間である。
「んー、今日はどうしようかしら」
そんなことを呟きながら、テレビのチャンネルを変えた――その時だった。
「どうしようかしら、は私のセリフですよ」
底冷えするような、冷たい声。背後から聞こえてきたそれは、リーナには聞き覚えのあるもので。
刻み付けられた恐怖心からなのか、さーっと血の気が引いていくのが分かる。
それもそのはず。
なんせ、リーナの背後にいるのは――
「再教育が必要のようですね、リーナさん」
――満面の笑顔なのに、目が全く笑っていない、桜井水波なのだから。
◆
「朝からの様子を観察させてもらいましたが、控えめに言って0点です」
床に正座させられたリーナに、水波は冷たく言い捨てた。
「美月様に起こしてもらった上に、朝食まで作ってもらうなんて、羨ま……んっ、なんて体たらくですか!」
「今、羨ましいって」
「言ってませんが?」
「……はい」
ギッと睨まれ、顔真っ赤じゃない、と小さく文句を言いはするものの、完全に立場が出来上がってしまっているのか、素直に返事するリーナ。こうして事件は握り潰されるのである。
「貴女はガーディアンとして美月様をお守りするのが職務ですが、私が正式に美月様のガーディアンとなるまではメイドとしての職務も全うしてもらわなくては」
「そうは言うけど、美月がやらせてくれないわよ?料理は趣味だからって」
「洗濯、掃除も美月様がやっている様ですが」
クリップボードに挟まれた紙の束と、情報端末を見ながら水波が言う。
「うっ、前にワタシが一回やったら、次からぼくがやるからいいよ、って」
「……一応聞きますが、何をしたんですか」
「洗濯機壊して、服が縮んで、掃除機と玄関が壊れたわ」
「玄関とは!?え、掃除・洗濯という行程の中で、どうやって玄関を破壊したのですか!?いえ、よくよく考えたら洗濯機もそうそう壊れるものではないですよね!?」
恐る恐る訊ねた水波に返ってきた奇天烈な破壊の数々につい声が大きくなったが、それほど意味不明な現象なのだから仕方がない。
現代の洗濯など、本当にスイッチ一つで洗浄から服を畳むのまでやってくれるのだから失敗のしようがないのである。掃除に関しても、掃除機での掃除は、ロボットが主流の現代にしては珍しいものの、十分簡単に操作出来るはずのものだ。が、これは序の口で玄関の破壊というのは、どうやっても掃除・洗濯と結び付かない。
もはや恐怖である。
「水波、ワタシも驚いたわ」
「もう寝てたら良いんじゃないですか、永遠に!」
頭が痛い、と頭を押さえる水波に罰の悪そうなリーナ。どうやら自分が悪い、ということは理解しているらしい。中学生に正座させられて説教されているのだから当然である。
「早く水波が来ればいいのよ」
「私だって行きたいんです!ですが、そう簡単には研修が終わらないんですよ!」
「魔法ならワタシが教えてあげるわよ?」
「あ、黙っててくれたらそれで良いので」
「無関心だけは止めて!?」
涙目のリーナを前に楽しそうな水波。リーナにとっては不本意なことに、この二人、相性が良い。能力的にも二人が組めば、ガーディアンとして十分以上の力を発揮できるだろう。
「と、茶番は終わりにして真面目な話なのですが」
「ワタシで遊ばないでくれるかしら!?」
今日、水波がここに来たのは、リーナの仕事ぶりをチェックするとか、訓練でストレスが溜まったからリーナで発散しに来た、とかではない。
四葉真夜から、リーナへの伝言を伝えるためにやってきたのだ。
「リーナさん、貴女には交換留学生として一高の生徒になってもらいます」
「えっ?」
リーナ、ニート生活の終わりである。
――その後の美月さん――
(´・c_・`) 美月「水波ちゃんから連絡来て、リーナ預かるから達也家泊まってだって」
( ゚Д゚)達也「それを連絡してから訪問してくれないか。何故、玄関で言う?」
( ゜ρ゜ ) 美月「そんなことより、ぼくがここまで一人で来たことの方が驚きじゃない?」
(゜ー゜)達也「そういえば、そうだな」
d(*゚∀゚*)bイエーイ 美月「ま、二時間掛ければ、ぼくでも辿り着けるよ!」
Σ(゚д゚;) 達也「何故、ドヤ顔なんだ!?」
◆
そこそこ書き貯めしてはいるのですが、九校戦まで後何話かお話を入れます。
九校戦についても、ガンガン原作ブレイクのオリジナル展開になると思いますが、今後もよろしくお願いします!