美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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第六話 暴走

「誰か美月を止めろぉぉおおおお!!」

 

「なんか今日のコイツヤベーぞ!」

 

 

その少女は風のようにフィールドを駆ける。高等技術のフェイントを惜しげもなく使用した無茶苦茶なドリブル突破、誰もそれを妨げることは出来ず、少女は四人の選手をそのまま抜き去り、ゴールキーパーまでをも抜いてシュート、ボールは矢の如くゴールのネットに突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

「あーイライラする!」

 

「……それで朝からサッカー部をいじめてたのか、同情するよ」

 

 

昼休み、ぼくは胸のイライラをどうすることも出来ず親友から呆れ顔で朝のことを弄られていた。

何日か前、司波兄妹とお食事に行ったわけだけど……何なのあの二人!くっつき過ぎでしょ!当たり前のように隣同士になるし!何さ何さイチャイチャしちゃって!

 

 

「お前、最近変だよな。ぼーっとしてることが多くなったと思ったら今度は暴れだして」

 

「ぼくもそう思う。なんだか自分が自分じゃないみたいって言うか…感情のコントロールが上手く出来ないって言うか」

 

「やっぱり病院行った方が良いんじゃないか?」

 

「体は至って健康なんだけどなー」

 

 

取り敢えず、今日も達也たちに会いに行ってみよう。

ぼくには二人の距離を適度なものにするという重要な任務があるからね!

 

 

「程々にしろよ、何かストーカーみたいだ」

 

「最近親友がぼくに冷たい件について」

 

「……お前が付き合い悪いからだろ」

 

 

少し頬を赤く染めて、そっぽを向きながら小さく呟いた親友はこうギャップ萌え?っていうのかツンデレというのか、とにかくいつも以上に可愛らしく。

 

 

「なんだよー可愛いやつめーこの、このー」

 

「うわ、ばっ止めろ!」

 

 

 

その後、ぼくは親友がぶちギレて拳骨を食らわしてくるまで愛で続けた。

ぼくの親友は最高に可愛いです。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ美月、貴女もしかして最近、突然胸が苦しくなったり、締め付けられるような感覚に陥ったことはないかしら」

 

「え!なんで分かったの!?深雪さんエスパー?」

 

 

「それはあれだけ露骨な態度をとっていれば分かるわよ…。むしろ気がつかない貴女やお兄様が稀よ」

 

 

やれやれ、といった具合の深雪さん。

放課後、任務を遂行するため司波兄妹と帰ろうと突撃すると深雪さんにこうして校舎の隅に引っ張られてきた。深雪さんが達也を待たせてまで話したいことってなんだろうと不思議に思っていたんだけど、まさか深雪さんがエスパーだったとは。魔法少女なだけじゃなく超能力まで使えるとは流石美少女は侮れない。

 

 

「それで……ぼくは何の病気なんだい?」

 

 

ぼくが真剣に訊ねているというのに、何故かため息を吐く深雪さんにぼくついムスッとした顔をしてしまう。

 

 

「そう拗ねないの、仕方ないでしょ、貴女があんまり鈍感だから」

 

 

「鈍感?」

 

 

 

自分で言うのも何だけどぼくは結構鋭い。

フィールド上では些細な動作や仕草から相手の動きを予測して動けるし、小さなチャンスも見逃さない。まあ、それでも達也には負けてしまったわけだけど。……それはちょっとだけ……か、格好よかったかな。

 

 

 

「……もう良いかしら?」

 

「えっ?あ、ああ!ごめんごめん!」

 

 

また、胸が苦しくなってきて、顔が赤くなる。ぼーっとしていたからか深雪さんも怪訝そうな顔というよりも呆れ顔でぼくに声をかけた。

 

 

「……そんな反応をするくらいならすぐに気がつきそうなものだけど……良い?貴女は恋をしているのよ」

 

「こい……?」

 

 

 

こい、濃い、故意、乞い、鯉……恋……恋!?

 

 

 

「良く考えてみなさい、今貴女の頭はその恋の相手のことでいっぱいなんじゃない?ふとした時にはその人のことを考えていて、少しでも一緒にいたくなる……そんな相手がいるんじゃないの?」

 

 

いる。

確かにぼくには、その人のことで頭がいっぱいになって、ふとした時に考えていて、少しでも一緒にいたくなる……そんな人が。

 

 

「やっと気がついたみたいね」

 

 

みるみる顔が赤くなっているであろうぼくを見て、深雪さんは微笑む。

 

そう、ぼくは気がついてしまった。

 

自分の恋心ってものに。

気がついてしまったら、もうこの溢れでる気持ちを抑えられはしない。

急速に早くなる心音、体温は上昇の一途を辿っているだろう。

 

これは確かに病気だ、ロマンチックに言うならば恋の病。

 

もしかしたら、いや、殆ど間違いなくこの恋は叶わない。ぼくはその人のことを沢山見てきたし、考えてきたし、感じてた。ぼくがこの恋に気がつかなかったのは、きっと、叶わない恋という現実から目を背けたかったからなんだろう。傷つきたくなかったからなんだろう。

 

 

それでもこの想いはもう止められない。止めたくない。

 

 

だからぼくは目一杯の笑顔で、ついに、想いを口にした。

 

 

 

「ぼくは司波深雪さんが大好きです」

 

 

 

想いを告げられて、清々しい気持ちでいっぱいのぼくとは対照的に何故か深雪さんは頭を抱えてしゃがみこんでしまった。

 

 

 




とりあえず溜まっていた分はここまでですが、第一部終了まではこちらを優先で更新していきたいと思います。

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