美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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この話が終わったらいよいよ九校戦というわけで、この辺でやっときたいイベントを回収。


間話4 偶然の出会いは修羅の道①

ぼくは今、フォア・リーブス・テクノロジー本社の待合席に座って、達也を待っている。

 

しばらく休業が決定したセレネ・ゴールドだったけど、一度承けてしまった依頼はやりきるしかない。そんなわけで今日は、そんな依頼を片付けてしまおうと、ここまでやってきた。しかし、ぼくは忘れていた。セレネ・ゴールドの正体は不明であり、ここの従業員達はこの会社にセレネ・ゴールドが紛れ込んでいることなんか知るよしもない。

 

つまり、一人では受け付けすら通ることが出来ないのである。今までは達也と一緒にしか来たことがなかったから完全に失念していた。本当はぼくの社員証もあるのだけど、そんなもの部屋のどこかに埋まっている。

水波ちゃんに送ってもらって(連行されて、とも言う)ここまで来たは良いけど、とんだ立ち往生である。

 

仕方ないから達也に連絡してみると、達也もフォア・リーブス・テクノロジーに用があったみたいで来てくれるは来てくれるのだけど、何やらたて込んでいるらしく、来れるのは二時間後くらいになる様なのだ。一人では帰ることさえできないぼくは、ここで待ち続けるしかないのだ。

まあ、リーナを呼んで迎えに来てもらうという手もあるのだけど、一回家に帰ったら、ぼくはもう確実に仕事をしないだろう、という確信があるから、やっぱりここで達也を待つのが最善なのである。

 

とはいえ、二時間ずっと待合席で座っている、なんてことは、落ち着きないことで有名なぼくには不可能。そもそも、ぼくみたいな女子高校生がここにいる時点で若干場違い感があって居づらいのだ。

15分程座っていたものの、ぼくは我慢できずに会社の外へと出た。

フォア・リーブス・テクノロジー本社の近くに、全国チェーンの飲食店があることを思い出したからだ。

 

その店からはフォア・リーブス・テクノロジー本社が見えるため、いくらぼくでも、会社に戻れなくなる、ということのない素晴らしい立地だ。……うん、我ながら視界に収めてないと迷うとか、情けなさ過ぎて若干沈む。

 

 

店に入ってケーキとコーヒーのセットを注文する。こういう店のコーヒーは、普段深雪が淹れてくれるコーヒーと比べてしまうと、やっぱり劣っている感は否めないのだけど、正直そこまでコーヒーに拘りのないぼくとしては、十分美味しいので問題はない。ぶっちゃけ、深雪が淹れてくれたという事実が大切なのであって、味はどうあってもぼくは満足なのだ。拘って淹れてくれている深雪の前では絶対言えないけどね。

 

店内はお昼時を過ぎているからか、客は疎らでぼくのようにお一人様でいる人が多い様だった。

ぼくが案内された席は入口付近の四人掛けのテーブル席だったけど、そこをぼく一人が占拠したところで全く問題はなさそうだ。

そんなことを考えながら、注文したセットが届くまでの間、意味もなく窓の外を眺める。

 

ビルが立ち並んでいる景色の中では、老若男女様々な人々が忙しそうに歩いていた。こうして、ゆっくり何の意味もない時間を過ごしながら、忙しく動いている人の姿を見ていると、自由だな、という気がして少し愉悦。実際はこの後に仕事が待ち受けいる訳で、結局自分も窓の外の人々と同じ側の人間なのだと気がついてため息を吐いた。

 

セレネ・ゴールドとしての仕事も楽しくはあるのだけど、最近はリーナという最高の輝きを題材に絵を描きたいという欲求が高まっていて、若干仕事への熱意が降下中の時期なのだ。最高の題材があるのだから、最高のコンディションで絵に臨みたい。そのためには、2、3日時間が欲しいところなのだけど、生憎、ぼくのスケジュールは殆ど隙間なく埋められているのでした。

水波ちゃんとなんとか仲直り出来たのは良いのだけど、こんな過密スケジュールだと、ぼくグレるよ?グレ美月ちゃんに変貌しますよ?

ちなみに、グレ美月ちゃんは、仕事しない上に美少女に自重しません。危険です。

 

「あれ?」

 

アホ極まりないことを考えながらぼーっと窓の外を眺め続けていると、一人の女性が踞っているのが見えた。周りには紙の束のようなものが散らばっていて、あれでは風で飛ばされるのも時間の問題だろう。

間の悪いことに、さっきまであんなにいた人達はいつの間にか姿を消しており、彼女の周りには人がいなかった。

 

困っている女性がいたら、助けるのが美月さんなのだ。

 

 

ぼくはウェイトレスに、一声かけて一度、店の外へと出た。

 

 

「大丈夫ですか?拾うの手伝いますよ」

 

「ありがとう、助かるわ。実はヒールが折れてしまって……」

 

手を差し伸べながら女性に言うと、女性は少し足首を気にしながら、ゆっくりと立ち上がった。

女性の足元を見ると、片足のヒールが折れてしまっていて、どうやら、それが原因で転んでしまったのだと予想できた。

 

「無理なさらず座っていてください、紙ならぼくが集めてきますから」

 

「ごめんなさい、少し足を痛めてしまったみたいで」

 

 

紙は風によって四方八方散らばっていたが、そこは美月さんのスーパーテクニックが光る。いや、単純にこれ以上飛ばされないように、めっちゃ急いで拾っただけなんだけどね。テクニックとかなかったよ。

 

「どうぞ、一応目につく限りは全部拾ったので、無くなっているものがないか確認してください」

 

「ありがとう。流出してはまずい資料もあったから本当に助かったわ」

 

少し資料を確認して、全ての書類が揃っていることに安心したのか、やや肩の力が抜けた様子で、お礼を言ってくれる女性。

ぼくの良すぎる目が捉えた限りでは、技術文書も混じっていた様だからこんなところでばら蒔いてしまっては相当の大目玉だったろう。

 

女性は、いかにも仕事のできそうな、パンツスーツ姿で、あまり飾り気のない印象の人ではあるが、つり上がった瞳がキリッとしていてカッコいい、美人さんだ。

出来るキャリアウーマン、というのがしっくりくる。そんな人がドジって紙をばらまいてたって思うと、萌えてしまうのは仕方ないと思う。

 

「足、大丈夫ですか?」

 

「ええ、少し捻っただけみたいだから、もう大丈夫よ。でも、靴は駄目ね、完全に折れてしまっているわ」

 

折れてしまったヒールは瞬間接着剤などで応急処置が出来ると聞いたことがあるけれど、生憎持っていないし、一目で高い、と分かる靴だからきちんと修理してもらった方が良いに決まっている。

 

「とりあえず、そこの店に移動しましょうか。足の具合も、一度落ち着いて確認した方が良いですし」

 

ぼくは彼女に肩を貸しながら、店に入る。入口近くの席で良かったよ。

テーブルの上を見るとまだ、何も運ばれた様子はなく、どうやら、ぼくが声をかけたウェイトレスの方が、外の様子を見て、配膳を止めておいてくれた様なのだ。なんたる神対応。

 

「足は本当に大丈夫そうですね、でも一応病院でも検査を受けた方が良いでしょう。捻った感覚はあった様ですし、今は痛みがなくても、後で痛くなる、なんてこともありますから」

 

医療の知識なんて一般レベルしかないけど見れば(・・・)怪我の具合は分かる。とはいえ、そこはプロに任せるべきだから一応病院を勧めたけども。

 

「あ、その靴預かりますよ。そこに靴屋がありますから修理お願いしてきちゃいます」

 

遠慮していた女性だったけど、割と強引に靴を奪って、席を立つ。壊れた靴で歩いて、また転倒したりしたら、今度こそ本当に怪我をしてしまうかもしれないからね。大人として、高校生に助けてもらうのは申し訳ないのかもしれないけど、女性の安全には代えられない。ぼくは常に美人の味方です。

 

「あっ、待ってる間、ケーキセット食べててください。注文したので、そろそろ来ると思いますよ」

 

ぼくは去り際に一言女性に言って、ウェイトレスの方をチラリと見ると、ウィンクが返ってきた。

きっとすぐにケーキセットが配膳させることだろう。

 

この店のウェイトレス、ちょっと優秀過ぎませんか。

 

 




――そのころのリーナさん――

(๑•̀ㅂ•́)وデキルモン リーナ「今日はミヅキ仕事みたいだし、ワタシが自分でランチを作ってみせるわ」

(•̀ω•́ ) リーナ「ミヅキは作っておこうか?って言ってたけど、ワタシだってやれば出来るのよ」

(o゚▽゚)o リーナ「レシピ通りにやれば簡単よ……でもそのままじゃつまらないし、ちょっとアレンジして……」


一時間後。


(。_。)リーナ「…………もしもし、注文良いですか」


出前を取っていた。




一体この女性は何者なのだろうか(棒)
次話で明かされます。

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