美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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間話6 偶然の出会いは修羅の道③

窓ガラスからは、輝く夜景が一望でき、店内にかかるクラシカルな音楽が、料理が来るまでの一時を待ちの時間ではなく、贅沢な時間へと変える。

 

都内某所の高級レストランの個室。

広々としたその一室、その中央のテーブルを囲むように五人の男女が席についていた。

 

 

いつもと変わらぬ無表情の達也。

不機嫌を隠そうともしない深雪。

やっぱり、という顔の小百合さん。

戸惑っている龍郎さん。

発案者にして、今最も帰りたい、ぼく。

 

小百合さんに頼んで龍郎さんを引っ張ってきてもらい、深雪と達也を騙して連れてきて、開催した司波家家族仲修正計画ディナー編なのだけど、ちょっと難易度高過ぎませんかね!?えっ、もう席に座って10分も経つのに会話0なんですけど!赤の他人同士でも10分も一緒にいれば話せるようにはなりますよ!?

 

早くも心が折れそうだけど、自分で始めたことだし、ここで投げ出すわけにはいかない。

 

 

「このお店、私の父が母に求婚した時に使ったレストランらしいですよ。中々予約できないお店なんですけど、真夜さんにお願いしたらすぐにできました」

 

「おい、そんな簡単に叔母上の力を頼るな。こんなことを頼むのはお前くらいだぞ」

 

 

達也たちが真夜さんを特別視してるのは知っているし、その意味だって分かる。

四葉家の当主というのは、四葉家にとって絶対、親族なのに絶対的上下関係が存在している。

 

でもね、真夜さんはぼくが頼み事をすると、嬉しそうにするんだよ。きっと他の誰も気がついていないかもしれないけれど、嬉しそうにしているんだ。

彼女は愛を注がれることがなかった達也とは対称的に、愛を注ぐことを出来なかった人間なのだろう。

 

真夜さんを襲った悲劇をぼくは詳しくは聞いていない。

でも、その結果何が起こってしまったのかは聞いていた。

 

その悲劇のせいで、彼女は子供を産むことができない体で、そのせいで婚約者と別れることとなってしまったこと。

 

その悲劇が達也たちの実の母親であり、真夜さんの姉である深夜さんが体を壊してしまう原因となったこと。

 

真夜さんの復讐のため、父親が亡くなったこと。

 

 

子供も恋人も姉も親も、全て失ってしまった彼女は、何かを憎まずにはいられなかったのだろう。

そうしなければ、何か目的がなくては、きっと彼女は立っていられなかった。

 

息も出来ないくらい辛い所で、崖のギリギリくらい怖い所で、何も見えないくらい暗い所で、一人でいるのが真夜さんなのだと思う。

 

そんな世界を恨んで、壊したくて、でも何か希望が欲しくて、そんな奇跡はないと知っていて、世界には絶望しかないのだと思い込んでいて。

 

その手を掴めるのはきっとぼくではないだろう。

そんな世界から引っ張り出せるのは、ぼくではないのだ。

たぶん、真夜さんを引っ張り出せるのは――

 

 

「達也、深雪、家族なんだからいつまでもムスッとしているのは良くないよ。ぼくがきっかけを作らなかったらこんな会、絶対開かなかったでしょ」

 

「そうかもな」

 

「そうだよ。ぼくは我儘だからね、人の家庭事情にもドカドガ突っ込んでいきますよ」

 

 

――達也と深雪だけだ。

 

ぼくは二人が好きだ。真夜さんが好きだ。だから、仲良くいてほしいと思う。幸せになってほしいと思う。

 

我儘だって分かってる。

 

真夜さんは真夜さんの意思で今の二人との関係を作って、二人もその関係に納得して、きっと今の関係が築かれているのだと思う。

 

小百合さんや龍郎さんとの距離も、お互いに今が程よい『上手くいっている距離感』で最適なのかもと思う。

 

 

でも、その形にぼくが満足できないから、納得できないから。

 

皆に笑っていて欲しい。一緒に笑っていて欲しい。

 

時間は掛かるかもしれないけど、そのためならぼくは何だってやれそうなんだ。

 

だから、少しずつでも仲良くなってくれるように、頑張ろうって決めたんだ。

 

 

 

 

「絶望した」

 

「どうした藁から棒に」

 

 

ぼくは頑張った。

店を用意し、司波家族を集め、話題を提供し、素晴らしい食レポもした。

 

結果から言おう。

 

地獄でしかなかった!

時折目が合う小百合さんからの、やっぱりこうなった、という目!深雪の無言の圧力!達也の事務的な発言!龍郎さんマジ空気!

そんな中、一人楽しそうに振る舞うぼく!ピエロか!

食レポ?ぼくの語彙力なんて所詮、美味しい連打しか出来ないよ!だだ滑りだったよ!

控えめに言って、地獄だよ!もう心折れそうだよ!

 

 

既に食事会は終わり、小百合さんも龍郎さんは帰っている。今は達也、深雪と一緒に店に残りプチ二次会中。というか、ぼくへの尋問会だね。どうしてこんなことをしたのかしら?って深雪スマイル(-100℃)された時には思わず達也の後ろに隠れた。氷の女王的深雪も素敵ではあるのだけど、笑顔で怒るのは止めて頂きたい。

 

そういえば、小百合さんに、達也の婚約者だと知られたときには、尊敬の眼差しで見られた。達也とまともに付き合えて、かつ、妹の深雪とも上手くいっていることが信じられないらしい。世間一般のまともな付き合い方をしているとは思っていないし、ぼくらの関係だと結局深雪が中心だし、小百合さんの尊敬は見当違いなんだけどね。

 

 

「美月、少し顔が赤くないかしら?」

 

「確かに赤いな……ん?待て美月、今注いだのは何だ?」

 

「水。高いレストランになると水もボトルで出てくるんだからオシャレだよね。何か甘いし!」

 

 

なんかずっと難しいこと考えてたから頭がボーッとしてきた。大体、こんなにぼくが頑張ってるのに、皆非協力的過ぎる!特に深雪!驚きの無言だったよ!ぼくが話しかけても返事ないし!

ぼくが小百合さんと話しているとじっと見てくるから、話に入りたいのかなっと思って話を振っているのに、プイッてされたからね!

 

「確かに水はワインボトルを模したものに入っていたが……それは本物のワインだ」

 

「うるさいな、さっきもそれくらいしゃべってよ!何食べても無言だし!達也が言った言葉を復唱してあげようか?お久しぶりです、はい、いえ、そうですね、以上だよ!今時、NPCでももっと台詞にバリエーションあるわ!」

 

ぼくが怒濤の勢いで達也に文句を言っていると、深雪が呆れたように止めに入ってきた。

 

 

「美月、いくら個室で防音と言っても、もう少し控えないと」

 

「なんらなんら深雪ぃー、ぼくに構ってほしいの?それならそうと言ってくれればいいのに」

 

「全く思ってないので、抱きつくの止めてくれないかしら!?」

 

 

ぼくの最後の記憶は、こうしてフェードアウトしたのだった。

 

 

 

 

極度のストレスによるものなのか、判断能力が著しく低下していた美月は、水と勘違いし、ワインをがぶ飲みしたことで、完全に酔っていた。達也と深雪が止めるのも無視して、言いたいことを言い続けたからか酔いが回っており、顔も赤い。

 

 

「達也!ぼくをだっこするのら!」

 

「完全に酔っているな」

 

「はーやーくぅ!だっこ!だっこ!だっこぉ!」

 

「深雪、ガムテープか何か持ってないか?」

 

「何に使われるおつもりですか!?」

 

 

目頭を抑えながら言う達也に本気を感じたのか、慌てる深雪。いくら美月とはいえ、それは流石に、ということなのだが、いくら美月とはいえ、という注釈がついてしまう所に、深雪の美月への評価が透けて見える。

 

「冗談だ。このままじゃお店に迷惑になるし、家に連れて帰ろう。リーナに連絡しておいてくれるか?」

 

「はい、お兄様」

 

深雪が電話のために部屋を出ていくと、達也は美月をどうするか考える。

 

「ぼくはだっこしてもらうまでここを動かない決意れす!」

 

「そんな決意は捨てて、立て。もう行くぞ」

 

「イヤら!」

 

頑なに席を動かない美月と達也が小競り合いをしていると、深雪が部屋に戻ってきた。

 

「リーナなのですが、電話に出ませんでした。もしかすると、もう眠ってしまったのかもしれません」

 

「……やはりガーディアンは二人必要そうだな」

 

 

主人ほったらかしで眠りに就いている可能性があるリーナにため息を吐く達也。

これは水波に報告だな、と考えつつ「だっこ」を連呼する美月を視界に収めて思った。

 

水波よ、強く生きてくれ、と。

 

 

結局、騒ぎに騒いだ後眠った美月は達也におぶられ帰宅。

美月を放置で爆睡していたリーナは達也にチクられ水波による厳罰(物理)。

 

こうして、美月発案、司波家家族仲修正計画ディナー編は圧倒的カオスで幕を閉じた。

 

 

翌日、記憶が戻ってきた美月が、だっこと連呼する自分を思い出し、探さないでくださいという置き手紙を残し、失踪するのだがそれはまた別の話である。

 

勿論美月は迷子になり、達也に保護されることとなるのであるが。

 




――応接室にて、とある女子同士の会話――


(-ω- ?) 小百合「貴女達、どういうデートをしているの?全く想像ができないのだけど?」

(・д・`*) 美月「えーと、買い物して、映画みて、カフェとか寄ったりして……」

( ・д・)ヘー 小百合「案外普通なのね……」

o(*゚∀゚*)o 美月「楽しいですよ、深雪もいつも楽しそうだし」

(o゚Д゚ノ)ノウソォ 小百合「デートについていってるの!?あの娘、恐ろしいわね!?」

(`・∀・´) 美月「そして、大体ぼくと深雪で買い物して、映画みて、お茶して、達也は待ってることが多いですね!」

Σヽ(゚∀゚;)イヤイヤ 小百合「それはデートなのかしら!?彼に初めて同情したわ!」



小百合は達也にちょっと優しくなった。





今話で間章は終わり、いよいよ九校戦編に入ります(予定)。
入学編で色々詰め込み過ぎたために、かなりカオスな九校戦となりますが、今後もよろしくお願いします。


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