美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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長らくお待たせしてしまいましたが、九校戦編スタートです。


九校戦編〈上〉
第六十二話 九校戦編プロローグ 再会と出会い


頑張った。超頑張った。

機嫌を損ねてしまった水波ちゃんの鬼のような仕事量、仕事中でも躊躇なく邪魔してくるリーナ、愛梨のためとはいえやることにした風紀委員。

ありとあらゆる困難にも負けず、1日休みを勝ち取ったのは、すべて今日の日のため!

 

 

「か・お・るぅぅううう!!」

 

 

久しぶりにぼくの大親友である薫に抱きつくためである!

あの頃から少しだけ大きくなったものの、まだまだ小さめな部類の胸!相変わらずサラサラでふんわり良い香りのする黒髪!

最高だね!控えめに言って最高だね!

 

 

「……うぜぇ」

 

「ひどい!?今、うざいって言ったよね!?小さな声で!」

 

「引っ付くな、歩きづらい」

 

「冷たい!薫が冷たいよ!良いじゃん久しぶりなんだから抱きつくくらい!」

 

「もうお前がアタシに抱きついてから20分も経ってんだよ!むしろアタシが良く耐えたわ!見ろ、周囲の不審者を見るような冷たい目を!冷たいのはアタシじゃなくて世間だよ!そして原因はお前だよ!」

 

「おぉ、薫の怒濤のツッコミ!これが出るってことは、今相当ストレスが溜まってるね……どれ美月さんに話してみなさい」

 

「今全部話したんだよ!ストレスの根源さん!」

 

 

ここは石川県金沢市。

何故ぼくらがこんな遠くにいるかというと、単純に、薫が進学した国際科の高校がある街だからだ。

 

 

「はぁ、思い出した、お前といると疲れるんだ」

 

「何それ!?ぼく悪霊か何かなの!?」

 

「ウソウソ、本気で受けとるな。ほら、時間ないんだから行くぞ」

 

 

辛辣な態度だけど、これが薫の照れ隠しであることは知っている。これ以上からかうとガチギレされることもね。

薫にガチギレされるとぼくでも手がつけられない。体術は八雲ん先生曰く先生以上、魔法は効かない、あれ?なんだこのチートは。

達也がラブコメの主人公だとしたら、薫はバトル漫画の主人公だよね、魔法の無効っていかにも主人公らしい。

 

「そういや美月、今日は妙に女子らしい格好しているな、いつものジャージ一辺倒はどうした?」

 

「深雪にコーディネートして貰ったんだ。薫と久しぶりのデートだからね、ぼくだって気合を入れたんだよ」

 

 

深雪にデート(・・・)に行くって言ったら妙に張り切っちゃって、散々店を連れ回されて、着せ替えさせられた。もう最近こういうことが多過ぎてスカートへの拒否感が無くなってきたという悲しい事実。今日はショートパンツだけど、正直、スカートを穿けと言われたらミニじゃなければ穿ける自信がある。中学生の時から続く深雪の調教が着々と進んでいるらしい。わんわん。

 

 

「アタシと遊びに行くのに気合入れてどうすんだよ……どうせ達也とデートする時は適当なんだろ」

 

「えっ?達也とデートなんて行ったことないから」

 

「は?んなわけないだろ。二人で遊びに行ったりとか」

 

「全てにおいて深雪も一緒ですが、何か?」

 

「……極まってるブラコンはレベルが違うな」

 

 

ぼくがドヤ顔で言うと、薫はうわー……と心底引いた様なげんなりした声で言った。

ぼくくらいのレベルになるとお兄様、お兄様、言ってる深雪も愛くるしく思えてくるのだ。たぶん病気である。恋の。……まあ冗談はさておき、ぼくと達也が二人で出掛けるってことは本当にないし、二人になるってことも滅多にない。ぼくが達也の家に行くときには深雪もいるし、達也がぼくの家に来るときは深雪も来るから当然である。ぼくらの中心はいつだって深雪だ。

つまり――

 

 

「ぼくもその方が嬉しい」

 

「達也マジで不憫な奴だな!」

 

 

達也と二人より深雪も一緒の方が嬉しいに決まっている。ぼくと達也はいつだって忙しいけど、深雪も一般的な女子高校生と比べれば忙しい部類に入るだろう。これ以上強化して、この娘は何を目指しているのだろうか、と疑問を禁じ得ないが、習い事をいくつも抱えているのだから。

そんなぼくたちではあるけど、週の半分は学校外でも一緒なんだよね。

ぼくなんて、司波家にすこぶる私物置いてってるし。着替えは5日分くらい、枕、歯ブラシ、ゲーム、PCなんかの生活必需品は勿論、食器もぼく用があるし、客室なんてぼく好みに改造したからねって……それもうぼくの部屋だよ!翌々考えたら司波家の客室って、もはやぼくの部屋になってたよ!最近はリーナがいるから泊まることも無くなったけど、酷いときは一週間以上滞在してたからね!

 

あの家には帰りたくなくなる魔力があるんだよ。ご飯は深雪が作ってくれるし、飲み物が欲しいな、とか、ちょっと部屋から物を取ってきたいなって時は達也に言えば持ってきて貰えるし。

その代わり仕事終わってないと地獄になるんだけど。

 

 

「まあでも、お前らは深雪込み(それ)で上手くいってんだから別にアタシがどうこう言うことではないよな。もう一年になるだろう、付き合い始めてから」

 

「そっか、このくらいの時期からだっけ。というかまだ一年なんだね。もうずっとこんな感じだった気がしてたよ」

 

「そういや、あれどうなったんだ。そもそも、お前が唐突に『達也と会いたくない』とか連絡してきたから、心配して会うことにしたんだ。それが会ってみればケロッとして、相変わらず夫婦してるみたいだし」

 

「へ、ああ、何か何日かしたら落ち着いた。一時期、達也と顔合わせると恥ずかしくなっちゃって、もう無理!って感じだったんだけど、しばらくしたら本当に何でも無くなっちゃって、薫に相談したのも忘れてたくらいなんだよ」

 

 

薫に、そのきっかけとなった出来事を話す。

ぼくがUSNAの刺客であった未亜に連れ去られそうになり、達也と撃退して、でも達也が肝心なところでぼくを眠らせて除け者にしたこと。

それにぼくが怒って、まあ、約束とかして仲直りしたこと。

それから妙に達也と会うのが恥ずかしくて、顔も合わせられなかったんだよね。それでしばらく避けてるみたいな感じになって深雪に心配かけちゃってたみたいだけど、本当に謎である。

 

 

 

「……とりあえず心配して損したわ、夫婦してろバカップル」

 

 

そうして、話した後に出てきた薫の一言がこれである。むしろ喧嘩しているのに、何故かラブラブ扱い。ひどい。

納得いかないが、薫が良く通っているというお店についてしまったため、反論できず。

お店は落ち着いた雰囲気の喫茶店で、お客さんは疎らだった。実はコミュニケーション能力が著しく低い(本人に言うとガチギレされる)薫は、こういう静かな店で一人で何時間もいる子なのである。ぼくや深雪以外友達いなかったし、こっちでどうなのか心配だ。

ぼくは席についてすぐに、その話をすることにした。

 

 

「薫、ちゃんとこっちで友達出来た?」

 

「……そんなことはどうでもいいんだよ」

 

 

どうやらいなかったらしい。

薫って美人な上に、威圧的な雰囲気があるから、並の人間じゃ話しかけられないし、口調が荒いから話しても、キレていると勘違いされることも多い。その上コミュニケーション能力も残念だから、本当に可哀想な子である。実は深雪と親しくなるのも時間かかったし、薫って意外に閉鎖的なんだよね。

これは寂しい薫のために、ぼくが定期的に会ってあげるしかないね!

 

 

「あれ、桐生さん?」

 

 

ぼくの背後から聞こえてきた声に振り返ると、そこにはやたらイケメンな男が立っていた。今時ではそれほど珍しくはないものの、ぼくからするとコスプレ感満載の真っ赤な制服を着こなしていて、貴族のような気品さえある。正に日本人版王子様という感じだ。

 

 

「一条か。相棒はどうした?」

 

「俺達だっていつも一緒にいるわけじゃないよ。……まあ、ジョージはトイレ行ってるだけだけど」

 

「やっぱ一緒なんじゃねーか、それに、あたしは吉祥寺のことだなんて一言も言ってないぞ」

 

 

ばつの悪そうな顔をしている一条君(仮)と、悪い顔している薫。

その状況の中、恐らくジョージ君(仮)と思われる、一条君(仮)と同じ制服を着た男子が歩いてきた。黒髪のセンター分けという、いかにも真面目そうな印象だけど、それなりに鍛えている様でひ弱という言葉にはそぐわない。頭の良さそうな好青年、というのが彼にぴったりそうだ。

 

 

「あれ、桐生さん?」

 

「おま、第一声、一条と全く同じじゃねーか」

 

「え、そうなの?」

 

「ああ、だからこうして桐生さんは、さぞ楽しそうにしてらっしゃるのだ」

 

 

な、なんということだ……薫が男子と仲良さそうに話しているだと!?

中学生の時なんか、クラスの男子とですら事務的な会話しかしなかった、あの薫が。

これは、名探偵美月さんが聞き出すしかない!

 

 

「あの、薫。この二人は?」

 

「ん?ああ、バイト先で知り合った奴らだ」

 

「バイト!?そんな、バイトしてるなんて一言も言ってなかったじゃん」

 

「一々言うようなことでも無いだろ」

 

 

素っ気ない。というか冷たい!

大親友にして幼馴染みである、もはや一心同体とすら言えるぼくに、バイトなんて一大事を伝えないなんて!こうなったら、出遅れてしまったけど、そのバイト先を真夜さんに頼んで念密に調査してもらおう!

 

 

「ちなみにバイト先は絶対言わないぞ、お前うざそうだから」

 

「なんでさ!いいもん、そっちの二人から聞き出すから!」

 

 

「いや、悪いけど桐生さんが言わないのに俺達が言うわけにはいかないよ」

 

「ぼくはね、正論では止まらないよ」

 

 

困った顔で断る一条君に、ぼくは指でちっちっち、とカッコつけつつ、ドヤ顔。

 

 

「……ドヤ顔しているところ悪いが、あんまりしつこいと無視するぞ」

 

「で、二人は薫と同級生かい?ぼくは柴田美月、薫とは小学校の時からの付き合いで大親友さ」

 

 

ぼくは薫にボソッと酷いことを言われたため、男子二人に自己紹介をした。薫は基本有言実行だから、これ以上問い詰めると本当に無視されてしまう。

薫のぼくの扱いって雑だよね、それも愛だと思うことで友人付き合いを続けているぼくって偉大だと思う。

 

さて、バイト先は聞けなかったけど、この男子二人を取り調べるとしますか。

 

 

 

 

 

こんな、とあるカフェでの何気ない出会い。

――この出会いが、後に起こる事件の第一幕であったことを、この時のぼくはまだ知らなかった。




――とある日の買い物――


(σ≧▽≦)σ 美月「深雪、デートするんだけど服選んでよ!」

(๑ÒωÓ๑)キリッ 深雪「任せなさい」


( • ̀ω•́ )✧ 深雪「(お兄様とのデートにジャージで行かせるわけにはいかないわ!ここは少し夏の季節を先取りしつつ、いつもの美月とは違う落ち着いた雰囲気のコーディネートで、非日常感を演出する!)」

(´・ω・`)ボーッ 美月「(久しぶりに薫とデートだから、驚かせたいしね。深雪のファッションセンスなら間違いないから安心だ。あ、そういえば達也にまだ行くこと伝えてないけど……まあ、後でいいや!)」





(゜ー゜)ジーッ 達也「(なんか二人で楽しそうにしてる)」



疎外感を感じる達也であった。





プロローグということで、久々の再会と新しい出会いの話です。
九校戦編は入学編以上のカオスと恋愛でお送りする予定です(戦慄)


新作、『青星転生。~アンジェリーナは逃げ出したい~』を連載始めました(宣伝)

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