美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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第六十六話 実力チェック②

学校が職員・生徒に開放しているCADの調整設備は実験棟にある。

しかし今回は、実験棟の備付調整機器ではなく、九校戦で実際に使用する車載型の調整機を会議場に持ち込んでテストを行うことになった。

その方が、九校戦で使えるかどうかが分かりやすい、という考えは当然のことと言えよう。

 

すぐにこうした設備や、九校戦の規格に合わせたCADなどの備品が準備されたことからも、本番の準備は、道具面に関する限り、滞りなく進んでいることが分かる手際の良さであり、それ故に、今が人選するには土壇場であることが如実に分かる。

 

先輩方が焦るわけだ、と達也は必死に自分をスカウトしようとしていた先輩方の姿を思い出しながら調整機の前に腰を下ろした。

 

機械を挟んでその向かい側には既に服部が座っており、その服部を、生徒会役員と各部の部長がグルリと取り巻いている。

 

「では、始めてくれ」

 

克人が改めてそうスタートを宣言したところで達也の作業は始まった。

まず調整機の立ち上げ段階から、意地の悪い目が達也の手元に注がれるが、日常的に、遥かに複雑な調整用機器を操作している達也にとっては、居眠りしながらでも躓きようが無いプロセス。

計測準備までの手順を流れるようにこなして、忌々しそうな視線をポーカーフェイスで受け流す。その、忌々しそうな視線の中に美月が混じっていたことも勿論スルーだ。

 

「再確認させていただきますが、課題は競技用CADに服部副会長のCADの設定をコピーして、即時使用可能な状態に調整する、但し起動式そのものには手を加えない、で間違いありませんか」

 

「ええ、それでお願い」

 

立ち上げが終わったところで今回の課題の再確認をした達也は、真由美が頷くのを見て、小さく首を振った。

 

 

「……どうしたの?」

 

「スペックの違うCADの設定をコピーするのは、余りお勧めできないんですが……仕方ありませんね。安全第一で行きましょう」

 

「?」

 

首を傾げたのは真由美だけではなかった。CADの設定のコピーは、機種変更の際、普通に行われていることなので、何を問題視しているのか分からなかったのだろう。

ただ流石に、あずさを始めとするエンジニアチームのメンバーは、達也の発言の意味が理解できたようだ。小さく頷く者、お手並み拝見とばかりニヤリと笑う者、概ね二通りの反応を示している。

達也はそれ以上無駄口を叩かず、早速作業に取り掛かった。

 

「何故、設定のコピーが駄目なんだ?機種を変えるときに良くやるだろう」

 

「摩利さん、そうした機種変更をする時、CADのスペックをダウングレードしますか?」

 

「いや、普通、同じか、もっと良いものにするだろう」

 

「そういうことです。

機種変更の際、設定のコピーが行われるのはそれが同等以上のスペックを持っているからですよ。今回の場合、はんぞー先輩のCADは九校戦用のCADより圧倒的にスペックが上です。普通にコピーしただけでははんぞー先輩にあまり良くない影響が出るでしょうね、だから達也は言ったんですよ、安全第一って」

 

 

美月の発言に、摩利が心底感心したといった様子で一言。

 

「お前がそういう話をしていると違和感しかないな」

 

「流石にぼく怒っていいかな!?」

 

摩利と美月が話している間にも作業は着々と進んでいく。

 

達也は服部から借りたCADを、調整機に接続する。これは、設定データの抜き出しであり、半自動化されているため、スキルの違いが表れる作業ではない。

 

そして、データを保存した後は、CADの使用者、つまり服部本人のサイオン波特性の計測だ。

ヘッドセットを着け、両手を計測用パネルに置くだけのお手軽なものであり、通常の手順。

 

実はこの段階で、オートアジャスター機能付きの調整機であれば、自動的に調整が完了する。

この自動調整に頼らず、マニュアルでCADのオペーレーション・システムにアクセスし、より精密な調整を施すのがエンジニアの腕の見せ所というわけだ。

が、それには知識と技術が必要で生徒が学校の調整機を使って自分でCADを調整する場合は、ほとんどこの段階止まり、それがこうした人材不足を生んでしまっていることは否めないだろう。

 

 

「ありがとうございます。外していただいて結構ですよ」

 

 

達也から計測終了の合図を送られて、服部がヘッドセットを外した。

 

普通なら、後は設定を行うCADをセットして、自動調整結果に微調整を加えるだけだが、その為には設定済の、この場合なら設定をコピー済のCADが準備されていなければならない。

 

が、達也はそれをしていなかった。

達也は設定データを抜き出した際、そのまま競技用デバイスにコピーせず、調整機に作業領域を作って保存していたのだから。

手順のミスか、と見物しているほとんどの者が思った。

それを裏付けるように、達也はディスプレイを見詰めたまま動かない。

が、美月は心配した様子もなく、ただ一言呟いた。

 

 

「ぼく、この後に調整見せるの嫌だな……」

 

 

摩利が美月の呟きの意味が分からず、首を傾げたその時。

 

「へっ?」

 

達也の肩越しにディスプレイを見たあずさの、花の乙女には些か似つかわしくない、間の抜けた声が沈黙を破った。

 

しかし、その雑音に、達也は眉一つ動かさない。

相変わらず、怖くなるような真剣な眼差しでディスプレイを見詰めているだけ。

 

あずさが声を上げてしまったのも無理はない。

何せディスプレイには、当然映し出されているべきグラフ化された測定結果は表示されておらず、ディスプレイ一杯を無数の文字列が高速で流れていたのだから。

あずさの声に反応し、ディスプレイを盗み見ていた真由美や摩利には、辛うじて所々の数字が読み取れる程度で、流れ去る文字列を目で追う事も出来ない。詰まらなそうにそれを眺めている美月以外、三者三様に驚きを露にして、唖然と眺めているしかない。

 

「達也って隠したがる癖に見せたがりなんですよね。そういうところ子供っぽいって思いませんか?」

 

「……達也君にそんなことを言うのはお前くらいだし、お前にだけは子供っぽいとは言われたくないだろうな」

 

「あの、摩利さん、何を言っても悪口で返すの止めてくれませんか。ぼく黙りますよ?」

 

「それは静かになって良いな」

 

 

ぷくっと美月の頬が膨らむ。摩利のこうした態度には慣れたもので普段なら拗ねるまではいかないのだが、基本的に構ってちゃん的体質の美月は突き放すような対応をされると一気に不機嫌になってしまうのだ。

美月は一際小さめの声でぼそりと言う。

 

「……もう絶対何があっても風紀委員の書類仕事手伝わない」

 

「美月は子供っぽいところもあるがそこが可愛いと思うぞ!しかしながら静かにしていてもそれはそれで魅力的だな!私の自慢の後輩さ!」

 

速攻の手のひら返しは、書類仕事が苦手な摩利には当然の対応であった。巡回に行っても迷子になってしまう美月は、こうした書類仕事を積極的に引き受けてくれる稀有な人材だ。良い意味でアグレッシブな、悪い意味で脳筋が多い風紀委員では書類仕事は好まれず引き受けてがいないため、美月に断られると、摩利が全てやらなくてはいけなくなってしまう。以前から苦痛に思っていたそれが美月によって解消されてから久しく、もう以前のようにはとても出来る気はしない。

摩利は笑顔で美月を褒め称え、ご機嫌取りに徹した。

 

そうして、二人が話している内に、達也が見ていた文字の行進は止まった。

時間にして数十秒、達也が凝視を始めてからも、五分は過ぎていないだろう。

 

達也は競技用デバイスをセットして、猛然とキーボードを叩き始めた。

この場の大多数は、その、今では珍しくなったキーボードオンリーの入力スピードに目を奪われていることだろう。

 

しかし、本当に驚くべきはそこではない。

この司波達也というシルバー(化物)のスキルはそんなことではない。

今、自分たちの目の前でどれほど高度なオペレーションが行われているか、理解している者はほとんどいないだろう。実際、それに気がついたのはただ一人。

次々と、いくつものウインドウが、開かれては閉じる。

開いたままになっているウインドウの一つが、今の今まで読み取っていた測定結果の原データであり、もう一つのウインドウがコピー元の設定を記述した原データであることに、何より達也の驚くべきスキルに――あずさだけは気がついた。

 

サイオン波特性の計測結果を、原データから直接理解するスキル。

 

このやり方なら、測定結果の全てを、デバイスのキャパが許す限り、調整に反映させることが出来る。これは、自動調整機能に全く頼らない、完全マニュアル調整。

 

一時作業領域に保存された設定データが瞬く間に書き換えられ、出来上がった設定は、安全マージンを大きく取った、まさしく「安全第一」の設定だった。

これなら自動調整よりユーザーの負うリスクは小さく、自動調整より遥かに効率の良い起動式の提供が可能だ。

 

 

あずさは戦慄する。

実際に、試してみるまでも無い。

この一年生の調整技能は、自分たちエンジニアチームの誰よりも、上だ。

あずさは何としても、達也をチームに引き込もうと決意し――疑問に思う。

 

 

達也は美月を紹介した時、何と言っただろうか。

 

 

『それも調整に関して言えば俺より高い技術を持っていると思います』

 

 

自分より上だと、そう言って美月を紹介したのだ。この超絶スキルを持っていながら、だ。

 

 

あずさは、摩利と話ながら、のほほーんとした顔で作業を眺めている美月を見て、信じられない気持ちでいっぱいになりつつ、思う。

 

 

もしも、これより上があるというのなら。

それを見てみたい。

 

そう思うのは彼女がデバイスオタクと言われていることからも、当然のことだった。




――そのころの真由美さん――

(。•́︿•̀。)ムムッ 真由美「(達也君はともかくみーちゃんは本当に大丈夫なのかしら)」

( ´•д•`; )アセアセ 真由美「(何っ!?達也君がなんか凄いことを!?みーちゃん本当に大丈夫!?)」


(●`ω´●)ムゥ 真由美「(摩利がみーちゃんと楽しそうに話してる!最近、みーちゃん風紀委員になって摩利とばっかり!摩利も摩利で風紀委員でのみーちゃんの話を自慢げに話してくるし!)」

(。 >﹏<。)ウゥ 真由美「(二人とも、もっと私に構わないと大変なことになるんだからねっ!!)」





( ̄~ ̄;)鈴音「(こっちはこっちで面倒くさそうじゃないですか)」

鈴音に安寧の場所は無かった。



明日も0時に投稿します。

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