カードショップの一件から数日がたった。
同じクラスにも関わらず沙耶とはあれ以来口を聞いていない。というより避けられていると言ったほうが正しいような気がした。挨拶をすれば無視をされるし、話そうと近づこうものなら今にも殺しそうな目つきで睨みつけられる始末だ。そういうわけで勧誘どころか普通に話すこともままならなかった。
一方時刻はもう放課後になり仁も委員会の仕事を終えていつものメンバーと一緒に遊戯王部の部室にいた。
「ってなことがあったんですけど、どうすればいいですかね。」
「ふむ、それは少々難しい問題だな。」
どうにか沙耶を遊戯王部に入部させる方法を考えようと仁はメンバー全員に何か方法がないかと聞いてみたもののやはり簡単には見つからない。
「とにかく理由を聞いてみないと分かんないんじゃないですか?」
「うーん、それが全然教えてくれないんだ。」
優紀がそう切り出すが仁の言う通り彼女はただ『遊戯王が嫌い』と繰り返すだけで理由らしい理由は何も答えてくれない。このままでは完全に八方ふさがりだ。
「よお、色々聞いてきたぜ。」
ガラっと扉を開けて部室に入ってきたのはこの部のもう1人の男子、一ノ瀬拓海だ。彼は学校でも有名な女好きでその手の噂が絶えない。しかしルックスがいいということで女子からの人気は高く、今回のように女子生徒についての噂話をよく知っているのだ。
「それでそうだった?」
仁が待ってましたと言わんばかりに身を乗り出して聞いてくる。
「まあ、焦んなって。そうだなまず成宮沙耶は遊戯王に関しちゃかなり精通してるってことだな。」
それは仁にもなんとなく理解できた。カードショップでのワンターンキルは素人の技術ではまず不可能なものだったからだ。しかしそれならばなおさら疑問に思うことがある。
「そんなに強いならなんで今は遊戯王やめちゃったんですか?」
そうなのだ。現在沙耶は第二遊戯王部どころか第一遊戯王部に所属していない。デュエルをするといえば学校での授業ぐらいなものである。それは明らかにおかしいことだった。
全員が疑問に感じているなか拓海が語り始める。
まず、彼女は遊戯王を始めたのが小学生の頃でありその頃からメキメキと頭角をあらわしていたらしい。そして中学生になると数々の大会で成績を残すまでになったらしい。しかしどんどん強くなっていく沙耶に対して周囲の人間はあまりよく思わなかったようで自分の周りからだんだん人が減っていってしまったらしい。
「挙句の果てに、親友まで離れていっちまったらしい。そりゃ嫌いにもなるわな…」
そこまで言い終わった拓海は苦笑いをして黙ってしまった。他の部員も皆それぞれ反応は違うが一様にしてうつむいてしまっている。その中で仁だけは何かべつのことを考えていた。そして顔をあげるて口を開く。
「でも、彼女デッキのこととても大事そうに持ってた。嫌いなんて口では言ってるけどホントはそんなことないんじゃないと思うんだ。」
彼女と初めて会ったのはカードショップだった。本当に遊戯王が嫌いならまずそんなところにはいかないだろう。それに不良に絡まれて面倒くさそうにはしていたがデュエルにをしている時の彼女の表情は生き生きとしていた。仁にはそんな彼女が遊戯王を嫌いだとは思わなかった。
「君がそう思うのなら何か理由があるのだろうが、これは私たちが立ち入っていい問題なのだろうか。」
「確かにそうですね。ここからは慎重に事を進めたほうがいいみたいですね。成宮さんの個人情報に関わることですから。」
「そうだな、こりゃ想像以上に骨が折れそうだ。」
3人とも沙耶勧誘について少々消極的になってきていた。しかし仁は自信たっぷりに答える。
「よし、デュエルして決めよう!!」
これには3人とも呆れてしまった。
「あのなぁ、ウチの部員ならまだしも一般人にデュエルで全てを決めろって言ってもそんなの受けてくれるわけないだろ…」
「仁君…相手はデュエルするのを嫌がってるんだぞ。それは無理がないか?」
「仁くん、デリカシーが無さすぎです…」
見事なまでにフルボッコにされてしまった。当然といえば当然だったが彼には彼なりの考えがあった。
「う…確かにそうかもしれないけど俺にはこれが最善の方法だと思うんだ。だからこの件は俺に任せてください!」
仁は必死に頭をさげた。3人とも一瞬驚いたが顔を見合わせると頷きあって仁のほうに顔を向ける。
「仁君がそこまで言うのならここは君に任せるよ。頼んだぞ。」
「貴重な人材なんだ ヘマすんなよ〜」
「おう!任せてくれ!!」
仁は胸を張って答える。
「で、具体的にどんな考えがあるんですか?」
優紀が何気なく聞く。
「あ」
「何も考えてないのかよ…」
いつものことだが仁は何も考えていない。それがいい結果に出ることもあるがそれは非常に稀だ。
「ま、まあ今日はもう遅いしさとりあえず明日から行動に移してみるか!」
『コイツ大丈夫か??』そんな雰囲気が部室の中に漂う。もちろん仁はそんなことには露ほども気づいていなかった。
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キーンコーンカーンコーン
教室に朝のチャイムが鳴り渡る。現在時刻は7時。当然ながらまだ授業が始まるにはまだまだ時間がある。朝早いということもあってかまだ校舎の中にいる生徒の数は少ない。しかし教室で仁は1人座っていた。普段ならこの時間には学校には来ていないが今日はある目的があってここにいる。
「っ!?なんで如月がいんのよ。」
教室に入ってきた沙耶が思わず声をあげる。今迄口さえきいてもらえなかったことをふまえると相当驚いたらしい。しかしこれは仁には好都合だ。話すきっかけができた。
今日仁が学校に早く登校した理由は他でもなく沙耶を勧誘するためだ。他の人に見られると色々面倒なのでこの時間を選んだというわけだ。
「今日は成宮に話があってさ。ここじゃあれだから場所移していい?」
「な、何よ。まあ、いいけど。」
こうして2人は屋上に場所を移して話をすることにした。
「で、何?話って、改まってなんて怖いんだけど」
沙耶は若干警戒しているようだが話は聞いてくれるようだ。仁は少しショックを受けたが自分の胸の内を語り始める。
「あの、何回も言ったと思うんだけど遊戯王部に入部してもらえないかな?」
「はぁ、またその話?いい加減しつこいわねアンタも。何回言われても一緒、私は遊戯王部なんて入る気ないわよ。」
ため息混じりに一蹴されてしまった。しかし仁もここで引き下がるわけにもいかずに負けじと食い下がる。
「もしかして怖いのか?遊戯王部に入ると自分の実力が低いのがわかるからな!」
幼稚な、しかもたった今考えたような見え見えの苦しい挑発だった。こんなのに乗ってくれるわけないと思うが対する沙耶はというと
「アンタ、私がビビってるっていうの!?冗談じゃないわよ!!」
完璧に乗ってしまっている。これは好機だと思った仁は挑発を畳み掛ける。
「ビビってないっていうならそれを証明してみせろよ。」
そう言うと仁はデュエルディスクを展開させる。しかし沙耶はというとデュエルディスクなど持たずにこちらにどんどん近づいてくる。
「ふんっ!!」
「え…うべしっ!?」
一瞬何が起こったのか分からなかった。腹部に鋭い痛みが走ってようやく自分は腹パンを食らったというのを理解できた。仁はてっきりデュエルで決着をつけるものだと思っていたのにリアルファイトに発展するとは思ってみなかった。
「ちょ…俺はデュエルで決着つけようって…」
「知らないわよそんなこと。あースッキリした。話ってどうせそれだけでしょ じゃ、私教室戻るから。」
女子にとはいえ不意打ちで腹パンを食らってしまい動けなくなってしまった。しかしそんな仁を置いて沙耶はさっさと教室に戻っていってしまう。そんな沙耶の背中に仁はとっさに口を滑らせてしまう。
「やっぱり中学での時のことが原因なのか?」
これをきいた沙耶の足がとまる。そしてすごい剣幕でこちらを睨みつけてくる。
「アンタ、何人の過去勝手に探ってんのよ!!」
これにはさすがの仁もしまったと思ったが一度言ってしまったものはしょうがない。最後まで言うことにした。
「それについては申し訳ないと思ってる。けど!俺もみんなも絶対成宮を1人にしないから!」
「何恥ずかしいこと言ってんのよ!!この変態!影薄男!…けど気が変わったわ。アンタの望み通りデュエルで決着つけてあげるわ。それで私がデュエルで負けたら遊戯王部でもなんでも入ってやるわ!!」
「…もし俺が負けたら?」
「今後一切私に関わらないで。それとついでにアンタが人のこと色々探ってたストーカーってことを言いふらすわ!」
それはついでにしては酷すぎないかと思う仁だがここでじっくり考える。
沙耶にしては珍しくデュエルで遊戯王部に入るチャンスを作ってくれたものの、もし負ければ社会的に抹殺されることが決定してしまった。しかし今引き下がるともうチャンスは来ないかもしれない。そう思うと仁は沙耶の方を向き、元気よく答える。
「ああ!その条件でいいよ!デュエルで決めよう!」
「すぐにぶっ飛ばしてやるわ!!」
そう言うと2人ともデュエルディスクを構えて一定の距離をとる。
「「デュエル!!」」
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拓海side
「アイツ上手くやってんのかな。」
昨日仁が自分に任せろといっていたが大体仁がそう言う時はいいことが起こらない。この短い付き合いの中でもそのことが分かっていた拓海は心配になり屋上の陰から仁を見守っていたのだ。
案の定仁は沙耶を怒らせてしまった。やっぱりやらかしたかと思い、帰ろうとしたがどうやらデュエルで決着をつけることになったようだ。これならまだ希望がある、そう思い拓海はこのデュエルの行く末を見守ることにした。
仁LP8000
沙耶LP8000
「俺の先攻だ!まずは《銀河魔導師》を召喚!」
銀河魔導師/☆4/ATK0
仁のデッキではお決まりの《銀河魔導師》だ。それだけこのカードは仁のデッキにおいて重要な存在だ。
「効果によりコイツのレベルを8にする。そして手札から《銀河遠征》を発動!デッキから《銀河眼の光子竜》を守備表示で特殊召喚!」
銀河眼の光子竜/☆8/DEF2500
これで仁のフィールドにはレベル8のモンスターが2体存在することになる。いつもならここで切り札の《銀河眼の光子竜皇》を召喚するところだが仁は考える。
『ここで《光子竜皇》をだしても先攻は攻撃できない。攻撃力じゃ多分負けないけど成宮の実力なら除去してくる可能性もある。ここは…』
「俺は《銀河魔導師》のもう一つの効果を使う!このカードをリリースしてデッキから《銀河戦士》を手札に加える!」
『なるほどな、考えたな仁。成宮沙耶のデッキは【海皇】。単純に攻撃力の高いモンスター召喚するだけじゃすぐにやられる。ここは守備を固めて様子見ってわけか。』
拓海くん、解説お疲れ様です。
「カードを2枚伏せてターンエンドだ。」
仁/LP8000/手札いちまい
モンスター/銀河眼の光子竜/☆8/DEF2500
魔法・罠/リバース2枚
手堅くスタートを切った仁。普通の相手ならこれでも十分守りきれるだろうが相手は沙耶だ。最悪この前の不良のようにワンキルされてしまう可能性だってある。
「私のターン!ドロー!」
力強く沙耶がドローする。一瞬手札を眺めた後、すぐに行動に移す。
「《深海のディーヴァ》を通常召喚!」
あらわれたのは上半身が女性で下半身が魚という人魚のような出で立ちをしたモンスターだ。歌姫という名を冠しているだけあって澄んだ歌声をしている。
深海のディーヴァ/☆2/ATK200
「《深海のディーヴァ》が召喚に成功した時効果が発動するわ。デッキからレベル3以下の〝海竜族〟《海皇子ネプトアビス》を特殊召喚するわ。」
海皇子ネプトアビス/☆1/DEF0
『ヤバい!これはワンキルの流れだぞ!どーすんだよ仁!』
陰から拓海が冷や汗を流す。確かにこの状況は早くなんとかしなければならないものだった。
「ネプトアビスの効果を使ってデッキから《海皇の重装兵》を墓地に送って《海皇の竜騎隊》を手札に加えるわ。そして墓地に送られた《重装兵》の効果で《銀河眼の光子竜》を破壊!」
守備表示だったとはいえ彼のエースモンスターを早々に破壊されてしまった。
「クッソ…こんなに早く破壊されるなんて…」
「フンッ、驚いてるとこ悪いけどまだまだいかせてもらうわよ!私はレベル1の《ネプトアビス》にレベル2の《深海のディーヴァ》をチューニング!シンクロ召喚!《たつのこ》!」
たつのこ/☆3/ATK1700
見た目は非常に可愛らしいがその効果は非常に厄介なものだ。仁も直感的にそれを感じ取りリバースカードに手をかける。
「《緊急脱出装置》発動!《たつのこ》にはエクストラデッキに戻ってもらう!」
「っ…このタイミングで《強制脱出装置》…」
《メガロアビス》のような上級モンスターに使う予定だったが《たつのこ》でも十分その役割を果たしたといえるだろう。沙耶は召喚権を使っており、モンスターも他にいない。とりあえずワンキルは防いだというところだ。
「カードを2枚伏せてターンエンド。さすがにデュエル挑んでくるだけあって多少はマシな動きするみたいね。」
「まあね、だけどまだまだこれからだよ。」
「上等じゃない、絶対勝ってやるわ。」
お互いに一歩も引かない攻防を見せる仁と沙耶、それとそれを見守る拓海。3人ともそれぞれ違う気持ちでこのデュエルに臨んでいるのだった。
今回も第6話無事終了しました。いかがでしたでしょうか?
ついに仁君と沙耶が真剣勝負です!仁は果たして勝つことができるのでしょうか?そして沙耶を入部させることができるのでしょうか?第7話に続きます。
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