Kikuduki is not your collection   作:ディム

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普段の(偽)の5倍ぐらい頭使った気がします。


プロローグ。「菊月はあなたのコレクションじゃない」、つまりまだデレてないってことだよね

 明るい照明に、それなりに豪華で清潔な調度品。照明を受けて木の色に光る、頑丈そうな机。部屋の中は静まり返っている。それは、部屋の外から本来聞こえるはずの喧騒がないだけでなく――この部屋の中心付近に佇む、一組の男女が原因だった。そう、今現在この部屋の中では、上品な造りの机を挟んで男と女が――もう少し正確に表現するならば、男と『年端もいかない童女』が向かい合っていた。

 

「さて……」

 

 先に口を開いたのは男の方。中肉中背。白い海軍服に身を包み、茶髪の頭には制帽をかぶっている。一目で軍属とわかる出で立ち。顔は十人並みだが、眉間に寄せた皺が男の身長と相まりそれを台無しにしていた。

 

「…………何だ?」

 

 対する童女の方は、男と比較してあまりにも小柄だった。120cm程度の身長に、体躯相当の肉付き。あどけなさの残る顔に凛とした表情を浮かべた、文句の無い美少女。しかし、その姿は異様でもあった。色素の抜けたような白髪に、赤い目。そしてそれらの醸し出す独特な雰囲気が、触れ難いような印象を表していた。

 そんな、接点など全く見つけられないような二人が机を挟んで向かい合っている――それが、今のこの部屋の状況だった。

あまりに素っ気ない童女の態度に気圧されした男が、しかし気を取り直して口を開く。童女の方は、それにまるで関心が無い様子だ。

 

「菊月、先の戦闘では良く活躍してくれたな。正直に言って、予想外の活躍だった。お前のお陰で、俺も、俺の鎮守府も命拾いしたと言っても過言じゃない」

「そうか。……いや、そうだな。ならば、私が戦った甲斐もあるというものだ……」

「ああ、感謝してもし足りない。で、だ。それについて、略式だが何か報償を与えようと思うのだが――菊月?」

 

 男は言葉の最後で、滲ませていた不適さをかき消して童女へと話しかける。机の上の書類を掴み、ひらひらと見せながらアピールする。しかし、話しかけられた童女は表情を変えないままに口を開き、

 

「……褒賞は不要だ……」

「――おいおい、それじゃ俺の気がすまない。何より、活躍にゃ褒賞をってのが決まりごとなんだ。信賞必罰って奴だな。今回は褒賞を与える奴はお前しか居ないが、だからと言って与えん訳にもいくまい。お前がどうこうってだけじゃないしな。他の艦に、活躍した際に褒美が与えられないって疑惑を持たれるのが問題なんでな。だから――命令の方が効きそうだな。なら命令だ、褒賞を取れ。選べ、菊月」

「……なら、半日の休暇を。……もう良いか?」

「あー、そうかい。分かったよ。こっちとしても、お前の無欲のお陰で楽だ。その上書類にもちゃんと褒賞記録を書けるからな。それでいい、下がりたきゃ下がれ」

「……休みは、必要だろう? 適度に休息をとらなければコンディションが低下する。作戦効率の観点から見ても、私の求める褒賞は間違っていないと思うが……」

「マジで無欲っつーか、なんつーか……まあいい、下がれ」

「……ああ。失礼する、司令官」

 

 童女は――『菊月』と呼ばれた彼女は振り返ることなく、男のいる部屋を後にした。自分に与えられたはずの報いも、男の表情の機微にも全く関心が無い――というよりも、自分の答えに対する男の反応の理由を理解しきれていない様子だった。最後まで不思議そうにしながら部屋を後にした菊月の、その姿を最後まで見届けて男は大きなため息をつく。首元の襟に付けられた、中佐の階級章にまるで似合わない動作だった。

 

「――ったく、あいつはどうしてこう面倒臭いんだろうなぁ。いや、普通に考えりゃ扱い易い駒なんだろうが……くそっ」

 

曲がりなりにも佐官であるにも関わらず、粗野な口調で悪態を吐く男。その男は、この軍事基地――通称『鎮守府』の最高指揮官。提督、という存在だ。

 

「はぁーあ。っくそ……いかん、愚痴が増えるな。……くそっ。折角こんな仕事でそれなりに長いことやって来たってのに、着任したての駆逐艦の一人ともコミュニケーション取れねえなんてな」

 

――まあ、あの無愛想にヒトの話を聞くつもりがあるかと言えば疑問にしかならないが。

 

舌打ちし、手に持った書類を机に叩きつける。本来ならば菊月に渡される筈だったその書類の用途は、持ち主が褒賞を受け取るに値する艦娘だと証明するためのもの。艦娘にとってはそれなり以上に重要で、手に入れたい筈のその書類は、正当な持ち主の手に渡ることなく提督の手汗でじっとりと湿っていた。

 

『ちょっと菊月、あんた大丈夫だった!?何もされてないっ!?』

『……?なんのことだ?』

『だから、あの司令官にセクハラとか身体タッチとか視姦されたりとかあられもない姿で写真を何枚も撮られたりとかしてないっ!?』

『……いや、別に……』

 

何時の間にか、鎮守府にはいつもの喧騒が戻っていた。わいわいと窓の外から聞こえてくる声に、ぎゃんぎゃんと喚く廊下の声。どれも甲高い女の声だ。部屋の前で大声で菊月に話しかけているのは、声からして叢雲だろうと提督は思う。

 

『……いや、これは弱みを握られて本当のことを話せないのだと看破したわ!提督をぶん殴ってやらないと――って、鍵ぃ!? こら! 開けなさいクソ提督っ!! こーらーっ!!』

 

よく見知った別の少女のような事を言い、声の主が扉を揺らしている。馬鹿野郎。誰が開けるか。そもそもお前は俺にちょっかいをかける口実を探しているだけだろう。そんな思いとは裏腹に、次第に軋む扉。冷や汗がたらりと落ちた。

 

『……その、お前。私は大丈夫だ、何もされていない……』

『いーや、あいつに限って何もってことは――』

『本当に、何も無かったのだが……』

『え、本当に?あの女の子と見れば鼻の下を伸ばすあの司令官が?――ってことは、あんたがそうなのかしら』

『…………?』

 

 廊下のみならず、起床時間を過ぎた今では鎮守府全体が騒がしくなりつつある。一分一秒と時が進むにつれて、起き出した艦娘達が鎮守府を歩き出すのが、提督には手に取るようにわかる。それらへの感慨は突破されそうな扉からの逃避とも言えなくも無かったが……扉は何時の間にか軋む音を収めていて、提督は大きく溜息をついた。

 

「あーあ。……あ、飯食うタイミング逃した」

 

 何時もは、提督は全体起床時間の前に食事を済ませている。なぜならその時間を迎えたあとは、食堂は埋め尽くされるからだ――数多の女性に。とても可愛らしい――個人的趣向が多分に含まれてはいるが――美幼女から、豊満で色香漂う美女まで。様々な女達がひしめき合うところに男一人だなんて、色々な意味で耐えられるわけが無い。必ず誰かに手を出し、そして制裁される。まるで三流小説の主人公か、さもなくば女子高の先生だろうか?下手な冗談。そんなものならばどれだけ良かったことか。

 

「先生、先生ね。……生徒にテッポウ持たせて、怪物退治に向かわせる先生が何処にいるよってな」

 

 何時の間にかまた握りしめて皺くちゃになっていた、菊月へ渡すはずだった書類をデスクに仕舞う。代わりに引き出してきた紙束から、抜き出すのは一枚のちっぽけな紙。作戦概要、とゴシック体で貼り付けられた、一枚の紙。この鎮守府に所属するすべての『生徒』を、容易く殺し得る紙である。

 

「……朝礼でこいつを読み上げて、全艦を作戦行動に移らせる。第一艦隊は出撃……南西か、残党だな。第二以下は遠征。ボーキサイトが足りん、いや何もかも足りない。潜水艦に頭下げて、少し働いて貰うか。控えは……全員演習。まだ練度が足りなさ過ぎる。――誰一人沈めたくねえんだ、恨まれたってやってやるさ……覚悟しておけ、艦娘ども」

 

 艦娘。提督の指揮する駒であり、人類へ牙を剥く怪物へのカウンター。女神だの兵士だの、人だの艦だの。騒ぎ立てる者はそれこそ五万といるが、この男にとっては――艦娘も、何処までいっても女の子であった。それが艦娘達にとってどれだけ嬉しいことが、提督には分からない。

 

「良し。……あ、菊月。あいつ、どうすっかなぁ。第一艦隊に組み込むのは流石にまだ色々厳しいし……秘書艦?いや、でも――」

 

立ち上がった拍子に舞い落ちる幾つかの書類は、考えに没頭する提督には気付かれずに散乱する。それらを無造作に踏みつけ、そのまま提督は部屋から出て行った。踏みつけられた紙の、そのうち一枚にはこう記されている。

 

『大規模作戦報告書。

大破、十三。中破、三十二。その他被害多数。消費資材は別紙参照。

敵撃破総数も別紙参照。高速修復材、枯渇。

 

轟沈ゼロ。

 

備考、ざまあみろ深海棲艦』

 

大本営に提出した書類の写しだ。提督である男にとっての目指すべき目標を達成することのできた、最高の戦果。しかし、男以外の提督からしてみれば――そう、『極めて異様な』戦果である。化け物じみた、と言い換えても良い。

問題となるのは『轟沈ゼロ』。この一部分こそが、提督の戦果の異常性を顕著に顕わしていた。

無論この地獄のような海で、一人も部下を死なせないなどと言うことは不可能だ。実際に提督も、数多くの艦娘が物言わぬ肉へと変わるところを目にしてきた。しかし、それでも。この『ラバウル基地』は、守りの要、南の最前線であることを加味した上で良くやっている(・・・・・・・)。負担と比較しての損耗率が低く、こと守勢、防衛に関してはエキスパートと言っても良い。ゆえに、この(・・)『菊月』がここへ回されてきたのだろう。

しかし――

 

――ああ。菊月くっそ可愛いなぁ。一緒に飯食いたいなぁ。

 

 何時の間にか、極めて反社会的かつ著しく非倫理的な妄想へと思考が流れていた男にとって、目下の最重要事項は本日以降継続してゆく作戦でもなんでもなく。白髪赤目の、おそらくまだ朝食を摂っていないであろう彼女を食事に誘えるかどうかであった。




続く、かは分からない。
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