破滅を望む者   作:十六夜 一哉

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~第一章 入学編~
episode01-001


その日は冷たい雨が降り注いでいる―――

大雨、というほどではないが地上へと降り注いでいる。その雨は―――燃え盛っている炎を沈静するように降り注いでいる。

暗い夜を照らさんばかりに火はどんどん大きくなり、和式の館を焼き尽くす。

 

「はぁ……!はぁ……!」

 

一人の青年が荒い息を繰り返しながら血の滲む脇腹を抑えている。

そしてその青年は他の魔法師とは違う特異な力が備わっていた。正確にはその血が流れる者だけが持つ力だ。

闇夜の中でも妖しげに輝く真紅の瞳。そして三つの黒い勾玉が紋様として浮かび上がっている。

 

「―――凄い粘るね。もう終わってるはずなんだけど」

 

燃えている民家から声が聞こえてくる。現れたのは黒い髪の少年、その佇まいや容姿は青年にどこか似ているように思わせる。そして同じ“眼”を持っている。

 

「貴様……玲治ッ!今なにやっているのか分かっているのかッッ!!」

 

修羅の如き表情となっている青年は玲治と呼んだ少年に殺気を送る。大怪我をしているというのに全く衰えが見えないその覇気に少々目を丸くしている。

 

「分かっているよ。今俺は―――家族を殺している」

 

「分かっていてなお、こんな事をするかっ……何を吹き込まれた!」

 

「別に何も。ただ、これは自分自身が決めた事だよ―――父さん」

 

玲治は父に軽薄な笑みを向けながら言う。

 

「自分で決めただと……?世迷言をっ……!」

 

「いいや、この件には『数字持ち』はおろか『師補十八家』も『十師族』ですら介入していない。接触はあったが、それまでさ」

 

玲治は血や雨で濡れた前髪を掻き上げ、黒い眼が青年と同じような禍々しい真紅の眼となった。

同じ魔眼なのに感じる力は全く違う。その事実に父である統治は歯噛みする。

 

「力に溺れた、というワケでも無さそうだ。普段のお前からしてみれば有り得ない」

 

「確かに有り得ないよ。俺は、俺の思うがままに行動している。それは今も変わらない」

 

「私たち家族を殺してまでもか……?」

 

怒りを抑えるようにして低い声で統治は問う。

 

「そうだ。むしろ殺さなくては俺の願いは成就できない」

 

「願い、だと……?」

 

「そう。俺の願いだ。いいや、こんなものを願いというにはおかしいな……野望、というのがしっくり来る」

 

バキバキッと支柱が完全に燃えたのか玲治の後ろにある屋敷が軋みながらどんどん崩れていく。真後ろに振り向きもせず、ただ統治と相対する。その眼には狂気も何も見つからない。自分の意思で、尚且つ人としての心を捨ててないのが統治には分かった。

だから尚更分からない。なぜこんな事をするのかが。

 

「俺たち裡葉(うちは)は古式魔法師の中でも異質だ。原典と言ってもいい。けどね、もうお呼びじゃないんだよ」

 

「……?」

 

統治は玲治が何を言いたいのかが分からずに疑問しか思い浮かばない。しかし、玲治の薄ら寒い笑みを見ていると、寒気が走る。

 

「俺たち裡葉はもう過去の栄華に縋るなんて無様な真似をしなくていい。今この世は現代魔法に向かいつつある。古式魔法師は退場すべきだとは思わない?」

 

一部例外はあるけど、と付け足す玲治の意図がようやく分かった。それゆえに驚愕を露わにしている。

 

「父さん、裡葉の権威は十師族に近いけど、はっきり言えば面倒極まりないんだよね。俺たち裡葉には『写輪眼』という眼があるから尚更、ね」

 

裡葉の血を引く物にしか発現しない特異な眼『写輪眼』。その眼はあまりに万能過ぎた。その眼は裡葉の血を引いていなくても十分に使えるのだ。“眼”の欲しさに狙ってくる連中は後を絶たない。それほど魔法師にとっては魅力的な能力を兼ね揃えているのだ。

 

「これ以上他の愚者に眼を渡したく無いんだよね。まあ殆どの血縁者は色んな血が混ざり過ぎたのか開眼した者はかなり少ないけど」

 

「それは私も思っていることだ……だからこそ守っている」

 

「守っている、ね……」

 

統治の言葉に玲治は落胆を込めて呟く。

 

「―――ご退場願おう裡葉統治。あなたは国家転覆しかねない。あなたの野望はここで終わりだ」

 

殺意と共に玲治の写輪眼に変化が訪れる。写輪眼の特徴である三つ巴がゆっくりと回転し始め、通常とは異なる眼となった。

 

「……ふざけるな」

 

統治は俯いたまま呟くため、どんな表情をしているのか分からないが大体察しが付く。

 

「私の野望は誰にも止めるさせはしないっ!!」

 

憤怒を露わにして玲治を睨みつける統治の写輪眼にも変化が訪れる。玲治と同じように三つ巴が回転していき、やがて三つの突起物のような紋様へと変わる。

 

「貴様を殺すッ!邪魔だぁぁぁっ!」

 

その怒りに呼応するように統治から浅紫色の炎のような揺らめきが噴き出した。その炎はやがて骨を形成し人の形を取り始めた。統治を覆うようにして現れた巨大な霊体の像は膨大なエネルギーで構成されているのが分かる。

 

「……なんだ、父さんもそっち(・・・)まで開眼してたのか。差し詰め母さんの死かな?」

 

「―――ッ!?ど、どうしてお前がその事を知っている!?」

 

それ以前に、なぜお前もその“眼”を持っている?との疑問も浮かび上がっていく。

 

「俺も開眼した理由か……さぁ、なんでだろうねぇ」

 

残虐な笑みを浮かべるのと同時に玲治の体からも蒼いオーラが噴き出し、人の形を取っていく。その事実に絶句する統治を見て優しげな笑みを浮かべる。

 

「さよなら、父さん。この世界には裡葉は要らないんだ」

 

 

 

 

 

玲治の眼の紋様は最初の写輪眼へと戻っている。悲しげに下を見つめる先には左肩から右脇腹まで一刀の元に斬られた後を残して絶命している統治だ。

 

「世界はままならないものだ。父さんもクーデターを企まなければこんな事にならなかったのに」

 

後ろを振り返ると、既に焼き尽くした後の屋敷がある。僅かに目を細めて苛立し気に舌打ちする。

 

「だとしても俺はお前の事が嫌いだから結局は殺していたかもな」

 

物言わぬ肉体と成った統治の脇腹を思いっきり踏む。そして、あくどい笑みを浮かべる。

 

「まあいい。そんなお前にも役に立つ事がある。俺の眼となり、未来永劫礎となれ」

 

玲治の指が統治の眼へとゆっくり近付いていき―――抉り出した。

そのまま懐から特殊な液体に満たされた容器に放り込む。両の眼を入れたのを確認した玲治は蓋を閉め、屋敷の方へと足を運ぶ。炭となった骨組みを『青い巨大な骸の腕』で薙ぎ払って吹き飛ばした。そこには一つの鋼鉄の蓋が地面に在った。玲治は屈んで思いっきり持ち上げる。

その下には地下に続く階段があった。

コンクリの階段を降りて行き、また重々しい扉がある。

 

「これでやっと、報われるか……」

 

鍵が幾重にも掛かっているが、面倒なのが原子レベルにまで『分解』して扉を失くす。

その先には一体何が待っていると言われると―――ただの部屋だった。

十二畳ほどの小さな畳の部屋があり、敷布団や木製の机と言った生活感に溢れている場所だった。

そんな布団の上には一人の少女が眠っていた。いや、丁度起きたらしく、眠い目を擦りながら上半身を起こした。

 

「起きたか、さくら」

 

「……兄さん?どうしてここに?」

 

きょとんとしながらさくらは小首を傾げている。相変わらず無垢な少女であるさくらに苦笑しつつも内心で統治に怒りを覚える。さくらを此処に閉じ込めたのは他でも無い統治だったからだ。

 

「いや、賊に襲われてね。しかも今回はやたらと強かったらしく、父さんが死んだ」

 

「統治さんが……そう、ですか」

 

さくらは端整な顔立ちを悲しげに歪ませている。

玲治はウソの情報を流した。一家皆殺しにしたのさくらの目の前にいる玲治だ。しかし、ここまで音が届かないように完全防音となっているから、さくらは玲治のいう事を信じるしかない。

 

(あの屑を殺して正解だったな。このままでは、さくらの貞操が危ない)

 

血に、力に固執し過ぎた裡葉一族は世間でも禁忌に等しい行為を行おうとした―――近親相姦だ。

実の娘を犯して子を成そうとさせる狂った統治を玲治は幾度無く殺そうとしていた。不幸中の幸いなのが、統治にそんな趣味が無かったおかげで今の今まで手を出していなかった事だ。

さくらは世間の事を何も知らずにただ父と子を成すことしか教えられていなかった。それが普通だと思っているし、嫌悪するべき事ではないと思っている。一種の洗脳教育に近い。

しかし、そんな牢獄のような生活は終わりだ。玲治が立った今終わらせた。

 

「さくら、外に興味は無いか?」

 

「外ですか?兄さんの話を聞いて興味が湧いています」

 

本来さくらと会おうにも監視役がいて余計な真似や知識を吹き込まないように見張る存在が要るのだが、生来から異質だった玲治は写輪眼で監視役を幻術に掛けたりしていた。

そのため、さくらには統治でいう余計な知識をたくさん持っている。

 

さくらは目を輝かせながら、玲治の事を見つめてくる。可愛らしい妹を抱き締め、優しく頭を撫でる。

 

「お前は自由だ。まあ自由って言われてもピンと来ないか。俺と一緒に暮らさないか」

 

「ちょっと不安ですけど、頑張りますっ」

 

さくらは期待と不安半々という感じだ。

元々こんな事をしたのはさくらを助け出すためでもある。というより一応は血の繋がっている妹が親に犯されて子を成すなんて行為を兄として見過ごせない。開眼したのを今日この日まで秘匿していた甲斐があったというものだ。

所詮は自分自身のエゴだと分かっていても、さくらには自由になってほしかったのだ。

 

「じゃあ行くか」

 

「はいっ。これからよろしくお願いします、兄さん」

 

 

 

 

 

 

その日、裡葉一族の殆どが死んだことは、魔法師の名家では有名な事件として衝撃的なニュースとして魔法界隈で流れた。

 

 

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