破滅を望む者   作:十六夜 一哉

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episode01-005

登校してきた玲治とさくらは自分の教室であるA組へと入る。

入ってきた玲治たちを見ては驚いている。なぜ驚いているのかがわからないが深雪の知り合いという事とさくらの容姿だろうと推測した。自分の席に座り、携帯端末を取り出そうとした時、声を掛けられた。

 

「お、おはようございます、玲治さん!」

 

「おはよう、玲治さん、さくら」

 

声の主は前日講堂で自己紹介した雫とほのかだった。

 

「おはよう、雫、ほのか。相変わらず元気だな」

 

「おはようございます、雫、ほのか」

 

「おはよう、さくらさん」

 

席的には「う」と「き」と「み」。雫は丁度隣の席でほのかだけが少々離れている。しかし、この二人は中々固い絆で結ばれているようで、始まるまで話していたようだ。

 

「ほのか、お前は緊張するなよ」

 

「え、えぇ!?」

 

「……ほのかは何でそこで驚いているのです?」

 

なぜか驚いているほのかにさくらは疑問に思っている。かくいう玲治も昨日で結構打ち解けたと思ったから、結構心にくる。

 

「私たちは友人ですからもっと肩を楽にしてください。雫と話しているように」

 

「え、えっと……」

 

わたわたしているほのかを眺めながら近くにいた雫に声を掛ける。

 

「ほのかって人見知りなのか?」

 

「うん。ちょっと上がり症……というより、二人の容姿が優れているからと思う」

 

「ん……?容姿の問題?」

 

玲治は首を傾げる。さくらに関しては言わなくてもわかるが、なぜ自分に緊張するのかが分からない。もしかして異性と話すのは苦手なのか、と見当違いな方向へと思考が逸れてしまった。その事に雫が気づくはずも無く、会話を続ける。

 

「んー……ほのかとどうやって打ち解けれるようになれるのか良い案あるか?」

 

「それなら時間が解決してくれると思うよ。ほのかも玲治くんたちと仲良くしたいっていつも言ってるし」

 

「ちょっと雫!何言ってるのっ!?」

 

二人の会話が聞こえていたのか、ほのかが顔を真っ赤にして雫を非難するような声を上げる。一方雫はいつものポーカーフェイスを崩さずに「ほのかに任せてると二週間くらい掛かるから」と言うと、気まずそうにほのかは視線を逸らした。

 

「そうだったのですか。ほのかって恥かしがり屋さん?」

 

「それならこっちからもお願いする。仲良くして欲しい」

 

「うぅ……っ」

 

ほのかは玲治とさくらの温かい視線に居た堪れない気持ちになってしまったようで、俯いている。

そんな羞恥心いっぱいなほのかの肩に手を置く雫。

 

「ほのか、元気出して」

 

「元々雫のせいでしょ!」

 

きゃー!わー!、とほのかは雫に八つ当たりっぽく叫んでいる。

本当に仲が良い二人を見て苦笑したあと机の端末にISカードをセットしてインフォーメーションのチェックを始める。

キーボードオンリーの高速タイピングで受講登録を一気に打ち込む。この技術は達也と一緒にCADについて話し合ったり、色々と作っているときに身に付いた技術である。さくらもそこそこ出来るが、玲治たち程ではない。

 

「これでよしっ、と」

 

カタン、とキーを叩いて終わらせる。顔を上げると雫とほのかが目を丸くしてこっちを見ていた。

 

「どうした、そんな鳩が魔法をくらったような顔をして」

 

「それ、鳩死んでますよ、兄さん」

 

「冗談だ。ふむ、面白くなかったか……中々難しいな」

 

中々にズレている会話をしている兄妹。

 

「玲治さん凄いですねっ、あんな速く打てるなんて!」

 

「というより、キーボードオンリーで入力する人が珍しい」

 

先ほどの冗談は無かったように会話を進める二人にちょっと悲しくなった。今度はもっと良いネタを考えようと、内心で決意する。

 

「兄さんはCADを調整(チューニング)が出来るんですよ。超一流です!」

 

玲治が褒められているのになぜか胸を張るさくら。兄である玲治が褒められるのは、自分が褒められるよりか嬉しいのだろう。さくらの笑顔を見てたら、ツッコム気力が失せたから、そのまま会話を続ける事にした。

 

「俺は一応魔法技師を目指しているし、出来て当然って所だな」

 

「一科生なのに魔法技師志望なんですかっ!?」

 

ほのかが驚くのも無理は無い。一科生といえば魔法師の卵であり、魔法技師を志望するものは殆どいないと言っても過言では無い。一科生から魔法技師に行くのは、何かしらの事情がある人くらいだ。

 

「俺って古式魔法の使い手だし、魔法師に興味ないんだよなぁ」

 

「じゃあなんで、一高に入学したの?」

 

雫の疑問は最もだ。普通魔法師になるために入学する一高に入学するのはおかしい。玲治にも色々と理由があるのだが、その中でも最たる理由がある。それは、

 

「―――さくらは一高に行きたいと言うから俺も入学しただけだ」

 

妹に一緒に行こうと言われたからである。可愛い妹に『涙目での上目遣い』で抱きつかれてしまったら断れるわけない、というのがその時の玲治の心情だ。

雫とほのかは玲治の入学理由を聞いて一つ確信した事がある。

 

―――この人、極度のシスコンだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

四人ともインフォーメーションをチェックして雑談を交わしている時、A組全体の空気が変わった。重くなったとかそういうのではなく、有名人が来たような浮き足立ったような甘い雰囲気だ。玲治とさくらは呆れたように額に手を当て、ほのかと雫は何事かと教室のドアを見る。

教室に入ってきたのは、玲治とさくらの親友であり、主席入学者である深雪だ。彼女が放つオーラで男女分け隔て無く魅了する深雪は、中学の時と全く変わらない。さらに磨きが掛かったような気もする。

 

「司波さんだ……凄い綺麗だね」

 

「うん。なんか嫉妬するのが馬鹿らしくなるね」

 

ほのかはすでに手遅れなようでぽーっと深雪に熱い視線を送っている。雫は深雪を前にしてもポーカーフェイスなのに玲治は驚いた。達也並みの鉄仮面かもしれない。

 

「まあ、アイツは才色兼備を地で行くような奴だし、中学に入ってからは嫉妬も多々あったが、所詮は陰口しか叩けない奴ばかりだし」

 

「直接手を出せば兄さんと達也が黙ってないですし、仕方ないですよ」

 

中学時代はさくらも深雪もその容姿で相当な人気があった。しかし、玲治と達也という強力なボディガードが居たため、直接的な嫌がらせは無かった。深雪のオーラに気後れしてそんなこと出来ないと思うが。

魔法科高校は一般人とは毛色が違うので、嫉妬は無いだろうというのが玲治と達也の見解だ。むしろ同じクラスなのを誇りにもつだろう。

 

「そう言えば、玲治さんとさくらって司波さんと友達なの?」

 

「中学からの付き合いだ。ふむ、丁度良いしお前らにも紹介しておくか」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと待って下さい!心の準備が―――」

 

「おーい、深雪ちょっと来い」

 

ほのかの事なんて軽くスルーして深雪を呼ぶ。後ろでほのかが声にならない悲鳴を上げているが無視だ。

玲治の深雪を呼ぶ声が教室内で響いたらしく、ほぼ全員こっちを見る。深雪をちょっと驚いたように目を丸くしたが、すぐに軽く微笑んで席を立ってこっちまで来た。

 

「急に私を呼んだけど、どうかしたのかしら?」

 

「いやなに、俺とさくらの友人でも紹介しようかとね」

 

「友人……?もしかしてそちらのお二人が?」

 

深雪の視線は顔を赤くして混乱しまくっているほのかととそれを抑える雫がいた。そこまで緊張するものなのだろうか。

 

「ほのか、自己紹介するチャンスですよ」

 

さくらが横からほのかに声を掛ける。そこで正気に戻ったのか、ちょっと落ち着いてきていた。

息を深く吸ってを繰り返してからほのかが自己紹介を始めた。

 

「あ、あの!私は光井ほのかです!よろしくお願いしますっ!」

 

「司波深雪です。こちらこそ仲良くしてくださいね」

 

「は、はい!」

 

感極まったように喜ぶほのかは、見ていて面白い。こういう性格の人は近くにいなかったから新鮮だ。

 

「ほら、雫も自己紹介しなってば!」

 

「……押さないで、ほのか」

 

深雪の前に立たされた雫はほのかの強引さに呆れながらも深雪に軽く頭を下げる。

 

「北山雫です。お名前はかねがね―――それとほのかが司波さんのファンなんです」

 

「―――へっ!?」

 

まさか自分の話題が出てくるとは思わなかったほのかは思わず声を上げてしまう。これは雫の意趣返しのつもりなのだろう。もしくは善意半分悪戯半分か。

 

「……?すいません。どこかでお会いしたことありましたっけ?」

 

「試験会場で一緒だったみたいで、そこで一目惚れしたようですよ」

 

「やや、止めてよっ!恥かしいーっ!!」

 

隠していた心情が暴露されて滅茶苦茶慌てるほのか。くすくすと笑いながら二人のじゃれ合いを見ている深雪に玲治は話しかける。

 

「中々面白いだろ?」

 

「ええ、良い友人に巡り合えたわ」

 

「私たちって四人一緒が基本でしたからね」

 

中学校の友人と言えば達也と深雪くらいだ。あと付き合い程度で遊んでいただけ。

 

「さくらは玲治に近付く女性は嫌だったのでは?」

 

「……色々あったんです」

 

今まで玲治に近付く女性の殆どが淫らな関係を求めていた。講堂では若干警戒していたさくらだが、二人がそんな人物じゃないとわかったら兄の友人になることを認めた。

玲治が気づけば「お前、いったい俺のなんだよ……」と呆れる事だろう。さくらの答えはもう言わずもがな。そんなさくらが気を許したののが珍しいそうで、深雪は微笑ましそうにさくらを見ている。

 

「……なんですか、その笑顔は。言いたい事があるのでしたら、はっきり言って下さい」

 

「何でもないわ。ええ、本当に何でもないの」

 

「絶対にあるでしょう……」

 

笑みを崩さない深雪にさくらは視線を逸らす。

 

「しかし……視線がもの凄い集まってるなぁ」

 

独り言のように呟きながら軽く周囲を見渡す。男子からは殺意一歩手前の嫉妬の嵐だ。女子生徒に関しては色々な視線を感じる。

美少女四人の侍らせているのだから当然の反応だ。さくらと深雪はもちろん、ほのかも雫も美少女の部類に入る。その中に混じっている玲治に男子たちが嫉妬するのも分かる。一部の女子たちが玲治に熱っぽい眼差しで見ているのだが、それに気づく事はなかった。

 

「深雪、あなたには言われたくないです」

 

「それはどういう意味で?」

 

「分かっているでしょう?あぁ、今頃達也は同じクラスの女子たちと仲睦まじく話し合っているでしょうね」

 

ぴくっと深雪の肩が僅かに跳ねる。誰にも気付かない一瞬だったが、さくらは見逃すはずもなく、にやりと悪い笑みを浮かべている。

 

「……なにやってんだ、アイツら」

 

二人のやり取りを見て呆れたようにため息を吐く。

 

 

 

オリエンテーションが終わり、専門授業の見学へと移った。

 

「専門授業か……面倒だなぁ……」

 

「兄さん、ちゃんと行かないと教師からお小言もらいますよ。あと現代魔法のためになりますし」

 

玲治の呟きに答えたのが、前の席に座っているさくらだ。

確かに、他の一科生には魅力的な見学時間だろう。しかし、ある意味で現代魔法ですら使いこなす玲治にとっては不要極まりない。

しかし、さくらは玲治のように忍術や古式魔法ではなく現代魔法が分野だから、一緒に付き合うことにする。

一応は深雪たちを誘おうと後ろを見たが、

 

「ちょっといいですか、司波さん!」

 

他のA組の生徒の方が早かったらしく、深雪の席の側には男子生徒数人がいた。その近くではほのかが「出遅れたっ!?」という表情をしている。

 

「司波さんはどちらを回る予定ですか?」

 

「私は先生について……」

 

「奇遇ですね!僕もです!やっぱり一科なら引率してもらう方がいいですよね!補欠と工作なんてやってられませんよね!」

 

「いえ、そういうわけでは……」

 

何か自慢げに言っている生徒だが、深雪は一科生至上主義者でもないため、賛同できない。だが、普段は猫被り?をしている深雪は言い淀むしかなかった。

 

「何あれ?ちょっと言い過ぎじゃないの?」

 

ほのかと一緒に此方に来た雫は眉を顰めて不機嫌を露わにしている。

 

「ほう……雫は二科生を差別しないのか?」

 

「うん、確かに私は一科生に誇りを持っているけど、あんな風にはなりたくないな」

 

深雪に話しかけている男子生徒は、一科生に多数存在する二科生をウィードやスペアと蔑んでいる典型的な魔法師だ。親愛なる兄が二科生にある今、そんな侮蔑を聞きたいくないだろう。

 

「……どうしようかねぇ」

 

「その必要ないかも」

 

ん?と疑問に思っていると、深雪と男子生徒に身体を割り込んで生徒がいた―――ほのかである。

 

「だったらもう集合場所に急がないといけませんね!」

 

「ええ、そうですね。行きましょう光井さん」

 

渡りに船だったようだ。深雪はほのかに連れられ、教室に出て行こうとしていく過程で此方に来て雫を誘っていた。玲治は他のクラスメイトと親睦を深めた方がいいと思って手を振って、

 

「玲治さんも行くんですよ!」

 

「……マジ?」

 

ガシ、とほのかに手を掴まれた。

 

「うん、玲治さんも行こうよ」

 

反対の手も雫に掴まれてしまい、逃げ道は完全に塞がれた。深雪は口に手を当てて微笑ましそうに見ていた。

 

「おい、さくら、深雪―――」

 

「玲治くんも行きましょう。大勢の方がいいじゃない?」

 

「兄さんが来るのは当たり前です。むしろ兄さんが居なくては行く意味ありません」

 

「……分かったよ。はぁ……」

 

玲治は半ば引き摺られる形で、A組から出た。その際、唐突にほのかに割り込まれ、誘う事が出来なかったA組男子生徒はポカン、と口を開けて立っていた。

 

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