初執筆、初投稿とかなり冒険してみました。
楽しく読んでいただければ幸いです。
質量持ったソリッド・ビジョンの開発、それによって生まれたアクションデュエルによって、独自の発展を遂げた舞網市。
世界でも有数の決闘都市となったこの場所には、自らの腕を試すため、己の野望を果たすため、絶えず強者達が集まってくる。
町中には至るところにデュエル塾の広告が貼り出され若きデュエリスト達の興味を惹き、市の中心では天高くそびえるLDSのタワーが、象徴としてその威光を放っていた。
デュエル塾の数の多さからも分かるように、舞網市に住む児童生徒のほとんどはデュエルを学んでいる。
その目的は様々であり、例えば趣味として楽しむ者もいれば、職業としてプロを目指す者、あるいはコミュニケーションツールとして社会に出てから役立てるために身に付けようとする者もいる。
デュエルをする目的は人それぞれだが、舞網のデュエリストには皆共通するものがあった。デュエルを楽しむ心だ。
アクションデュエルのスター、榊遊勝の魅せるエンタメデュエルをきっかけとして、それまで危険さと勝ち負けのみで成り立っていたアクションデュエルは、迫力と熱い勝負を与えるエンターテイメントへと姿を変えた。
人々の中にはデュエルを楽しむ心が芽生え、そのエンタメを見て育った子供達には、デュエルで人を楽しませることを目標にする動きが生まれつつあった。
しかし今、舞網全体にデュエルを愛する良い空気が溢れる中で善からぬことを企む闇がある。それはLDSタワーの光に潜んでいる訳ではない。
この世界とは次元を別にした、交わることさえできない場所にはびこる邪悪から吹き出したものだった。
世界一つを飲み込み尚も膨張し続けるその闇は、やがて舞網に大いなる災いもたらすことになるのだろうか。それはまだわからない。
一つ確実に言えるのは、デュエリスト達のもたらす笑顔の裏で、それを奪おうとする勢力が着々と力をのばいているということだ。
舞網に静かに脅威が迫るなか、新たにこの地へ足を踏み入れた一人のデュエリストがいた。
新品のスカートをギリギリまで捲り上げ、堅苦しいブレザーは着ないで腰に巻くその少女は、髪に着けた大きな花のコサージュを光らせ、自身が通うことになった舞網東高校の門の前に立つ。
桜舞う四月。この場所から新たなデュエルが始まるという希望を胸に宿す彼女の名前は御剣 風華。
デュエリストとしてある不思議な資質を秘めた風華。彼女がデュエルをする理由はただ一つ、デュエルを楽しむためだ。未知なるデュエリストとの心踊るデュエル。この舞網ならそれを思う存分味わうことができる。
心地よい風が吹き、これからの楽しみに期待を膨らませ満足げにニッと笑うと、風華は新たな出会いの待つ学校へと足を進めていった。
「ちょっと待ちなさい、そこのあなた。」
気分よく歩き始めて約三歩。腕章をつけたメガネ女がワタシを呼び止めた。るんるんな気分を速攻で妨げられて、思わずずっこけそうになってしまう。
ったく、調子くるっちまうぜ。
「何だい、この清々しい青空に似合わないシケた面してさ。ワタシに何か用?」
「勿論あります。あなた制服を何だと思っているの?入学初日にまさかそんな格好で登校する人がいるとは思わなかったわ。」
メガネ女はどうやら生徒会のやつらしい。校門で新入生に挨拶しながら、ワタシみたいな奴にチェックを入れてるんだろう。
まあ言われるだろうな、とは思っていたからメガネ女の嫌みったらしい言い方も特に気にならなかった。ワタシが平然としていると、メガネ女はさらに表情を険しくして言ってきた。
「それとその髪飾りも派手すぎです。入学式にその姿で参加することは認められませんから。」
「そりゃないぜメガネ女先輩。ブレザーはともかく髪は別に良いだろ?」
「そんなこと知りません。」
つーんとそっぽを向くメガネ女。 うわ、ぶりっこ。そういうのは男の前でやれ、ワタシにやってどうする。
しかし、頑として動かないその女を退かさなければどうやらワタシは学校へ行けないみたいだ。それなら、やることは一つしかないな。
「だったらメガネ女先輩。ワタシとデュエルしよう。」
「デュエル・・・?」
メガネ女のメガネがキランと輝く。いや、輝いた気がする。
「そうさ。あんたが勝ったらワタシは着替えるしコサージュもはずす。ワタシが勝ったらそこを通してもらう。それでどう?」
ワタシの提案に少し考え込むメガネ女。何かを思い付いたのか、ニヤッと笑ってこっちを見て言う。
「いいえ、それだけではダメよ。」
「あん?」
「ワタシが勝ったら、これから毎日ワタシのメガネを磨きなさい。」
・・・。イラッ。
「さあ、どうするの!?」
「上等だ、いくぞ!」
二人そろって、デュエルディスクを装着する。小型のリアルソリッド・ビジョンシステムを搭載したディスクから、ソリッド・ビジョンのプレートが出現した。
デュエル!!
HUKA LP4000
VS
MEGANE LP4000
デュエルが始まった。舞網についてから初めてのデュエル。相手は一体どんなカードを使うのか。どれくらいワタシのデュエルは通用するのか。そんな考えが頭の中で踊り始める。
うんうん、このワクワクのためだけでも引っ越してきた甲斐はあるってもんだ。
「先攻はワタシだ、ワタシのターン!モンスターをセット、カードを一枚伏せて、ターンエンド。」
「私のターン。私は手札からこのモンスターを特殊召喚します!」
ソリッド・ビジョンの光の中に、モンスターの姿が浮かび上がる。
「サイバー・ドラゴン!」
現れたモンスターが、その牙をワタシに向け尖らせる。
「さらに、死霊騎士デスカリバー・ナイトを召喚!」
漆黒の亡霊が嘶きと共にフィールドを踏み鳴らす。
こっ、これはサイカリバーの布陣・・・!
スタンダードデッキの王道にして覇道、一時代を築いた強力デッキ。なるほど、これが舞網のデュエルか。
「あんた、見かけによらず良いカードを使うじゃないか。ちょっと見直した。」
「ふふ、生意気な態度も今のうちです。」
メガネ女がメガネをくいっとあげる。腹立つなぁ、あの動き。
「バトル!デスカリバー・ナイトでモンスターに攻撃します!」
死霊騎士の剣がセットされたカードを切り裂く。反転して現れたモンスターが、塵となって消えていく。
「さらに、サイバー・ドラゴンでダイレクトアタック!」
「くっ・・・!」
HUKA LP4000→1900
竜の口から吐かれた熱線がワタシに降り注ぐ。リアルソリッド・ビジョンではないから衝撃は来ないが、それでも思わず声が出てしまった。
メガネ女はしたり顔でメガネをくいくいして、ふふんと鼻息を漏らしている。なんて憎たらしい奴・・・!
「私はカードを三枚伏せてターンエンドです。さ、この状況でどうしますか、下品な新入生さん?」
「へっ、まだまだ。ここからだろ、楽しいのはさ。ワタシのターン!」
カードを一枚ドローする。よし、これでいける。
「まずはリバースカードオープン!リビングデッドの呼び声。」
伏せてあったカードのソリッド・ビジョンが立てられて、相手に絵柄が公表される。
「自分の墓地からモンスターを一体、特殊召喚する!」
「許可できません!トラップ発動、砂塵の大竜巻!あなたの魔法・罠を一枚破壊させてもらいます!」
発動したばかりのリビングデッドの呼び声が砕け散る。
よし、これでいい。
「ならこれだ、ワタシは手札からギラギランサーを特殊召喚!このカードもサイバー・ドラゴンと同じ効果で特殊召喚できる。」
(ギラギランサー!なるほど、そういうことですか。)
現れたモンスターを見て、何かを思い付くメガネ女。しばらくの間動きを止めている。さあ、乗ってこいメガネ女、そのメガネかち割ってやる!
(先ほど倒したのはレベル・スティーラー。モンスターのレベルを一つ下げ墓地から蘇る効果がある。その効果でデスカリバー・ナイトを排除し、さらに生け贄を用意しようというつもりでしょうが・・・。)
「そうはいきません、罠発動、奈落の落とし穴!特殊召喚された攻撃力1500以上のモンスターを破壊して除外します!」
来たな。ここからが勝負だ!
「こっちの台詞だ!速攻魔法、収縮!モンスターの元々の攻撃力を半分にする。これで奈落には落ちない!」
「ぐぬぬ、絶対絶対認めません!罠発動、鳳翼の爆風!手札を一枚捨てて、あなたのフィールドのカードを一枚、デッキの一番上に戻させてもらいます。消えなさいギラギランサー!」
「しつけえぞ!速攻魔法発動、禁じられた聖槍!モンスターを一体選択して、このターン他の魔法・罠の効果を受けなくさせる。消えるなギラギランサー!」
フィールドに降り立ったギラギランサーが二本の槍を奮い、暴風を引き裂き落とし穴を華麗にジャンプして回避する。
「なっ、なんですって・・・!」
自分の仕掛けた罠を全てかわされ、ショックのあまりメガネがずり落ちてしまうメガネ女。この勝負、いける!
「へっ。あんたの読みは正しいよ、メガネ女先輩。ワタシは墓地の、レベル・スティーラーの効果発動。自分フィールドのレベル5以上のモンスターのレベルを一つ下げ、墓地から特殊召喚できる!」
「ぐっ・・・!デスカリバー・ナイトの効果発動。このカードをリリースして、モンスターの効果の発動を無効にして破壊しなければならない・・・。」
地面からピョコっとフィールドに顔を出したてんとう虫が、デスカリバー・ナイトに掴まれ、地中に引きずり込まれる。
「・・・だが、再びレベル・スティーラーの効果発動。ギラギランサーのレベルを一つ下げ、墓地から特殊召喚!」
てんとう虫が今度こそフィールドに完全に姿を現す。よし、これで生け贄が二体揃った。
見せてやる、ワタシのエースモンスターを!
「いくぜ、ワタシは二体のモンスターをリリースして、アドバンス召喚!」
巻き起こる風が二体のモンスターを包み、新たな姿へと変える。
「来い、ウインド・ブレイダー!」
ウインド・ブレイダー
効果モンスター
星7/風属性/戦士族/ATK2500/DEF2000
ソリッド・ビジョンが完成し、光の粒を零れさせながらモンスターがフィールドに舞い降りる。鎧、剣、翼。全てが純白に彩られた、美しいモンスターだ。
その輝きに思わずみとれていたのが恥ずかしかったのか、メガネ女が慌てて悪態をついてくる。
「ウインド・ブレイダー・・・。ほうほう、あなたには似つかわしくない、素敵なモンスターじゃないですか。」
「るっせえ!いちいち言わなくて良いんだよ、そういうのは!」
またあの腹立つポーズをしているが、今度のは悔し紛れだ、たぶん。
「ワタシはもう一度レベル・スティーラーの効果を発動。ウインド・ブレイダーのレベルを下げて特殊召喚。」
よし、このターンで決着をつける。ワタシとこいつならきっとできる。一度深呼吸をしてから、ワタシはメガネ女に宣言した。
「バトルだ!いくぜ、ウインド・ブレイダーでサイバー・ドラゴンに攻撃!」
白の剣士は翼をはためかせて宙に舞った。剣を握りしめ機械竜に狙いを定める。
「この瞬間、ウインド・ブレイダーの効果発動!このカードの攻撃宣言時に、デッキをシャッフルしてから一枚ドローできる!」
ワタシはオートシャッフルの終わったデッキに手をかけ、続けて効果読み上げる。
「この効果を発動した場合、ワタシはバトルフェイズ終了時に手札を一枚デッキに戻さなければならない。」
「このタイミングで手札の入れ替えですか?それで一体何を・・・。」
メガネ女は未知なるカードの効果に不安げに後ずさっている。
「入れ替えなんてしないよ。」
「え?」
「見てな、ドロー!」
ワタシはデッキから一枚引く。同時に、ウインド・ブレイダーが急降下してサイバー・ドラゴンに斬りかかった。
機械の体が真っ二つになり爆発が起こる。
「うっ・・・!」
MEGANE LP4000→3600
これで、メガネ女の手札、フィールドにカードはなくなった。ワタシはドローしたカードを確認して、勝利を確信する。
「ワタシは速攻魔法、疾風連撃を発動!」
「また速攻魔法・・・!そうか、バトルフェイズに手札から発動できる速攻魔法ならデメリットを気にせずドローできる・・・。」
追い風が吹き抜け、再びウインド・ブレイダーが攻撃体勢に入り羽ばたいた。ワタシは発動したカードを相手に説明する。
「レベル7以上の風属性モンスターが相手モンスターと戦闘を行った場合、そのモンスターでもう一度だけ続けて攻撃できる!」
「連続攻撃!ま、まずい・・・。」
メガネ女の表情から、彼女が何を思っているか想像がつく。この人、やっぱり結構強いんだよな。
「もうわかっているだろ?ウインド・ブレイダーでもう一度攻撃。」
「ぐっ、そして効果が発動する・・・!」
「そうだ、この効果でワタシはデッキから一枚ドローする!」
(私のライフは残り3600。ウインドとスティーラーのダイレクトを受けても500残る。でも・・・)
ワタシがデッキに手をかけるのを見て、メガネ女は震え声でワタシに叫んできた。
「引くと言うんですか、攻撃力を上げるカードを。このタイミングで発動できるカードを!」
「引くさ。それがワタシのデッキだからな。」
「できるわけない、そんなこと・・・。」
「引ける。ワタシのデュエルはいつだって、止まることなき疾風怒濤!」
ワタシはカードを引く。来る。必ず、何か良い感じのカードが来てくれる!
「ドロー!」
恐る恐る、ワタシは引いたカードを確かめる。
「・・・!ワタシは・・・。」
手札に加わったカードをディスクに叩きつける。よし、最高のカードを引いた!
「速攻魔法、突進を発動!」
「突進!?」
「ウインド・ブレイダーの攻撃力を700アップする!」
「ま、まさか、そんな・・・。」
メガネ女は、予想を上回る猛攻に完全に意気消沈してしまったようだ。
ワタシは無慈悲に戦士に攻撃の合図を送る。
「バトルは続行だ、ウインド・ブレイダーでダイレクトアタック!烈風一閃!」
剣から放たれた斬撃がメガネ女のどてっ腹に直撃する。リアルソリッド・ビジョンじゃないのが残念なところだ。
MEGANE LP3600→400
「そして、レベル・スティーラーでダイレクトアタックだ!」
巨大てんとう虫が少女に襲いかかる。お約束とばかりに、メガネ女は断末魔の悲鳴をあげ後ろに吹っ飛んだ。
「きゃあああああ・・・!」
MEGANE LP 0
「ワタシの勝ちだ、メガネ女先輩!」
地面に崩れ落ちた先輩にワタシは歩み寄って手をさしのべた。
「良いデュエルだったな、またやろう。」
ところが、メガネ女はその手は取らず自分で立ち上がると、キーっと肩を震わせて走り去ってしまった。
呆気にとられてワタシがその背中を見つめていると、ちょっと行ったところで立ち止まって、こっちを向いて叫んできた。
「今度は絶対負けませんからね!そしたら絶対、その飾りひっぺがしてやるんだから、覚えときなさい!」
「はいはい、わかってるよ。またいつでもデュエルしよう。」
おもしろい人だなぁ。小さくなっていく彼女の姿を見て、ワタシは少しだけあの人を気に入ってしまった。器の小ささがとっても可愛い。
一人ほころんでいると、いつの間にか出来ていたギャラリー達が一斉に涌き出した。
「おいすげえぞあの新入生、生徒会のメガネに勝ちやがった!」
「見たかあのモンスターの連続攻撃、スカッとするぜ!」
口々に賛辞を言うところを見ると、どうやらあのメガネ女はそれなりの実力者として、それなりに嫌われていたらしい。わかる気はする。
ワタシは遠巻きにワタシを囲む彼らを見回して、デュエルディスクを構えた。
「さあ、あんたらも見てないでかかってきな。ワタシは誰とだってデュエルしてやるよ!」
「ワタシは一年の御剣 風華!さあ、デュエルだ!」
こうして、ワタシの舞網での物語が始まったのだった。