ARC-V 舞網は平和ではない   作:ごごにじ

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第十話 闇の神、降臨

精霊世界で真夜、凪沙、凛子、不審者のバトルロイヤルデュエルが続いていた。

 

凪沙のフィールドに新たにモンスターが現れる。頭部が刃状になった鮫、セイバー・シャーク。その効果は、一ターンに二度まで魚族のレベルを変更することができるというものだ。

 

 

「ちょっとあなた。」

 

そんな凪沙に謎の少女が小言を言う。

 

「デュエルする時はちゃんと宣言しながらやりなさい。」

 

「凪沙は、あの子は今あの女に操られているの。悪く言わないで。」

 

真夜が少しムッとして少女に説明する。少女はなるほど、と真夜の言葉に頷いた。

 

 

「それであの子を救おうという訳ね。」

 

「そう。このデュエル、負けた者は儀式のための生け贄に捧げられるとあの女は言っていた。」

 

「儀式?」

 

少女の疑問に真夜は凛子の背後を指差した。祭壇に奉られた石像の周りに置かれた燭台、そこに灯った炎は先程より遥かに大きく燃え上がっている。

 

「ふうん。その儀式が行われたらどうなってしまうの?」

 

「知らない。神が復活するとかなんとか言っていたけど・・・。」

 

 

少女はそこまで聞くと、なんでもいいわ、と話を打ち切った。

 

「どのみちこのデュエルの敗者は、あの女しかいないのだから。」

 

そう言う少女の眼差しは、真夜が今まで感じたことのない類いの敵愾心を秘めている様に見える。

 

 

一方凛子も、儀式の進行具合を確認するために祭壇の方を見る。

 

「・・・。」

 

・・・もう少しだろうか。あの馬鹿がシンクロ召喚を手抜きしたせいで、思うよりエネルギーが貯まっていないはずだ。

 

凛子は悉く上手くいかない現状に苛つきながら視線を戻した。

 

 

フィールドでは、セイバー・シャークの効果が発動し素早いマンボウのレベルが2から4へと上げられていた。さらに、凪沙は手札から氷帝家臣エッシャーを特殊召喚する。

 

これで凪沙のフィールドにはレベル4のモンスターが三体。加えて、三体の攻撃力の合計はちょうど3400。真夜の残りライフと同じになった。

 

少女がちらりと真夜に意識を向ける。フィールドががら空きだけど、大丈夫なのだろうか。

 

 

「やれ!そのまま殺せ!」

 

「!?」

 

並んだモンスター達を見て凛子が凪沙に叫んだ。その様子に、真夜がビクッと反応する。

 

一体あの人はどうしてしまったのだろう。今まで見せてきた気品や余裕の様なものは一切消え去り、まるで子供の様に汚ならしく怒鳴り散らしている。いくらあれが本性だとしても、少しは抑えられないのだろうか。らしくないにも程がある・・・

 

いや、と真夜は首をふった。

 

らしくないのは私の方だ。凪沙を助けると風華に約束したくせに、焦って拙いミスをして危うく死ぬところだった。挙げ句他人に助けられておいて、自分の責任を風華に任せようとしていた・・・。

 

 

デュエルディスクがバトルフェイズへの移行を告げ、凪沙が攻撃を指示した。一番攻撃力の低い氷帝家臣から、真夜めがけて突撃してくる。真夜は手札のカードを一枚抜き取ると、迫り来るモンスターを見すえて気持ちを入れ直した。

 

今は落ち着こう。それでもう一度、凪沙のために何をすれば良いのかよく考えよう。

 

 

冷静さを取り戻した真夜は、一先ず氷帝家臣の攻撃を受ける。ライフは削られるが間違っていないはずだ。

 

 

MAYA LP3400→2600

 

続いて素早いマンボウが攻撃を仕掛けてくる。これに対して真夜は今使わなかった手札のカードを発動させた。

 

「ジェントルーパーの効果発動。相手の攻撃宣言時に手札から特殊召喚できる。」

 

 

守備表示で特殊召喚されたジェントルーパーの守備力はマンボウの攻撃力と同じ1000。マンボウは攻撃を止め、入れ替わりになった鮫の攻撃で謎紳士は噛み砕かれた。

 

「ちっ・・・。」

 

凛子はまたしても生き延びた真夜を忌々しげに睨み付けた。

 

 

 

藤宮を倒すことで凪沙がもとに戻るかどうかは分からない。そんな状況でもし藤宮を倒して、その後もあのままということになったら取り返しがつかない。

 

 

・・・それなら。

 

私に出来ること。それは、風華の時と同じだ。ステラーの力を借りて、私の想いを、私たちの想いを凪沙に届ける・・・!

 

 

凪沙はカードを一枚伏せてターンを終了する。エクシーズをしてこなかったのは、恐らく伏せた罠との相性だろう。魚族の小型モンスターをフィールドに残す理由なんて決まっている。

 

真夜は決意を固めカードをドローした。

 

 

「私のターン。永続魔法、ワン・フォー・チューンを発動。このカードが存在する限り、シンクロモンスターのいないプレイヤーのフィールドに特殊召喚されたレベル1のモンスターはチューナーとなる!そして可変機獣 ガンナードラゴンを召喚。」

 

フィールドに半身戦車の機械竜が現れた。キャタピラーの音がキュルキュルと騒がしい。

 

「ガンナードラゴンはレベル7だけどリリースなしで召喚できる。さらに私は手札から、ワンショット・ブースターを特殊召喚。このモンスターは自分がモンスターの召喚に成功したターンに特殊召喚できる!」

 

二門の砲口を備えた黄色のモンスター、頭には信号機の様なものが付いている。真夜は出揃ったモンスター達を見てから、改めて凪沙を見つめ直した。

 

 

待ってて凪沙。今、あなたを助けるから。

 

 

「私はレベル7のガンナードラゴンに、ワン・フォー・チューンの効果でチューナーとなったレベル1のワンショット・ブースターをチューニング!」

 

緑の輪の中を光が駆け抜け天まで昇る。夜の闇を裂くように星空を宿す竜が輝きを放った。

 

 

「シンクロ召喚!煌めけ、ミッドナイト・ステラー・ドラゴン!」

 

四つの翼を広げ星の竜が咆哮をあげた。身体から零れ落ちる光の粒で辺りが優しく照らされる。

 

 

「へぇ・・・、綺麗なモンスター。いい趣味してるじゃない。」

 

その姿を見て少女がふむふむと頷く。同時に真夜は凛子を横目で睨みながら、凪沙の伏せたカードについて考えた。あのカードが予想通りなら、きっと上手くいく。

 

「バトル!ミッドナイト・ステラー・ドラゴンで、冥界の魔王ハ・デスを攻撃。」

 

真夜は腕を伸ばし藤宮の方を指し示す。魔王の前に舞い降りた竜がエネルギーをため始めると、すかさず凪沙が伏せてあるカードを発動させた。

 

 

「!」

 

全員が表示されたカードを見る。発動したのは罠カード、フイッシャーチャージ。魚族をリリースしてカード一枚を破壊して一枚ドローする、魚デッキの定番カード。

 

 

・・・よかった。予想通りのカードを見て真夜は内心ほっと胸を撫で下ろし、手札のカードを発動した。

 

「速攻魔法、禁じられた聖衣を発動。このターン、ステラー・ドラゴンは攻撃力が600下がり効果で破壊されなくなる。」

 

きらびやかな衣が突貫してきたセイバー・シャークから竜を守り弾き返す。破壊が失敗に終わりドローも不発となった。

 

 

それを見て、さらに真夜が手を挙げて宣言する。

 

「この瞬間、ステラー・ドラゴンの効果発動。攻撃力の変化を無効にしてその数値分のダメージを相手に与える。サプレッション・レイ!」

 

ダメージ量は600。これなら、次のターンに凪沙をピンチにすることなく想いを届けることができる。

 

 

「お願いステラー、凪沙の目を覚まさせてあげて!」

 

真夜の呼び掛けに応じた竜が凪沙の方にその身を向けると、身につけた玉の装飾から溢れだした光がデュエリスト達を包み込んだ。

 

少女達がそれぞれ目を覆いやり過ごすなか、凪沙は微動だにせず立ち尽くす。星の竜の光が、自身の大切な何かを微かに抉るのを感じながら・・・。

 

 

「うっ・・・。」

 

 

NAGISA LP4000→3400

 

視界が晴れ互いの姿が見えるようになると、真夜の目に凪沙が小さく呻き声をあげて膝をつくのが映った。その表情も、今までの無感情なものとは違っているように感じる。

 

「凪沙・・・」

 

声をかけようとすると、突如爆発が起きてその声がかき消される。何だと思って音の方を見ると、藤宮のフィールドからステラー・ドラゴンが飛び立とうとしていた。

 

・・・そうだ、ハ・デスに攻撃してたんだった。

 

 

 

 

RINKO LP2550→2000

 

 

ハ・デスが破壊された衝撃で凛子が吹き飛ばされていく。祭壇前の段差に打ちつけられると顔を歪めて仰向けに横たわる。

 

そんなことよりも。

 

真夜は再び凪沙の方に目を向ける。何か変化は起こせたのだろうか、と期待と不安が胸を駆ける。しかしよろよろと立ち上がり苦しそうに頭を手で抑える凪沙は、様子こそ以前とは変わっているが洗脳が解けたようには見えなかった。

 

ダメか。真夜は目をつむり息を吐いた。ステラーの力を借りても凪沙を救えないなら、私はどうすればいいのだろう・・・。焦りが再び真夜の心に忍び寄ろうとする。

 

 

しかし、今の真夜には先程にはいなかった頼もしい僕がそばにいた。敵陣から舞い戻ったステラー・ドラゴンが、真夜を包み込むようにフィールドに降り立つ。暖かな灯りが心の弱さを支えてくれるのを感じて、真夜は優しく竜の背を撫でた。

 

触れた瞬間、真夜の脳裏に何かが走った。はっとして見上げると、ステラー・ドラゴンがその眼差しを真っ直ぐにこちらへ向けていた。

 

「何かを伝えようとしているの・・・?」

 

真夜の言葉に竜は低く喉を鳴らす。その想いを汲み取った真夜は、竜の瞳と見つめ合いながらもう一度その背に手を置いた。触れてみると、今度ははっきりとイメージが伝わってくる。

 

凪沙の懐、胸の辺りに何か黒いもやがかかっている。そこから放たれる邪気が凪沙を蝕み身体を支配していた。力の中心には、小さな四角いものが姿を浮かび上がらせている。

 

そこまで見て意識が現実に引き戻される。そっと手を離し、真夜は凪沙に視線を移した。これでようやく具体的にどうすれば良いのかがわかった、と安堵の息をつく。凪沙を洗脳しているのがあの胸の部分に見えた物のせいなのなら、あれをステラーの力で撃ち抜き浄化すれば良いはずだ。

 

 

「ぐっ、うぅ・・・。」

 

一方で凛子がふらつきながら立ち上がる。激しく身を打ったせいか所々血が流れ出し、服は擦り切れていた。身体を走る痛みは彼女にとってかつて味わったことのない類いの屈辱であったが、酷いのは身体より心の傷だった。

 

こんなことがあるか。尽く、計画に逐一邪魔が入る。終いには訳のわからぬ邪魔者まで現れて・・・。

 

凛子は自嘲気味に笑った。やはり、こいつらを標的にしたのが間違っていたのか。何度も邪魔をしてくれた星美 真夜達に対して半ば当て付けのように波川 凪沙を生け贄に選んでみたが、どうも思うようにいかない。精霊世界への移動を挟めば追っ手を上手く撒けると思ったが、すぐに居所を知られてしまった。デュエルをしてみれば、乱入者に止めを阻まれ逆に追い詰められている。

 

沸々とわきあがる怒りを抑え天を仰ぎ見る。目につく星の輝きさえも、今の凛子には憎らしくてたまらなかった。

 

もういい。余計なことはやめよう。純粋に計画を進めることだけ考える。下手に欲を出さず神の復活だけを目指せば、何も問題などないのだ。星美も波川も倒せず生け贄が揃わない現状も、冷静になればどうということはない。

 

生け贄が足りないというのなら・・・。

 

 

 

 

 

「私を生け贄にすればいいだけよ!!」

 

「!?」

突然の凛子の叫びが真夜に届くやいなや、祭壇に灯された炎が荒々しく揺れ始めた。中央の石櫃に納められていたカード達が浮かび上がり光の球となり円を描いて回転する。石像からは禍々しい黒い障気が吹き出し辺りに満ちていく。それらは回転により混ざり合うと、一つの柱となり一気に上空まで突き抜けた。

 

「何、あれ。何が起きてるの?」

 

少女が真夜に尋ねた。知らない、と前置きしてから真夜はごくりと唾を飲む。

 

「神を甦らせる儀式というのだと思うけど・・・。」

 

言っている間に、巻き上がった闇の柱が広がり空が黒雲に飲まれる。星の明かりが消え夜の闇は更に深くなり、轟きだした雷鳴が耳をつんざく。先程までの静寂とはうって変わって、精霊世界は終末の相を見せた。

 

凛子は左腕を天にかかげると、激情の全てを込めて叫んだ。

 

「私の、タァァァァァーン!!」

 

直後、一筋の雷がほとばしり凛子のデュエルディスクを打つ。エネルギーの全てがデッキに吸い込まれると、そこから強烈な光と黒い波動が放出される。

 

「つっ・・・!」

 

ドローしようと近づけた手に焼けつくように痛みが走る。無意識に凛子は手を止めかけてしまい、そんな自分の行いに更に怒りが沸き上がる。歯を食いしばると、構わずカードに手をかけた。

 

「ドロー!!」

 

凛子は抜き放たれたカードをすかさずデュエルディスクに叩きつける。

 

「儀式魔法、闇の御霊の降臨を発動!」

 

「!?」

 

真夜と少女は驚いて目を見開く。融合を得意とする彼女が儀式召喚をしようとしたこともそうだが、何より驚いたのは表示されたソリッドビジョンにはテキストが記されてなかったことだった。

 

「このカードにはまだ効果は記されていない。」

 

凛子は肩で息をしながら口を開いた。依然空を厚く覆う雲から鳴りやまない雷に加え強い雨が降りだし、稲光が一瞬見える凛子の表情を怪しく照らし出す。

 

「ここに記される効果は、私がこれから捧げる生け贄によって生み出される!」

 

「カードの効果を作る・・・?」

 

少女が眉をひそめる。そんなことが可能なのか、という視線を受けて真夜は雨音に消えないよう大声をあげる。

 

「カードの効果が変化したのは見たことがある。一から作っても不思議はない。」

 

「まさかそんな。」

 

少女が呆れたように言葉を漏らす。

 

 

 

「デュエリスト達から奪ったカード!」

 

凛子の叫びが聞こえてきて二人は身構える。見ると、エクシーズ召喚の時のような闇の渦が地面にあり、その上で先ほど同様カードが円を描き回っている。

 

「そして私自身の魂を生け贄に捧げる・・・!」

 

闇の渦にカードが吸い込まれる。続けて凛子がその上に進み出ると、溢れ出た瘴気に飲まれ凛子の姿が見えなくなっていった。闇の中から凛子の苦悶の声が響いて来て、その様子を見守っていた真夜はとっさに視線をそらしてしまう。

 

「闇の御霊の降臨の効果!」

 

凛子の叫びと同時にソリッドビジョンのテキスト欄が輝きを放つと、空白だった部分に新たに文字が浮かび上がる。闇より響く声がその文を読み上げだした。

 

「ライフを半分払い墓地の闇属性モンスターを五体除外し、手札・デッキ・墓地から闇属性儀式モンスターを儀式召喚する!」

 

「・・・!」

 

 

RINKO LP2000→1000

 

墓地コストにデッキからの儀式召喚!やはり、儀式の重い部分を無視してきたか。一体どんなモンスターを呼び出してくるのか、と真夜は背筋が凍るのを感じる。

 

 

「私は墓地のフォビドゥン、ヒドゥン・フォース、サイコ・ショッカー、ハ・デス、呪印生物 闇を除外!」

 

モンスター達のシルエットが闇に溶けていく。宙へ浮かび上がり、瘴気が辺り一帯を全て包み込むほど膨れ上がる。轟く雷光が闇の中を走り、真夜はカードをかざし叫ぶ凛子の姿を目にした。

 

 

「儀式召喚!降臨せよ、闇の御霊の悪神!!」

 

 

闇の御霊の悪神

儀式モンスター/効果

星10/闇属性/悪魔族/ATK 0/DEF 0

 

 

 

瘴気が吹き飛びその姿が露になる。山程あろう紫がかった漆黒の巨体に黒一色の鎧を纏った人型のモンスター、六本の腕にはそれぞれ剣、鉾、錫杖を対で持ち、同じものが背中から無数に広がり翼を象っている。

 

「ヤミノミタマノ・・・アシ・・・カミ・・・。」

 

身体を打つ圧倒的威圧感に真夜の口から恐怖が漏れる。これは単なるモンスターじゃない。真夜と少女は瞬時に理解した。闇の御霊の悪神、これは・・・。

 

「神・・・!」

 

「そうだ、ついにやった!」

 

どこからか凛子の声が届く。辺りを見渡しても姿は見えず、まさかと思いながら真夜は悪神の方を見上げると再び彼女の声が聞こえて来る。声は悪神の中から発せられていた。

 

「これで私の勝利は確定した。これでやっと、お前ら全員ぶち殺してやれる!」

 

凛子の歓喜の声に続いて悪神が唸り声をあげる。地鳴りのように響くその声は、精霊世界中に伝わっていく。

 

 

 

外とはうって変わって静かな悪神の闇の中から、凛子は自身に歯向かう愚か者達を見下した。

 

悪神の召喚には成功したが、当初の予定とは大きく異なった形になってしまった。本来なら、あのペンデュラムカードのような良質の供物を手に入れ、それがだめならアンカームド・メイカーを奪う予定だった。魂の生け贄も私の一部ではなく波川 凪沙を肉体ごとすべて捧げるはずだった。それに比べたら、今の儀式召喚はあまりに性急すぎる。

 

呼び出された悪神のステータスを見て凛子は顔をしかめた。

 

攻守ともにゼロ・・・。明らかに失敗だ。儀式が完全な形で行われていたら、恐らく攻守5000はあったはず。

 

舌打ちして、凛子は地を這うデュエリスト達に目を向けた。

 

 

・・・まぁいい、これ程の力を持つカードなら攻撃力など大した問題ではない。攻撃力がゼロだろうと、そのまま悪神自身のエネルギーをぶつけてしまえば済むのだから。

 

ニヤリと笑って凛子は手をかざす。その動きにリンクするように、悪神が錫杖を持つ腕を天に伸ばした。

 

「神の力を喰らえ!闇の御霊の悪神よ、やつらに死の罰を与えよ!」

 

雷が錫杖に落ちそこから地上へと放射される。激しい光と音が地面を貫き真夜達の足下に亀裂が走りだす。突然の直接攻撃に真夜は、これではデュエルどころではない、と堪らず闇の中の凛子に怒鳴った。

 

「藤宮!汚い真似しないで降りてきなさい!」

 

「はあ?神が降臨した今、もはやお前達と戦う理由なんてないんだよ。そのまま雷に打たれて死んじまえ!」

 

凛子が叫ぶとより一層雷撃が強くなる。降りしきる雨も勢いを増し、もはや真夜にはそこに立っていることすら困難になってきていた。強風に煽られ膝をつきぬかるんだ泥の嫌な感触を味わったところで、真夜はもっと嫌なことに気づいた。

 

 

デュエルが行われている森の聖域はヒドゥン・フォースによって木々が消し去られ、その地形がさらけ出されている。そこは高地で、祭壇の奥は崖になっていてその下には大地が広がっていた。

 

最初、真夜と少女は森があった側、凛子と凪沙は祭壇側に立っていた。だが今は違う。凛子は悪神の中に入り宙に浮いている。崖側に立っているのは凪沙一人だ。今足場を砕かれたら凪沙は真っ先に転落することになる。

 

真夜は慌てて凪沙の方を見た。頭を抱え雷雨の中ふらふらと立っている凪沙の姿を見て、真夜はすかさず駆け寄ろうとする。

 

 

「凪沙!」

 

「もう遅い、死ね!」

 

悪神が錫杖を振りかざすと、錫杖に向かっていた雷の束がそのまま地面へと突き刺さった。凪沙ごと、祭壇のあった辺りが爆音とともに雪崩となって崩れ落ちていく。

 

「凪沙ぁ!」

 

真夜は残った足場と崩れかけの岩を伝い、宙に投げ出された凪沙目掛けて全力でダイブする。なんとか凪沙の腕を掴み抱き寄せて追いかけてきたステラー・ドラゴンの背に飛び乗ると、落ちてきた岩を避け飛び上がろうとする。

 

「しつこいんだよ!」

 

二人が難を逃れたのを見て凛子は悪神に追撃を指示する。雷の矢が二本、三本と放たれステラー・ドラゴンを掠め、真夜は低空を逃げ回る。

 

「もうやめなさい!それはデュエリストのやることじゃないでしょう!」

 

少女はフレイム・ブレイダーを盾にして真夜達を守ろうとけしかけた。ひと一人を抱えたままのあの子には悪神の攻撃をかわしきるのは無理だ、せめて少し時間が稼げれば・・・。

 

そんな少女の危惧を嘲笑うかのごとく、悪神はその無数の武器を一斉に天にかざした。

 

「うそっ!」

 

あの女とことんやるつもりなのか。少女は愕然とする。錫杖一つでこの有り様だ、あれだけの武器から攻撃されたら助からない!

 

「逃げなさい、あなた達!」

 

少女の叫びが雷鳴と雨音にかき消される。数秒遅れて真夜が悪神を見ると、その上の空には恐ろしいものが待ち受けていた。

 

無数の武器が放射状に広がり、天から落ちた雷がその中に閉じ込められ光の球体が形成される。まるで巨大な雷の爆弾のようなそれは今にも降り下ろされようとしていた。

 

「今度こそ殺す。確実に息の根を止めてやる。」

 

これだけやれば大丈夫だろう。よもや討ちもらすこともあるまい。凛子は悪神の闇の中、誰にも見られず一人邪悪な笑みを浮かべ高笑いする。

 

 

「うぅっ・・・。」

 

悔しさのあまり真夜は唇を噛み締めた。負けたくない、あんな卑怯なやり方には絶対負けたくない・・・!何かまだ何か手が残されて・・・。

 

真夜がなんとかして助かる道を探そうとしたその時、彼女達の視界はホワイトアウトした。

 

「!!」

 

突然の閃光が空を走り真夜は雷に打たれたのかと思ったが、そうではないようで上空を見上げる。直後目を疑うことが起こった。

 

 

それは一瞬のことだった。

 

遥か地平線の先から波動が轟音を響かせ駆け抜けると、分厚い雲が真っ二つに引き裂かれ雷球が消し飛ばされる。果てしなく広がっていた空の闇は綺麗に一直線に消滅し、それまで降り続いた雨がその部分だけ止み真夜達の上空には月の光が射し込んだ。

 

「何、これ・・・。」

 

真夜はあまりの衝撃に言葉を失ってしまう。呆然としながら光のカーテンの先を見つめると、空を飛び何かがこちらへ猛然と近づいてくる。次第に大きくなっていくその姿を見て、真夜は思わず泣きそうになってしまった。

 

 

輝く金の翼。夜の闇の中で決して色褪せない、燦然と輝くその勇姿。そして、その背に立つ希望の光。私の愛する人。

 

現れた彼女を見て、真夜は小さく呟いた。

 

「やっと来た。遅いよ・・・。」

 

「わりーな、神社がめっちゃ遠くてさ。」

 

金色の竜の背から、彼女の声が聞こえてくる。ああ、この声を聞いているだけで私は満たされる。今までの苦難の全てがどうでもよくなる。真夜はこっそり頬を緩めて幸せを堪能した。

 

「真夜、凪沙。二人とも無事で良かった。こっからはワタシもまぜてもらうぜ。」

 

そう言うと竜は悪神の前に舞い上がり正面から向かい合う。月明かりの照らす下、光と闇が対峙した。

 

 

「そのどてっ腹に風穴空けてやるぜ、このデカブツ。」

 

かつて見たことのない巨大な邪神を前に立ち、御剣 風華は息巻いた。

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