デュエル大社。精霊世界に存在し、現実世界のデュエル神社から精霊世界へと踏みいると最初に飛ばされる場所。広大な土地に豪華な社殿が並び、美しい自然が外を囲う。建築と自然が織り成す調和は精霊世界全体に静かで清らかな空気を送り出し、そこに棲む者達の命を育んでいた。
だが今、その上空には闇がはびこり空気を汚している。遥か彼方の地から流れ出てきた闇の瘴気は、精霊世界中に広まり精霊達を脅かしていた。木々の陰は翳りへと変わり、吹き抜ける風は病を運んでくる。
デュエル大社の主、伊弉波は目を閉じて一人の少女へ祈りを送った。精霊世界、そして全ての現実世界のために。
「どうかお気をつけて、御剣 風華・・・。」
精霊世界。先に戦いに赴いた真夜を窮地から救う形でワタシ、御剣 風華はようやく戦場に辿り着いた。
「藤宮ァ!てめえどこ行きやがった、出てこい!」
とんでもない大物がいる代わりに対戦相手であるはずの藤宮の姿が見えない。ワタシが藤宮を探して叫んでいるとステラー・ドラゴンに乗った真夜が近づいてきて説明してくれる。
「風華、そいつの中にいるの。」
「は?」
「藤宮はこの闇の御霊の悪神を召喚して、この中に閉じ籠った。」
「閉じ籠ったって、モンスターの中にか?んなアホな。」
大分おかしなことになっているようだ。とりあえずワタシはやみのみ・・・何とかに振り返ってもう一度叫んでみる。
「藤宮!そこにいるんだったら姿を見せな!」
しばらくすると、悪神の掌が胸の前に構えられその上に体内から藤宮がすり抜けて歩み出てきた。同時に、ワタシは藤宮の様子の変化に驚くことになる。
ワタシが精霊世界に来る前に一瞬見た藤宮とは服装が違っていた。さっきはマントの下にどこかの制服のようなものを着ていたが、今は真っ黒なドレスになっている。
加えて、ドレスになって身体の露出が増えたことで目立っているのが肌に浮き出た黒い模様だ。腕や胸、首、顔にかけて広がっているそれのせいで、まるで別人のように邪悪な印象を受ける。
現れた藤宮は無言のままワタシを冷たい目で睨み付けてくる。肩や口元が震えているのを見ると余程怒っているのだろうが、それはこっちの台詞だ。
ワタシは先に口火を切る。
「お前今、真夜達に何しようとした。冗談じゃすまないぞ!」
「・・・。」
「何黙ってる!」
「・・・殺してやる・・・!」
「!?」
「絶対、絶対に殺す・・・。」
物騒なことを口走ると、藤宮は悪神の掌に乗せられ地上へと降りていく。ワタシは藤宮のあまりの変貌ぶりに呆気にとられ立ち尽くしてしまう。ポカンと口を開けていると真夜が声をかけてきた。
「あの女、デュエルの途中で急に人が変わったようにおかしくなったの。」
「いや、おかしくって。あんなのになるか・・・?」
「とにかく私達も降りよう。デュエルを続けてあいつを倒さないと。」
「ああ、そうだけど・・・。」
言ってワタシは、真夜が抱き抱える凪沙に目を止める。苦しそうに頭を抑える凪沙の姿にワタシは大層不安が募る。
「凪沙は大丈夫なのか?」
「わからない。さっきまで藤宮に洗脳されて私を襲ってきてたんだけど、ステラーの力を受けてから様子が変なの。」
「洗脳!?なんだよそれ。」
「大丈夫、洗脳の解き方はわかってる。凪沙のことは私に任せて。」
「!」
そう言ってステラー・ドラゴンは下降して行く。さっすが真夜、頼りになる。
地上に降り立ったワタシは乗せてくれていたオーガスト・ブルーム・ドラゴンをカードに戻しデュエルディスクを構える。一息つこうと辺りを見渡してみると、二つに割れた曇天の間に差し込む月の光に照らされて足下の水溜まりがキラキラと輝き、更地の向こうの一段低い高さに精霊世界が地平線を丸く描いているのが見えた。
だが、ワタシの目を惹いたのは美しい景色でもなければそれを邪魔するデカブツでもなかった。
その場にはもう一人デュエルの参加者がいた。フードを被ったその人物は赤い剣士を携えこちらをじっと見据えている。問題はその赤い剣士だ。ワタシはこいつをよく知っている。その持ち主のことも。
「フレイム・ブレイダー!なんでこのカードが・・・。」
「風華、このカードを知っているの?」
「あ、ああ。だって、このフレイム・ブレイダーは・・・。」
そこまで言って持ち主の方を見ると、その人はフードを脱ぎ顔につけていたゴーグルに手をかけはずす。露になった顔を見て、やはりワタシの知っている人物であることがわかった。
「緒陽・・・。」
ワタシが名を呼ぶと彼女も小さく笑って返してくる。
「やあ、久しぶりね風華。元気そうで何よりよ。」
「そんなこと・・・。何であんたがここにいるんだよ。ここはデュエルモンスターズの精霊世界だぞ?」
「驚いたのはこっちよ。あなたが何でここにいるの?」
「聞いてるのはこっちだ。」
予想外の場所での知人との再開にワタシが困惑していると真夜が話に入ってくる。
「風華、その子のこと知っているの?」
「ああ、あいつは鳳 緒陽。ワタシが前にいた家の近くに住んでた人で、三つ位歳は違うんだけど、子供のころよく遊んでもらってたんだ。」
脳内を昔の日々が過る。緒陽にくっついて、様々なことを経験した。遊び、勉強、その他生活に必要なこと。兄弟のいないワタシにとってそれらを教えてくれる彼女はまさしく姉といえる存在だった。
「それから・・・。」
「話は後よ風華。まずは目の前の敵に集中しなさい。」
緒陽がワタシの言葉を遮る。頷いてワタシも真夜も藤宮の方へ意識を向けた。ちらっと、年上だったんだ・・・という真夜の呟きが聞こえた気がした。
一方凛子は、集いに集った反逆者達を前に立ち一人闘志を燃やしていた。星美 真夜、乱入者、そして御剣 風華。これで一連の流で三度も横やりを入れられたことになる。
激しく燃え上がった怒りの炎も、ここまで邪魔されれば落ち着いてきている。代わりに凛子の心には、静かな、だが怒りなどとは比べ物にならない凶悪な感情が芽生えていた。
殺意。
デュエルで負かす、魂を生け贄にする、肉体をカードに封印する・・・。そんなちゃちなものではない。確実に息の根を止めるという強い決心が凛子を本物の邪悪へと変えていた。
ワタシはデュエルに参加するためデュエルディスクを起動させ途中参戦のモードを確認画面まで進めた。すると、タブレット状の画面に現在のフィールド状況が反映されライフやモンスターが表示される。
闇の御霊の悪神。これが藤宮の出したモンスターか。効果テキストが明らかになっていないのでどんな能力があるのかはわからないが、恐らくはさっきの世界そのものを震わすような力がデュエルでも発揮されるのだろう。とすればかなり厳しい戦いになる。本当なら早くデュエルに参戦して、誰かが傷つく前に倒してしまいたいところだ。
だがそれはできない。ワタシは慎重になって考えた。
今参戦したら藤宮のメインフェイズにがら空きの自分フィールドを晒すことになる。デッキ内に手札誘発の防御カードが豊富にあるなら別だが、ワタシのデッキはそうではない。効果がわからない以上そのままバトルフェイズで攻撃され、最悪即死することもある。だからまだデュエルには参戦できない。つまり、このターンはあいつが他の誰かを攻撃するのを黙って見ているしかない・・・!
歯痒い思いがワタシの心を掻きむしった。
ワタシがデュエルに参戦するのはこのターンのエンドフェイズだ。それまで無事に終わってくれ・・・。
「私はこれでターンエンド。」
「あれ!?」
ワタシの悩みはあっさり解かれる。あれほどの強大なモンスターを従えておきながら藤宮はターンエンドを宣言した。あの悪神というやつ、攻撃的な効果が何もないのか?
いや。
闇属性・悪魔族・レベル10・攻守共にゼロ。明らかな特殊能力系のモンスターなのに攻撃しないなんてことはあり得ない。一体何を企んでいやがる・・・。
不安を抱きつつも、ワタシは途中参戦モードを最後まで進め、正式にデュエルに乱入する。
「いくぞ、次はワタシのターンだ!」
バトルロイヤル、Joining!
HUKA LP4000
「ドロー!」
これは!ワタシは引いたカードを見ていきなり複雑な気分になる。藤宮のライフは残り1000。ならこのカードで終わりだ。悪神の効果は気になるが、倒せるなら被害のないうちに倒しておいた方が絶対にいい。それに能力のわからない敵の前にモンスターを出す危険を犯さずに済む。
大丈夫、真夜との連携ならきっとうまくいく。ワタシは自分に言い聞かせてカードを手にとった。
「速攻魔法、収縮を発動!モンスターの元々の攻撃力をこのターン、半分にする。対象はステラー・ドラゴンだ!」
ワタシは真夜と瞬時にアイコンタクトする。ステラーがうなり声をあげるとすぐさま真夜が後に続く。
「この瞬間、ステラー・ドラゴンの効果発動。サプレッション・レイ!」
ワタシは真夜と共に手をかざしその効果を宣言する。
『モンスターの攻撃力が変化した時、それを無効にして変化した数値分のダメージを相手に与える!』
「対象は藤宮 凛子、あなた!」
「ワタシ達の連携攻撃を喰らって消えろ、藤宮!」
ステラーから光の粒が溢れだし藤宮めがけて降り注ぐ。爆発が起き藤宮の姿は煙に包まれた。これで1500のダメージ、決まれば勝ちだ。
完璧なコンビネーションに緒陽が、仲良しさんねとクスッと笑う。
「やったか・・・?」
緊張で震える指でワタシはライフの表示を確認する。だが、藤宮のライフは1000のまま減ってはいなかった。
ワタシは爆煙から姿を現した藤宮を睨み付ける。
「くそっ、やっぱり防御系の効果があったのか!」
「闇の御霊の悪神の効果。このカードが存在する限り私の受けるダメージは全てゼロになる。」
「!!」
ダメージ無効!これであのモンスターをフィールドから消さなければならなくなった。
悪神の攻撃力はゼロ。下級モンスターでも戦闘破壊できる数値ではある。だが、恐らくそうはいかないだろう。簡単に破壊されるモンスターを攻撃表示でフィールドに出したりしないはずだ。
・・・いや。
ここは攻撃あるのみだ。悪神に他にどんな効果があるか知らないが、やってみなければわからない。ライフの多い今のワタシが怖じ気ついてどうする!
「ワタシは暴風小僧を召喚!」
海賊風の少年が現れ風が吹き抜ける。攻撃力は1500だがこれで十分だ。
「バトル、暴風小僧で闇の御霊の悪神に攻撃!」
宣言を受けて暴風小僧が悪神に向かって行った。両手を広げ振りかぶると竜巻が矢のように真っ直ぐに飛んでいく。
「悪神の攻撃力はゼロ、これで破壊できる・・・!」
言ってみて藤宮の様子を見ると、口元を歪ませ笑みを浮かべている。
「無駄だ。」
「!」
放たれた竜巻は悪神にぶつかったが何も変化が起きず消滅する。逆に悪神から出た衝撃波でワタシのモンスターが破壊され爆風がこちらを襲った。
HUKA LP4000→3500
「なっ・・・、何で!」
「風華、悪神のカードを見て!」
真夜の叫び声が聞こえてワタシはディスクを調べる。写し出された表示にワタシは驚くことになる。
「闇の御霊の悪神・・・、攻撃力2000!?」
いつの間にか悪神の攻撃力がアップしていたようだがそれは別に問題ない。問題はアップの仕方だ。
悪神のステータスはATK2000/DEF2000となっている。それも、効果によって攻撃力が変動して2000になっているのではなく、元々の数値としてカードに記されている。
モンスターの元々の攻撃力が変化することはある。収縮の効果が正しくそうだ。だがそれなら、その結果を生んだカードの効果が明らかにならなければならない。
藤宮の手札・フィールドに悪神以外のカードはないし、墓地のカードの効果も発動していない。そしてデュエルディスクの機能として、一度デュエルに影響を与えたモンスターの効果は情報が開示され確認出来るようになるはずだが、悪神のテキストにはそのような効果は記されていない。ということはつまり・・・。
「カードが書き変わった!!」
ワタシは事態を把握する。ワタシが効果ダメージを狙ってカードをプレイしている間に藤宮はカードを書き換え、攻撃力の上回った悪神によって暴風小僧が戦闘破壊されワタシのライフが削られたんだ。
舌打ちして、ワタシは手札を確認する。
暴風小僧はダブルコストモンスター。アドバンス召喚時に二体分のリリースとなる効果をもっている。ワタシは悪神にはどうせ破壊耐性があると思い、それなら暴風小僧でそれを確かめつつ次のターンの生け贄にしようと考えていた。
だが、戦闘破壊されてしまっては次に繋がらない・・・!
「くそっ、カードを一枚伏せてターンエンド!」
ワタシは吐き捨てるように言って悪神を見上げる。何なんだこいつ、面倒なことしやがって。不意打ち的に攻撃力を上げられたら倒しようがない・・・!
「わたしのターン!」
ワタシが歯噛みしていると次のプレイヤーである緒陽がカードを引く。緒陽は引いたカードには眼もくれずすぐさま攻撃に移った。
「攻撃力をあげる隙は与えないわ。フレイム・ブレイダーで闇の御霊の悪神に攻撃!」
緒陽の指示で剣士が飛翔する。剣に炎を纏わせて上空へと突き上げると火球となり悪神に狙いを定める。
「フレイム・ブレイダーの効果発動!バトルステップに、このカードと隣接するカード、及びそれらと隣接し合う全てのカードの中から一枚選んで破壊し800ダメージを与える!」
よし!ワタシは期待を込めて緒陽の方を見る。これなら戦闘の前に効果で破壊できる。もし破壊できなくとも攻撃力はフレイム・ブレイダーが上回っているのだから、どのみち戦闘破壊は避けられない!
「破壊するのは当然、闇の御霊の悪神よ。」
緒陽もワタシも真夜もその効果の行方を固唾を飲んで見守る。お願いだ、この効果で破壊されてくれ・・・。
火球が発射され悪神にぶつかる。だが、またしても何の影響も与えた様子はなく炎は消え去ってしまった。
「無駄だ。悪神はいかなるカードの効果も受け付けない。」
「!!」
効果耐性、それも一切の条件なし!またしても明かされる悪神の超絶効果にワタシはげんなりする。これで結局、戦闘で破壊するしか倒す方法はないということがわかった。
一方当の緒陽はそれを聞いても引き下がらない。
「でも攻撃は続いているわ。フレイム・ブレイダーの攻撃力は2400、悪神を上回っている。これなら・・・。」
そこまで言って緒陽は突如おし黙る。何だと思ってワタシが緒陽に尋ねようとすると、藤宮が遮るように叫びをあげた。
「今更気づいても遅い。悪神の反撃!」
「くっ・・・!」
斬りかかった剣士を悪神の持つ剣が両断する。爆風が頭の上からワタシ達を地へと押し付け、緒陽は膝を折って衝撃に耐える。
OHARU LP4000→2900
「そんなまさか!」
悪神がモンスターを返り討ちにしたのを見て再びワタシはディスクを見る。
攻撃力・・・3500!
悪神の攻撃力はフレイム・ブレイダーを遥かに上回っていた。しかも今度もまた、カードの効果ではなくステータスそのものが書き換えられて、だ。
「またかよ、やりたい放題かあいつ!」
怒ってワタシはその場を踏みつける。一度ならず二度までもデュエル中にカードを書き換えるなんて。ワタシは真夜に助けを求める視線を送った。
「何なんだよあれ!?何であんな簡単にカードが書き変わるんだ!」
「そんなこと言われても・・・。」
真夜は困惑して言葉を濁らせてから、何かを思い出したようにはっと目を見開いた。
「考えられるとしたら・・・。藤宮はデュエルを始めた時、デュエルで発生したエネルギーを吸収することで神を復活させると言っていた。」
「それが何だ?」
「つまり、悪神にはデュエルで発生したエネルギーっていうのを吸収する力があるということ。カードを使えば使うほどエネルギーが出てそれを悪神が自身の力としている・・・!」
「!!」
言われてワタシは真夜の言ってることを理解する。
「じゃあ、ワタシ達があいつを倒そうとするほどあいつは強くなっていくってことか?」
「たぶん・・・。」
「・・・!」
嘘だろ・・・。あまりにも酷い悪神の能力にワタシは固まってしまった。それが本当なら、悪神を倒すためにはほとんどカードを使わずにあの攻撃力を越えなければいけないことになる。だが、既に悪神は攻撃力3500。それを越えるカードなんてそう簡単に出せるわけ・・・。
すると藤宮の高笑いが聞こえてくる。
「ふふふ。あははははは!御剣 風華、お前は馬鹿だ!」
「なっ、何だと!?」
突然名指しで罵倒された。怒って食って掛かろうとするとその前に藤宮に二の矢を継がれる。
「お前は自分のせいで唯一残った勝利のチャンスを逃したんだ!」
「なに!」
「お前達の読み通り、悪神はカードの放つエネルギーを吸収し強くなっていく。だが最初は攻撃力ゼロだった。この意味がわかる?」
「!」
藤宮に問われワタシは息を飲む。途端に胸が苦しくなり呼吸が荒くなってくる。
「お前は悪神に攻撃するのを恐れ先にモンスターを出さなかった。仲間との連携なんてくだらないものを言い訳にして、自分への負担を軽くしようとした。その結果どうだ?悪神の攻撃力は跳ね上がり、もはや手出しできない域に達した!」
「くっ!!」
「もうこのデュエルは決まった!私の勝ちだ、お前達の負けだ!お前達は死ぬんだ!御剣 風華、お前の臆病のせいで!」
・・・!藤宮の言うことは当たっている。確かにさっきのワタシは悪神を警戒しすぎていた。それがこの状況を招いたのなら責任はワタシにある・・・。
と、少し反省しかけたところでいやいやと思い直す。
「てめっ、ふざけざんじゃねえぞ!インチキ戦法ばっかで強くなった気になるんじゃねえ!」
「風華の言う通り。汚いマネばかりして恥ずかしくないの?」
揃って藤宮を煽り返す。だが藤宮はこちらの言い分など気にも留めずさらに罵ってくる。
「くだらない仲良しごっこで自滅なんて、おっかしい!馬鹿よ馬鹿、素人以下のお子様よ!」
けたけたと藤宮が笑う。勝利を確信したのか、藤宮は余裕を取り戻したようだ。
ワタシは冷や汗が吹き出してくるのを感じる。これはまずい・・・。このままじゃ本当にアイツの言う通り負けてしまう。
だが、ここで心を折るわけにはいかない。凪沙を助け、奴を倒し色んなものを守る。そのためにワタシはここに来たんだ。まだ何もできていないのに、犬死になんてかっこつかないにもほどがある。
ワタシが何とか気持ちを落ち着かせていると真夜が、大丈夫と声をかけてきた。
「風華、凪沙は私がなんとかする。だから風華はあの女を倒すことだけに集中して。」
「真夜・・・。ああ、わかってる。大丈夫だ。」
ワタシの言葉に真夜は小さく頷いた。それを見て、緒陽がターンエンドを宣言する。
「わたしはこれでターン終了よ。」
これで次は凪沙のターン。さっき近くで見て以降、一向に体調が回復していない様子の凪沙は、変わらず頭を抑え肩で息をしている。
ごめん凪沙・・・。ワタシは内心で謝った。ワタシはそんな状態のお前を救うこともできない。本当にごめん・・・!
「さあ凪沙、カードを引いて。すぐに私が助けるから。」
真夜の力強い声がワタシの意識を引き戻す。ちらっと横目で見た真夜の顔はいつも以上に凛々しく美しく見え、この様子なら安心して任せられるとワタシは安堵する。
「うっ・・・。うぅ・・・!」
震える手で凪沙がカードを手にかける。だが引いたカードを手札に加える間もなく、凪沙はその場に崩れ落ちてしまった。
「凪沙!?」
ワタシは驚いて駆け寄ろうとする。同じように真夜も足を出したところで、凪沙の叫び声がワタシ達を制止させた。
「来ないで!!」
「!?」
「・・・お願いだから来ないで。お願いだから、私を見ないで・・・。」
「な、凪沙・・・?」
言葉を取り戻した凪沙の口から出たのは、隠してきた彼女の心の叫びだった。