ARC-V 舞網は平和ではない   作:ごごにじ

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第四話 変化の兆し

「皆さん、最近この舞網ではデュエリストが襲われカードを奪われる事件が度々起きています。」

 

朝の舞網東高校。全校集会の場で壇上に立った生徒会長が生徒たちに呼び掛ける。

 

 

「この舞網東高校に通う生徒の皆さんも、大半はデュエルをたしなんでいらっしゃると思います。どうか、日頃より腕を磨き、いざという時に自分の身を守れるようになってください。生徒会長である私からのお願いです。」

 

言うとその女に盛大な拍手が送られる。女生徒からの黄色い声援、野郎のゲスな眼差し。ワタシは感心して呟く。

 

 

生徒会長、藤宮 凛子。色白の肌に長い黒髪、薄い化粧が綺麗な顔立ちを目立たせる。どことなく真夜と似ているところもあるが、美少女というより彼女は美人といえるだろう。

 

 

「へえ、大層な人気じゃないか。」

 

「当然よ、彼女は生徒会長であると同時に一流のデュエリスト。この舞網においてデュエルの腕より信頼のあるものなんてないんだから。」

 

ワタシの前に並ぶ美少女がチラッと振り返って説明する。ワタシはなんだか気まずくなってぶっきらぼうに返した。

 

 

「あんたに言ってんじゃないよ。」

 

「恥ずかしがらないで風華。私と風華の仲でしょう?」

 

 

仲良くなった覚えはない!

 

ワタシは目の前に立つ真夜に見えないようにイーっと顔をしかめた。

 

 

 

激動の入学初日から明けて一日、ワタシは学校に来て心底驚いた。ワタシの前の席に座っていたのは他でもない、昨日散々にワタシを苦しめた星美 真夜その人だったのだ。

 

たしかに、「ほしみ」と「みつるぎ」なら前後になってもおかしくないけど・・・。

 

 

「ったく、よりによって同じクラスでしかも前後かよ。」

 

「運命だね。私と風華は出会う運命。」

 

「んなわけあるか。」

 

無邪気に笑う真夜の言葉を流してワタシは壇上の女を見据える。どうしてもワタシは、真夜のペースに調子を狂わされてしまいがちだ。

 

 

 

「・・・ですので、デュエルのお相手ならいつでもこの藤宮 凛子がいたします。私と共に、これからも精進して参りましょう。」

 

「!」

 

話に気を戻すと、割れんばかりの拍手と歓声の中、挨拶を終えた凛子が壇上を降りようとする。なるほど、良いことを聞いた。

 

 

凛子の合図により場が静かになったのを見計らい、ワタシは手を挙げて彼女に叫んだ。

 

「ちょっと待ちな、生徒会長!」

 

「?」

 

 

壇のわきに歩きかけた凛子が足を止め生徒達を見回す。ワタシの周囲の生徒がざわつきながらこちらを見たことで、凛子も声の主を見つけ出せた。

 

「何でしょうか?」

 

「生徒会長、あんた今いつでもデュエルを受けるって言ったよな?だったら、ワタシがデュエルを申し込む!」

 

「・・・!」

 

 

 

 

ワタシの宣言を聞いて静まり返る体育館。一拍置いて生徒達が一斉に怒りだした。主に女生徒が荒ぶっている。

 

「バカじゃないのあんた、弁えなさいよ!」

 

「凛子様があんたみたいなの相手にするわけないでしょ!社交辞令もわかんないの!」

 

「底なしのバカかてめえ!」

 

 

・・・。

 

 

「あの人、昨日の朝校門で生徒会に喧嘩売ってた人だよ。絶対バカなんだよ。」

 

「見るからにバカな格好してるしな・・・。」

 

「しゃべり方もバカ丸出しだしな。」

 

 

 

ブチッ。

 

「んっだとこらぁ!黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!デュエリストがデュエル挑んで何が悪いってんだ!」

 

「何よ、あんたみたいなバカが凛子様とデュエルなんて一兆年早いのよ!」

 

ワタシが雑兵共と言い争いをしていると、お静かに、とマイクを使った凛子の声が館内に響き渡った。

 

 

「皆さん落ち着いてください、彼女は間違っていません。デュエリストがデュエルを挑むのは当然のこと、よろしいではありませんか。」

 

凛子の反応に、でも、と生徒達が言葉をつまらせる。凛子はワタシを見て微笑むと話を続けた。

 

「あなたお名前は?」

 

「御剣 風華。」

 

「では御剣さん。今日の昼休み、生徒会室にいらしてください。お待ちしています。」

 

 

再びざわめきが起きる中、真夜が振り返って話しかけてくる。

 

「どういうつもり、風華。」

 

「べ、別にどうだっていいだろ。」

 

「あの人に昨日のフードの奴らのことを聞くの?」

 

「・・・!分かってんなら聞くなって。」

 

 

生徒会長になら、この辺りで起きた事件の情報が集まっているかもしれない。ワタシを狙っておいてこのまま終わりって訳にはいかせないからな。

 

 

ワタシが色んなことにイラついていると、真夜が心配そうに声を細める。

 

「気をつけて風華、この学校は安心できる場所じゃないの。」

 

「あん?」

 

「風華は舞網に引っ越してきたばかり。デュエルをしたのは昨日の朝が初めてだったんでしょう?」

 

「ああ。何で知ってんだ?」

 

「昨日教室で言ってたわ。」

 

 

・・・あっそう。

 

「なのに、フードの奴らはその日に風華を襲った。奴らの狙いはカードなんだから、風華のカードに狙いをつけたのは学校しかないのよ。」

 

 

「それってつまり・・・?」

 

「あいつらはこの学校の生徒。そうじゃなくても少なくとも、その仲間がこの学校にいるってことよ。」

 

「!」

 

真夜の言葉に戦慄が走る。

 

「・・・待てよ、ワタシは昨日放課後は凪沙とずっとデュエルしてたんだ。そこで目つけられたのかもしれないだろ?」

 

「それはないわ。」

 

「どうして。」

 

「私がずっと見張ってたから。」

 

 

「はっ?」

 

さらっと言ってのける真夜。こ、こいつ・・・!思わず声が裏返ってしまう。

 

集会が終わり、生徒達が教室に帰ろうと動き出す。雑踏に紛れ聴こえなくならないように、真夜が耳許でそっと囁いた。

 

「とにかく慎重にね。誰が敵だかはまだわからないんだから。」

 

 

 

 

 

昼休み。

 

少し小洒落た生徒会で、ワタシはさっそく先日のメガネ女とバトルになった。

 

 

「全く信じられないバカですね、あなた。」

 

「あん?るっせえぞメガネ女先輩。今度こそそのメガネかち割ってやってもいいんだぜ?」

 

「な、なんですって、このどぐされ不良女!あなたなんか出しすぎた足を蜂にでも刺されてしまえばいいんだわ!」

 

 

まあまあ、と不毛な争いを繰り広げるワタシ達をなだめ、凛子がワタシをふっかふかのソファーに座らせ自らも反対側に腰かける。

 

 

「私、驚きましたよ。この学校に通ってから、私にデュエルを挑んでくださる人なんて一人もいませんでしたから。あなたの思いきりの良さを皆さんにも見習ってほしいですね。」

 

「けっ、どうせワタシはバカですよ。」

 

「あら、そんなこと言わないでください。貴女のなさったことは素晴らしいことなのですから。」

 

デュエルディスクを使わず、むき出しのままのカードをシャッフルしながら、凛子は優しく微笑む。

 

 

「誰かにデュエルを挑む。それは簡単そうで、とても難しいことなのです。突然、あなたのことを教えてほしいとお願いするようなものですからね。」

 

ワタシもデッキをシャッフルしながら、会長の話に耳を傾ける。互いのデッキをカットし、それぞれ机に置く。

 

「それでも、あなたを知りたいと歩み寄って来てくれる。立場を気にせず、声をかけてくれる。素敵な行いではありませんか。」

 

 

妙に褒めてくるな、この人。さすがにそこまで言われると照れる。ワタシは話を逸らそうと、聞きたかったことを言ってみる。

 

「会長、あんたデュエリストが襲われる事件について何か知ってることはないか?ワタシも昨日狙われたんだ。」

 

 

「まあ、大丈夫でしたか?カードを奪われたりはしていませんか?」

 

「問題ない。それより何か犯人の手がかりとか・・・。」

 

 

ワタシ達は自然にデュエルを始めながら、襲撃事件について話し合った。

 

「残念ながら、生徒たちから集めた情報に有益なものはありません。わかっているのは、決まって複数で襲ってくること、モンスターカードを奪っていくことくらいです。」

 

「誰が狙われているとか、わからないのか?」

 

「いえ・・・。」

 

「ワタシは昨日、凪沙と二人でいるところを狙われた。だけど、あいつらの標的はワタシ一人だった。相手は二人いたのにだ。何かターゲットにするのに理由があるんじゃないのか?」

 

「?おや、お友達は狙われなかったのですか。」

 

「ああ。だからきっと、ワタシだけを狙った理由があるはずだ。それがわかれば敵の正体が暴けるかもしれない。」

 

 

ワタシが言うと会長は動きを止め、いけません、と声を震わせた。

 

「あなたまさか、お一人で事件を解決しようとなさってるですか?」

 

「当たり前だ、このまま黙っていられるか。」

 

「ダメよ、そのような危険なこと、生徒会長として見過ごせません。事件の解決は私がLDSの方々と協力してやりますので、あなたは無茶をなさらないでください。」

 

「でも、ワタシは・・・」

 

「でもも何もありません。これは絶対です。よろしいですね?」

 

生徒会長の目つきが、一瞬だけ鋭さをみせる。引き下がるつもりはないが、この場は一応これでやめておこう。

 

「わかったよ。そうする。」

 

「よろしい。そういえば、貴女は昨日襲われた時、二対一で戦ったのですか?」

 

デュエルを進めながら、凛子はふと思い出したように聞いてきた。

 

「ああ、そうだよ。それが何だい?」

 

 

「いえ、随分御強いのだなと。それならば私も全力を出さねばなりませんね。」

 

言いながらカードをドローした凛子が、引いたカードを見て怪しげに笑う。俗に言う暗黒微笑か。

 

「良いカードを引いたわ。私は手札から魔法カード、融合を発動します。」

 

「なにっ!」

 

突然の凛子の本気に、ワタシは驚き目を見開いた。

 

 

融合!

 

話には聞いていたが、これも舞網に来て初めて見る召喚法だ。

 

魔法カードによりモンスターを融合させ、新たなモンスターへと姿を変える。この召喚法の優れたところは、素材となるモンスターをフィールドに揃えなくて良いところだ。

 

 

「私は手札の、人造人間ーサイコ・ショッカーとホルスの黒炎竜 LV6を素材とし・・・」

 

凛子はデッキとは別のカードの束から一枚を選び場に出した。

 

「超炎竜 フォビドゥンを融合召喚いたします。」

 

超炎竜 フォビドゥン

融合モンスター/効果

星8/闇属性/ドラゴン族/ATK2800/DEF2400

 

 

 

「・・・!」

 

強そう。というか、この人今何を融合素材にした?サイコ・ショッカーとホルスの黒炎竜?なんだそのヤバそうな組み合わせは・・・!

 

唖然とするワタシに、凛子が笑い声を漏らしながら効果を説明する。

 

「このカードがある限り、互いのフィールド上の魔法の効果は無効となり、互いに罠を発動することができなくなります。」

 

「はっ?なんだよそれ。魔法も罠も使わないでどうやってそんなモンスター倒せって言うんだ!」

 

 

「おかしなことを言うのね。デュエルとは日々進化するもの。世にはシンクロやエクシーズといった新たな召喚法が生まれているではありませんか。」

 

凛子の言葉で、昨日の真夜のシンクロが思い出される。ワタシはあのモンスターに手も足も出せなかった。

 

「いつまでも同じカードで戦えるほど、世は停滞していないのです。」

 

「それは・・・。」

 

確かにそうだ。デュエリストは皆毎日、その腕を磨いている。新しい戦法、新しいカード。昨日の自分より強くなろうと努力しているはずだ。

 

「この先の時代でデュエルを続けていくのなら、新しい召喚法を身につけてはいかがかしら?」

 

 

凛子の言葉が胸に刺さる。ワタシは手札で腐っている、つまり召喚できないでいるウインド・ブレイダーを見た。

 

ウインド・ブレイダーはレベル7のモンスター。二体の生け贄を用意しなければ召喚できない。それがこのカード最大の弱点なのだ。だからワタシはいつもこのカードをどう場に出すかに苦心している。

 

超炎竜がいる限り魔法、罠が使えない。一体どうやってエースを出せばいい。ワタシは考えながら手札を凝視した。

 

 

 

・・・。

 

 

・・・?

 

 

・・・!

 

 

「なっ・・・!なにぃいいいいい!?」

 

 

ワタシは驚愕の声をあげ立ち上がった。ワタシの様子に生徒会の面々も驚く。

 

「な、なんです突然。ついに本物のバカになっちゃったんですか?」

 

メガネ女が嫌みを言ってくる。とっさに言ったってことは、こいつ本気で言ってやがるな。

 

 

凛子が落ち着いた声でワタシを座るように促す。

 

「どうなさったのです、突然?」

 

「いっ、いや。何でもねえよ。」

 

ワタシは慌てて取り繕う。もちろん何でもなくはない。何でもはあった。特大の何でもがあった。

 

 

ワタシのエースモンスター、ウインド・ブレイダー。その効果は、攻撃宣言時にカードを一枚引き、バトルフェイズ終了時に手札を一枚デッキに戻す。たった一つの効果だがとても優秀で、何よりワタシのスタイルにあった良い効果だった。

 

それだけのはずだった。

 

 

 

増えている!ウインド・ブレイダーに知らない効果が追加されている!

 

 

 

「何で、こんなことに・・・。」

 

カードの効果が変わる?一体どうやったらそんなことになるんだ・・・。

 

 

ワタシが動揺を隠せずに黙ったままいると、チャイムが聴こえてきた。しまった、ぼけっとしてる間に昼休みが終わってしまった・・・。

 

「おや。もう時間のようですね。続きはまた今度にしましょう。」

 

凛子はデッキを片付け始める。まだ動揺を隠せないワタシだが急いでデッキをしまい立ち上がると、凛子が隣に並んでくる。

 

 

「御剣さん。くれぐれも気をつけてくださいね。変な気を起こして、一人無茶をするようなことは控えてください。デュエルならいつでも私がお相手しますから。」

 

「あ、ああ。わかってるよ。邪魔したな。」

 

ワタシは話半分に生徒会室を出ていく。すれ違いざまメガネ女が、もう来るな、とべーっと舌を出しているのが見えたが、無視した。

 

 

 

 

 

 

「ウインド・ブレイダーの効果が変わった?」

 

教室に戻ったワタシは、生徒会室で起きたことを凪沙に話した。前代未聞のことに、凪沙も驚いたようだ。

 

「やっぱおかしいよな、これって。」

 

「うん・・・。」

 

「何でこんなことになったのか、なんか思いつくことないか?」

 

ワタシが凪沙に問いかけると、また盗み聞きしていた真夜がこちらを振り返る。

 

 

「それは、風華が変わった証拠。風華自身の変化がカードにも表れたの。」

 

「お前・・・。」

 

毎度のことでつっこむ気も失せ、仕方なくワタシは真夜に聞き返す。

 

「どういうことだよ、それ。」

 

「風華、もう気づいているんでしょ?」

 

「!」

 

 

真夜の言葉に、思い当たるふしはある。昨日、ミッドナイトの攻撃を受けた後から浮かぶようになった光景。あれは間違いなくワタシ自身の記憶の光景。

 

深い森の中でワタシが真夜と向き合っている。静かに見守るミッドナイト・ステラー・ドラゴン、ワタシの隣ではウインド・ブレイダーがその翼を広げている。

 

 

ワタシは前に、真夜と会ったことがあるんだ。

 

 

「・・・ワタシの記憶が戻って、それでどうしてカードに影響が出んだよ。」

 

「それは、ウインド・ブレイダーが風華にとって特別ということ。」

 

「特別・・・?」

 

「ウインド・ブレイダーだけじゃないけどね。」

 

 

にこっと笑うと、真夜は正面に向き直る。全く意味がわからない、なんだってんだ一体。

 

「・・・。」

 

ワタシはしばらく考え込む。舞網に来て数日、高校に入ってはわずか二日。まさかこんなに色々なことが起きるとは思いもしなかった。

 

 

だが、考えても仕方ない。今ワタシにできることは限られている。それを一つずつ片付けていくしかないんだ。ワタシはふぅ、と一息つき凪沙に話しかける。

 

「なあ凪沙、今日の放課後ひまか?」

 

「え?うん、空いてるけど、なに?」

 

「ちょっと行きたいとこがあるんだ、案内頼めるか?」

 

「いいよ、どこ?」

 

 

 

 

「デュエル神社だ。」

 

 

ワタシはそう言って凪沙にニッと笑いかけた。

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