デュエル神社。
それは、この世界とデュエルモンスターズの精霊世界をつなぐ場所。世間ではそう言い伝えられている。
当然現代の人々はそんな話を信じてはいない。だが、数世代前までの人々には現実の話だった。
デュエル神社は、古来人々とデュエルモンスターズをつなぐ唯一の場所であり、この世界にカードが広まったのも全てはここから始まったことだった。
古代の世界ではデュエルモンスターズのカードは、神より授かりしものとして崇められる傾向にあった。というのも、当時カードを手に入れる方法はデュエル神社に行って祈り、神よりさずかるしかなかったからだ。故に、その稀少価値は計り知れず、手に入れた者は家宝として大切に奉っていた。
そもそもこの世界には、近現代になるまでデュエルというものが存在しなかった。デュエル神社で授かるカードは決まって今で言うモンスターカードであり、魔法、罠も存在していなかったのだ。
それが近年になり、世界にカードが普及してくるにつれデュエル神社はカード生み出さなくなっていった。その代わりに世界には、カードを製造することを目的とした機関、カード局が生まれることになったのだ。
カード局はモンスターだけだったデュエルモンスターズに魔法、罠を追加し、デュエルという対戦を行える物へと形を整えた。
現在この舞網ではカード局はLDSに吸収され、舞網のカード製造はLDSのカード課が一手に担っている。
そうした歴史から、現在ではデュエル神社に行ってカードを手に入れようとする者はほとんどいない。だが、デュエル神社が依然としてカードを生み出す力を有していることにはかわりはないのだ。
その力を信じる者にとってはであるが・・・。
「ワタシのウインド・ブレイダーも、前にデュエル神社にお参りに行った時に手に入れたカードなんだ。」
ワタシは目的地に向かう途中、一緒に歩く凪沙に話した。
「だから今回も、何か良いカードが手に入ればいいんだけど。」
「なんでわざわざデュエル神社なの?LDSのカード課に作成申請書を出せば作ってくれるのに。絶対にじゃないけど、デュエル神社に行くよりは遥かに可能性があるんじゃないかな。」
凪沙はどうやら、ワタシがデュエル神社に行けばカードが手に入ると思っているのが不思議らしい。確かに自分でも信じられない部分はある。だが、なぜだか上手くいく確信があった。
「まあまあ、いいじゃねえか。こういうのはノリだよ、ノリ。」
ワタシの適当な物言いに二人で笑いあっていると、あっ、と凪沙が指をさして言う。
「ほら見えた、あれがデュエル神社だよ、たぶん。」
そう言う凪沙の指し示す方向を見たワタシは、予想外の現実に目が点になる。
「え?これが、デュエル神社?」
「たぶんそうじゃないかな。」
ワタシは目的地と思われる場所の前に立った。
小さい。
それは神社というにはあまりにも小さい。建物の隣に小高く盛られた土の上に、数段の階段がありその奥に小さな鳥居と社殿がある。
というか、これは神社ではなく、祠では・・・?
「なあ凪沙、これ神社じゃなくて、祠・・・」
「神社じゃない?」
「いや、じゃない?じゃなくって・・・」
「神社だよ、きっと。」
「・・・。」
こいつ、さてはめんどくさくなってんのか?
仕方なくワタシは謎のボケをブッ込んできた凪沙を無視して階段を上がっていく。見えた社殿には確かに、カードを受けとるための賽札箱が備えられていて、そこが一応デュエル神社の類いのものであることがわかった。
ワタシは作法などまるでわからないので、とりあえずお供え用のカードを置き目を瞑ってお祈りする。
「ブッ倒したいやつがわんさかいます。どうか強いカードをお願いしますよ、と。」
強くお願いしてからワタシは目を開けた。早速賽札箱を開けて、中にカードが入っているか確認する。頼む、何か入っててくれ・・・!
だが残念なことに、そこにはカードは一枚も入っていなかった。
「・・・はあ、上手くいくと思ったんだけどな 。無理があったか。」
ワタシはがっくりと肩を落とし立ち上がる。ダメだったと凪沙に報告するのがちょっと恥ずかしい気もするが、引き返さないわけにはいかない。もう一度ため息をついてからワタシは振り返った。そこでまた、目が点になる。
凪沙がいない。
もっと言うと、今来た道、というか町がなかった。
「・・・?」
なんだ、これ。
目の前に広がるのは、だだっ広い敷地。中心に一本の石畳の道があり、その両側には砂利が敷き詰められている。
敷地を囲む塀の周りには木々が並んでいて、空の下に何があるのかを隠していた。
ああ、神社だこれ。
「って、おい!なんだこりゃ、どうなってんだ一体。」
思わずノリ突っ込みになってしまう。驚きながら振り返ると、さっきまでミニチュアな社殿があった場所には、どでかい拝殿がそびえていた。
「ったく、昨日からおかしなことばっか起きやがって、ワタシが何したってんだ。」
ワタシはふてくされてその場に座り込んだ。さすがに、目をつむっている間に世界ががらりと変わっていたら言葉がなくなってしまう。
夢にしても、もうちょい楽しげな場所に出してくれよ。ワタシは内心そう呟く。仕方ないのでしばらく、誰もいない神社の境内を眺めていた。
すると。
「よくぞ参られました、御剣 風華。」
ワタシがぼーっと階段に腰かけていると、後ろから呼び掛けてくる声がする。振り返ると、そこには特徴的な緑の帯の和服を着た女性が佇んでいた。少し開いた胸に光るアクセサリーがとても大人っぽい。
よかった、助け船が来た。ワタシは安堵の息をつき、ふと気になってもう一度彼女をチラ見した。
あれ、なんかどこかで見たことあるな、この人。
ワタシが、誰だっけと考えていると、その女性は自ら名乗り出る。
「私はこの地を護る者、名を伊弉波と申します。」
「いざなみ・・・?」
やっぱり聞いたことがある。いざなみ。たしか、そう、この漢字が出てこない感じは・・・。
そう、スピリット・モンスター!
ピンと来たワタシは勢いよく立ち上がって彼女前に立つ。
近くで見ると本当に綺麗な人なのがわかったが、今はそんなことどうでもいい。
「あんた、スピリット・モンスターのいざなみだろ?」
「はい。あなたをお待ちしておりました、御剣 風華。」
「いやいや、お待ちじゃないから。なんでデュエルモンスターズのカードが人になってんのさ。」
「ここはデュエルモンスターズの精霊世界。私はカードの精霊です。」
・・・。
「信じないよ?」
「こちらへどうぞ。あなたにお渡ししたいものがございます。」
ワタシの言葉を軽く無視して、伊弉波は歩いていく。立ち居振舞いがとてもお上品で、というか歩くのがすごく遅くて、裾をふんずけそうになってしまう。
拝殿から本殿へと移動すると、伊弉波はしまってあった箱を取りだしワタシに渡してきた。
「何だい、これ。」
箱を手に持って蓋を開けてみる。中には、紫の布に包まれた一枚のカードがしまわれていた。
「それはあなたの記憶です。以前あなたがここへいらした時私達が差し上げましたのに、あなたがここに忘れて行かれたのです。それを今、あなたにお返しします。」
「へえ・・・。」
なんかちょっと怒ってない?この人。ワタシは少しだけ彼女に怖さを感じた。
「記憶・・・ね。まあ、ありがたく頂いておくよ。」
ワタシは何の気なしに箱からカードを取り出し、裏面が見えていたカードを表に反す。
瞬間。
脳内にフラッシュバックが巻き起こった。次々に、以前ここに来たときの記憶が蘇ってくる。
「うっ・・・!」
脳に走る衝撃に耐え兼ね、ワタシは膝をつく。そうしている間にも、記憶は溢れ続けた。
うっそうと繁る木々。闇の勢力の手先のモンスター達。逃げ場を失った少女。羽ばたく純白の翼・・・。
脳裏を過る映像が目まぐるしく移り変わり、瞬時に記憶の追体験をすることになる。
そう、以前にもワタシはこの精霊世界にやって来た。そして、ここでワタシは真夜と出会い、その時・・・。
「真夜を救った。」
そうだ、思い出した。ワタシと真夜の出会い。
あの時真夜は、モンスター達に襲われこの精霊世界から帰れなくなっていた。
ここは本来人間の来るべき場所ではない。どこからでもこれて、どこからでも帰れるというわけにはいかないんだ。
そんな真夜を救うため、ワタシはこの精霊世界に呼び出された。たまたま迷い込んだとかじゃない、ワタシは精霊に呼ばれてここへ来た。
力を貸すといいワタシの前に現れた翼の剣士と一体の竜。彼らの力を借り、迷える少女を探し出す。
邪悪なモンスターを率いる仮面の男たちとの戦い。少女を庇い傷だらけになった、星の輝きを宿す竜・・・。
激しい戦いの末ようやく見つけた、涙をこぼし大きな木の下に座り込む少女にワタシが手を伸ばす。助けに来たよ、もう大丈夫。ワタシは御剣 風華。あなたは?
私は星美 真夜。ありがとう、風華。私、風華のことずっと忘れない。ずっと大好きでいる。だから私と友達になって。
ワタシ達はそれから、ほんの少しの時間だったけれどこの世界で一緒に遊んだ。ワタシと真夜、多くの精霊達と共に。そして、いつか現実の世界でも遊ぼうと約束した。
帰り際、ワタシを呼んだ精霊が二枚のカードを渡してくれると言った。それは、この世界でのことを心に繋ぎ止めておくために必要だという。だがワタシは一枚を受け取り二枚目を用意してもらっている間に、じれったくなって帰ってしまったのだ。精霊は動くのが遅いから。
だから、ワタシの手元にはウインド・ブレイダーだけが残り、記憶ともう一枚のカードはここへ残されることになっていた。
そういうことだったのだ。
全てを思い出したワタシは、ハッと目が覚める。いつの間にか息が切れ、汗が頬を伝っている。
「思い出されたようですね。」
頭上から伊弉波の声がする。ワタシは、ああ、と返事をしてふらふらになりながらもなんとか立ち上がった。よろめくワタシを支えながら、伊弉波が問いかけてくる。
「御剣 風華。ここがどこだか、理解できていますね。」
「ああ。」
最初は夢かと思っていたこの場所も、今ではハッキリと精霊世界だと認識できている。
「なぜここへ呼ばれたのか、理解できていますか?」
それは・・・。
「真夜を護るためだ。」
ワタシが答えると、伊弉波は静かに頷き言葉を続けた。
「星美 真夜のこの精霊世界での役目は、この世界を護ること。そして、あなたの役目はその星美 真夜を護ることなのです。」
「ワタシがまたこの世界に呼ばれたってことは・・・。」
「はい。再び、この世界を護る星美 真夜に、助けが必要となったのです。」
真夜にまた危険が・・・。嫌な予感しかしない。前に来たときは、助け出すのに物凄い激戦になった。
「今、この精霊世界には悪しき者達の魔の手が迫っています。いえ、この世界だけではなく、あなた方の世界や、それ以外の世界も危険にさらされているのです。」
「・・・?なんだ、それ以外の世界って。」
「あなた方人間の住む世界は、大きく四つに分かれています。そのうちの一つの世界が、他の世界に攻め入り全ての世界を我が物とせんとしているのです。そして、この精霊世界にも・・・。」
「まてまて、世界が四つに分かれてるってなんだよ。」
「あなた方の住む世界と同じものがあと三つあるということです。」
はい?
急に凄いこと言い出したなこの人。いや、精霊世界の時点でもう凄いことなのか。ワタシは知らぬ間に感覚が麻痺していたようだ。
「彼の者達がこの精霊世界で何をなさんとしているか、今は言えませんが、見当はついています。成し遂げられれば、間違いなくあなた方の世界にとって大いな脅威となることでしょう。」
「しかし、その災いを防ぐには星美 真夜一人の力は余りに小さい。御剣 風華。あなたの助けが必要なのです。」
伊弉波の瞳がまっすぐにワタシを見据える。突拍子もない話なのにこの真顔。信じられないが彼女は本気で言っているようだ。
「・・・で、具体的にはワタシは何をしたらいいんだ。」
「まずは、あなた方の世界に潜む、侵略者の手先を見つけ出すことです。」
「手先がいんのか?なーんでわかんだよ、そんなこと。」
「精霊世界には、どこからでも入れる訳ではありません。それぞれの世界から、入りやすい地域、入りにくい地域があるのです。」
「この辺りの精霊世界に来るにはあなた方の世界から来るのが最も適しています。偵察に送られてくる者の頻度から鑑みても、あなた方の世界に潜んでいると考えるのが妥当でしょう。」
「ふーん、なるほどね。」
なんだかよくわからないが納得しておく。
「じゃあ、そいつら見つけ出してブッ潰せばいい訳だ。よし、任せときな。」
「それだけで終わる訳ではありません。まず始めに、ということです。」
「わーったよ、もうなんでもいいや。」
ワタシは難しい話に嫌気がさして、うーんと身体を伸ばした。
「世界がどうとか、侵略がどうとかワタシにはさっぱりだ。」
伊弉波が驚いたように眉を曇らす。安心しな、とワタシは彼女に笑いかけた。
「投げ出すなんてことしないよ。真夜はワタシが護る。いや、真夜だけじゃない。この世界もあの世界も、みんなワタシが護ってやるさ。」
「覚悟はできたと・・・?」
「覚悟とかそんなじゃないよ。ワタシは、楽しくデュエルするためだけに舞網に来たんだ。なのに、それを邪魔する奴等がいる。だったら、さっさと片付けてワタシはワタシの望んだ世界に帰る。そんだけさ。」
「そう、ですか。」
ワタシの言葉を聞いて、伊弉波はゆっくりとこちらへ近づくとワタシを抱き寄せた。
「あなたの想いはわかりました、御剣 風華。心より感謝いたします。ですが、どうかご無理をなさらないでください。世界を護るため、あなたが犠牲になるようなことはあってはなりません。よろしいですね。」
「あっ・・・う、うん。わかってるよ、大丈夫だから。」
ワタシは照れくさくなって彼女の腕の中で俯く。伊弉波がそっと離れ、再びワタシに真剣な眼差しを向けた。
「御剣 風華。どうか、よろしくお願いいたします。全ての世界の、真の平和のために。」
「・・・ああ、任せな。」
ワタシがそう言うと、周りの景色がぼやけ始める。ワタシの意志が確かめられ用が済んだのだろう。もとの世界へ返されようとしているんだ。
なんとなく理解したワタシは、視界が霞み一面が真っ白になっていく中、微かに見える伊弉波に言った。
「次ここに来るときは、全部片付けておいてやる。そん時は、堅っ苦しい言い方じゃなくってさ、風華って呼んでくれよ、いざなみちゃん。」
ワタシの言葉に、ほんの一瞬見えた伊弉波の顔は笑っていた。