「はい、メロンソーダ。」
真夜がそっとコップを差し出してくる。並々と注がれた炭酸が弾けとんで周りが湿り始めていた。
「お前なぁ・・・。」
ワタシは仕方なく唇を尖らせて表面を吸いとるように飲む。
フードの男達との三対三のデュエルの後。ワタシ達は近くのレストランで楽しくお茶・・・ではなく、今後の作戦会議をすることになった。
フードの男達のこと、精霊世界のこと、今までのこと、これからのこと・・・。話さなければならないことが山程ある。
ワタシがストローを舌先で遊んでいると、真夜が口火をきった。
「風華、なんで波川さんまで連れてきたの。これ以上巻き込む必要はないでしょ?」
「ん?凪沙はワタシの友達だ。真夜、お前と同じな。一人だけ仲間外れにしたりしないよ。」
ワタシが言うと、真夜はぐぬぬ、と口をへの字にする。こいつはホント辛辣だな。
「・・・はぁ、仕方ないか。風華がそう言うんなら特別。そこで大人しくしてて。」
「うっ、うん・・・。」
凪沙があきれた風に返事をする。顔がひきつってるぞ、凪沙。
「なあ真夜、あいつら一体何なんだ?お前昨日、あいつらはワタシ達の敵って言ってただろ。」
「彼らはアカデミアの手先。」
「あん?なんだ、アカデミアって。」
「別の世界にある、侵略者集団みたいね。」
「・・・!じゃあ、あいつらのやってるカード狩りは、世界の危機ってやつに関係してることなのか!」
ワタシは驚いて大声を出してしまう。てっきり、あいつらはチンピラみたいなもので、本当に倒さねばならない敵は全く別に存在しているのだと思っていた。
ワタシの言葉に凪沙が、ねえ、と口を開く。
「別の世界って何?それに、世界の危機って・・・。」
「あー・・・。」
ワタシは真夜と目を見合わせる。言って、と真夜が小さく頷いたので、ワタシは凪沙に精霊世界や別の世界のことを話した。
「・・・だから、さっき急にいなくなったのはそういうことな訳よ。ウインド・ブレイダーの効果が変わったのもな。」
実際は変わった、というよりは本当の力を取り戻したといった感じだろう。オーガスト・ブルーム・ドラゴンと離して持ち帰ったことで、カード化が不完全になってしまっていたのだ。
「な、なるほど・・・?」
信じられない、といった感じで凪沙の語尾があがる。無理もない。
「ああ、昨日から不思議に思ってたことがあるんだ。真夜。」
ワタシは疑問に思ったことを次々に口にしていくことにした。
「何?」
「お前のミッドナイトや、ワタシのウインドやオーガストの攻撃って、明らかに実際のダメージが発生していないか?」
「 それは当然よ。彼らは精霊の宿る、真のカードだから。」
「真のカード?」
「つまり、精霊世界に存在する実際のモンスターを宿したカードということ。だから、その力は実際に存在しているものなの。」
真夜の説明を聞き、ワタシ達はさっきのデュエルが終わった時のことを思い出した。
ワタシが同じターンで倒した三人は、うち二人がボロボロになっていた。オーガストの効果を受けた男と、ウインドの攻撃を食らった男だ。だが、ご隠居の効果で倒したやつだけは、特に傷ついている様子はなかった。
「言われてみればそうだな・・・。」
ワタシは凪沙と頷きあった。
「じゃあさ、お前はあいつらのことどれくらい知ってるんだ?」
「私が知ってるのは、あいつらが世界の敵だということ、精霊世界に何かの目的があること、その為に舞網でカード狩りをしていること、敵の一部は舞網東高校に通っているということ。それと・・・。」
「彼らは誰かに操られているということ。」
ついさっき。戦いに敗れた男の一人は意識を失い倒れていた。ワタシ達が近寄ると無事だった男二人は逃げ出したが、残された一人は依然倒れたまま。ワタシ達は敵の正体を探るため男を叩き起こして情報を聞こうとした。
しかし。
目を覚ました男には、ワタシ達とのデュエルの記憶がなかった。とぼけているのかと思ったが、どうも様子がおかしく、話を聞いてみたところ。
その男には今日の記憶があった。正確には、まだ来ていない、今日の夜までの記憶があったのだ。だがワタシ達が困惑している間に男は去っていってしまい、どういうことなのかは 分からずじまいに終わってしまった。
「十分じゃねえか。それだけわかってりゃ、後は敵を見つけ出してぶっ倒すだけだろ?」
「そうね。どこにいるかはわからないけれど、彼らを操っている者を見つけ出して倒すだけ。見つけられればね。倒しても逃げられ、気絶させれば記憶が消える。」
「うっ・・・、そうか。」
ワタシはことの難しさに言葉がつまってしまう。仕方なく、他のことを聞いた。
「そういえば、真夜はどうしてあいつらが世界の敵だってわかったんだ?」
「それは、精霊世界で何度もあったから、彼らと。」
「なっ、あいつらも精霊世界に入れるのかよ。」
言ったところで、伊弉波の言っていたことを思い出す。精霊世界に送られてくる偵察の頻度。彼女はたしかそんなことを言っていた。
「精霊世界ってそんな誰でも行けるようなとこなのか?」
「違う。敵は元々別の世界から来た人だから、その技術を応用しているのよ。誰でも行けるわけではない。」
「なるほどね。」
ワタシが納得したところで、真夜の顔が少し明るくなる。ようやく、敵の正体に一歩近づいたと言うところなのだろうか。
「つったって、どうやって見つけるんだ?」
「うん・・・。それが問題なんだよね。追いかけようにも、敵はいつも複数。しかも男だから、実力行使に出られたらどうしようもない。」
はあ・・・。
ワタシ達はしばらく黙って考え込んでしまう。
「・・・ダメだ、何もでねえ。凪沙、なんかないか?良い案。」
「えぇ・・・。あっ、ねえ、私も聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
凪沙は真夜に問いかける。何、と真夜はそっけなく言う。
「えっと・・・。さっきの人達、私が昨日狙われずに済んだって言ってたの。でもそれっておかしいよね?」
「・・・!」
ワタシは訳がわからず凪沙の話に割ってはいった。
「何言ってんだ?凪沙は昨日あいつらには狙われなかったんだろ?昨日のやつらはワタシが目的だったんだ。」
「違うの、風華。昨日風華のところから離れた後、私のところにもフードの人が来たの。」
「!」
じゃあ、昨日真夜が言ってたことは・・・。
はっとしてワタシが真夜を見ると、真夜が涼しい顔をして言う。
「風華。まさか私が本気で波川さんを気絶させたと思ってたの?」
「いや、そりゃ思うだろ!」
「まあ、実際私が気絶させたんだけどね。」
「おい!」
「私が一人でいると、星美さんが急に来て、そうしたらすぐにフードの人も現れて・・・。あの人の狙いは私だったけど星美さんがデュエルを引き受けて、私はそのデュエルに巻き込まれたの。」
「ああ、ミッドナイトのリアルダメージか。」
「うん。だから昨日狙われずに済んだってことはないと思うんだ。だよね?」
凪沙は真夜に確かめると、そうね、と真夜が小さく答える。
「なんであんなこと言ってたのかな・・・?」
「・・・考えられるとしたら。」
真夜が考えながら口を開いた。
「間違った情報のもと命令が出された、ということ。フードの彼らは操られている存在。なら、操っている者こそがアカデミアの手先で、その人物が指示を出していることになる。」
「普通、同じ人間を二日連続で狙ったりしない。だって、勝ってカードを奪ったならそれまでだし、負けて追い返されたなら警戒されて余計やりにくくなるに決まっているんだから。」
「操られている彼らが危険な任務に反抗したりはしない。ということは、危険を察知して回避するのは指示を出す人物の役目。それが今回警戒されているかもしれないのに連続襲撃を行ったということは、指示を出す人物が、警戒されていないと思ったということになる。」
「ま、真夜?つまりなんなのさ。」
「つまり、指示を出す立場の人間が、波川さんは昨日フードのやつらの標的にはならなかった、と誤解したということよ。誰かに間違った情報を教えられてね。」
「フードのやつらは操られている存在。嘘の報告をしたりはしない。だから、間違った情報を教えるのは外部の人間。」
「そして、昨日の襲撃に関して、波川さんは狙われなかったと勘違いしていた外部の人間は・・・。」
真夜がワタシをじっと見つめる。
「風華しかいない。私が嘘をついたせいで、波川さんを気絶させたのを私だと勘違いした、風華しかいないの。」
「!」
「答えて、風華。風華がこのことを話した相手こそ、世界の敵そのもの。風華、このことあの人にしゃべった?」
・・・!
真夜の言葉に息が苦しくなる。心臓の鼓動が痛いくらいに激しくなった。
「ああ、言った。昼休み、生徒会室で・・・。」
美しきデュエリストに。
「生徒会長・・・!」
「そういうことみたいね。舞網のカード襲撃事件の犯人、そしてアカデミアの手先の可能性が最も高いのは、舞網東高校生徒会長、藤宮 凛子。私達の敵は、あの人。」
「まじか・・・。あいつが、この世界の敵・・・!」
「嘘・・・!」
ワタシと凪沙は同時に呟くと、二人して目を伏せ考え込んだ。
「・・・どうしてなのかな。」
凪沙が静かに呟く。ワタシも真夜も黙って凪沙を見た。
「藤宮さんって、舞網でも有名なデュエリストだよね。LDSでもエリートコースをいってて、強くて、優しくて、聡明で・・・。」
「そんなの知らない。例えどんなにすごい人でも、私と風華の敵には違いない。野望を打ち砕いて、この世界から消し去るまでよ。」
真夜がしれっと恐ろしいことを言う。だが、実際やるしかない。やらなければこの世界の危機につながってしまう。
ワタシは腕を組んで天井を見上げて言った。
「問題は、どうやってあいつをぶっ倒すかだ。」
「何とかして、決定的証拠を押さえて突き付けるしかないと思う。でなければ、言い逃れられるだけ。」
「だよなぁ・・・。」
やるべきことはわかっているが、その手段がわからない。もどかしい気持ちで、残ったソーダをイッキ飲みした。
「おかわりとってくる。」
ちょっと気分転換にと、ワタシは席を立ちドリンクバーへとむかう。あ、ついでに便所にも行っておくか。そう思い、行き先を変え歩いていく。
「・・・。」
風華の去ったテーブルでは、凪沙と真夜の二人きりになった。
凪沙は気まずい空気のなか、あの、と真夜に話しかける。
「さっきはありがとう・・・。デュエルの時護ってくれて。」
一瞬、真夜の目付きがキツくなる。だがすぐに視線を落としてそっけなく返事をした。
「あなたに言われたくない。自分だって同じようなことしておいて、一人だけ良い子面しないで。」
「ご、ごめん・・・。」
再び沈黙が訪れ、気まずさがさらに増してしまう。
しばらくして、今度は真夜が口を開いた。
「私、あなたには冷たいこと言っているけど、間違ってるとは思ってないから。」
「星美さん・・・?」
「あなたのデュエルの腕は認める。風華の友達だっていうのも我慢する。でも、この先の戦いに、あなたの入り込む余地はない。今のうちに普通の生活に戻るべきよ。」
凪沙は予想外の忠告に瞬きを繰り返す。言葉を続ける真夜の表情はいつになくばつが悪そうだった。
「でないと、あなたいつか死んでしまうわ。」
「!」
「これから私達が戦うのは、世界と関わる相手。これから私達がやるのは精霊の宿るカードを使うデュエル。」
「それは・・・。」
「ただのデュエリストじゃもたないわ、絶対に。死んでもいいなら止めないけれど、責任とらないから。気をつけてね。」
真夜の言葉が容赦なく凪沙に突き刺さる。言い方はかなりキツいが、真夜の言っていることは事実だった。
「・・・。」
二人がまた無言になる。少し考えた後、なぜか凪沙が嬉しそうな表情になって言った。
「星美さん、実は優しいんだね。私わかった。」
「・・・何言ってるの?そんなことない。」
「あるよ。本当はすごく優しくて、だけどみんなを巻き込まないように遠ざけて。自分と同じ力のある風華にだけ心を開いてる。」
「!」
凪沙の言葉に真夜はドキッした。本当の自分を見透かされている。
「私嬉しかった。さっきのデュエルで星美さんが護ってくれたこと。それだけじゃない。昨日フードの人達から護ってくれたことも。」
「だから、それはたまたま・・・。」
「偶然でもなんでも、護ってくれた。風華が星美さん、ううん、真夜を護ったように、真夜は私を護ってくれたじゃん!」
「うっ・・・。」
「真夜が、自分を救った風華のことを大切に思うっていうなら、私だって同じ。私を護ってくれた風華と真夜のこと、大切に思う。」
凪沙の真剣な告白に、真夜はうろたえた。ここまで正面から向き合ってくれた人は、今までだれもいなかった。自分は普通ではない。自分の周りにいたら、大切に思う人を危険に巻き込むことになる。その思いから人を突き放したし、皆簡単に離れていった。
だが、今目の前にいる少女は、偶然とはいえ真夜自らが引き付けた存在。風華とはまた違い、自らの行いが生んだ縁だった。
そして真夜には、凪沙の気持ちがわかっていた。こうして人は、誰かを好きになるのだと。大切に思うようになるのだと。
このまま彼女を巻き込んでいいのだろうか。自分のことを大切だと言ってくれた人を、身近に置き続けていいのだろうか。
戸惑う真夜に、凪沙は膝を抱えて口元を隠すようにして言った。
「真夜のこと、友達だって思う。いいよね・・・?」
「そっ、そんなの・・・。」
「悪い悪い、遅くなっちまった。なんかいろいろ混んでてさ・・・。」
ワタシが用を済ませて戻ってくると、二人の空気がさっきまでと変わっているのがわかった。しかも真夜は明らかに凪沙から顔をそらしている。
ワタシは妙に機嫌のよさそうな凪沙に尋ねた。
「どうした、なんかあった?」
「なんでもないよ、私と真夜の秘密。ね?」
凪沙が少しだけ微笑んでから真夜に言う。相変わらず顔を背けたままの真夜は聞こえないくらいにぼそっと答えたが、うっすら赤くなった頬は丸見えだった。
「・・・うるさい。」
「・・・凪沙。」
ワタシ達三人が友達になったその日から、少し時が流れたある日。
ペンデュラムの揺れは一人の少年だけではなく、ワタシ達の運命も大きく変えることになる。