ダンジョンで現代兵器をふるうのは間違っているだろうか 作:大神
ヘファイストスは自らの拠点に少年を運ぶと、ファミリアの団員達に事のあらましを軽く説明し、少年を私室に連れ、ベットへ寝かせた。少年の汚れでシーツも汚れてしまうが、そんなもの後で代えれば済む話だ。今はこの少年に、自ら命をなげうってまで自分を守ってくれたこの少年に奉仕をしようと、それだけを考えていた。
ふと、部屋の扉を軽く叩く音が聞こえる。
「誰?」
「私だ」
「椿・・・・・・。戻ったのね」
扉が開かれると、黒い髪に赤い目の左側を眼帯で覆った女性が現れた。名を椿・コルブランドという。このヘファイストス・ファミリアの団長を任されている。
「ええ、今し方。それより主神様。また『拾いモノ』か?みんなが噂しておったぞ」
「常習犯みたいに言わないで。まだ前例は一つでしょ?それにこの子はそんなんじゃないわ。恩人よ」
「恩人・・・・・・?そう言えばお召し物が汚れているではないか!」
「ああ、これは--」
「早くお風呂に入ってまいれ!」
「え、いや、でも--」
「この少年のことは手前が引き受ける!さぁ、はやく!」
椿の有無を言わさぬ剣幕に押され、ヘファイストスはなくなく部屋から退出することにした。椿もヘファイストスを押して部屋を出る。自然とヘファイストスの私室に残ったのは少年だけだった。
「・・・・・・――――――ァ」
だから、誰一人として少年の覚醒を見届けることはなかった。
◆◇◆◇
「・・・・・・あー、何処だここ」
少年が目覚めると眼前に広がったのは見たこともない天井だった。
見たことのある天井というのも変な話だ。今の彼に以前の彼の記憶はないのだから。
「痛ってェ・・・・・・」
せめて上半身だけでも起こそうするが、男たちに手酷くやられたのだろう。少し動かすだけで激痛が走る。特に右腕、まるで肩から先がないような不快な感覚が少年を襲う。
「・・・・・・身体動かすのは諦めるか。にしてもここは一体何処だ・・・・・・。アイツ等の寝蔵、じゃあねぇよなぁ・・・・・・」
あんな格好をした集団がこの見るからに上品で金のかかってそうな部屋を持っているはずがない。
少年が頭を回転させていると部屋の扉が開かれる。
ヘファイストスを風呂に押し込んできた椿が少年を看るために帰ってきたのだ。
「む、起きたな」
「・・・・・・アンタが俺を助けてくれたのか?ここは何処だ」
「いや、お主をここに連れてきたのは手前共の主神様さ。ここはその
「神・・・・・・?・・・・・・ずいぶんと物好きな神様だな、見ず知らずの人間を自分の部屋に連れてくるなんて」
「神様なんて物好きなものであろう、
「・・・・・・恩人?・・・なるほど、あの人か」
少年の脳裏を自らが守った赤い髪の女性が横切る。彼女が目の前の女性の言う神様かどうかはわからないが、少年には彼女しか浮かばないので恐らくはそうなのだろう。
「あの人神様だったのか。じゃあ、俺の手助けはいらなかったか・・・・・・骨折り損、というやつかな」
「いや、とても感謝しておったよ。神達はこの地上で『神の力』を使うことができんからな、きっとされるがままになっていただろう。手前も、ファミリアの構成員を代表して感謝いたす。本当にありがとう」
「・・・・・・役に立てたならよかった」
椿は粗暴な口調とは正反対に上品に礼をする。一つひとつの動作が洗礼されていてそれだけで絵になる。
彼女のそんな仕草にたじたじしながら少年は礼を受け入れた。
「それで礼がしたいのだが、お主の名前を――」
「おや、起きたね」
「主神様・・・・・・。ずいぶんとお早いお戻りだが、ちゃんと浴槽には浸かったのだろうな?」
「入ったわよ。でも客人がいるのに長湯なんてできないでしょう?」
ヘファイストスが艶やかに濡れた髪を布で拭きながら部屋へはいる。掻きあげられる度に見えるうなじと、わずかに汗ばむ首筋は同性すら魅了することだろう。
「何の話をしてたの?」
「まだなにも。とりあえず彼に名前を聞こうとしてた所さ」
「そう、じゃあまず私たちから名乗らなくてはね。私はヘファイストス、ヘファイストス・ファミリアを率いる鍛冶を司る神よ。知ってるかもしれないけど。こっちは――」
「椿・コルブランドだ、この主神様の一番弟子と言ったところかな。これでこっちの紹介はおしまいだ。お主の名、教えてくれるな?」
「・・・・・・」
名前、というなんてこと無い一単語に少年は黙り込んでしまう。それはそうだろう、彼には自らの名前すらわからないのだから。
「どうしたのだ?黙る様なことではないであろう?」
「・・・・・・何か理由でもあるの?」
黙りこくった少年の様子を不審に思い、二人は怪訝そうに少年の顔をのぞき見る。
すると、ポツリと少年が声をこぼす。
「・・・・・・記憶がない、と言ったら信じるか?」
「記憶が?」
「・・・・・・どれくらい前から無いの?」
「丁度、アンタを助けるすこし前だな。目が覚めたら空が目の前にあって、腹が減ったから声がした方に向かっていったって所か。・・・・・・そういえば腹減ってたな」
「・・・・・・お主、見た目に反してだいぶ大物だな」
「悪かったな平凡な見た目で。・・・・・・この
「そう・・・・・・」
ヘファイストスは
神々が降りてくる前、この地上には魔法使いや、魔女といった人間の種族がいたらしい。彼もその末裔かと思ったが彼にその記憶がないならば確証を得ることが出来ない。
ヘファイストスは当てが外れたというように肩を落とした。
「・・・・・・期待を裏切ってしまったようだな。悪い」
「いや、お主が謝ることではないだろう。ウチの主神様が勝手な期待を抱いて勝手に裏切られただけだ、お主の気にするところではない。それはそうと、お主、これからどうするつもりだ?」
「どう、するかな・・・・・・。とりあえず、今すぐここから追い出すってのは勘弁して欲しいな。どう言うわけだか身体が全く動かない。このまま飢え死ぬのは流石に辛い」
「いや、流石に回復するまでは客人として扱わせてもらう。主神の恩人を動けないまま放り出したと知れたら手前共はオラリオ中の笑い物だ。そうではなくそれからの話だ。記憶がないということは頼る者もいないのではないか?」
「あー、まあそうだな。ま、表に出ないところでひっそりと暮らしてるさ」
少年は薄くにっこりと笑った。
椿は少年のその無欲さに眉をひそめた。
何かを強請ることもせず、感謝すら表面上でしか受け入れない。そんな姿勢の彼に椿は不安すら覚えた。
「お主、流石に無欲過ぎはしないか?もっと手前共に何かを強請ったりはせんのか?」
「強請るも何も、欲しいモノは特にはないしなぁ。なんかくれるんなら、そっちで決めてくれ」
「お主・・・・・・」
「まあ、いいじゃない、椿。この子が決めて欲しいというならこちらで決めてしまえば」
「主神様?」
「お、よろしく頼む」
少年の投げやりにも思える返事にヘファイストスは満面の笑みで応えた。
「君には私のファミリアに入ってもらう事にするわ」
ヘファイストスの突拍子もない提案に見えた決定事項に椿と少年は唖然とした。
「・・・・・・本気か?」
「ええ。そうすれば衣食住も保証できるし、職も案内できるわ。これ以上ない待遇だと思うけど?」
「確かに破格の条件だが・・・・・・いいのか?」
少年は椿に目配せる。ヘファイストス・ファミリアほどの大派閥ともなればこのような特別な入り方をすれば前からいる人間に不和が生じないかという心配故である。
「・・・・・・まぁ、心配なかろう。ここにいる人間は基本鉄を打つことにしか興味はない。多少歪な入り方をしても気にするものは居らん」
「ならまぁ、俺に断る理由はないが・・・・・・」
「そう、なら決まりね!」
ヘファイストスは語尾に音符でも付きそうなほど上機嫌に笑う。
胸の前で手を合わせたその姿は新しい玩具をもらった子どものようだった。
「そうと決まれば早速
「儀式?」
「ああ、このファミリアにはいるときには皆、ある儀式を受けてもらうことのなっておる」
「儀式ねぇ・・・・・・俺あんまり難しいことは出来ないぞ」
「安心してよい。そんな難しいことではない。ただ一振り、剣を握ってもらうだけだ」
「そうすることでここがアナタに合っているかを感じてもらうの」
そういってヘファイストスは少年に鞘に収まった状態の短剣を渡す。
少年はそれを辛うじて動く左手で受け取り、刀身を鞘から引き抜いた。
外見は飾り気のない無骨なものなれど刀身は鈍色に輝き、少年の顔を照らした。
「・・・・・・正直、俺には刃物の善し悪しなんて分からない。記憶がないから憶測でしかいえないがおそらく俺はこういう刃物を使ったことがないし、手に馴染む感覚がないから多分それは当たってるんだろう」
「「・・・・・・」」
ヘファイストス・ファミリアに入るとき行われるこの独特の儀式はこのファミリアがその人間に合っているかを見極める特別なものだ。
ファミリアの主神であるヘファイストス自らが打った武器を入団者に見せ、その仕事ぶりを見て違うと思ったなら他のファミリアを目指してもらうというものだった。
つまり、ここで少年が何か違和感を感じたならばその時点で少年の入団はなかったことになるのだ。
ヘファイストスはもとより椿も少年に少しの不安とともに期待を抱きながら少年の次の言葉を待つ。
「でも、これだけは分かるぞ。コイツは誰にでも作れるものじゃない。思慮深く繊細で、優しさと厳しさを持ちながら、使う者を強く想っていなければこういうモノは作れないだろうな。まあ、端的言えば好きだ。こういう仕事をする人は」
「~~~~~~ッ!?//////」
「・・・・・・ほう?」
少年の聞いている方が恥ずかしくなるような歯の浮く台詞にその制作者であるヘファイストスが顔を真っ赤に染める。
勿論、今までも彼女を褒め讃えるような歯の浮く台詞を吐いた人間は居た。しかしそれらはすべて的外れなことばかりを口にし、重要なことを忘れているようにも思えた。その点目の前の少年は彼女の想いを的確に言い当て、そしてトドメとばかりに告白とも取れる言葉に、ヘファイストスの羞恥心が限界を迎えた。
「それに――」
「ま、待って!も、もういいわ!ありがとう//////」
「ん?そうか?まだ言いたいことがあったんだが・・・・・・」
「い、いいの。これ以上は保たないわ」
「は?」
「と、とにかく!これでたった今からアナタは私の
「――名前、じゃな」
少年が動けない今、契約を交わすのは後回しにして彼の身体に刻むステイタスに必要な名前を考えることにする。
ステイタスとは
「別に俺は名無しでも構わないけどな」
「ダメよ。名前はそのものの特徴を表すモノなんだから大切なものなのよ。特に魔法を使うアナタにはね」
「それに手前らがお主のことを呼びにくかろう」
「そんなものか。じゃあ、格好いいので頼むよ」
「任せなさい、実はもう考えてあるのよ。『エリクト』、それがアナタの名前」
「では手前からは下の名前を与えよう。『アプリストス』、主神様の言葉で『強欲』を意味する言葉らしい。お主には欲が足らん、もっと強欲になるように名前に刻むといい」
「エリクト、アプリストス・・・・・・。俺の、名前・・・・・・」
「どうかしら?注文通り格好良くない?」
「・・・・・・ああ、いい名前だ。ありがとう」
少年――エリクトは噛みしめるように与えられた名をその身に刻み、贈り主であるヘファイストスと椿に柔らかい微笑みを向けた。
さて、如何だったでしょうか。前回投稿した時には直ぐに感想が送られてきて驚きました。みなさん結構読んで頂けるものですね。
現時点でお気に入り数141件。こんなにも多くの方にこんな拙いものを読んで頂いてうれしいです。
さて、頂いた感想の中に「人間が神に気付かない、という事はあり得ない」という感想を頂きました。ただ今5巻を読み直している所です。
ただ、少し見つけられないので、自分なりに解釈することにしました。
この小説内では「神の恩恵を受けている者だけが神と認知できる」という前提で進めていきたいと思います。
なので、前回の話でいうとヘファイストスを襲った男達は神の恩恵を受けていなかったということで彼らはヘファイストスを神だと認識できなかったというわけです。
今後も感想や批評どんどん募集しています。解説などもしますのでどんどん送っていただけたら嬉しいです。…あまり考えてないことも多いですけど(ボソッ
それではみなさんまた次回お会いしましょう