ハイスクールD×D 加速する戦士   作:響く黒雲

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砕けた心の拠り所はどこか

流される…… 激流に身を任せ、逆らわず、抗おうともせず、ただ流されるままに俺は流れていった。

 

川の中は暗く、冷たく、ただ苦しかった。

 

だが、段々と意識が遠退いていく。

これで全て終われる、そう思ったら苦しいのも不思議と和らいだ。

 

その時。

 

『走介』

 

誰かの声が聞こえた。

女の人の声だ。

 

『走介。まだ、結論を出すには早いよ。貴方はまだこの世界でやるべき事がある。大丈夫、貴方なら出来るわ。なんたって貴方は、私とあの人の愛する―――』

 

最後の部分は聞こえなかった。

でも不思議な事に俺はこの声を聞いたことがある気がする。

だが誰なのか? 心当たりが全く無い。

 

しかし、俺の意識は限界だった。

そこまで考えて、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目が覚めた時には、俺の目の前に知らない天井があった。

 

なにがなんだか分からない。

俺は…… 生きているのか…?

 

「あっ、目が覚めた?」

 

ふと、隣で声がした。

ゆっくりと顔を向けると、そこには一人の少女がいた。

 

「びっくりしたよ! 川の近くを歩いていたらいきなり人間さんが流れ着いていたんだもん!」

 

なんで…… なんで俺を助けたんだ…

 

声に出そうとしたが出なかった。

川を流されたダメージはちゃんとあるようだ

 

「どうかしたの?人間さん」

 

どうかした? もうどうにかなってるよ……

 

「泣いてるよ?」

 

えっ?

 

言われて気がついたが、頬に触れると確かに濡れていた。

 

「どこか痛いの!? 待ってて、直ぐ塗り薬を持ってくるから!」

 

そう言って少女は、薬を取りに行った。

 

違うんだ…… 俺は、そんな施しを受けていい奴なんかじゃ無いんだ……

 

そう言おうとしても、痛む体がそれをさせない 。

 

俺は…… 生き残ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二日、俺は誰とも喋る事なく、無駄に日々を過ごした。

 

「人間さん。調子はどう?」

 

その間も少女(マリアと言うらしい)は俺の事を看病し続けていた。

 

俺が黙ったままでいると、少し悲しい顔をされる。

それが堪らなく苦しかった。

 

「食べられる? 人間さん」

 

すると、マリアは俺に食事を持ってきた。

食事までも俺に与えてくるこの家族にどうしても言いたかった。

 

「どうして…… 俺を助けたんだ……」

 

自分でも驚く程か細い声だったが、やっと声が出た。

横目でマリアを見ると、彼女は驚いていた。

 

「お、おかーさん!! 人間さんが喋ったぁ!」

 

驚く所はそこか。

 

マリアの母も驚いていたが、それよりまだ聞かせて貰ってない。

 

「どうして……! 俺を助けたんだ…!」

 

帰って来た答えはあんまりな物だった。

 

「あんたに死なれたら、あたしゃらが死体の世話をせにゃならんだろうが」

 

……… 婆さん、そりゃないだろ…

 

聞くことが馬鹿らしくなってしまった俺は、大人しく貰った食事を食べる事にした。

 

「食べられる? 人間さん。私が食べさせてあげよっか!」

 

…… そこまで弱っているように見えたのだろうか?

 

「…… 自分で食べれる……」

 

少しだけ、食べさせられる所を想像して顔が暑くなったが、何とかそれを表に出さない様にした。

……… よく見るとマリアが俺をじっと見ている。

気づかれたか?

 

「………… なんだよ……」

 

「ううん♪何でもなーい♪」

 

マリアは嬉しそうにそう言う。

 

「……… 変な奴」

 

本当に変な奴だと思った。

けど…… どこか暖かく感じる。

 

この違和感に疑問を持ちながらも、俺は眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

また、一日が過ぎた。

まだ、俺は生きている。

その事実が、俺の心をより一層締め付ける。

 

「俺は…… なんのために生きている……」

 

どうしても分からない。

あの時聞こえた声は、まだ結論を出すには早いと言っていた。

 

だけど…… 俺は…!

 

「人間さん」

 

聞こえたマリアの声に、俺はハッとする。

見ると、隣にはマリアが立っていた。

 

マリアは素早く俺を布団からひっぺがした。

 

「わっ!? いきなり何すんだ!」

 

「お布団と人間さんの服を洗濯するの。さっ!脱いで脱いで!」

 

そう言ってマリアは俺の服を掴んで脱がせようとする。

 

「待て待て!? 自分でやれるって!?」

 

「えーい♪」

 

怪我で力の入らない俺を余所に、マリアは服を脱がした。

 

「あっ…」

 

すると、何を思ったかマリアはペタペタと俺の体を触る。

 

「今度は何だ………」

 

若干疲れながらも、俺はボソリと言ったが、マリアはそのままだ。

 

「凄い傷だね。人間さんは何をしていたの?」

 

マリアに言われて初めて気がついた。

よく見ると俺の体は傷だらけで、所々痕が残っていた。

 

「何をしていたの…… か。今となっては、俺にもよく分からない。何の為に戦っていたのかさえもな…」

 

「…… ゴメンね? 聞いちゃいけなかったよね」

 

「…… いや、いい。悪いのは俺だ」

 

思い返して見ると、本当に色んな事があった。

 

最初にこの世界に足を踏み入れたのは、何時だったか…… 確か、イッセーが堕天使のレイナーレに殺された時だったな。

 

あの時…… 俺は初めて、ベルトさんと一緒に戦ったんだ。

 

そのあと、アーシアを助ける為に殴り込みに行って、ライズ…… 魔進チェイサーと共闘したんだ。

 

部長の婚約騒動もあったな。

あの時の俺は、迷っていて…… イッセー達の足を引っ張っちまった。

 

ライザーをぶちのめす為に、結婚式に乱入して、イッセーと一緒に戦って、熱い情熱でタイプワイルドに変身出来る様になって……

 

漸く落ち着いたかと思ったら、今度は聖剣なんて物が出てきて、ロマリーと再開して…… コカビエルに殺されかけた。

 

でもそのあと、クールな心でタイプテクニックになれる様になって…… 俺の力もどんどん高まった。

 

会談ではテロがあって、アレンが変身する仮面ライダーマッハってのも出てきた。

肝心の俺はデットヒートで暴走しちまって…… 抑えていた復讐に火を着けてしまった。

 

そして、夏休みを冥界で修行する事になって…… 今、俺はここにいる。

 

「あのー……」

 

マリアに声を掛けられて、俺は思い返すのを止めた。

 

「どうした?」

 

見るとマリアは顔を真っ赤にしていた。

 

「私が言うのもあれだけど…… そろそろ服を着て…」

 

「あっ……」

 

すっかり忘れていた…… 俺、今、上半身裸じゃん。

 

俺はマリアから、彼女の父親の服を借りて、それを着た。

 

 

 

 

 

 

特にやることも無い俺は、マリアに着いていく事にした。

少しでも体を元の状態に戻すためのリハビリの様なものだ。

 

「はぁ…… はぁ……」

 

「大丈夫? 人間さん。ちょっと休もうか?」

 

「はぁ…… ッ、大丈夫だ……」

 

思ったよりも体力が落ちているな……

一歩一歩が鉛の様に重い。

 

歩く事にすら苦労しながらも、俺はマリアの後を追いかけ続けた。

 

 

 

「よいしょ! よいしょ!」

 

それから畑に着き、マリアは鍬を使って畑を耕し、野菜の苗を植えていた。

 

俺は特にやることも無い為、マリアをずっと眺めていた。

時折、マリアは笑顔で俺に手を振ってくる。

 

「おーい!人間さーん!」

 

その笑顔が眩しくて、とてもじゃないが今の俺には直視する事が出来なかった。

そしてあらためて感じた。

 

「マリア達と俺とじゃ…… 根本的に住む世界が違うんだな……」

 

今まで、戦いや人外の戦争、テロに関わってきた俺と違って…… 護られるべき日常がここにはあった。

 

「人間さん! お昼にしよ?」

 

纏まらない考えをグルグルと続けていると、マリアが直ぐそばで立っていた。

俺は、簡単にああ、と答えると、マリアは持ってきたバケットからサンドイッチを出した。

 

一口齧ると、野菜の苦味と甘味が口にひろがった。

それは、俺が孤児院にいた頃にたまに口にしていた、簡素で質素な食事と、どこか似ていた。

 

「ゴメンね、家にはこんなのしか無くて。人間さんの口には合わないかも」

 

「…… いや、そんなことは無い。とても懐かしい味がした」

 

それを聞くと、マリアは「本当!」と言って喜んだ。

 

「今日、お昼を作ったの私なんだ♪ だから人間さんにそう言って貰えて嬉しいよ♪」

 

マリアはそのまま嬉しそうにサンドイッチを食べた。

 

そんなマリアを見て俺は、マリアにふと聞きたくなった事を言った。

 

「……… 嫌にならないのか? 毎日、同じ事の繰り返しで……」

 

それはマリア達にとって最大の侮辱だろう。

だが、俺はその事を言わずには居られなかった。

 

「勿論、そうしなくちゃいけないのは分かってる。変化が無い事が幸せだって事も…… でも俺は…… 変化がありすぎて…… 当たり前の事がよく分からなくなったんだ…」

 

自分で言っていて凄く気が滅入る。

こんなに自分の心が脆かった事を、改めて思い知らされた。

 

「…… それが嫌だったから、人間さんは川から流れてきたの……?」

 

「!」

 

マリアの言葉は、動かなくなった俺のエンジン()を直撃した。

少しだけ、火が灯るのを感じた。

 

「そうだね。確かに私も遠い所に行って、色んな物を見たいよ? でも家にはおかーさんとおばーちゃんとおじーちゃんしかいないから、無理はさせられないよ」

 

アハハ、と困った様にマリアは笑う。

 

「でもね?何も無い訳じゃないんだ。あっちを見て」

 

マリアを後ろにある畑の向こう側にある丘を指さした。

だが、そこには何も無い。

 

「ここはね、虹薔薇の村って呼ばれててね。そこから向こうまで時季になったら色々な色の薔薇が咲くの! それでね、毎年一本だけ虹色の薔薇があるの! 私はまだ見たこと無いけど… 一回でいいから見てみたいな~」

 

凄く興奮した様子で語るマリア。

その様子から、凄い光景なのはわかった。

 

「そうか…… それは、見てみたいな」

 

マリアがニコニコしながらこちらを見ると、一瞬で、その顔は驚いたものに変わった。

 

「? どうかしたのか?」

 

そう言うと、マリアは驚いた顔から再びニコニコした笑顔に変わる。

しかし、さっきと違って興奮したものではなく、優しい、慈母の様な笑顔だった。

 

「人間さん。初めて笑ったね」

 

「え?」

 

マリアが言うには笑っていたらしい。

だが、俺はそんなつもり無かったんだが……

 

「笑ってたのか?」

 

「うん。凄く綺麗に」

 

「そうか…… だったら、きっとマリアのお陰なのかもな」

 

「え…… えぇ!? いや、そ、そんな事ないよ!?」

 

何でだ? 素直にお礼を言ったらマリアの奴顔が赤くなったぞ? 変な奴……

 

「こ、こほん! じ、じゃあ今日やることは終わったし、帰ろうか!?」

 

「ハハ…… ああ」

 

「な、何で笑うの~!?」

 

その帰り笑顔を取り戻した俺は、顔を真っ赤にしたマリアに、ポカポカと叩かれながら、笑って帰った。

 

ありがとう…… マリア。

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