NERV航空隊隊長綾波   作:浩介

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第11話 過去

「綾波特務二尉参りました。」

コウスケは敬礼を交えてそう言う。

コウスケがここに来るのは二回目であった。

目の前には男が二人‐碇ゲンドウと冬月コウゾウである。

(しかしここは相変わらず辛気臭いな。)

十人に聞けば同じ答えが返ってきそうな感想だ。

冬月が告げる。

「綾波特務二尉、先日の使徒戦で友軍を撃とうとしたのは事実かね?」

「はい。」

「なぜそんなことをしたのかね?」

「葛城一尉の命令があったためです。」

「ふむ。」

「それと敵前逃亡は重罪でしょう。」

「ここは軍隊ではないのだが……」

「NERVは使徒を殲滅するのが目的でしょう。では、加持一尉の行動は敵前逃亡になります。」

ゲンドウが起動した。

「……加持一尉には密命があった。それに従っただけだ。」

「ほう。それを知っていれば違う行動もとれたのですが……」

「………」

「まあいい。正しく伝達しなかった我々にも落ち度がある。」

そういって冬月は不問にすると告げた。

「それと……この前の休暇中に京都大に行ったとの報告があるが……」

(ばれてますか。)

「なぜそんなところに行ったのかね?」

「………」

「君は他の大学にいたはずだが。」

「………」

「京都大に友人がいたとは聞いてないがね。」

「………」

無言が続く。

(そこまで調べてるのか……賭けに出てるしかないな。)

「……碇ユイなるものの存在を調べるためです。」

二人は緊張したようだ。

……と言ってもゲンドウは微動だにしないが。

「なぜだね?」

「単なる興味本位ですよ。」

「興味?」

「シンジ君の経歴を調べるうちに、母親について調べてみようとしただけです。作戦部副部長として知っておいても損はないかと。」

「……そんなこと必要あるまい。」

「………」

コウスケにかかるプレッシャーが一段と重くなった。

(まずいな……下手すれば死ぬかな? ……出すか。)

「……ここにある手紙があります。……碇司令宛の」

「そんなことはどうでもいい。」

「ほんとによいのですか?」

「………」

「差出人が碇ユイでも?」

「!?」

ゲンドウは明らかに動揺したようだ。

(妻には弱いのか……碇司令も人間なんだな。)

「……渡してもらおう。」

「いいですよ。」

コウスケは手紙を渡す。

冬月はその手紙を見ると驚いていた。

「なぜここにある」と言いたげだ。

「ご安心を……手紙の中身は見ておりません。」

ゲンドウは封を切り手紙を読んでいた。

………

………………

………………………

………………………………

沈黙が痛い。

不意に一筋の涙が見えた。

(碇司令も泣くんだな。)

「……綾波特務二尉。」

「これをどこで手に入れた。」

冬月の顔が強張る。

「……それについては話せません。」

「そうか。」

コウスケに向けられたプレッシャーがなくなったように感じた。

「……下がりたまえ。」

「はっ。失礼します。」

コウスケは敬礼をして退出した。

沈黙が訪れる。

「ユイ………」

ゲンドウは人知れず泣いていた。

・・・

 

「早まったかな……」

コウスケは今更ながら後悔していた。

「……でも、あの雰囲気はやばかったしな……」

心の声がただ漏れであった。

彼らしくもなく先ほどのやり取りを思い返していた。

「へたすりゃ……」

死ぬかもしれない

そんな思いが脳内に響く。

当のゲンドウはそんなつもりはないが、そんなことがコウスケにわかるわけない。

しょせんコウスケも人である。

(まだ死ぬわけにはいかないんだよな……)

(誰かに打ち明けとくか?)

と考えたが、即座に放棄する。

そんなことをすればその人の周りが被害をこうむるからだ。

「……一応警戒しとくか。」

などと考え事をするうちに前から人影が見えた。

「……赤木博士どうした?」

「碇司令に呼ばれたのよ。」

「ふーん。」

EVAの整備、武装開発、MAGIの管理を任される彼女が司令に呼び出されるのは不自然ではなかった。

だが、先ほどのやり取りがある。

コウスケは緊張していた。

「なら早くいったほうがいいな。」

「ええ。」

「じゃ。」

リツコは総司令執務室に向かった。

(生きた心地がしないな。)

するとまた人影が見えた。

コウスケはある意味、疑心暗鬼に駆られている。

先ほどのやり取りで、NERV本部をほぼ敵地と認識し始めているからだ。

次に現れた人影は制服を着ていて、蒼い髪をしていた。

レイである。

「……こんにちは。レイ。」

「こんにちは。」

コウスケは去ろうとしたが、レイがモノ言いたそうな顔をしているのが見えた。

「……シンジ君か?」

シンジとレイ

最初はシンジが一方的に話すのがよく見えたが、この前の作戦「ヤシマ作戦」以降レイもシンジに興味を示していた。

もっともほかの人(コウスケ以外)に対する態度は変わらないが……

そのおかげか、レイがシンジに引っ付いているのを見たことがる。

一、二回ではない。

……おかげでシンジをからかうネタには困らなくなったが。

コウスケはレイがシンジを通して心を知ろうとしているように見えた。

特にセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーが来てからは如実に出てきた。

だが、レイはおそらく無意識なんだろうなと考えていた。

時々、自分に戸惑っているように見えるからだ。

ともかくレイが一番固執しているものの一つ「碇シンジ」の名前がコウスケの口から出てもおかしくはなかった。

「……いえ。」

「ならどうしたんだ?」

「特務二尉に」

レイはコウスケを「綾波」とも「コウスケ」とも呼ばなかった。いつの間にかこういう呼び方が定着していた。

特務二尉なんてコウスケ以外いないので不便ではないが。

「俺に用か?」

「はい。」

(子供の前でズドンとかは……無いと祈ろう……)

「……ちょうど昼時だし、食堂に行くか。」

「はい。」

・・・

 

NERVの食堂は食券を購入し、カウンターにて料理と交換するシステムである。

料理自体はすばやく出るため、食券を購入したらカウンターで待っていればいいのだ。

そんなNERVの食券販売機に不可解なメニューがある。

コウスケはそれを押している人を見たことがない。

普通人気のないメニューは早々と取り潰されるのだ。

だが、そのメニューだけは取り潰されることなく現存している。

聞いたところによるとそのメニューはコウスケが来たと同時に現れたらしい。

そのメニューとは

「綾波定食」

である。

そのためこのメニューがコウスケと何らかの因果関係が有ると噂された。

これが出たとき興味本位で注文したとある眼鏡をかけた整備員は泣いたという。

その時の感想は

「まるでウサギになった気分だ……」

などと意気消沈して述べていたという。

ちなみに記念すべき第一号さんは夜、友人とともに焼肉を食べに行ったという。

友人のおごりで……

それはものすごい食べっぷりだったらしい。

それ以降そこに手を触れるものはいなかった。

のだが一人だけこのメニューのボタンを押す者がいた。

……綾波レイだ。

「……なるほど。これは泣くな。」

「?」

「おいしいか? それ……」

「はい。」

「……ならいいんだ。」

レイの前には茶碗に盛られたご飯と、皿に盛りつけてある野菜たちであった。

ドレッシングは一応かかっているみたいだった。

動物性タンパク質などかけらもない……

ご飯とともに野菜をもしゃもしゃ食べるレイをみてコウスケは

(ウサギだな……)

などと思ったという。

(もしかして……レイの名前から取ったのか?)

この推察は残念ながら外れることになる。

ある程度、食事が終わったころにレイが話しかけてきた。

「特務二尉。」

「なんだ?」

「……どうして私に構うんですか?」

「変か?」

「他の人は係わらないので。」

「そんなに不思議なことか?」

「はい。」

(他の職員は何やってんだ? 大人げないな。)

「シンジ君と変わらないと思うがな。」

「碇君は……」

ちょっと赤いレイ

「わかった、わかった。」

「………」

「なんで俺がレイに係わるか? 愚問だな。」

「ぐもん?」

「バカな質問ということだ。」

「………」

「使徒との戦いで俺は何をやってる?」

「私たちの支援です。」

「なら、俺は君たちの戦友ということになるな。」

「せんゆう?」

「そう、戦友だ。戦いに友と書いて戦友。戦場でともに戦う人のことをそう呼ぶんだ。」

「戦友……」

「まぁ、これも一つの絆だな。14歳に向けて言う言葉ではないがな。」

「絆……」

(絆に反応するか……不器用な奴だな。)

「そんな戦友の一人を気にして何がおかしいんだ。」

「………?」

「うーむ……レイ、シンジ君についてどう思うんだ?」

「碇君は……」

「………」

「パイロットです……」

とレイは表情を変えずに言う。

(あらら……)

「……まぁいい。そのシンジ君について何か思うことはあるか?」

「……はい。」

「それと似たようなものだ。」

(少し違うけど……まあいいか。)

「わかりました。」

すでに料理は食べ終わっていた。

「これから実験があるので」

「ああ。わかった。」

「……失礼します。」

「レイ。一つ目の宿題は合格だ。」

「はい。」

レイは心なしか嬉しそうであった。

・・・

 

いつもこなす訓練を終えるとアスカが待っていた。

「よう。どうしたんだ。」

「………」

「そんなに睨まれてもどうもできんが。」

あの空母での邂逅以来、コウスケとアスカは疎遠になっていた。

というよりはアスカが一方的に無視しているようだったが……

「綾波特務二尉に聞きたいことがあるのよ。」

「なんだ?」

「あのとき………エースパイロットの話。」

「ああ、あんときはすまなかった。」

コウスケはあの時後悔していた。

激情に任せ、たかが14歳の子供につらく当たってしまったのだ。

「いいえ。」

「ならいいが……」

「なんであの時、あんなに怒っていたのか知りたいのよ。」

「………」

「………」

睨み合いが続くがコウスケのほうが折れた。

「……ふぅー。わかった話そう。だが、ここじゃない方がいい。俺の執務室に来てくれ。」

・・・

 

コウスケの執務室には当然彼と招かれた客アスカがいた。

コウスケは紅茶をアスカに差し出した。

「俺がエースパイロットと呼ばれていたのはもう知ってるな。」

「ええ。国連軍航空隊所属、コードネーム「アロー3」、「サジタリウスの矢」、作戦遂行率はほぼ100%なんでしょ。」

「それくらいは調べれば簡単に出てくるだろう。」

「まあね。」

「……だが何があったかまでは記録されない。公式記録なんてそんなものだ。」

「………」

「あれは俺がエースパイロットと呼ばれる前の話だ。今から5年前、あんときは若かったな……初めてアロー3のコードネームを名乗った時だったな。」

アスカは真剣に聞いていた。

「セカンドインパクトからだいぶ復旧していたが、紛争、テロが続いていた。俺も国連軍だったからないろんな地域に行った。そんな中である医療兵に恋をしていた。」

「………」

「そんな中どこで手に入れたのかは知らんが、あるテログループがNNの爆破装置を持ていることが判明した。治安が悪かったからな。闇ルートで手に入れたんだろ。」

コウスケはその時の状況を思い出していた。

「だがそいつらは医療兵を人質に脱出を図った。その時、動けるのは俺だけだった。」

「……その医療兵って」

「そう。俺の想い人だったさ。」

「そんな……」

「俺の出撃に焦ったのか、テログループはNNを爆破すると言ってきた。当然そうなればその街一つ消えることになる。そこの民間人も一緒にな。」

「………」

「チャンスは一回きり……機銃で狙うことも考えたが戦闘機でそんな器用なまねはできない。……経験も浅い俺はミサイル発射装置に手をかけた。」

「うそ……」

「後に残ったのは赤い池と彼女のドックタグだけだった。……俺は帰ったら英雄と言われたよ。……彼女はテログループに殺されたということになった。」

「………」

「だが、俺にそんな言葉はいらなかった……」

紅茶にはコウスケの顔がゆらゆらと映っていた。

「綾波ってどういう意味か知ってるか? ……重なり合って寄せくる波のことを綾波というそうだ。今は使われていないみたいだが」

アスカは何故そんな話をと言いたげだった。

「家族もセカンドインパクトで死んだ。親族も………その時の俺が知る限り「綾波」は一人だった。」

コウスケの目は何か遠いものを見るような態度だった。

「そして思い人も……それ以降、心を鬼にした。いや、無にしたんだ。敵なら女子供関係なく殺していった。そうして俺はエースと呼ばれるようになった。」

「………」

「「サジタリウスの矢」なんて呼ばれたが、敵対組織からは「ブラッディアロー」なんて呼ばれてたな。まあ、血塗られたこの手にはお似合いだな。」

コウスケは自嘲するように静かに笑った。

「一人の「綾波」。むなしいだけだ。このまま生きていてどうする? そんな問いかけをする毎日だった。だが……」

紅茶を一口

「夢で彼女に出会った。相当自分を追い詰めていたんだな。今考えると馬鹿げているとは思う。だが、彼女は透き通った笑顔だった。そして一つの約束をした。それを糧に今生きている。」

「約束って?」

「平和な未来を創る。それが俺の心の支えだ。」

「………」

「……惣流はあの時華麗なるテクニックと言ってたな。それは別にいい。生き残るにはプラスになるからな。だが、エースパイロットと呼ばれるようになった後のことをまるで考えていないようだったからな。俺の空白の期間となんとなく被って見えたんだ。」

コウスケは煙草を取り出す。

「失礼するよ。」

火をつけて一服。

「……ゆっくり考えろ。使徒をすべて打ち滅ぼした時に自分に何が残るのか。」

「わかりました。」

「考える時間はあるはずだ。ゆっくり整理すればいい。」

「はい。」

「大学を出てると聞いたが、もう一度勉強しなおすのもいいかもな。」

「………」

「辛気臭い顔だな。若いんだからしゃきっとしてろ。相談事があるなら聞いてやるから。」

「はい。」

「……ああ、そうだ。これから俺のことはコウスケと呼んでくれ。綾波だともう一人の「綾波」とかぶるからな。……これからよろしく。」

「わかったわ。コウスケさん。私もアスカでいいわ。よろしく。」

アスカは部屋を後にする。

「……そう。まだ死ねないんだ。」

コウスケは煙草を咥えたままじっと天井を見つめていた。




綾波定食……
元ネタはわかりますかね?
ゲームからとだけ……

おまけ
食堂にて
「困ったな。」
コウスケは職員でいっぱいになった食堂をみてつぶやいた。
すると誰かが声をかけてきた。
「綾波特務二尉。」
「日向二尉じゃないか。それに青葉二尉と伊吹二尉も。」
そこにいたのはオペレータの三人だった。
「ここ空いてますよ。」
ちょうど一人分空いていた。
「それじゃ、横いいか?」
隣の伊吹に言った。
「ええ、いいですよ。」
「そんじゃ失礼するよ。」
「カレーですか。」
青葉が問う。
「ああ、意外と気に入ったんだ。」
「国連軍では決まった曜日にカレーが出るんですよね。」
伊吹がコウスケに言う。
「違うぞ。」
「え! そうだと聞きましたが。」
「そうだよ。伊吹二尉。」
というのは日向であった。
日向はNERVに来る前に国連軍にいた。
「その風習は日本だけだよ。それも海軍の話だね。」
「ああ、そうだな。」
「そうなんだ。」
「海の上にいると曜日の感覚がマヒするらしいんだ。それに軍人は決まった休みがないからね。だからそれを取り戻すためにやってるらしいよ。」
日向が補足する。
「へー、知らなかった。」
「今でも戦自の海軍がやってるはずだよ。」
「やってたな。俺も一時期戦自の空母にいたからな。あれはうまかった。」
と言うとコウスケはとあるメニューのことを思い出した。
「そういや、この食堂の「綾波定食」ってなんで綾波になったんだ。」
そういうと三人がぴたりと止まった。
「どうした?」
「いえ、なんでもありません。」
気まずそうに青葉が言う。
「そうか。まあ、レイから取ったんだろうな。あれ食べてるのレイしか見たことないから。」
(レイはベジタリアンなのか?)
「いえ、違うんです。」
伊吹がつぶやくように言ったがコウスケの耳に入ってしまった。
「違うのか?」
「! 何でもないです。」
慌てる伊吹。
「……何か隠しているな?」
そうコウスケが言うと三人がけん制し始めた。
しばらく続くが青葉が折れた。
「実はですね。綾波特務二尉が来る前にお触れがあったんですよ。」
「ほう。」
「新しいメニューの名前を募集していたんです。採用されたら食堂の無料券がもらえるとあったので……」
と言って黙ってしまった。
「続きが聞きたいな。」
コウスケは青葉に無言のプレッシャーをかける。
ゲンドウに劣らないとは青葉の証言だ。
「それで今度NERVに来る人の名前を借りようとなって……」
「それで綾波になったのか。」
思いもよらぬ答えにコウスケは驚いていた。
「……でそれに三人が係わっているということだな。」
無言は肯定と受け取った。
「なるほどそういうことか。」
「まさかあんなメニューだなんて……」
伊吹がつぶやく。
「まあ、いいんじゃないか? 別に怒るようなことじゃないし。」
コウスケはカレーを食べ続ける。
三人は驚くようにコウスケを見た。
「別に俺に被害があるわけではないしな。」
実はこれは嘘である。
コウスケと同時に現れたメニューによって彼は焼肉をおごる羽目になったのだ。
つまるところ第一号である眼鏡をかけた整備員に焼肉をおごったのはコウスケであるのだ。
コウスケにしてみれば、ただのとばっちりである。
「折角、名付け親にあったんだからお礼しないとな。」
というコウスケは怖かった。
「ちゃんとお礼しないとな……」
・・・

その後、コウスケはNERV食堂でオペレーター三人におごることになった。
三人の前には三つの「綾波定食」があったとか無かったとか……
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