NERVの休憩室
そこは当然NERV職員が休むためのものであり、自動販売機、ベンチ、トイレ、そして喫煙所がある。
「喫煙所の番人」ことコウスケはいつものことながら煙草を吸っていた。
そこに一人の男が現れた。
加持リョウジである。
彼も喫煙者の一人であった。
「よう、加持。お前も休憩か?」
「ああ。」
「ちょうどよかった。加持に聞きたいことがあったんだ。」
「なんだ?」
「ここじゃちょっとな・・・」
加持は真剣にコウスケを見つめた。
「・・・わかった。吸い終わったら俺の部屋に行こう。」
・・・
「で、俺に何の用だ?綾波。」
「ここは大丈夫か?」
「目」と「耳」のことだ。
「ああ、その点は安心してくれ。」
「・・・わかった。」
「で、何の用だ?」
「何、お前さんと取引がしたいと思ってな。」
「何の?」
加持は不思議そうにコウスケを見ていたが目が真剣そのものだった。
「ここについていろいろ調べているだろう?」
「なんのことだ?」
とぼける加持
「とぼけるなよ。日本政府内務省の加持リョウジさん。」
「・・・ばれてたか。」
「これでも国連軍にいたんだぞ。」
「さすがはエースってやつか。」
「同じ名前なんてうかつすぎだろう。」
「これはこれで意外とばれないもんなんだ。まさか同じ名前で来るとは思わないだろう。」
「それもそうだな。」
「・・・で?」
「・・・本題に入るか。」
コウスケは煙草を取り出した。
「別にいいだろう?」
「ああ。」
加持も煙草を取り出す。
「・・・お前さんNERVについていろいろ調べているだろう?」
「まあな。」
「ならあるよな?カード。」
「・・・」
「一枚くれ。できるだけ権限が高いやつ。」
「それだけでいいのか?」
「ああ。」
「わかった。」
加持はカードを一枚取り出す。
「まだ使ってない奴だ。」
「感謝する。」
「なら一つ頼まれてくれるか?」
「いいぞ。」
「近々俺はNERVの電源を止める。」
「・・・つらいな。コウモリは。」
「まあな。で、その時戦自の特殊工作員を数名ここに案内するんだが・・・」
「わかった。子供たちだろう?」
「ああ、戦自はプロだからな。もし停電中にチルドレンに遭遇したらどうなるかわからない。子供たちには危害を加えたくないからな。」
コウスケにはそれが本心だと思った。
「わかった。・・・もし遭遇したら?」
「処理しても構わない。」
「・・・取引成立だな。今後もよろしく頼むよ。」
「ああ。」
・・・
加持が工作を行う日
コウスケは第三新東京市に出ていた。
その目的はチルドレンの保護だ。
NERV本部の停電中にチルドレンに何か有れば誰も助けに来れないし、何より加持との取引もあった。
「よう。」
「こんにちは、コウスケ。」
「こんにちは、コウスケさん。」
「・・・こんにちは。」
アスカ、シンジ、レイが挨拶を返す。
「今から本部に行くのか?」
「ええ、そうよ。」
「なら俺も一緒に行こう。」
もちろんコウスケは三人が来るのを待っていたのである。
「ん?シンジ君。浮かない顔だな。」
「ええ、ちょっと・・・」
「どうした?」
「・・・実は今度進路相談があることを・・・父さんに伝えたんです。」
「ほ~。シンジ君。一歩踏み出したな。」
「なんですけど・・・突然切れて・・・」
「切れた?」
「はい。」
「碇司令、本当に忙しかっただけだと言ってるんだけどね。」
アスカが言う。
「でも、なんか変な感じだったんだ。」
「変?」
(まさか・・・加持、もうやらかしたのか・・・)
コウスケは信号を見た。
信号は色が消えていた。
(おいおい、やり過ぎだろう。)
などとコウスケは加持を批判した。
「・・・ただ事じゃないな。」
「どうしたんですか?」
シンジが尋ねる。
「・・・電気。」
レイは気づいたようだ。
「へ?」
「・・・そういえばモニターも信号もついてないわね。」
アスカも気づいたようだ。
「・・ほんとだ。」
「本部が心配だな。」
「ええ。」
「少し急ぐぞ。三人とも。」
コウスケと三人は駆け足でNERV本部に向かった。
・・・
「やはりダメか・・・」
コウスケたちはいつものゲートの前にいた。
ゲートは完全に沈黙していてカードを通してもウンともスンとも言わなかった。
「中に入れませんね。」
「・・・連絡は取れたか?」
「ダメ。有線も切れてるわ。」
「非常用端末もダメです。」
(本格的にやってくれたな。加持。)
するとレイは鞄の中を探し出した。
アスカも何かに気が付いたように探し出す。
「ねぇ、何してるの?」
シンジがアスカの鞄の中を覗こうとする。
「あんたバカ~?緊急時のマニュアルよ。」
「・・・とにかく本部に急ぎましょう。」
「レイの言うとおりだな。」
そう言ってコウスケたちは非常用出入り口に向かった。
・・・
「コウスケってすごいわね。いつの間に覚えたの?」
コウスケを先頭にアスカ、シンジ、レイの順番で歩いていた。
「撃墜されてジャングルを彷徨うなんてこともあると思って、訓練で方向感覚を養ったんだ。」
「意外と努力家なのね。」
「まあな。」
歩いていくとゲートが閉じていた。
手動では動かないようだ。
「行き止まりか。」
「・・・仕方ないわ。ダクトを壊して進みましょう。」
レイは近くにあった鉄パイプを手にした。
「・・レイって偽善者ね。目的のためなら手段を選ばないタイプだわ。」
「みたいだな。シンジ君が浮気したら大変な目にあいそうだ。」
「かもね。」
「浮気ってそんな・・・」
「冗談だよ。」
「もう!」
「レイ。そんなことする必要はない。」
「?」
「これがある。」
コウスケはC4を取り出した。
「なんでそんなもの持ってんの?」
「非常時のためさ。」
そういってゲートにC4を設置した。
「三人ともあそこの陰に隠れろ。」
全員が隠れたのを確認し起爆する。
爆音とともに破壊されるゲート
「いいの?」
「非常時だ。始末書くらいで何とかなるだろう。」
そう言ってコウスケは足を進める。
・・・
「そういや、お前たち。使徒との戦いが終わったらどうするんだ?」
コウスケは前々から思っていたことを三人に聞いてみた。
「戦いが終わったらって・・・」
「使徒とて無限に来るわけではないだろう。」
「・・・考えてないわね。」
「僕も・・・」
「・・・」
「はぁ~。14歳の若者がそんなんでどうする。やりたいこととか無いのか?」
「「「・・・」」」
三人は黙ってしまった。
「・・・まあ、今はやることがあるからな。でも将来のこととかちゃんと考えないとダメだぞ。」
「将来か・・・」
シンジがつぶやく。
「そうだ。それに希望、夢を持てば俄然とやる気が起きるってもんだ。そしてそういうやつほどしぶとく生き残るもんだ。」
「・・・そうね。」
アスカが同意した。
「ほら、レイはどうだ?」
「ありません。」
「即答だな。まあ、今は中学生だしゆっくり考えればいいさ。」
「・・・」
「なんか言いづらそうだな。」
「何でもありません。」
「そうか。」
(何か思い悩んでるように見えるが・・・)
「まあ、何か相談事でもあれば気軽に聞いてくれ。」
そういってコウスケは足を進めた。
地下に潜れば潜るほど明かりが無くなってきた。
三人-特にシンジは歩きづらそうにしていたが、目が慣れてきたようだった。
「ん?」
「・・声」
レイにも聞こえていたようだ。
「だな。」
遠くから日向の声が聞こえてきた。
「・・・現在、使徒接近中!」
「こんな時に使徒か・・・」
「大変だ。」
「とにかく急ぎましょう。」
「そうね。」
「よし、行くぞ。」
・・・
四人は着実に発令所へと進んでいた。
「?・・・・・・!」
コウスケは嫌な予感がした。
「三人ともそこの陰に隠れろ!」
そう言ってコウスケは三人を守るように影へと移動させた。
途端に聞こえる銃声。
「ぐっ・・・」
右肩に痛みを感じるがこらえる。
「・・・大丈夫か?三人とも。」
「はい。」
「ええ。」
「問題ありません。」
「そうか、よかった。」
「今のは何なんですか?」
「多分ここの発電システムを破壊した奴らだろう。・・・おそらくは戦自だな。」
(・・既に何人かやられてるか。)
「戦自が?」
アスカが驚いていた。
「こんな暗い場所で正確な射撃・・・どう見てもプロだ・・・そんな奴らは、ここ日本では戦自だけだろう。」
(まあ、加持にあらかじめ聞いていたからな。)
時々銃声が聞こえる。威嚇射撃で炙り出すつもりなのだろう。
「なんで・・・」
シンジは理解ができないようだった。
「NERVは強権でやりたい放題やったからな・・・恨んでるやつはいっぱいということだろう。」
事実戦自のみならず国連軍もNERVを金食い虫と罵っていたのをコウスケは聞いていた。
「・・・」
またも数発撃ち込まれる。壁に跡がついていく。
「それよりここを何とか突破しないとな・・・下手したらお前らが危ない。」
「へ?」
「チルドレン・・・それだけで価値があるんだ。他人から見たらな。」
「・・・」
「一番危ないのはシンジ君、次にレイ、それでアスカだな。」
「なんで僕が?」
「碇司令の息子だし、何より戦闘訓練を一番受けてないからな。」
「なんであたしよりレイが危ないのよ。」
「レイは見た目でアルビノとわかる。・・・つまり体が弱いと判断されるからだ。それにファーストチルドレンだからな・・・NERV本部の情報をいろいろ知っていると考えられるだろう。」
「なるほどね。」
「・・どうするんですか?」
レイがコウスケに尋ねる。
「なに、相手も同じ人だ。人には悪い癖がある。」
「「「?」」」
三人ともわからないようだ。
「まあ、見てろ。三人とも目を閉じていろ。」
銃声が止むタイミングを計らい、コウスケは丸いものを取り出し、相手がいるだろう方向に投げた。
途端に強烈な光が襲う。
「フラッシュグレネード」
アスカが正確に言い当てる。
「そうだ。」
「でもなんで?」
「相手はプロだろう。ということはここが暗くなるのは当然織り込み済みだろうから、そのための装備を使うだろう。」
「・・ああ、なるほど。」
アスカは理解したようだ。
「どういうことですか?」
シンジはいまいちわからないようだ。
「・・・暗くても見えるようにするものがあるということですね。」
レイが補足する。
「そうだ。人は便利な道具に頼りすぎるからな。そんな装置を使ってさっきの光を見れば、まあ網膜が焼けるかな?」
「動けないのは確かね。」
「・・・」
シンジは俯いている。
「・・シンジ君。言いたいことはわかるが、下手したらこっちがやられていた。安心しろ、別に死んでるわけじゃない。」
「でも・・・」
「シンジ君のそういうところは好きだが、人なら覚悟を決めないといけない時がある。そうじゃないと守れないものもあるんだ。」
「・・・」
「と言ってもすぐには理解できないか・・・まあ、心に押しとどめておいてくれ。」
「・・・はい。」
「じゃ、行くぞ。・・・ぐっ・・・」
フラッシュグレネードを投げたときに肩に過度の負荷がかかったのだろう。
「特務二尉。肩・・・」
「!コウスケさんさっきの・・・」
「すごい量じゃない!」
「心配するな。今は発令所に行くのが先だ。」
(弾は抜けてるな・・・でも二発もらったか・・・まあ、俺が流させた量に比べれば・・・)
コウスケは冷静に傷の分析を終えて軽く手当をした後、心配する三人を叱咤し発令所に急いだ。
・・・
発令所に行くとEVAの発進準備をしていた。
「あなたたち。」
リツコが出迎えた。
「リツコさん。EVAは?」
「出来てるわ。」
「・・・すごい何も動かないのに。」
「手動で準備したのよ。碇司令の案よ。」
「父さんが・・・」
「碇司令はあなたたちが来るのを信じていたのよ。」
(赤木博士・・・どことなく・・恍惚とした・・・表情だな。)
コウスケは激痛に耐えているので考えがとぎれとぎれになるが、表立っては平静にしている。
また、NERV本部は停電しているので、傷が暗くてよく見えない状況だった。
「葛城は?」
「まだよ。と言っても発令所も動かないからいてもどうしようもないけど。」
「そうか。今回は俺も出れないな。」
「そうね。」
「すまん。三人とも。後を頼む。」
「任せなさい!」
「はい。」
「了解。」
そう言って三人はEVAに乗って行った。
(ちっ・・・思ったより・・血を・・・・流し過ぎたか・・・)
三人が無事に出撃したのを見届けたコウスケはゆっくりと倒れた。
・・・
(・・・この匂いは・・・アルコール・・・病院か・・・)
コウスケはゆっくりと目を開いた。
前には白い天井が見えた。
「・・・生きてる・・・三人ともやってくれたんだな。」
どうやら弾を受けた右肩は包帯が巻かれているようだった。
「あっ!コウスケさん。」
「よう。シンジ君。」
「よかった・・・」
「目を覚ましたのね。コウスケ!」
「アスカ・・・」
「特務二尉。」
「・・・レイ・・・こういう時は名前で呼んでほしかった。」
ドアが開きリツコが入ってきた。
「あら、目を覚ましたのね。」
「赤木博士。迷惑をかけたようだな。」
「いいのよ。あなたが居なかったらこの子たちも危なかっただろうし。」
「そう言ってもらえれば助かる。」
「出血が酷かったけど、神経に異常はないわ。」
「そりゃよかった。」
「今日は安静にしてなさい。」
「そうだな。」
「あなたが撃退した戦自はうまく拘束したそうよ。」
「そうか。」
「じゃ、行くわね。」
「ああ。」
リツコは出ていった。
「でも、ほんとによかった・・・」
「ちょっと血が出過ぎただけだよ。」
「すみません。僕たちのために・・・」
「そういうな。俺は戦友を守れてよかったと思ってるし、こんなところで死んでられんからな。」
「・・・そうそう、あの時の話の続きなんだけど、コウスケの夢ってあるの?って前に言ってたわね。平和な世界がどうのって・・・」
アスカは執務室での話を思い出しているようだ。
「あの時の話か・・・俺は平和な世界を作りたいと思ってるんだ。それが戦友たちとの約束だしな。それに・・・」
「それに?」
「お前たちがどう生きるのか見てみたいからな。」
「なんかジジ臭い。」
「ほっとけ!」
「でもいいですね。」
シンジが言う。
「なにが?」
「夢って。」
「人は現実の中で夢と言う希望を追う生き物なんだろう。だから人は強くなれるし、他人とも分かり合えるんだろう・・・まあ、それでぶつかり合うこともあるがな。」
「そうですね。」
コウスケはレイに顔を向けた。
「レイは望むものがあるのか?」
「望むもの?」
「こうしたい、ああしたいというものだ。」
「碇君と一緒に居たい・・・」
心なしか赤く見える。
「あっあやなみ!」
「ほ~。言うね。」
「約束したから。碇君を守るって。」
「・・ああ、一緒に居なきゃ守れないもんな。」
と無理やり解釈しつつもコウスケは少しにやついている。
「ぼっ僕だって綾波を守るよ。」
「あたしは?」
「もっもちろんアスカだって・・・」
そう言ってシンジは真っ赤になった。
レイは面白くなさそうにしていた。(当然無表情に見える。)
「やるね~。この色男!」
「茶化さないで下さいよ!」
「すまんすまん。・・・こうやって身近な人を守る・・・それだけでも人は強くなれるからな。不思議だよな。」
などと話しているうちに誰かがやってきた。
黒い服を着てサングラスをかけた男-碇ゲンドウだ。
「父さん・・・」
「これは、碇司令。」
「そのままでいい。」
「失礼します。」
「今回チルドレンを守ってくれたそうだな。」
「はい。」
「感謝する。」
「・・・司令としてのお言葉ですか?」
「そうだ。」
シンジが俯いていた。
「それと・・・」
「?」
「子供たち、レイ、アスカ君、そしてシンジを守ってくれて感謝する。」
「!・・・父さん。」
「これからもよろしく頼む。」
「了解しました。」
ゲンドウは去って行った。
「・・・シンジ君。よかったな。」
「・・はい。」
「やっぱりあの時は忙しかっただけじゃない。」
「あの時?」
「電話。」
「・・ああ。」
「・・・あの時は停電してたのよ。」
レイが冷静に突っ込む。
「そういえばそうだったわね。」
「でも、碇司令のあの言葉には重みがあった。」
「・・・」
「・・・まっ。そういうことだな。」
「そうですね。」
ほっとした雰囲気が流れた。
「さて、お前たちも疲れただろう。早く帰って休んどけ。」
「そうですね。じゃ、行きます。」
「早く元気になりなさいよ!」
「・・・失礼します。」
「おう、また明日な。」
三人は去って行った。
コウスケは再びベットに倒れる。
「・・・いるんだろう?」
「ばれてたか。」
「当たり前だ。」
どこからか加持が出てきた。
「今回はやばかったな。」
「だな。加持から聞いてなかったら、間違いなく死んでたな。」
「じゃあ、俺は命の恩人になるのかな?」
「今度何かおごってやる。」
「・・・楽しみにしておくよ。」
「楽しみにしておけ。」
加持は去って行った。
「今回は何とかなったが・・・次はわからないな・・・」
コウスケは戦自がチルドレンがいるにも関わらず撃ってきたことに危機感を感じていた。
「人の敵は・・・何だろうな・・・」
そう呟きながらコウスケは眠りについた。