数日たっても状況は良くならず、かえって悪化する一方であった。
シンジはというとあの一件以降アスカとともに行動することが多くなった。
アスカも最初はさほど気にしていなかったが、シンジがレイと離れようとしていることに感づいていた。
それを問いただしたのだが見事に無視され、アスカの機嫌は最悪のものとなっていた。
レイはぼーっとしている時間が増え、以前に増して無表情でいることが多くなった。
三人で合同訓練を行った際もフォーメーションが乱れたり、ちょっとした隙を作りやられるなどといったことが起きていた。
正直使徒が来たら負けるのではないか?
そんな考えがNERV職員には濃厚になっていた。
そのため職場では何とも言えないピリピリした雰囲気が立ち込めていた。
「も~、どうすりゃいいのよ・・・」
ミサトが疲れ切った声で言う。
「使徒が来れば終わりだな。」
「わかってるわよ!そんなこと!」
「葛城。気持ちはわかるが俺に当たらないでくれ。」
「ごめん。コウスケ君。」
ミサトはばつが悪そうに言った。
「しかし、実感するな。」
「なにが?」
「世界の命運が14歳の子供たちに掛かっているということに。」
三人の顔がモニター越しに窺えるが、何とも言えない顔だった。
「なりふり構っていられないか・・・」
この状況を打破しなければ明日など見えない。
それがわかるからこそ焦りも出る。
「・・葛城。ちょっといいか?」
・・・
NERVを退勤した後、コウスケは車を借りちょっとした「もの」を回収した後、レイのマンションに向かった。
すでに月が出ていた。満月だった。
「綾波コウスケだ。入るぞ。」
コウスケはドアを開け中に入った。
部屋は月の光で満たされており、その中にレイがぼけっと座っていた。
「どうした、レイ?」
「・・・」
「大方シンジ君のことだろう。」
「・・・はい。」
「突然避けるようになって戸惑っているんだろう。」
「・・・・・・はい。」
がっくりとうなだれるレイ。
相当ショックだったみたいだ。
(鬼が出るか蛇が出るか・・・)
「・・数日前、俺はとある場所に行った。ターミナルドグマというところだ。」
レイはびくっと反応した。
「そこでとある部屋・・・そういやここに似てたな。それと大きな脳みそみたいな場所に行った。」
よく見るとレイは震えだしていた。
(怖いだろうな、正体を知られたのが・・・だが、それが人である証なんだがな。)
「お前ならわかるんだろう?・・そこでたくさんの「おまえさん」を見た。そこにシンジ君もいた。それだけだ。」
レイが振り向いた。目が見開いている。
「・・・知られたのね。」
「ああ。」
「・・・そう。」
レイは俯いてる。もう泣き出しそうに見えた。
(そうやって苦悩するのは、すでに人である証拠だがな。・・それに気づかんか。)
「・・・・・碇君。」
レイがつぶやくように言った。
「・・・綾波レイ、どうしたいんだ?」
「・・・・・・・・・・・無に帰りたい。」
(死にたいってか?)
「なぜだ。」
「・・もう他に何もないから。」
(これを聞いてシンジは何を思うかな?)
「・・ならこれを貸す。」
コウスケは銃の中身を確認した後、レイの足もとに放り投げた。
「これで頭を撃つんだ。そうすりゃ、望み通りになるぞ。」
レイは動かなかった。
(予想通りだな・・・まあ、自殺しそうになったら止めてたが・・・)
「自分を殺すのは難しいからな・・・」
コウスケは銃を拾う。
「俺が代わりにやってやるよ。」
銃をレイに向ける。
「・・ああ、言い忘れてたが、あの素体たちは全部壊しておいたよ。」
「え・・・」
レイの目が見開いていた。
「おまえで最後だ・・・じゃあな。」
(悪役だな、俺。)
コウスケは銃の引き金を引いた。
乾いた音が鳴るが銃弾はベットに吸い込まれた。
「・・・よけるなよ。折角願いを叶えてやるって言ってるのに。」
(まあ、わざと外したから当たりはせんがな。)
レイはとっさに横に転んでいた。
「・・・」
「もういいんだろ?綾波レイという存在はここで終わる。」
這いつくばるように逃げるレイ
「怯えなくていいぞ。痛いのは一瞬だからな。」
(・・変な趣味に目覚めないことを祈ろう。)
じりじりとレイを追い詰めるコウスケ
「往生際が悪いぞ。お前を殺して早く逃げなきゃいけないんだ。あまり手を煩わせるな。」
とうとう部屋の角に追い詰められるレイ。
「もう逃げられないな。「碇君」ともお別れだな。」
レイの目が怯えていた。
「・・・いや・・・」
「・・・さよなら。」
「!!・いや、いやぁ、いかりくん!」
叫びながら、頭を抱えうずくまるレイ
コウスケは無情にも引き金を引いた。
パン
「・・・・・・・・・?」
音は鳴ったのに痛みを感じないことを変に感じるレイ。
「空砲だよ。」
コウスケは銃を下す。
「そんな風に感情があるじゃないか。苦悩もして・・レイが人だという証拠だ。」
レイは何が何だかわからない様子だ。
「ふぅ~、もういいだろう。シンジ君入ってこい!」
シンジが入ってきた。
「いかりくん・・・」
「シンジ君、もう分ったろ。レイが人だってことが。生い立ちがどんなものであれ、ちゃんと人の心がある。人の形だし、人の間に生きている。」
「あやなみ・・・」
「今のを聞いていたろ?それにレイがお前さんに見せた表情、しぐさ、感情・・・それは人と何が違うんだ?」
シンジがレイのもとに駆け寄り、抱きしめていた。
さすがのコウスケも驚いた。
(おお、あのシンジが・・・)
「・・ごめん綾波、ほんとにごめん。」
「・・いかりくん?」
「そうだよな。よく考えたら綾波だって普通の女の子じゃないか。いつも冷静で、無愛想に見えるけど笑顔はきれいで・・・どこにでもいるような普通の女の子なのに・・なのに僕は・・・」
シンジは泣いていた。
「・・・綾波だって好きでそう生まれたんじゃないんだよな。」
「いかりくん・・・」
レイも泣き出していた。
「・・・涙・・私泣いてるの?悲しくないのに。」
「悲しくなくても涙は出るんだよ。」
シンジは泣きながら言う。
「・・・知られて、もうだめだと思った。」
「うん。」
「・・だから新しく代われば、こんな思いをしなくていいと思った。」
「うん。」
「・・・でも、壊されたと聞いたとき、怖かった。」
「・・・」
「自分も壊される、無くなる、存在が消える、もう会えなくなる、忘れられる。・・怖かった。・・・特務一尉の目が怖かった。」
「そりゃ、悪かったな。」
コウスケはばつが悪そうにした。
「もう大丈夫だよ。どんなことがあっても僕が守れるようにするから。綾波のあんな悲しい声・・・もう聞きたくない。」
「いかりくん。」
「あやなみ。」
見つめ合う二人。
(なんだ?ものすごく腹が立つんだが・・・)
「ウォッホン!」
コウスケは咳払いをした。
「それ以上は二人っきりの時にやってくれるか?」
「あっ」
「!」
二人ともとっさに離れた。
顔が赤いのはご愛嬌だろう。
「すみません。コウスケさん。」
「・・・」
「ったく、こんなこと俺にやらせるなよ。」
ぼりぼりと頭をかくコウスケ
「まあ、これでいいのか・・・」
「・・・」
レイは怯えている。
(よほど怖かったんだな。・・当たり前か。)
演技とはいえ軍人の殺気100%の視線に見つめられていたのだ。
大人でも耐えるのはつらいだろう。
「もう大丈夫だよ。もともと殺す気はなかったんだから。」
コウスケの優しい目つきにレイは安心したようだ。
「おまえさんは綾波レイだ。それ以上でも以下でもない。」
「・・・はい。」
うっすらと微笑んだように見えた。
「じゃあ、俺は行くな。シンジ君も帰るだろ?」
「あっはい、僕も・・・」
と言いかけて止まった。
レイがシンジのシャツを引っ張っていた。
フルフルと首を振っていた。ちょっと目が潤んでいる。
「・・・フッ、ここに居ろシンジ君。葛城には俺の家に泊まると言っておく。間違ってはいないだろう?俺も綾波だからな。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「変なことはするなよ。」
(と言っても無理かな?・・・出来んだろ。シンジだし・・・)
「な!」
「じゃあな。シンジ君ともう一人の綾波さん。」
コウスケは手をひらひらと振り、レイのマンションを後にした。
・・・
次の日のシンクロテストでシンジとレイは最高記録を更新した。
悔しがっていたアスカは二人の様子を見て何となく納得していた。
「いったいどうしたの?あの二人。なんか気味が悪いわ。」
「しょうがないだろう。二人とも不器用だからな。」
「・・・昨日何があったの。」
「そりゃ・・・」
「・・・」
「秘密だ。」
「なによそれ!」
「言えることは、お互いがさらに理解しあう存在になったということだな。」
(いずれアスカにも言うのかな?・・それはレイ次第か。)
「ふ~ん。」
シンジとレイは二人だけの空間を見事に作り上げ、ミサトにからかわれることになった。
・・・・
「やってくれたのね。」
コウスケはリツコに呼び出されていた。
「まあな。」
「ちょっと過激すぎない?」
「あそこまでやりたくなかったけどな。」
コウスケは頭を掻いていた。
「って見てたのか!」
「音声だけなら拾えるもの。」
「うかつだった。」
「それだけ余裕が無かったのね。安心して消去しておいたから。」
「そりゃ、助かった。」
コウスケは煙草を取り出した。
「どうだ?」
「女性に煙草を薦める?まあ、もらっておくわ。」
と言ってリツコは煙草に火をつけた。
「強いのね。」
「まあな。」
沈黙が続いた。
部屋に煙が漂うが、すぐに消えて無くなっていた。
レイ問題ひとまず解決?
この問題は悩みましたね。
どのタイミングで出すのかと考えた結果です。
本編を見てて
シンジってレイの正体を知ってもあまり怖がってないな
と思いましたね。
むしろその傾向が強くなったのはカヲルを殲滅してから?
などと考えました。
今回はおまけがあります。
ではどうぞ
おまけ
シンジがレイのマンションに泊まった次の日
学校にて・・・
「おはよう。」
「・・・おはよう。」
レイはシンジとコウスケとのやり取りをするうちに学校で挨拶をするようになっていたし、少しなら会話もするようになっていた。
「なんや、シンジ。綾波と一緒に来たのか?」
「うん。」
「まさか、泊りに行ったとか?」
ケンスケの眼鏡が怪しく光る。
「ちっちが・・・」
「そうよ。」
レイ、NN爆雷を投下。
「ちょっとあんた!コウスケの家に行ったんじゃないの?」
アスカによる嬉しくない援護攻撃。(シンジ主観)
実際コウスケはあの後、ミサトに連絡してシンジは家に泊まると言ってあったのだ。「誰の」とは言ってない。
となれば連絡してきた人の家と解釈するのが普通だろう。
さすがのコウスケもレイが事実を言ってしまうとは考えなかった。
「あの・・・その・・・」
「彼は私の家にいたわ。」
さらなるNN爆雷の投下を確認。
天井部は丸裸になり、シンジの戦況は極めて不利となる。
「あっあやなみ~」
「なぜ?事実を言ったまでよ。」
どこからともなく「いや~んなかんじ」と聞こえた。
「まっまって!みんな!」
この時シンジ脳内のMAGIは全会一致で撤退を唱えている。
「うっさい!バカシンジ!」
アスカにより退路を阻まれる。
「・・・ねえねえ綾波さん。碇君どうだった?」
レイによく話しかける女子の一人がガフの扉を開こうとした。
「・・・優しかった。」
「ぽっ」と赤く染まってレイは言う。
トドメの一撃
ガフの扉が開いたシンジの脳内はサードインパクトで彩られている。
所謂しっちゃかめっちゃかな状況というやつだ。
レイは事実を言っただけでそんなことはなかったのだが、思春期真っ只中の中学生たちは先の先まで想像してしまった。
まあ、しょうがないだろう。思春期だもん。
「不潔よ~!!!!!!」
音響兵器「ヒカリ」炸裂
さすがに窓ガラスは割れなかった。
「「「いかり~。どういうことかよ~く聞かせてもらうぞ。」」」
「え!」
いつの間にかシンジは包囲されていた。
もはや打つ手なし。
この後、シンジはクラスの男子(恋人なし)の集団に尋問という名の拷問を受けることになるはずだったが、レイの放つ絶対零度により取りやめになったという。
このことを諜報部からの報告書(やけに気合が入っていた)で確認した某組織の作戦部副部長は
「・・・どうせ誤解だろうが、まあ、青春だね。」
と煙草を吸いながらコメントしたという。
ちなみに元凶ともいえる彼は、レイに新しいベットを買ってやるため、寝具のカタログを取り寄せたという。