NERV航空隊隊長綾波   作:浩介

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第23話 I can not advance.

コウスケはEVA実験室のモニタールームにいた。

周りではリツコをはじめとする技術局のスタッフが動き回っている。

今日は機体相互交換試験の日である。

被験者は綾波レイと碇シンジ

今、レイが初号機に乗り込んでいた。

初号機は実験場の壁に拘束されていた。

「何か考えているな。」

モニターに映し出されるレイの顔を見ながらコウスケが言う。

コウスケは少し苦い顔をしていた。

「解るの?」

隣にいたリツコが尋ねる。

「目がぼんやりしてるだろ?あれは何か考えているときの目だ。」

これはコウスケがこの数日間で解ってきたレイのしぐさに対する分析結果だった。

「そう、さすがね。」

そう言ってリツコがマイクを取り出した。

「どう?レイ。久しぶりの初号機は。」

久しぶりという言葉にコウスケは不思議に思ったが、すぐにその意味が分かった。

第三使徒との戦闘中に初号機が現れたのだ。

その時乗っていたのがレイだということを思い出した。

『・・碇君のにおいがする。』

「シンジ君のにおい?」

どういう意味か分からないコウスケはリツコに聞いた。

「シンジ君のデータがにおいとして伝わったのね。」

「でも、シンジ君のにおいってどういうものなんだろ?」

「解らないわ。あくまでもレイがそういう風に受け取っただけだから。」

どういうものか聞いてみたがったが、テスト中なのでこらえることにした。

「シンクロ率はほぼ零号機の時と変わらないわね。」

「パーソナルパターンが酷似していますからね。初号機と零号機は。」

リツコの隣でモニターを監視していた伊吹が言う。

(零号機は初号機のデットコピーだからな。)

それがわかる人物は極一部だけだ。

そのうちの一人であるコウスケは心でそう言った。

ふとミサトの疑わしい視線を感じる。

(知っていなければならないミサトが知らず、俺は知っているか。)

こうして考えると俺は悪役の幹部、しかも裏の幹部だなと考えてしまうコウスケだった。

悪役の理由はゲンドウである。

ゲンドウはどう見ても善人には見えないというのがコウスケの評価だ。

もっともサングラスと髭を止め、あの不愛想な態度をやめれば変わるかもしれないが・・・

「誤差+-0.03。ハーモニクスは正常です。」

伊吹がテストの結果を報告する。

「レイと初号機の互換性に問題点は検出されず。ではテスト終了。レイ、上がっていいわよ。」

『はい。』

レイと初号機のシンクロがカットされた。

コウスケはそれを見届け部屋を後にした。

・・・

 

「お疲れさん。」

コウスケは上がってくるレイを待っていた。

「この後シンジ君のテストがあるが見に行くか?」

「はい。」

その返事はいつもよりはっきりと聞こえた。

・・・

 

再びモニタールーム

実験場には零号機が運び込まれていた。

零号機にはシンジが乗っている。

レイは特殊に強化されたガラスの前にいた。

スタッフたちがテストに準備に取り掛かっている。

「エントリープラグの挿入完了しました。」

「書き換えはすでに完了しています。現在再確認中。」

最初の準備はなんも問題なく終了した。

「被験者は?」

リツコがシンジの様子を窺う。

「若干の緊張が見られますが、神経パターンに問題なし。」

モニターと送られてくるデータからそう分析する日向。

「初めての零号機、他のEVAですもの無理ないわ。」

「だな。俺でも初めて乗る機体は緊張するからな。」

コウスケが初めてSu-37に乗った時のことを思い出していた。

驚異な機動性を見せる機体だけにうまく扱えるか緊張したのだ。

『バッカね。そんなの気にせずに気楽にやればいいのに。』

「それならアスカも初号機や零号機に乗ってみるか?」

コウスケが聞いた。

『・・遠慮しとくわ。』

(アスカは弐号機にしか乗れないけどな。)

EVAとパイロットの秘密を知るコウスケはそう思ったが

(レイは弐号機に乗れるのか?)

との疑問が浮かんでくる。

(・・乗れるんだろうな。)

でなければダミーシステムなんてものは作れない。

(まあ、それも特技の一つにすぎないか・・・)

「エントリースタートしました。」

「LCL電化。」

「第一次接続開始。」

リツコがマイクを取り出す。

「どう?シンジ君。零号機のエントリープラグは。」

『なんか、変な気分です。』

「違和感があるのかしら。」

原因を探ろうと伊吹がシンジに尋ねた。

『いえ、ただ・・・』

何か躊躇するような感じだった。

『・・綾波のにおいがする。』

「レイのにおい?」

一瞬、変態か?などと思ったが、レイの時のリツコの言葉を思い出した。

つまりはシンジもレイのデータをにおいとして感じ取ったのだ。

(人のにおいって何だろ?)

そう思うと少し聞いてみたくなるコウスケであった。

レイの方を見ると後ろ姿で見えなかったが、頭が少し下がっていた。

(あらら、恥ずかしがってるよ。)

普段恥ずかしがるなんてことが無いので、なかなか貴重な体験だと思うコウスケであった。

もっとも他の職員は気づいていないようだったが・・・

こうしている間にも準備が終わっていく。

「・・では。相互換テスト、セカンドステージに移行。」

「零号機、第二次コンタクトに入ります。」

零号機を見ると何も変わらない。

(無事に終わるか。)

「どう?」

ミサトが様子を知りたくて聞いていた。

「やはり零号機ほどシンクロ率は出ないわね。」

リツコが答えてくれた。

「ハーモニクス、すべて正常位置。」

「でも、いい数値だわ。」

リツコは満足そうだったが、不意に暗くなる。

「・・これであの計画、遂行できるわね。」

「ダミーシステムですか?先輩の前ですけど私はあまり・・・」

伊吹が露骨に嫌そうな顔で言う。

一方リツコは平静そのものだ。

「感心しないのはわかるわ。でも備えは常に必要なのよ。・・人が生きていくためにはね。」

(無利してんな。)

コウスケにはリツコに苦い思いが伝わってきた。

そういうコウスケは自分がどういう顔をしているか解らない。

「先輩は尊敬してますし、自分の仕事はします。でも納得はできません。」

「伊吹二尉。おしゃべりはいいから続けろ。」

コウスケはそっけなく言った。

そんな態度のコウスケに伊吹は怒った。

「綾波特務一尉!あなたは・・・」

何も知らないからそんなことが言えるんです

と言うつもりが伊吹には言えなかった。

なぜなら、振り返ったコウスケの目が据わっていたのだ。

その視線に怒気が含まれていた。

しかしその怒りの矛先はコウスケ自身に向いていた。

伊吹はとっさにリツコを見る。

リツコは無理もないと言いたげだった。

そして確信した。

綾波特務一尉は知っている。

この試験の意味を・・・

「・・すみません。」

「いや、俺も大人げなかった。」

そう言ってコウスケは視線を零号機に戻した。

「伊吹二尉。人には割り切らねばならない時がある。じゃないとつらいぞ。」

コウスケは零号機のほうに向いており、顔は誰にも見えなかった。

いや、レイには見えていた。

コウスケの苦虫を何万匹も噛んだような顔が

「汚れたと感じたときは、特にな。」

そんなやり取りをミサトは何も言わずに眺めていた。

「第三次接続を開始。」

零号機の頭が上がった。

コウスケはレイの隣に移っていた。

「セルフ心理グラフ安定しています。」

「A10神経接続します。」

「ハーモニクスレベル+20」

(今のところ順調か。)

いくらかは和らいだが、コウスケはいまだに先ほどの表情から抜け出せなかった。

『・・あやなみ?』

シンジの声が聞こえた。

レイがとっさに反応するが、どうも呼びかけられたわけではなさそうだ。

『なんだ?・・父さん?!』

(どうしたんだ?)

『計画?・・それに』

(計画・・まさか)

『コウスケさん?!』

(・・・そういうことか!レイの意識から)

レイを見るとひどく心配そうに見ていた。

(知られたか・・・少し早かった。)

すると零号機が動き出した。

「どうしたの?」

ミサトが叫ぶ。

「パルス逆流!せき止められません!」

零号機がもがき苦しむように暴れる。

「零号機制御不能!」

「全回路遮断。電源カット。」

リツコが冷静に対応する。

伊吹が電源をカットした。

「EVA予備電源に切り替わりました。」

「依然稼働中。」

零号機がこっちに寄ってくる。

「シンジ君は?」

ミサトがシンジの様子を窺う。

「ダメです。モニターできません。」

今、シンジがどういう状況なのか誰にも分らなかった。

「零号機がシンジ君を拒絶?!」

リツコがあり得ないと言いたげであった。

「いや、シンジ君の暴走だろう。それにEVAが反応した。そういうことだろ。」

(半端な真実を見たんだな。)

コウスケは妙に冷静になれた。

零号機が拳を突き出した。

一回、二回と続くたびにガラスにひびが入る。

とっさにコウスケはレイをかばうように立っていた。

五発目でガラスが割れた。

「レイ!コウスケ君!離れなさい!」

ミサトがたまらずに言った。

幸いにも横のガラスが割れた。

零号機はモニタールームから離れ、壁を殴り続ける。

0という言葉とともに零号機が止まった。

「パイロットの救出急いで!」

ミサトが号令を飛ばした。

(・・俺を殺そうとしたのか)

一瞬零号機と眼があったが、十分な殺気を感じた。

他の職員にはそれはわからなかった。

・・・

 

シンジは精神汚染の心配もなく無事であることが告げられた。

コウスケは病室に急いだ。

・・・

 

「よう。大丈夫か?」

「コウスケさん。」

シンジの顔はいまだに信じられないというものだった。

「今から俺の執務室に来れるか?」

「・・何でですか?」

その顔には少なからず拒絶が見て取れた。

「真実を話す時が来た。」

「・・・わかりました。」

・・・

 

執務室に戻るとミツヒサとキョウヤがいた。

その横には制服に着替えたレイが椅子に座っている。

レイはもし自分のことなら自分から話したいと食いついたのだ。

「呼び出してすまんな。今から俺がいいというまでこの部屋に人を近づけないでくれ。」

了解という返事とともに二人が出ていった。

「そこに座ってくれ。シンジ君。」

シンジが椅子に座るとコウスケは紅茶を差し出した。

「さて、シンジ君はどこまでわかったのかな?」

シンジがポツリポツリとしゃべり始めた。

計画のこと

そのためにレイが生まれたこと

そしてゲンドウが係わっていること

コウスケがそれを知っていること

そんな内容だった。

「なるほどね。」

コウスケが予想したことと合っていた。

「これは本当なんですか?」

シンジの目には不安で彩られている。

「本当だ。」

「じゃあ、綾波はそれだけのために生まれたんですか?」

「そうだった。」

「綾波は知ってたの?」

シンジがレイに問う。

「・・ええ。」

「どうしてさ!」

「私にはそれしかなかったもの。」

「なんでさ!」

シンジがレイに問い詰める。

レイが過去形を使ったことに気づいていないようだった。

「待て。」

コウスケがそれを止めた。

「レイの話は終わってない。」

コウスケが止めたのはレイがいまだに何かを話そうとしていたからだ。

シンジが落ち着きを取り戻した。

「でも計画は破棄された。私には人として生きてほしい。碇司令はそうおっしゃった。」

「父さんが?」

シンジがコウスケを見た。

「本当だ。碇司令は俺に人として必要なことを教えてほしいと言っていた。」

「そうなんですか。」

そしてシンジはとある単語を思い出していた。

「ダミーシステムは開発してないんですか?」

先日見たダミープラグの生産工場で聞いた言葉が出てきたのだろう。

その言葉にレイがビクッと反応した。

「いや、今日の試験はそのためのものだ。前の使徒が来た時の試験もな。」

シンジがバッと立ち上がった。

なかなかの迫力だった。

「何でですか?!なんで綾波だけがそんな目に合うんですか?!」

(言いたいことはわかるぞ。)

「コウスケさんは一緒に住んでて、そんなこともわからないんですか?!」

シンジは吹き飛んだ。

シンジがいた場所にはコウスケが拳を突き出した形で立っていた。

「碇君?!」

レイが驚きを隠せない。

「そんなこともわからないだと?」

「だってそうじゃないですか?!綾波に人として生きろと言っておきながら・・・」

シンジは言葉をつづけられなかった。

シンジの目に見えたものは伊吹と同じものだった。

「俺だってな・・・」

コウスケがシンジの胸ぐらをつかんだ。

レイが心配そうに見ている。

「俺だってな代われるなら代わってやりたいよ!」

シンジはコウスケの剣幕に押されて声が出なかった。

「この人殺しでもろくでなしでもレイの代わりになるならな!」

止めるべきとわかっていながらも止められない。

コウスケは俯いてしまう。

「でもな・・・ダメなんだよ。俺じゃ・・EVAに乗れない俺じゃ・・・」

レイの目にはぽつりと落ちる水の滴が見えていた。

当然コウスケの前にいたシンジにも

「俺じゃダメなんだよ・・・」

コウスケは腕の力を抜いた。

「すまん。興奮していた。」

コウスケは目を拭うと自分の椅子に戻った。

「すみません。コウスケさん。」

「いや、俺が悪かった。」

シンジは本当にすまなそうにコウスケを見る。

「これだけは覚えておいてくれ。俺たちは未来を創るために今生きている。お前たちの未来だ。」

「コウスケさん。」

「特務一尉。」

「もう少しつらい日々が続くだろう。だが、もう少しでいい。耐えてくれ。すまん。」

コウスケは頭を下げる。

「・・わかりました。」

「すまん。もう疲れただろう。帰って休んでくれ。」

「はい。」

シンジが出ていった。

「激情に任せて殴っちまったか・・・俺は破壊しかできんのだな・・・」

(子供たち三人に激情に任せて怒るか・・・底がしれるな。・・耐えてくれか・・また虫のいいことを言ってんな。)

コウスケは目の前の紅茶をすする。

とても苦い味だった。

「レイ。」

「はい。」

「俺という人間が解ったろ。俺の元から離れろ。ろくな人になれんよ。」

レイは答えなかった。

「赤木でも、葛城でもいい。」

「特務一尉。」

レイが止めようとするがコウスケは止まらなかった。

「伊吹二尉でもいいんだ。・・少なくとも俺よりましなはずだ。」

「なぜです?」

レイの目は「私を拒絶するのか。」

そう言っていた。

「俺みたいな人殺しのそばにいて幸福になれるわけない。」

コウスケはあえてレイの顔が見えないように椅子を回した。

これ以上レイの目を見たくなかった。

「実際みんなそうだった。俺を残して死んでいった。」

「・・・」

「もういいんだ・・・」

「でも特務一尉は私のために泣いてくれた。人だと言ってくれた。」

コウスケはレイのほうに振り返りそうになったが、止めた。

今、レイを見たらすがってしまうかもしれない。

そんな考えがコウスケの脳裏に浮かんだ。

だから考えを変えた。

(そんな風に気を使えるのか・・優しいのかもしれんな。レイは。)

「そういう偽善野郎なんだ。そうすれば許されると思っているバカなんだ。」

今、レイがどんな顔をしているかわからないし、知りたくもない。

「シンジ君ならレイのことをよく知ってるだろ。碇司令に頼ってもいい。今なら信頼できる。」

(俺に言われても信頼性無いな。)

「特務一尉。」

悲しげな声に聞こえた。

だから無視した。

「もう休め。俺の方から申請しておく。」

ドアが開く音が聞こえた。

レイが出ていったのだろう。

それを確認するつもりはコウスケには無かった。

「必要なのはお前たちの(俺のいない)未来なんだ・・・」

それを聞いたものは誰もいなかった。

・・・

 

コウスケが家に帰った時見たものは椅子にちょこんと座ってるレイだった。

「なんでここにいるんだ?俺の元を離れろと言ったろ。」

レイは何も言わずにじっと見つめてくる。

コウスケはたまらずに視線を逸らした。

「・・そうか。ここがお前の家だったな。」

コウスケは自室に戻りあらかた荷物を持ってリビングに戻ってきた。

「どこに行くんですか?」

「ここは俺の家じゃない。・・無理やり押し付けられたものだからな。」

コウスケはレイの顔を見ずに言う。

「・・私も押し付けられたのですか?」

コウスケは胸に痛みを感じた。

だから、

「・・・そうだよ。」

気まずい雰囲気が漂っていた。

「NERVで会うこともあるだろ。・・さよなら。」

コウスケはそのまま出ていった。

・・・

 

「葛城か?」

『コウスケ君?どうしたの?』

「・・・レイのことよろしく頼む。」

『レイのことって、ちょっと何言ってんのよ!』

「次の保護者が決まるまででいい。碇司令には俺から言っておく。」

ミサトが何かわめいているがコウスケは構わずに電話を切った。

「どうしよう・・・」

コウスケは当てもなく彷徨っていた。

・・・

 

ふと気が付くと目の前にSu-37があった。

既に退勤したのだろう

周りには誰もいなかった。

「・・結局、俺の居場所は戦いにしかないのか。」

そんな男のもとに居ていいはずがない。

レイはもっと幸福になれるはずだ・・・

コウスケはキャノピーを開けコックピットに乗り込んだ。

コックピットはやはりなじんだものだった。

「使徒が来る間は生きている。だが、それが終わったら」

コウスケは操縦桿を握った。

「お前も一緒に来るか?相棒。」

それに誰も答えなかった。

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