特務一尉は変わったな
日向はここ数日のコウスケを見てそう思っていた。
なんかやけに固くなったような・・・
そんなことを思いつつ日向はコウスケの執務室の前に立っていた。
「日向二尉です。」
「入れ。」
とても冷たい声だ。
ドアが開いた。
コウスケは何かの資料をジッとみていた。
「兵装ビルに関する資料をお持ちしました。」
「そこに置いとけ。」
この反応も以前とは違う。
以前なら・・・
「ああ、ありがとう。お前も大変だな。葛城に押し付けられて。」
などと冗談交じりに言ってやさしい眼で見てきた。
それが今では別人のように冷たく接してくる。
それに煙草の量が増えている気がする。
「了解しました。」
日向は資料を置き部屋を後にする。
特務一尉変わったな・・・
・・・
特務一尉に何があったんだ?
青葉はそう思ってはいられない。
以前こんなことがあった。
「青葉一尉。チルドレンたちは?」
コウスケが青葉にそう尋ねた。
青葉は不思議に思った。
コウスケはチルドレンとは言わなかったのだ。
それに感情がいまいち伝わってこない。
「子供たちは元気にいるか?」
前ならこう聞いてきたのだ。
「はい。問題なしです。レイちゃんも無事です。」
「そうか、ならいい。」
これもおかしい
「レイは今何してる?」
前ならそう言ってレイの動向を探ろうとしていた。
コウスケはいつの間にかいなくなっていた。
なぜか重苦しい雰囲気が無くなっていた。
だからこそ青葉は思う。
特務一尉にいったい何があったんだ?・・・
・・・
どうしたのかしら?
伊吹はコウスケの執務室に行く途中で考える。
彼女はリツコから託された装備に関する資料を運んでいた。
前の機体相互互換試験のあとに訪ねたことがあった。
「綾波特務一尉。あの・・・」
「何だ?」
酷くそっけない言い方だった。
以前の彼なら紅茶を出してくれたのに、それが無かった。
「試験の時のことを謝りたくて・・・レイちゃんのことを知っていたんですね。」
「ああ。」
「すみませんでした。」
「別にいい。・・ファーストチルドレンは必要なことをやっていただけだ。」
おかしい
レイちゃんのことはレイと呼んでたのに・・・
「あの・・・」
「話はそれだけか。」
「はっはい。」
「なら自分の仕事に戻れ。」
どうしようもなかったから部屋を後にしたけど・・・
綾波特務一尉はどうしたのかしら・・・
・・・
彼、どうしたのかしら
ミサトは思う。
急にそっけなくなったわ
ミサトは以前あったことを思い出す。
「ねえ、コウスケ君。」
「なんだ?葛城三佐。」
葛城三佐?
そんな風に読んだこと無かったのに
「レイどうしたの?最近元気が無いように思うんだけど・・・」
「ファーストチルドレンが?」
変ね。
パイロットをそんな風に呼んだことなかったのに・・・
以前なら
「体調が悪いのか?それともシンジ君が何かしたか?こりゃシンジ君に聞かないとな。」
なんて言って楽しそうにしてたのに・・・
「そう。何か知らない?」
「俺の管轄外だ。サードチルドレンかセカンドチルドレンに聞けばいいだろ。」
「あんた保護者でしょ?!」
「名前だけ貸したんだ。それ以外に意味はない。」
そんなはずはない。
じゃなかったら毎朝レイを呼びに来るはずがないもの。
でも今は来ない。
それに今は家にいないみたい。
どうも執務室で寝泊まりしているみたいね。
「それだけか?」
「ええ・・・」
「つまらんことで呼び出すな。」
コウスケが出ていった。
だからミサトは思う。
彼、どうしたのかしら・・・
・・・
何があったのかしら
リツコは最近のコウスケを見て思う。
妙に堅っ苦しくなった
コウスケが家を出たと聞いてリツコは問いただした。
「なぜ家を出たの?」
「あそこは俺の家じゃない。」
「でもレイがいるでしょ?」
「ファーストチルドレンの家だからな。当たり前だろ。」
「あなたの家でもあるのよ。」
「知らんな。第一、勝手に押し付けたんだろ。」
「・・レイのこともそう思っているの?」
「・・・・・・ああ。」
本心じゃない
目を見ると悲しげな目だった。
「嘘ね。」
「だからどうした。」
「あなたは何がしたいの?」
「・・・知らんよ。」
「そう。」
リツコは部屋を後にした。
そして思う。
何があったのかしら・・・
・・・
コウスケさんどうしたんだろ
シンジは思う。
前にコウスケさんこんなこと言ってたな・・・
「レイのことよろしく頼む。」
ものすごく悲しげな顔だったな。
でもそれ以降、僕のことをサードチルドレンって呼ぶし
アスカのこともセカンドチルドレンと呼ぶし
綾波も・・・
「コウスケさん。綾波はいまどこにいるか知ってますか?」
「ファーストチルドレン?知らん。」
変だ。
前なら・・・
「レイか?レイなら・・・休憩室にいるんじゃないかな?なんだシンジ君。レイに会いたいのか?」
なんて言ってニヤニヤしたんだけど・・・
今はそんなことをしてこない。
コウスケさんどうしたんだろ・・・
・・・
コウスケ何があったの?
アスカはそう思わずにはいられない。
訓練していた時にこう言われたっけ
「エースパイロットとして訓練に励むか・・よいことだ。」
変だった。
前なら
「訓練すればその分生き残れる可能性が上がるからな。それより恋人でも作ればどうだ?その方がもっといいと思うぞ。」
なんて言ってたのに
ニヤニヤしながら・・・
それにエースパイロットって言うのコウスケ自身が嫌ってたのに
何よりそれであたしに怒ったんだから
コウスケ何があったの?・・・
・・・
なぜ?
レイはこの考えを止められない。
特務一尉、なぜ?
前に呼び止めたとき
「特務一尉。」
「なんだ?ファーストチルドレン。」
とても冷たい声
胸が痛かった。
「どうした?レイ。」
そう呼んでくれたのに
どうしてそういう風に呼ぶの?
「・・いえ、なんでもありません。」
「そうか。」
特務一尉が去っていく。
「もう昼か・・飯でも食っていくか?」
前ならそう言ってくれた
なぜ?
私が嫌になったの?
人じゃないから?
でも
「おまえさんは綾波レイだ。それ以上でも以下でもない。」
「戦友という言葉は人にしか使わないよ。」
私を人だと言ってくれた人
「で?碇君とはどうだ?」
やたらと碇君との仲を聞いてくる人
ちょっと嫌な笑いをする人
碇司令みたいな笑い方をする人
でも嫌じゃなかった。
「ほんとによく食うな。」
あきれながらも優しい眼で見てくれた人
「お仕置きだ。」
頬をつねるけど目では優しく見てくれる人
「今のレイの気持ちを心配するというんだ。」
「嬉しかったんだな。」
「そんな風に感情があるじゃないか。」
私に感情を教えてくれた人
なのに
「おいおい、今生の別れじゃないんだから。」
「NERVで会うこともあるだろ。・・さよなら。」
さよならを今生の別れと言った人
わからない
なぜ・・・
・・・
最近俺を見る目が変わったな
当たり前か
あの時と同じか・・・
三年前にあいつに会う前はこんな感じだったよ
誰もが俺を白い眼で見てきやがった
当然だな
命令があれば誰でも殺したからな
逃げ出した奴もお構いなくな
ここの奴らはそんなこと知らんだろ
今更って感じだな
しかし
疲れたな
使徒が滅びるまでと考えてたが
その前にくたばるのも
いいかもしれん
どんなに頑張っても
俺に未来を見る資格なんてないからな
・・・
総司令執務室前
「綾波特務一尉。参りました。」
中から返事がない。
おかしく思うがドアが開いたので中に入った。
そこにはいるべき人がいなかった。
中ほどまで入るが反応が無い。
コウスケは気づいた。
「・・何のまねだ?」
後ろにミサト、リツコ、パイロット三人がいた。
「碇司令も絡んでいるのか・・・ファーストチルドレン、お前だな。」
レイがビクリと反応した。
「みんなして俺に死神の鎌でも振り落としに来たか?・・それもいいかもな。」
「何言ってんのよ。」
ミサトが大声で叫ぶ。
「ファーストチルドレンなら命令ひとつでやりそうだからな。」
心が痛いが我慢する。
そもそも俺に心を痛がる資格などない。
「なんでレイがそんなことしなくちゃいけないのよ!」
アスカが心底侮蔑するように言った。
そうだ、その眼が俺にはふさわしい
「だが、実際そうだったろ?なあ、ファーストチルドレン。」
「綾波はそんなことしませんよ。」
シンジもギンと睨んでくる。
そうだ、そうだよ。俺にはその眼がふさわしいんだ
こんな奴にはお似合いなんだよ。
「どうだか・・人形だからな・・・おっと人形じゃなかったか。・・じゃあ機械だな。」
レイが睨んでくる
と思いきや
憐みの目で見てくる。
よく見ると皆がそういう目で見ていた。
「・・なんだよ。」
なんて目をしてんだよ
「コウスケ君。どうしてそこまで嫌われようとするの?」
リツコが口を開いた。
「何言ってんだか。」
そんなわけないだろ
「俺にはさっぱりわからんね。」
「嘘ね。」
心が痛い。
なぜ痛いんだ?
そんな資格ないのに・・・
「・・・わからないよ。」
「あなたの行動を見ていればわかるわ。」
「なら、これが俺の本性なんだ。今まで気づかなかっただけだろ。」
「違うわ。」
レイが口を開く。
「そんな人なら私を人なんて言ってくれない。私のために苦しんだりしない。」
「言ったろ?そういう偽善野郎なんだって。」
「そんなはずない。」
「そういうやつなんだよ。実際サードチルドレンを殴り飛ばしたからな。」
「なにが苦しいの?」
レイの問いかけが心を刺激する。
「そんなもん、ない。」
「嘘ね。あんときエースパイロットで怒ったくせに、この前は私のことをエースパイロットと言ってたじゃない。何かあったんでしょ。」
今度はアスカか・・・
「事実だろ?」
「コウスケさん・・・もしかして」
シンジ?何を言うつもりだ?
「人を殺したことを後悔しているんですか?」
・・・!
「そんなわけないだろ。軍人なんだぞ。人を殺すぐらい・・・」
何ともないのか?俺・・・
「嘘ですよ!この前言ってたじゃないですか!」
この前・・・
「人殺しでもろくでなしでも綾波と代われるなら代わりたいと。」
言ったな・・
「優しすぎるのね。」
葛城・・・
「その優しさがコウスケ君を傷つけるのね。」
「バカなことを言うな!」
「そして許せないのね。自分が・・・」
ああ、その通りだよ
俺はいまだに生きている俺自身が許せないんだ。
「本音が出たわね。」
赤木・・何言ってんだ?
「口に出てるわよ。」
「・・・あ。」
コウスケは立っていられず、その場で胡坐をかいた。
「・・そうだよ。俺は人殺し・・・それが許せない。あの時からそうだった。」
彼女をミサイルで吹き飛ばした時から
二年間の空白を自覚してから
俺は途方もない人殺しなんだ・・・
「そんな奴のもとにいて幸福になれるか?なれるわけないだろ。」
誰も答えない。
「なら、使徒を殲滅したら消えるのが一番いい。その前にくたばるならもっといい。」
「何言ってんですか!」
シンジが叫ぶ。
「・・言ったろ?お前たちの未来だ。碇司令、副司令、シンジ、アスカ、レイ、葛城、赤木、加持、青葉、伊吹、日向、榛名・・・みんなの未来だ。」
「特務一尉は?」
レイが尋ねる。
「俺はいない方がいい。」
「何でよ!」
アスカが問いかける。
「平和な未来に俺みたいな人殺しはいらない・・それだけだ。」
コウスケの視線が自然と落ちた。
「なら、平和な未来を創るまでが俺の仕事だ・・・」
「あなたバカね。」
「そうだよ。赤木。俺はバカなんだ。今更気づいたのか?」
「違うわよ。」
「葛城。何が違うんだ?」
「あんただけ気づいてないじゃない!」
「何言ってんだ?アスカ。」
「コウスケさん。あなたの仕事はまだあります。」
「これ以上俺に苦しめと言いたいのか?シンジ!」
「・・あなたはその苦しみを未来の人に伝えなければならない。」
「意味が解らない・・レイ。」
「つまりは君のような存在を出さないためにも君が必要ということだ。」
後ろを振り返るといつの間にかゲンドウがいた。
横には冬月も
「どういう意味ですか?」
「君が証人になるのだよ。未来が平和になるにはどうすればよいのか。君の経験をもとにしてな。」
冬月が言った。
「人殺ししかできない俺にですか?」
「だからこそ命の価値がわかるのだろう?」
ゲンドウの言葉はコウスケに響いた。
「命の価値がわかるからこそ、それを無意味に消してきた罪が許せない。」
赤木・・・
「でも、のうのうと自分は生きている。」
葛城・・・
「だから余計に自分が許せない。」
アスカ・・・
「でも、だからこそ出来ることがあるんじゃないですか?」
シンジ・・・
「・・それを未来に伝えること。・・それはあなたにしか出来ない。」
レイ・・・
「そのためには君が必要なのだ。」
碇司令・・・
ああ、そういうことか・・
お前が夢で言いたかったのはそういうことなんだな?
だから平和な未来を創れと
そう言うんだな?
そうか
それが俺にできる事なのか・・・
コウスケは笑いが止まらなかった。
今までなんで気づかなかったのか
それがいかに重要か
一番解っていたつもりが
一番解ってなかった
「ほんとにバカだな・・俺。」
「特務一尉。」
レイがそばに寄っていた。
「戻ってきてくれますか?」
「いいのか?」
「・・人としてやってはいけないことをちゃんと教えてください。」
「そうか・・そうだな。」
コウスケは数日前に自分がしたことに気付く
「でも、申請はしたからな。もう戻れんよ。」
「これのことか?」
ゲンドウが一枚の紙を取り出した。
「誤字だらけで何が書いてあるかわからん。よって却下だ。」
ゲンドウがびりびりに破いた。
「碇司令。」
「レイのことよろしく頼む。」
「・・了解しました。」
コウスケは立ち上がり、びしっと敬礼を行った。
おそらく一番真面目で不格好な敬礼だろう。
水の滴が一滴流れたのは見間違いではないだろう。
「それと、シンジ、レイ。」
「「はい。」」
「今度食事にでも行こう。私にできることはこれぐらいだからな。特務一尉も来たまえ。」
「父さん・・」
「日にちは追って知らせる。」
「うん。」
シンジは泣きそうな顔だった。
「いつまでここにいる?やるべきことがあるのだろう?」
ゲンドウの言葉は冷たく感じるが、それは不器用な優しさだったのかもしれない。
「さ~て、お仕事を終わらせないとねん。」
ミサトが伸びをしながら言った。
「と言って日向二尉に押し付けるのでしょ?」
とリツコがミサトの考えを見抜いた。
「そうね。ミサトの仕事ってそれよね。」
アスカの容赦ない言いよう。
「ミサトさんも自分の力でやればいいのに・・・」
シンジもなかなか容赦ない。
「家でも葛城三佐はだらしない。」
レイの言葉はトドメだろう。
ゲンドウがサングラスをきらりと光らせる。
「今のは本当かね?葛城三佐。」
「い、いえ。その・・・」
「給与査定を楽しみにしたまえ。」
どうやら死神の鎌が振り落とされたようだ。
ミサト以外はやれやれと言ったところだろうか。
コウスケにはそれがとても平和そうに、幸せそうに見えるのであった。
「こういう未来のために俺が必要か・・・」
コウスケは自分を振り返る。
へらへらしながらもどこかで死に場所を求めてた
人を殺すしか能がない
だからこそ教えられるもの
それは
命の尊さ
そして
戦いの愚劣さ
・・・
もう迷わない
俺ができること
それは・・・
「・・行こうか、みんな。未来へ」
それでいいんだよな
・・・
さよなら、みんな
よろしく、みんな
三話を題してコウスケの補完と言ったところでしょうか?
最後のこの話は本編の第25、26話を思い出しながら書きましたね。
さて、今回はおまけもあります。
今回はあの二人に焦点を合わせました。
では、どうぞ
おまけ
「ところで碇司令はいつの間にいらっしゃったんですか?」
コウスケは疑問に思っていたことをゲンドウに聞いた。
「フッ。」
「・・・笑ってごまかさないでください。」
「冬月先生。あとを頼みます。」
「ああ、ユイ君によろしくな・・・と言うとでも思ったか?碇。」
「クッ・・・」
「いつの間にあんな仕掛けを作ったんだ?」
「仕掛け?」
「そうだ。まったく椅子ごと地下に動くなんて・・・」
(なんだそれ?必要なのか?)
コウスケの疑問はごく普通だろう。
総司令執務室に来る人などほとんどいないのだから・・・
「発令所の私の席から思いついたのだ。」
「で、動く必要がどこにある。」
「・・・驚かすとか・・・」
ゲンドウは汗をかいている。
明らかに苦し紛れの言い訳だ・・・
「誰を驚かすんだ?」
「・・・」
「つまり、必要ないということだな。碇。」
「・・・」
「こんなもの作りおって・・・まったく、しょうがない奴だ。」
やれやれと言いたげな冬月であった。
「冬月先生・・・」
「ちゃんとお前の給料から請求させてもらうぞ。」
「・・・問題ない。」
ゲンドウは脂汗を目一杯かいている。
(大丈夫じゃないんだな・・・)
なんてことがあったそうな。
ちなみにゲンドウの個人資産の一部が消えたらしい。
その行方は一人の老人が知っている。