NERV航空隊隊長綾波   作:浩介

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第26話 綾波家へご招待

コウスケは自分の執務室で雑務に追われていた。

「形式ばかりで退屈だよ、まったく・・・」

休憩とばかりに煙草を取り出す。

「碇親子は何とかなりそうだし・・・」

この前の食事会は和睦への一歩となった。

これからはどうなるかいまだにわからないが、少なくとも悪くはならないはずだ。

(そういや俺ってとんでもない位置にいるな。)

NERVの作戦本部副部長、作戦局二課課長、零課課長、レイの保護者、ゲンドウの同志・・・

いつの間にかかなりのVIPになっていた。

しかもチルドレンとの関係も悪くはない。

「・・その気になれば世界を掌握できるな。」

そんなことを想像するが

「性に合わん。そんなもの俺にいらんし・・・」

確かに世界を掌握したところで何をするのか。

「・・バカらし、やめやめ。」

と不毛な考えをやめることにした。

するとコウスケのPCから警告の文字が映し出された。

「ん?」

(ターミナルドクマに侵入者?)

IDはリツコのものだったが、彼女は今、研究室にいる。

そのためMAGIが異常を知らせてきたのだ。

NERVの奥深くにあるターミナルドグマに関してはコウスケが担当していた。

本来はリツコの担当であったのだが、コウスケが真実を知った時にゲンドウから直接管理するように言い渡された。

なのでそこで異常があった場合、MAGIからコウスケへ直接警告が行くようになっていた。

「・・随分暇なんだな。行くか。」

コウスケはいまだに残る雑務を放置し部屋を後にした。

・・・

 

(・・二人か)

ターミナルドクマについたコウスケは何となく感じる気配からそう予測した。

(一人は加持だろう・・・もう一人は誰だ?)

コウスケは耳を澄ました。

「・・二日酔いの調子はどうだ?」

(加持の声だな。)

「おかげでやっと覚めたわ。」

(葛城?!どうしてこんな所にいるんだ?)

コウスケは日本政府の内調の者がいると思っていた。

なのでここにミサトがいるのは予想外であった。

「これがあなたの本当の仕事?それともアルバイトかしら。」

「どっちかな?」

「特務機関NERV特殊監査部所属加持リョウジ、同時に日本政府内務省調査部所属加持リョウジでもあるわけね。」

「バレバレか。」

「NERVを甘く見ないで。」

(それはお前も同じだよ。葛城。)

「碇司令の命令か?」

「いえ、私の独断よ。・・これ以上バイトを続けると、死ぬわ。」

「碇司令は俺を利用している。・・まだいけるさ。」

(どっちかと言うと見逃されてるんだけどな。)

「葛城に隠し事をしていたのは謝るよ。」

「昨日のお礼にチャラにするわ。」

「そりゃどうも。ただ司令やりっちゃんも君に隠し事をしている。」

加持が手を上げるのが見える。

カードを持っているようだ。

「それが・・これさ。」

加持がカードを通した。

「・・なぜだ?」

ドアは開かなかった。

コウスケがここに来る前にロックしたからである。

今はコウスケが持つもう一つのカードでしか開けられない。

(さて・・どうする?)

別に見逃してもよかったのだが、ここで騒ぎを起こされると非常にまずい。

消すことも難しくなかったが後始末が楽ではないし、顔見知りの二人を消すのは戸惑われた。

コウスケは意を決して二人の前に出ることにした。

「当たり前だ。その偽造カードじゃそこには入れない。」

「綾波?!」

「コウスケ君?!」

二人が驚くようにコウスケを見た。

「二人してこんなところでデートか?」

「そんな風に見える?」

ミサトがこっちに銃を向けた。

「そんな物騒なもんしまえよ、葛城。」

(あんまり気がいいものじゃないな。)

「どうしてここにいるんだ?」

「それはこっちのセリフだよ。加持。」

加持の目から警戒するような視線を感じた。

(どうしようか・・・うまくいけば・・・)

「そこにあるものが見たいのか?」

「見たいと言えば見せてくれるのか?」

「別に構わんよ。」

(正直そこまで重要じゃないからな。)

と言うコウスケに加持が驚いていた。

「ここを開けられるのは極一部だけだ。」

コウスケはカードを取り出した。

先日ゲンドウからもらったカードである。

そのカードに加持は気付いたようだ。

「そのカードは・・・」

「まあ、見てろ。」

コウスケがカードを通した。

認証の音が鳴りドアが開いていく。

中には七つの目がある白い巨人が貼り付けにされていた。

胸には赤い槍が刺さっている。

(第二使徒リリスか。・・レイの魂の元なんだな。)

コウスケはリリスを見ながらそう思った。

(・・なぜレイになったんだ?)

リリスは何を考えて人になったのか

何か目的があったのか

コウスケは何となく気になったが、目の前の巨人は何も答えなかった。

「これは・・・EVA?・・いえ、まさか・・・」

ミサトが信じられないという顔で驚いていた。

「そう、セカンドインパクトからそのすべての要であり、始まりでもある・・アダムだ。」

加持がミサトに解説するように言った。

(残念だが、違うんだな。)

「違うぞ、加持。これは第二使徒リリスだ。」

「?!アダムじゃないのか?」

「ああ。」

コウスケは煙草を取り出した。

「・・なぜコウスケ君がそんなこと知ってるの?」

ミサトが疑いの目を向けた。

「なぜだと思う?」

「こっちが聞いてるのよ。」

「真実を知りたいか?」

コウスケが二人をじっと睨む。

(さて、どう出るかな?)

そんな様子のコウスケに二人が戸惑う。

加持の方から声をかけてきた。

「教えてくれと言ったら教えてくれるのか?」

「別にいいよ。」

「ほんとに教えてくれるの?」

「嘘は言わんよ。そこまで重要でもないしな。」

今のコウスケにとって未来を創ることがすべてでおり、NERVの秘密やらSEELEなどどうでもよかった。

レイのことに関しては別だが・・・

「ただ・・・」

「ただ・・なんだ。」

「加持が三足足袋をやめたらの話だな。」

「あんた!他にもあるの?!」

ミサトが吠えるが、加持は平然としていた。

「俺は真実を知りたいだけなんだ。それがわかるのならそんなもん捨てられるさ。」

「ほんとだな?」

コウスケは加持の目を見た。

どうも本気であることを感じ取った。

「・・わかった。夜に俺の家に来い。そこなら安全だ。ついでにアスカもな。」

「なんでアスカも?」

ミサトがコウスケに問う。

「アスカも知らなければならないし、約束もしたからな。」

コウスケは携帯電話を取り出した。

コウスケの持つ携帯電話はターミナルドグマであっても連絡できるように改造されたものだ。

改造した人はリツコである。

(さてと・・・)

「・・・レイか?すまんな。授業中だったか・・・」

二人は「は?」っと言いたげであった。

「今日シンジ君を家に誘おうと思う。・・夕食にな。」

コウスケの顔はにやついていた。

「そうか、代わりに作ってくれるか。わかった。好きなようにしてくれ。・・ああ、今日は多めに頼む。」

コウスケは二人をちらりと見た。

「時間は・・七時頃になるかな?・・じゃあ。」

コウスケは電話を切った。

「と言うわけでシンジ君も連れてきてくれ。」

「あんた何考えてんの!」

「言ったとおり夕食に誘ってるんだが?」

「それとシンジ君が何の関係が有るのよ!」

「そう言えばレイが気合を入れて作ってくれるだろ?」

などと真顔で言うコウスケ。

レイの料理の腕はコウスケをはるかに凌ぐレベルなのだ。

そんなレイが気合を入れて作ったらどうなるのか

それはコウスケにとって一つの関心ごとだった。

ちなみに当番制は継続している。

だが、最近はレイがやりたいと言い出してコウスケは一週間に二回ほどになっていたが・・・

そんなコウスケに二人はあきれたような顔だった。

「時間は聞いたな?」

頷く二人

「じゃあ、その時間に。またな。」

コウスケは去ることにしたが・・・

(レイはどんなものを作るかな?)

「・・夕食、楽しみだ。」

なんてことを聞いた二人は少し不安を隠せないようだった。

・・・

 

「こりゃ、いつになくすごい出来だな。」

コウスケはテーブルに並べられた料理たちに感心した。

元々レイはもっとおいしいものを食べてみたいということから始めた料理であり、その生きるための本能と講師の腕のおかげでかなり上達したのだ。

さらにある特定の人物に食べてもらいたいという思いが入っており、今回の料理はコウスケが今まで見てきた中で一番であった。

「どうした?食べないのか?」

箸をつけようとしない四人に向かって言った。

皆パイプ椅子に座っており、コウスケが以前に予備で買っておいたものだ。

「・・いいの?」

ミサトがおずおずと聞いた。

「構わんよ。」

「・・でも一人納得していないみたいだぞ。」

と言って加持がレイを見ていた。

「何だ?レイ。そんな怖い顔して。」

レイは不機嫌ですというオーラを隠せずにいた。

「・・・私、聞いてない。」

「ん?何を?」

(シンジだけだと思ってたんだな。・・予想通り。)

などとコウスケは心の中でニヤリとしていた。

「特務一尉。一人だけじゃ・・・」

「誰も一人だけとは言ってないぞ。」

(言わなかっただけだけど。)

などと意地の悪いことを考える。

レイが拗ねたように顔を顰めた。

「・・もしかして特定の人物に食べてもらいたかったのか?」

途端にレイが慌てる。

「誰に食べてもらいたかったのかな?レイ。」

ちらりとシンジのほうを見るがすぐに顔をそむけてしまった。

「ほれ、言ってみろよ。」

「う~」

レイが困り果てて唸ってしまう。

(知ってほしいけど言うのは恥ずかしい・・・こりゃ、面白い。なら・・・)

「じゃあ、シンジ君は誰だと思う。」

「ぼっぼくですか?」

「うん。」

横で見ている三人はわざとやってるだろという顔だった。

(当たり前だろ。こんなおいしいチャンスを見逃せるかよ。)

というコウスケの心がわかったのか、三人ともあきれていた。

「誰だろ・・加持さん?ミサトさん?アスカ?」

シンジはごく真面目に答えていた。

(本気で言ってるのか?こいつ・・・)

「違うぞ。」

「・・・父さんとか」

(なんで自分が入らないんだ?!)

「・・アスカは誰だと思う?」

シンジは横にいたアスカに聞いてみることにしたようだ。

「私に振らないでよ!・・知らないわ。」

アスカは少し怖気づいていた。

なぜならレイがものすごく怖い顔で睨んでくるからだ。

シンジはそんなレイに

「綾波、どうしたの?」

なんて聞いてしまう。

「・・・・・・知らない。」

と言ってレイはそっぽを向いてしまう。

(シンジが気づかなくって無茶苦茶怒ってるな?)

微笑ましい光景だとはコウスケだけが考えていた。

「アスカもわからんか・・じゃあ・・」

と言いかけたところでもぞもぞと動くレイの姿が目に入った。

(レイ、何をするつもりだ?)

レイが携帯電話を取り出していた。

レイは何かを操作している。

『私だ。』

(碇司令?!)

ゲンドウの声が携帯電話から聞こえてきた。

レイはコウスケがいつぞやにやったことと同じことをしていた。

「私です。」

『レイか。どうした?』

(・・碇司令に告げ口するつもりか!)

ゲンドウはレイに甘いところがあるのだ。

コウスケがレイをからかっているなどと知れたらどんなことが起きるか解らない。

命は保証されるだろうが・・・

「特務一尉が・・・」

と言ったところでコウスケはレイから携帯電話を取り上げた。

ついでにレイの頭を空いている手で押さえる。

レイは立てなくなった。

「いや~、碇司令。」

『特務一尉か。レイはどうした?』

レイは必死に携帯電話を取り返そうとじたばたする。

だが、軍人の腕力で頭を押さえられているためどうにもできない。

また、腕のリーチもコウスケの方が長かった。

時折「う~」と言う声が聞こえてくる。

「レイがあまりにも緊張して言えなくなったので代わりに自分が出ました。」

『そうか。』

レイがコウスケの手をつねってくる。

頭にあるコウスケの手を排除しようと考えたのだろう。

「!・・今度食事に誘いたいそうです。」

(痛い!痛い!)

コウスケは痛いのを必死にこらえていた。

そんなやり取りを四人は呆然と見ている。

レイは手法を変えコウスケの脛を空いている足で蹴ってきた。

弁慶の泣き所に・・・

そこをげしげしと蹴られては、いくら軍人でも痛い。

(ぐおっ!)

「日時はまた知らせます。」

『わかった。ところで特務一尉。』

(なんでこういう時に限って話を続けるんだよ!)

だが、電話を切るわけにもいかない。

その間にもレイの蹴りは強くなっていた。

「・・なんでしょう。」

コウスケは平然としているフリをつづける。

レイの攻撃は止まない・・・

『レイはどうしている?』

(・・行ける!すまんな、シンジ。)

コウスケは起死回生のチャンスだと思った。

ついでに被害を受けるであろうシンジにも心で謝った。

「・・レイは元気ですよ。毎日シンジ君にべっとりですし。」

と言うとレイが止まった。

ボンという音が出そうなくらい一気に赤くなってしまった。

「もうイチャイチャしすぎでこっちも少し困ってますよ。」

「ちょっ、コウスケさん!」

なんてことを言うんだと言いたげなシンジだった。

『・・シンジもいるのか?』

「ええ、そうなんですよ。」

『そうか。』

(何とかなったか・・・)

『・・婚姻届が必要ならすぐに言いたまえ。』

これはコウスケも予想外であった。

すぐにでも音量を小さくすればよかったのだが、コウスケはどこにボタンがあるか解らなかった。

レイの使う端末はNERVから支給されているものなのだが、コウスケがもらったやつよりも旧式で使い勝手が解らなかった。

「誰の婚姻届ですか?」

コウスケは失敗した。

解りましたと言って話を終わらせればよかったのだ。

(俺・・なわけないか・・)

なんて寂しいことを考えているコウスケはそこまで考えが及ばなかった。

『シンジとレイに決まっているだろう。』

(あっちゃ~、みんなの前で言っちゃった・・・)

加持、ミサト、アスカは目が点になっていた。

シンジとレイは真っ赤になっていた。

「・・碇司令、それはまだ早いのでは?」

『必要とあらば特例で出来るようにする。』

(本気だったのかよ!あれ!)

加持、ミサト、アスカは完全に固まっていた。

ともかく電話を切るのが先決だ。

コウスケはそう思った。

タイミングが少し遅かったが・・・

「そういった話はまた後日にしましょう。」

『わかった。特務一尉、レイに期待していると伝えてくれ。』

「解りました。」

と言うと電話が切れた。

「綾波・・これが言いたかったのか?」

加持がものすごくあきれた顔で言う。

内心がっかりしていることだろう。

「んなわけあるか。」

こんなことのために関係ない三人を呼び出したりしない。

二人には未来に係わることではあるが・・・

「でもよかったわね。シンちゃん。」

ミサトがにこにこで言う。

「なっ何がですか?」

「こ、ん、や、く」

「ななな、何言ってるんですか!」

「そうね。司令の許可は出てるんだし、しちゃえば?」

アスカもにこにこと言う。

「何言ってんだよ!アスカ!まだ早いよ!」

シンジは大慌てだった。

「まだってことはいずれするの?」

アスカの冷静な問いかけはシンジにとって痛手となった。

「あ・・いや・・まだというか・・その・・・」

シンジは真っ赤になり沈黙する。

「レイはどうなの?」

とアスカがレイに振る。

「・・・婚姻届・・・結婚・・・夫婦・・碇レイ・・・碇君、子供は・・・」

などとレイは口走っていた。

目もぼんやりしている。

「あ~、妄想モードに入ったか。」

(すまんが、話が進まないからな・・・)

「レイ、目を覚ませ。」

コウスケはレイを左右に揺らした。

「・・特務一尉?」

「戻ってきたか。」

レイの顔には疑問符がたくさん浮かんでいた。

今見ていたものは?

レイの表情からコウスケはそう受け取った。

(なんかレイに悪いことしたな。)

「・・・ともかく本題に入るか。」

コウスケは佇まいを直して言う。

「シンジ君はこっちに来てくれ。」

なぜと聞かれるのを止めるためコウスケはゲンドウ張りにプレッシャーをかけていた。

シンジがレイの横に座った。

「さて、これから話すことをよく聞いてくれ。」

そうしてコウスケは話し始める。

出来るだけ短縮して話したつもりだが、結構な時間を取られた。

レイに関することだけは避けた。

「・・・まあ、こんなとこだな。」

「つまりNERVは操られていたってこと?」

ミサトが尋ねてきた。

「そういうことだな。」

「まさか、こんな真実が隠れてるなんてな・・・」

なんてことを言うが加持の目は半信半疑だった。

「使徒は仇じゃなかったのね・・・」

ミサトはものすごく悲しい眼をしていた。

「ねえ、コウスケ。弐号機にあたしのママがいるってホント?」

アスカには珍しく何とも歯切れが悪かった。

「残念だがほんとだ。」

「でも、私の目の前で死んだのよ?」

アスカにとってつらい出来事なのだろう。

声が弱々しく聞こえた。

「それは抜け殻と言っていいのかな・・・」

(的確な表現が無いな・・・)

「そうなんだ・・・」

アスカは考え込んでしまった。

「なら、初号機には・・・」

「シンジ君の母親である碇ユイさんがいる。」

「零号機には?やっぱりレイの・・・」

(しまった。当然レイのことも聞いてくるよな。)

コウスケは自分のうかつさを呪った。

「・・特務一尉、話してもいい。」

「綾波、いいの?」

レイに反応したのはシンジだった。

「・・別にいい。」

と言うレイだが、わずかに震えているのがわかった。

(怖いよな・・・)

コウスケは躊躇ったが、思い切って話すことにした。

「・・レイは特殊だ。どんなEVAでも乗ることはできる。・・使徒と人のハイブリットだからな。」

「使徒?!」

ミサトが声を張り上げる。

レイが身を竦めるが、横のシンジがレイの手を握っていた。

「あんた知ってて・・・」

(同居してるのかってか?)

「当たり前だ。そしてレイは人だ。生まれがどんなものであれ、人であることに変わりはない。それにさっき言ったろ?人も使徒だと。」

そしてコウスケはレイのことを話した。

計画のことが主な内容だった。

「シンジ君も知ってたの?」

「はい。」

「・・そう。」

ミサトは少し考えた後

「二人がそう言うならレイは人なのね。」

そしてミサトはレイを見て

「良かったわね。レイ。」

と優しく言うのであった。

「・・はい。」

「そうね。レイは人で間違いないんでしょ。ならそれでいいじゃない。」

アスカも何とか納得してくれたようだ。

コウスケはそんな二人に満足しながらも警戒を解いてはいない。

「加持、言っておくが変なまねはよせよ。」

「何のことだ?綾波。」

「とぼけるな。そんな雰囲気でいたら誰でも警戒するわ。」

レイの話をしたところから加持の様子は変だった。

「大方、日本政府かSEELEに報告しようとか考えてるんだろ。」

「・・・」

「それともその二つを使ってレイを調べる気か?」

コウスケの言葉にレイがびくりと反応する。

「だとしたらどうする。」

「お前が来た時から外に狙撃手を用意してある。」

「・・・」

加持の顔が真面目になる。

どうやらベランダが開いていることに気づいたようだ。

そして加持はベランダに一番近い席に座ってる。

「それに外には護衛もいる。」

「諜報部だろ?」

自信満々に答える加持。

(違うんだな、それが。)

「実はもう一つ秘密があるんだ。ここでは俺しか知らないな。」

加持が今更なんだという顔だった。

「自己紹介しよう。」

コウスケの言葉に皆が「は?」という顔だった。

「作戦局零課課長の綾波コウスケだ。」

「零課?!嘘はダメよ、コウスケ君。」

ミサトがおどけた顔で言った。

対人戦を想定した部署である零課などただの噂でしかなかったのだ。

冗談に聞こえても誰も責められない。

「・・いや、葛城。ほんとのようだ。」

加持はなぜ今まで気づかなかったのかと言いたげだった。

目つきが普段見られないきついものになっていた。

(護衛の気配を察知したか・・遅かったな、加持。)

「・・あの、零課って何ですか?」

シンジが説明を求めた。

レイやアスカも同様のようだった。

「対人戦闘を想定して作られた部署だよ。SEELEとの最終決戦に向けてな。」

コウスケは淡々と言う。

「対人って・・人ですよね。」

シンジの声は怖々としていた。

「使徒をすべて殲滅したらSEELEからの攻撃があると予測している。NERVは対人戦を想定していないからな・・人数は言えないが、少なくとも戦自に負けないくらいの戦闘力はある。」

ミサトが加持を見るが、加持は真面目な顔を崩すことはなかった。

うっすらと汗もかいている。

ミサトも薄々感づいたようだ。

「加持。他のことを調べるのはいいが、レイには手を出すな。・・言っとくがおまえさんには24時間体制で零課の職員が見張ってる。」

「・・どうしてそこまでして守るんだ?」

「簡単なことさ。子供たちの未来をと言ったろ?そこにレイも入るからだ。」

加持とコウスケのにらみ合いが続く。

(さて、折れてくれればいいが・・ダメなら・・排除しかないな。)

コウスケもうっすらと汗をかき始めた。

そんな二人に周りはただ黙っているしかなかった。

コウスケはポケットに隠してある矢を模したバッジに手をかける。

このバッジは零課職員に緊急事態を知らせる装置がついている。

コウスケがバッジにあるボタンを押せば、待機している零課職員が一斉になだれ込むようになっている。

ちなみにコウスケの胸にはグロック17が入っている。

「・・・わかった。手を出さない。」

「ほんとだな?」

「ああ。」

コウスケは内心で安心した。

実を言うとコウスケは加持を排除したくなかった。

加持には借りもあるし、何よりも顔見知りを排除するなんて嫌なものだった。

それは昔、コウスケが経験した嫌なものだった。

「他は調べてもいいんだな?」

「ああ。それは碇司令に言っておく。それが終わったら俺たちに協力してもらいたい。」

「わかった。」

(何とかなったか・・・)

緊張が一気に解けた。

「さて、重い話はここまでにしてと・・・」

コウスケは立ち上がり、冷蔵庫からビールを取り出す。

「折角レイがシンジ君のために張り切って作ったんだから食べないとな。」

(やっと落ち着いて食える。)

などとコウスケは思うのであった。

「特務一尉。」

そんなコウスケにレイが批判するように呼んだ。

「どうした?」

「・・・」

レイがじっと睨んでくる。

ついでに少し膨れている。

(どうしたんだ?・・・・・・あっ)

コウスケは自分が何を言ったか思い出した。

そしてなぜレイが怒っているのか・・・

コウスケは緊張が解けて思わず口を滑らしてしまったのだ。

「・・まあ、いいじゃないか。」

「・・・」

「・・すまん。」

「仲がいいわね。二人とも。」

今までのやり取りを見てきたミサトが言った。

「最初のころは想像できなかったわ。」

「俺の人徳だろ。」

「何言ってんのよ。途中であたしたちを切り捨てようとしたくせに。」

アスカが容赦なく言った。

「それを言われると返す言葉が見つからん。」

コウスケはあの時のことを忘れることはできなかった。

あの時、自分自身のあり方を皆から教えてもらったのだから。

「で、どう?シンちゃん。愛しのレイの料理は?」

なんてことをミサトがシンジに言う。

「うらやましいな。愛する人の手料理を食べられるんだからな。」

加持はミサトを見ている。

「うっさいわね。私だって・・・」

「あのカレーか?」

コウスケがMC(ミサトカレー)を思い出す。

「あれは兵器だ。わかったか?あれは兵器なんだ。」

「綾波。お前、きついこと言うな。」

「加持だってそう思うだろ?」

「そこはノーコメントで・・・」

と言う加持の顔は苦い顔だった。

おそらくMCを思い出しているのだろう。

「で?結局のところどうなのよ、シンジ。」

アスカが脱線した話を元に戻した。

「うん。最初のころより上手にできてるよ。やっぱり綾波って主婦とか似合いそうだね。」

などと言って笑顔を見せるシンジ

「・・何を言うのよ。」

レイは赤くなりながらかなり早口、小声で言う。

コウスケのニヤリが止まらない。

(主婦ね・・夫は誰なのかな?レイ。)

「どうしたの?綾波?」

「・・・・何でもない。」

などと言いレイは顔を少し背ける。

「なんでもなくないだろ。顔真っ赤だし。」

「・・・何でもないの。」

シンジの頭に疑問符が浮かぶ。

「・・あれを天然でやってるんだから、すごいよな。」

コウスケは呆れていた。

「そうよね。でも、普通気づかないかしら?」

ミサトはなぜとしか思い浮かばないようだ。

「天然の女殺しか・・・シンジ君にその気が無くていいのかも知れないな。」

加持がもっともなことを言う。

「あれを学校でもやるのよ、あの二人。」

アスカはため息をついた。

そんな綾波家では穏やかな時間が過ぎていった。

・・・

 

「いつまで待機していればいいんだ?」

ミツヒサは綾波家より700m離れたビルの屋上にいた。

双眼鏡で綾波家の様子を窺っている。

傍らにはM24 SWSが転がっている。

「吹雪、そっちはどうだ?」

『特に何もない。いいことだ。』

ミツヒサが連絡を取ったのは、同じ零課の吹雪シンゴである。

階級はミツヒサと同じく三尉。

髪は癖の強い天然パーマであり、体は全般的にぽっちゃりとしている。

背はコウスケよりも高かった。

彼は零課の二班班長で現在、綾波家の横で待機している。

一班の班長はミツヒサである。

吹雪シンゴは作戦局二課に所属しており、コウスケの二重の部下でもあった。

ちなみにシンゴはコウスケ相手にため語でしゃべるのだ。

コウスケの方は特に気にしていない。

と言うか気軽でいいらしい。

「お前はいいよな。部屋の中で待機なんだから。」

『榛名は外だからな。・・お気の毒に。』

「この野郎・・・」

『文句があるなら課長に言えよ。決めたのは課長なんだから。じゃあな。』

通信が切れる。

「・・・寒い。」

夏とはいえ夜である。

さらに夕方から雨が降っていた。

双眼鏡の向こうでは暖かそうな料理を食べる六人が見える。

「帰っていいのか?」

残念ながら誰も答えてくれなかった。




ようやくここまで来ましたか。
本編では中盤ですね。
実を言うと小説の中のセリフで出したかったものがあります。
そのために一部を書き直しました。
どれだかわかりますか?
・・多分わかると思います。

今回のおまけは綾波'sのはた迷惑な話です。
このおまけでの犠牲者はいったい誰なのか?
では、どうぞ

おまけ
「・・私、聞いてない。」
レイは不機嫌な声で言う。
コウスケの目の前にはゲンドウがいた。
テーブルには明らかに気合を入れて作った料理たち・・・
あの時、電話で話したことをコウスケはきっちりと実現したのだ。
そのためにゲンドウはいろいろな予定を調整したらしい。
「碇、あとで覚えていろ。・・レイの手料理か・・私も食べたかったな。」
と一人の老人が広い部屋でつぶやいていたそうだ。
ちなみにその時その老人が思い浮かべた人物はレイによく似た人だった。
「ちゃんと言ったろ。」
コウスケは脂汗をかいていた。
「碇司令とは聞いてない。」
「・・碇君が来ると言ったろ?」
コウスケの言うことは間違いではない。
ゲンドウも碇なのだ。
だが、レイにとっては騙されたというほかないだろう。
レイにとって「碇君」とはシンジただ一人なのだから。
・・実際コウスケはこうなると思っていた。
だが、NERVの司令が来るのに下手な料理など出せない。
ましてやゲンドウがレイの料理をかなり楽しみにしていたとあらば・・・
ただ、ゲンドウはレイが料理を出来ることすら知らなかったのだ。
なのでレイが料理したという事実さえあればゲンドウは喜ぶのだが・・・
「・・・・」
レイの機嫌はいつにもまして悪かった。
コウスケの背中に汗が流れる。
「特務一尉。」
ゲンドウは小さな声でコウスケを呼んだ。
ゲンドウもレイの様子から相当焦っているようだった。
「どうするのだ。」
「・・どうしましょ。」
「何とかしたまえ、特務一尉。保護者だろう。」
「頼みの綱のシンジ君はNERVにいますし・・・」
初号機で少々トラブルがあったらしく、その調整のためにシンジはNERVにいた。
今もNERVで調整のために協力している。
・・・
自力でどうにかしようとは考えたが、なにも浮かばなかったのだ。
「うわぁ、レイが睨んでる・・・」
レイは紅い眼でコウスケを睨んでいる。
じっとではなくギンと・・・
ついでにレイの後ろから青い炎みたいなものがゆらゆらと揺れて見える。
それはエースと呼ばれた男を震えあげるほどのものであった。
コウスケに逃げ場はないと思われた。
「仕方あるまい。私が何とかしよう。」
ゲンドウからの助け舟であった。
「ほんとですか?!碇司令。」
「レイが一番喜びそうなものだ。もっと後で渡そうと思ったが・・・」
「構いません!」
溺れる者は藁をも掴む
コウスケの心情はまさしくそれだった。
「そうか。」
と言ってゲンドウはレイに体を向けた。
「レイ。」
「・・はい。」
一瞬反応が遅れたのは呼んだのがゲンドウだと確認したからであろう。
「お前にプレゼントだ。・・きっと喜ぶ。」
と言ってゲンドウは一枚の紙をレイに渡した。
「これは・・・」
レイが目をいっぱいに開きながら驚いてしまう。
そんなレイを見てコウスケは一体何をもらったのか気になる。
が、ゲンドウがサングラスをかけなおしながら教えてくれた。
「婚姻届だ。私とシンジの名前は既に書いてある。」
「はい?!」
コウスケは驚く。
驚くだろ
それ以外にどういう反応をすればいいんだ?
ちなみにシンジの名前は本人が書いたものである。
そのときに
「書くなら早くしろ!でなければ書け!」
「父さんが何を言ってるのか、わからないよ!」
「冬月。代わりに書け。」
「いいのか?」
「ばれなければいい。」
「わかった。」
(逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ!)
「やります。僕が書きます!」
なんてことがあったそうだ。
いつの間にかレイはボールペンを持っていた。
「・・書きました。」
婚姻届の妻になる人の部分に綾波レイと書かれた。
拇印も押されている。
夫になる人には当然ながら碇シンジの名前が・・・
碇ゲンドウは証人の部分にあった。
「これで後は特務一尉だけだ。」
「は?」
「レイの保護者は君だろう?」
なんてことをゲンドウが言うものだから、レイがコウスケを再び睨む。
私の邪魔をするの?
先ほどとは比べ物にならないくらいのプレッシャーを感じる。
コウスケは再び窮地に陥ってしまった。
脂汗が止まらない上に体も思うように動けない。
まさに蛇に睨まれた蛙とはこのことだろう。
何とかして逃げるしかない・・・
そしてコウスケは意を決してポケットにあるバッジに手をかけた。
途端になだれ込んでくる零課の職員たち。
それを見て驚くゲンドウとレイ
ゲンドウが綾波家に来るとのことで、一応近くで待機していたのだ。
「碇司令、レイさん。無事ですか?」
ミツヒサが代表して言う。
今回は寒いビルの上で待つなんてことはなかった。
「ああ、私は大丈夫だ。」
「私もです。」
「良かった。」
ミツヒサは無事を確認して安心していた。
「・・綾波特務一尉は?」
シンゴの声を聴いてレイはあたりを見回した。
・・コウスケが消えていた。
「・・逃げた。」
「そうだな。」
・・・

その後コウスケはレイに追われる立場になってしまった。
家でも、街でも、NERVでも・・・
レイはコウスケがいる場所をMAGIを使い特定し、奇襲をかけてくるのだ。
コウスケの執務室だろうが、総司令執務室だろうが、ターミナルドグマだろうが関係なかった。
ついでにレイは零課も使いコウスケの捜索に充てていた。
眼鏡をかけた整備員は
「今回は綾波特務一尉が悪いですよ。ほんとのことをちゃんと言えばよかったのに。・・第一、綾波特務一尉はレイさんをからかい過ぎなんですよ。・・・(以下略)」
コウスケの二重の部下は
「なんかこっちの方が面白そうだ。」
と言ってコウスケを裏切った。
図らずもコウスケ自身によって零課の優秀さが証明されてしまうのであった。
既にSu-37はレイによって監視されている。
コウスケのカードは凍結しなかった。
コウスケがカードを使えばすぐに居場所を特定できるからだ。
さらにレイはコウスケの執務室を乗っ取っていた。
コウスケの執務室の前には木の板に「綾波コウスケ捜索本部」と筆文字で書かれた看板が立てかけてある。
ちなみに看板に文字を書いた人は冬月である。
報酬はレイの手作り弁当とか
冬月は泣きながら了承した上でサングラスの男に自慢していたとか・・・
捜索本部の本部長は当然、綾波レイである。
なぜかゲンドウポーズ(座りながら手を顔の前で組む形)をとっているレイにはわかっていた。
コウスケが第三新東京市から離れないと
なぜコウスケは第三新東京市から離れなかったのか。
それは使徒がいつ襲来するかわからないからである。
それさえ無ければ、コウスケは第三新東京市から脱出を図っていただろう。
ともかくコウスケは家で休むわけにもいかず、かといってNERVにいれば必ずMAGIに探知されてしまう上に、街でふらふらなどすれば零課に見つかってしまう。
なので、再開発地区にいまだ現存している元レイのマンションやオールナイトの映画館、山の中腹などいつぞやのEVAパイロットみたいに拠点を転々としていた。
ちなみにコウスケは大量のレイに襲われてLCLになる夢を見たらしい。
コウスケはのちに述懐する。
「密林でゲリラに襲われるようなものだ。・・いつ現れるか解らないからな。」
彼は体重が3㎏も減ったらしい。
そんなコウスケの危機を救ったのは・・・
「レイ。シンジと一緒に居たいって言うのはわかったけど、まだ早いわ。もっとお互いを知ってからでも遅くないじゃない。その方が結婚してよかったってもっと思えるんじゃない?」
と言うアスカの言葉にレイが一理あると納得し、コウスケへの追及を止めた。
・・婚姻届は今どこにあるのか?
それはレイだけが知っている。

追記
おまけを書いててふと思ったこと
レイって指紋あるのか?
それとレイのゲンドウポーズ
本編にありました。
それを見て思わず吹き出しました。
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