NERV航空隊隊長綾波   作:浩介

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第27話 失う怖さ

「なぜ加持一尉に話した。」

ゲンドウの咎めるような声だった。

「必要だと思ったからですよ。」

コウスケは毅然とした態度で言う。

「だが、SEELEや日本政府に知られるのはまずい。」

「解っていますが、あのままだと確実に加持は真実をつかんでいたでしょう。」

加持は単独でターミナルドグマへの侵入を果たしたのだ。

その能力はとてつもなく高いと言えるだろう。

「ならば、我々のために働いてもらった方がよいかと。」

それがコウスケの出した結論なのだ。

「それにうまくいけばその両者の牽制にも使えるかと思います。」

「・・そうか。」

ゲンドウは渋々ながらも了承した。

「だが、加持一尉の監視を怠るな。」

「解っていますよ。」

・・・

 

『B型ハーモニクステスト問題なし。』

コウスケはハーモニクステストのモニタールームにいた。

『深度調整数値をすべてクリア。』

部屋にはミサト、リツコ、日向、伊吹の四人がいた。

「ミサトさん。なんだか疲れてません?」

少し顔色の悪いミサトに日向が声をかけた。

「いろいろとね。プライベートで。」

と答えたミサトに

「加持君?」

とリツコがからかうように言った。

「うるさいわね!」

「図星なんだな、葛城。」

コウスケもニヤニヤしている。

「お盛んだな。・・いいよな葛城は。なぁ、赤木・・とお前も・・」

「それ以上言うと実験材料になってもらうわよ。」

というリツコの目は本気だった。

「それだけは許してくれ。」

コウスケはひそかに汗をかいていた。

リツコが人を実験材料にしたなんて話(パイロット三人以外)は聞かないが、やろうと思えばやれるだろうとコウスケは考えている。

(俺もいい人いないかな・・・)

なんて考えてしまうのであった。

今までこんなことを考えたことが無いコウスケであった。

だが、彼自身にも問題があり世間で美女と呼ばれる女性を見ても何とも思わないのだ。

ちなみにコウスケは同居人であるレイのことを異性として意識したことはない。

・・・断っておくが、男が好きなわけでもない。

「なによ、コウスケ君。あなたもレイがいるでしょ?」

なんてことをミサトが言う。

「お前・・俺が殺されてもいいって言うのか?」

「冗談よ。婚約者がいる相手に手を出すわけないもんね。」

とミサトが言うが

「レイちゃんに婚約者がいるんですか?」

伊吹が反応してしまう。

「葛城!お前、なんてことを・・・」

「やっば~・・・」

「誰なんですか?」

「今の話からすると特務一尉ではないようですね。」

伊吹に加え日向まで参戦してきた。

初期のレイを知っているだけにかなり興味が出てきたようだ。

コウスケは逃げの一手を打つことにした。

「・・・俺は知らん。」

「そんな訳ないですよね。特務一尉はレイちゃんの保護者なんですから。」

伊吹が逃がしてくれなかった。

(こいつ・・・目が輝いてるぞ?!)

「コウスケ君、いいんじゃない?・・シンジ君よ。」

とリツコが言ってしまう。

「シンジ君ですか?」

「ええ、碇司令の許可ももらってるわ。」

と言うリツコにコウスケは疑問に思う。

「・・何で赤木が知ってるんだ?」

「この前、碇司令が嬉しそうに言ってきたわ。・・早く孫の顔が見たいって・・」

「孫だなんて・・きゃ~。」

なんて伊吹が嬉しそうに言った。

「本当なんですか?特務一尉。」

日向がコウスケに問う。

「・・本当だ。」

「挙式はいつですか?」

伊吹の目は輝いている。

「まだ婚姻届は出してない。・・証人が足りないからな。」

コウスケの言葉に日向が疑問符を浮かべていた。

「ん?証人は二人ですよね。碇司令が許可を出したなら書いてるはずですし・・綾波特務一尉は書いてないんですか?」

「そうだよ。」

「何でですか?」

伊吹も疑問符を浮かべていた。

「現実問題として、二人が結婚しましたとなるとどこに住むんだ?二人っきりになるはずがないだろ。」

「そうですね。まだ中学生ですし、保護者がいないとダメですね。」

日向が頷きながら言った。

特例で結婚したとしても世間の目と言うやつがある。

二人っきりなんておそらく許されないだろう。

「それに誰がなるんだ?」

「葛城さんは?」

日向が言う。

「アスカはどうするんだ?」

「じゃあ、先輩とか」

「私は遠慮したいわね。」

リツコが嫌そうに言った。

吹っ切れたとはいえリツコはシンジとレイに負い目を感じているのだ。

とリツコの態度を見てコウスケは考えた。

「となると綾波特務一尉ですかね?」

「そうなるだろう。」

ゲンドウがそのように手を回すのは目に見えていた。

コウスケと新婚さんのトリオ

どう考えてもコウスケは邪魔者以外の何物でもない。

二人がそのように扱うとは思えないが、コウスケ自身がそう感じてしまう。

「取りあえずシンジ君がちゃんと結婚できる時期になるまでは現状維持だよ。」

「そうですね。・・じゃあ、婚姻届は綾波特務一尉が持ってるんですか?」

などと伊吹は追及の手を緩めない。

「・・・俺の家で管理してるよ。」

この言葉は事実である。

だが、コウスケはどこにあるのかわからない。

レイが隠し持っているためである。

重要書類とはいえ、レイの私物に手を付けるのはためらわれるのだ。

「頼むからレイをけしかけるなよ。」

それはコウスケの心のそこから思っているものである。

などとしているうちにテストは進んでいく。

「テストの結果はどうだ?」

「見てくださいよ。」

伊吹がモニターを見るように促した。

「レイは相変わらずだな。」

レイのテスト結果は高くもなければ低くもなく、いつもと変わりがない。

つまるところ安定しているということだ。

これはこれで安心できるのだ。

「ほ~、これが自信に繋がればいいんだけどね。」

ミサトがシンジの結果を見ながら言う。

シンジの方は着実に伸びているようで、シンクロ率が三人の中でトップだった。

「聞こえる?シンジ君。」

『ミサトさん。今のテストの結果はどうでした?』

ミサトの呼びかけにシンジが元気よく答える。

ミサトが親指をつきたてながら

「ハ~イ、You are No.1」

などと言うのであった。

「・・葛城。」

「何?コウスケ君。」

「・・いや、なんでもない。」

(シンジの自信に繋がればいいが・・自信と過信は別だからな。)

だが、シンジなら大丈夫だろう。

そんな思いがコウスケにはあった。

・・・

 

「はぁ、またやってるぞ。レイ。」

そう言うコウスケの前には首にタオルをかけただけのレイが立っていた。

この癖は長年やってきただけあってなかなか治らなかった。

とはいっても最近はその頻度も落ちてはいるが・・・

レイは自分の格好に気づき、脱衣所に戻って行った。

しばらくするとパジャマを着たレイが戻ってきた。

「今日のテスト結果はよかったな。」

コウスケは昼のテスト結果を思い出しながら言う。

「そうでしょうか?」

レイも自分の結果を知っているのだろう。

少し訝しげな表情だった。

「ああ、安定した数値だった。」

それはレイ自身が安定しているということだと言うとレイは少し嬉しそうだった。

「・・テストの結果に碇君も喜んでました。」

「シンジ君が?」

「はい。」

「・・・どんなことを言っていたんだ?」

レイは少し赤くなりながら

「・・これで綾波を守れるね・・・と言ってました。」

コウスケは訝しげな顔をした。

レイはいつもと違うコウスケに違和感を感じているようだった。

「どうしました?」

「・・いや、なんでもない。」

(過信・・どうだろうか・・実際のシンジを見たわけではないからな。)

レイを見るとどうやらコウスケの態度に納得がいかないようだった。

「・・今のシンジ君の状態がわかるか?」

「シンクロ率が一番高い・・EVAをよく動かせる。」

レイの答えはごく一般的なものだろう。

「確かにな。・・だがそれだけじゃない。」

レイはよくわからないようであった。

「射撃、判断力はレイに及ばず、格闘、瞬発力はアスカに及ばず・・それが今のシンジ君だ。」

コウスケの言うことはかなり辛辣な言い方であるだろう。

簡単な話がシンジには特出したものが無いということだ。

オールマイティと言えば聞こえはいいが、逆に返せばそれは何もかも中途半端ということだ。

強いて言うならばシンクロ率とATフィールドの強度だろう。

「・・アスカも同じことを言ってました。シンジって中途半端なのよねと・・」

レイはテスト後にアスカが言っていたことを思い出したのだろう。

少し拗ねたように言う。

「・・まぁ、そういうものは後でもなんとかなるものだからな。」

(本人がそれに気づいていればいいが・・・)

・・・

 

コウスケは執務室にて雑務に追われている。

「兵装ビルの改修関係はこれでよし・・弾薬は・・・」

などとしているうちに警報が鳴る。

「・・使徒か。」

コウスケは目の前にあるPCから情報を得ることにした。

「・・・なに!」

コウスケは慌ただしくジャケットをつかみ取り発令所へと急いだ。

・・・

 

発令所に行くとすでにリツコがいた。

「葛城は?」

「まだ来てないわ。」

『西区の住民避難、あと五分かかります。』

『目標は依然進行中。毎時2.5㎞。』

すると後ろからドアが開く音がする。

「遅いわよ。」

「ごめん。どうなってんの?うちの電波観測所は?!」

ミサトが声を荒げるのも無理はない。

突然第三新東京市直上に使徒が現れたのだ。

コウスケもこの報告を受けて慌てて発令所に向かったのだ。

モニターには縞模様をした球体が浮かんでいた。

「探知してません。直上に突然現れました。」

青葉が報告する。

「パターンオレンジ、ATフィールド反応なし。」

日向が使徒の解析結果を告げた。

「どういうこと?」

ミサトが解析結果に疑問を持つ。

パターンオレンジなんて今まで聞いたことが無い。

使徒ならブルーと判断されるからだ。

「新種の使徒?」

リツコがそう予測する。

「MAGIは判断を保留しています。」

伊吹がMAGIの返答を報告した。

「判断材料が足りないということか。」

「も~、こんな時に碇司令はいないのよね。」

ゲンドウは普段の態度からかなり恐れられているが、どんな時でも態度が変わらないため非常時には頼もしく思えるのだ。

「ともかく俺は出るぞ。」

・・・

 

コウスケは愛機とともに大空を飛んでいる。

傍らには同じく空を浮遊する使徒がいた。

「使徒とランデブーか・・洒落にならんな。」

一向に変化を見せない使徒にコウスケはいらだちを覚える。

既にEVAは配置についており、いつでも攻撃は可能である。

「日向二尉、使徒に変化は?」

『依然パターンはオレンジのままです。』

「反応なしね。・・やりにくいな。」

通信機越しにミサトの声が聞こえた。

『みんな聞いてる?目標のデータは送った通り。今はそれしかわからないわ。慎重に接近して反応を窺い、可能であれば市街地上空外への誘導を行う。先行する一機を残りが援護よろし?』

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。まずは情報収集からだ。」

使徒のデータは依然不明なままである。

規模も装備もわからない相手と戦うのは一番怖いことなのだ。

『僕が先行します。』

シンジからの通信であった。

『シンジ、何言ってんのよ。ここはあたしが行くわ。』

「俺も同じ意見だ。アスカが先行の方がいい。」

コウスケは瞬発力が一番であるアスカなら大抵の出来事にも一撃は耐えられると考えていた。

『僕にだって行けますよ!言ったでしょ、ミサトさん。You are No.1って、戦いは男の仕事。』

などと言って通信回線を切ってしまうシンジ

『は~、前時代的・・弐号機バックアップ。』

『零号機もバックアップに回ります。』

レイとアスカからの通信も切れてしまう。

「バカ!お前たち止めろ!」

『あの子たち勝手に・・』

ミサトが呆れていた。

『シンジ君も随分立派になったじゃない?』

リツコの声は揶揄も混じっていた。

コウスケには随分悠長に構えているように聞こえた。

「アホなことを言ってるんじゃない!早く止めろ!」

(シンジは自分を解ってない!不味いぞ!)

『まぁ、やる気があるんだし、やらせてみましょう。』

ミサトがそんなことを言う。

「お前はシンジ君を殺す気か!」

『はぁ?どういうこと?』

などと言いあっているうちに他の二機がまだ配置についていないにも関わらず初号機が使徒に向けて発砲した。

途端に使徒が消え、銃弾は空の彼方に飛んで行った。

「消えた?!」

『パターンブルー、使徒発見!初号機の直下です。』

日向の声とともに初号機の足もとが暗くなる。

「よけろ!シンジ君!」

だが、初号機はとっさに反応できず、ずぶずぶと沈んでいく。

『か、影が!』

拳銃を放つも効果が無かった。

『なんだよ、これ!おかしいよ!』

ふと見ると縞模様の球体が初号機の真上にいた。

『シンジ君!逃げて!早く!』

『碇君?!』

『バカ、何やってんのよ!』

「くそ!」

コウスケは機体を地黒い影に向けてNNミサイルを放つ。

ミサイルは爆発することもなくそのまま沈んでいった。

「ダメだ!効果が無い!」

そうしている間にも初号機はみるみる沈んでいった。

『うわあああああああ!ミサトさん!どうなってるんですか?!アスカ!綾波!援護は?!』

シンジはパニックに陥っていた。

『コウスケさん!綾波・・・・』

初号機は完全に沈んでしまった。

『アスカ!レイ!初号機の救出!急いで!』

「バカ!止めろ!二人とも後退だ!」

コウスケが止めようとするも二機は初号機が沈んだポイントに全力疾走していた。

コウスケは焦ってしまう。

使徒はEVAを呑み込めるということしか解ってないのだ。

どれくらいの範囲を呑み込めるのかいまだにわからない。

下手すれば二機とも呑み込まれるなんてこともあり得るのだ。

零号機がライフルで射撃をするも使徒はまた消えた。

銃弾は後ろのビルに当たる。

「アスカ!気を付けろ!」

コウスケには弐号機の周りが暗くなっているのが見えた。

『影?!』

弐号機は跳躍しビルの上に逃げ込んだ。

使徒の陰にビルたちが呑み込まれていった。

『アスカ、レイ、コウスケ君。後退するわ。』

ミサトの苦々しい声が聞こえた。

『ちょ・・・』

『待って!』

アスカが何かを言おうとするがレイが遮る。

『まだ初号機と碇君が・・・』

「後退だ!」

『・・・嫌・・』

コウスケが再度命令するもレイが拒否する。

(不味い!)

「零号機のシンクロを全面カット!急げ!」

コウスケはレイが何をしようとするのかわかった。

零号機はシンクロがカットされ動かなくなる。

「・・・アスカ、零号機の回収頼む。」

コウスケはそれを言うと撤退を始めた。

・・・

 

コウスケはSu-37から降りた。

そんなコウスケに駆け寄る人物がいた。

その人物は全身が白く細身であった。

その人物はコウスケの前で止まった。

パン

乾いた音が鳴り響く。

その時の周りにいた人たちは驚いていた。

コウスケの顔は右を向いていた。

「・・・気は済んだか?レイ。」

コウスケが前を見ると明らかに怒っているレイがいた。

「ちょっと!レイ!なに・・・」

後ろからついて来ていたアスカがレイを咎めようとするもコウスケが止めた。

「もう一度言う。気は済んだか?レイ。」

レイは何も言わずに走って去ってしまった。

足もとには一滴の水が落ちていた。

「ちょっと!レイ!」

「ほっとけ。」

「何でよ!コウスケはなんで平然としてられるの?!」

アスカがコウスケに食って掛かる。

「そんなわけないだろ。だがな、戦いは熱くなった方が負ける。ただそれだけだ。」

そんなコウスケの言葉にアスカも冷静さを取り戻したようだった。

「そうね。悪かったわ。」

「・・レイもつらいだろうな。」

レイの気持ちが痛いほどわかるコウスケであった。

唯一違うのは誰が手をかけたかであろう。

コウスケは一息ため息をつくと発令所に戻った。

・・・

 

第三新東京市にある教会の近くに仮発令所が設けられた。

そばには弐号機と零号機が立ち膝の状態で待機している。

「国連軍の包囲完了しました。」

青葉が現状を報告した。

「影は?」

ミサトが使徒の様子を聞いた。

「動いてません。直径600mを超えたところで停止したままです。・・でも地上部隊なんて役に立つんですか?」

日向が使徒の報告と愚痴をこぼしていた。

「プレッシャーかけてるつもりなのよ。私たちに。」

「だろうな。まったくどっちが敵なんだか・・・」

こんな内輪もめをやっている場合じゃないだろうに

そんな思いがコウスケにはあった。

「独断専行、作戦無視・・まったくあのバカは何やってんのよ!」

アスカがいらつきを抑えるように言った。

レイの方は何も言わずにただ初号機が呑み込まれた方を向いていた。

あれからというもののレイはコウスケの方を一度も見ていない。

「確かに独断専行だわ・・だから帰ってきたら叱ってやらなくちゃね。」

ミサトの顔は使徒を睨みつけたまま動かなかった。

・・・

 

「じゃあ、あの影の部分が使徒の本体ってわけ?」

ミサトがリツコの説明を聞いて言った。

「とんでもない奴だな。」

影が本体でその中はディラックの海・・別の宇宙に繋がっているというのだから

コウスケには想像もできない世界だった。

「はぁ、そんな奴にどうしろってんだ。」

コウスケがそうつぶやくが、それはそこにいた者の心の声を代弁しているものだった。

「・・シンジは大丈夫か?」

生命維持装置があるのでもうしばらくは持つだろうが、それとて無限に動くわけではない。

ふとレイの方を見ると相変わらず使徒の方角

と言うよりは初号機が呑み込まれたポイントを見つめ続けていた。

・・・

 

初号機が呑み込まれて数時間

辺りはすっかり夜になっていた。

「EVAの強制サルベージ?」

ミサトがリツコに問う。

「現在、可能と思われる唯一の方法よ。992個、現存するすべてのNN爆雷とNNミサイルを中心部に投下。タイミングを合わせて残存するEVA二体のATフィールドを使い、使徒の虚数回路に千分の一秒だけ干渉するわ。」

リツコが救出作戦の説明を続ける。

その間にもミサトはどんどん険しい表情になっていく。

「その瞬間に爆発エネルギーを集中させて、使徒を形成するディラックの海ごと破壊する。」

「可能と思われるか・・成功率は低いんだな。」

リツコの言うことにコウスケは難しい顔をする。

科学者と言うのは常に明確な答えを欲するものなのだ。

その科学者たるリツコが思われるという曖昧な言葉を口にするということは、それだけ自信がないということだ。

「・・ええ。残念ながら。それに成功してもシンジ君がどうなるか・・・」

(生きている可能性が皆無と言うことか・・・)

リツコが顔を背けた。

「そんな・・・とても救出作戦とは言えないわ!」

「赤木・・それしかないんだな。」

リツコは答えない。

「・・そうか。・・わかった。」

「コウスケ君?!」

「代案があるのか?葛城。これ以上にシンジ君の生還を望める作戦が・・・」

ミサトは黙ってしまう。

「・・二人には俺から説明する。・・準備を進めてくれ。」

(神頼み・・・なんてことは俺の趣味じゃないんだけどな。)

・・・

 

「以上が今回の作戦だ。」

コウスケはアスカとレイに作戦の概要を話した。

なるべく感情が出ないように話したつもりだが、どれくらい堪えられたか自信は無かった。

アスカとレイはじっとコウスケの話を聞いていたが、レイはコウスケを見ようとしなかった。

「これって成功するの?」

アスカが一番大切なことを聞いてくる。

「・・成功率は低い。それに成功したとしてもシンジ君は無事でない可能性が高い。」

正直こんなことは話したくない。

だが、下手に隠すよりはましだと考えるコウスケであった。

「・・・これしかないのね。」

アスカが再び問う。

「残念だが・・・」

「解ったわ。」

アスカは覚悟を決めてくれたようだ。

一方レイの方は真っ青になっていた。

まるでこの世の終わりを告げるようなものだった。

「・・レイはどうなんだ。二人が居なきゃ成功率はもっと低くなる。」

(嫌な言い方だな・・・)

コウスケは少し鬱になっていた。

「・・碇君が死ぬ・・・いや・・・」

レイは顔をフルフルと振っていた。

(そりゃ、嫌だろう。俺も嫌なんだから・・だがな)

「それは作戦を拒否するということか。」

コウスケは嫌な役だと思いながらも言う。

レイは答えない。

その態度にコウスケは是と受け取った。

「・・・そうか。」

パン

コウスケの手がレイの頬をとらえていた。

突然のことにアスカは呆然としていた。

「いい加減目を覚ませ!」

「・・・でも、碇君が・・・碇君が・・・」

レイは少し涙目になっていた。

「バカ野郎!誰がこんな作戦をやりたいんだよ!

成功率も低くてシンジが死ぬ可能性が高いだと?!

こんなアホらしい作戦なんか誰もやりたくねえよ!

しかも俺はNNミサイルをぶち込む役だぞ?!」

つまりはコウスケのミサイルでシンジが死ぬかもしれないということだ。

コウスケは目に涙が浮かぶのを自覚する。

あの時の情景が浮かんでいたのだ。

「だがな、このままいてもシンジは死ぬぞ!

なら、わずかでも生還する可能性があるならやるしかないだろ!」

コウスケの涙は止まらない。

コウスケは悔しかった。

シンジのことがわかっていながら止められなかった自分が

守るべき人を殺してしまうかもしれないことが

レイはじっとコウスケを見ている。

「それにお前が信じなくてどうするんだよ・・・

シンジが生きて帰ると信じなくてどうするんだよ!

この中でお前さんが一番思ってなきゃいけない事だろ!」

コウスケの言葉にレイがはっとする。

「・・・・・すまん。興奮していた。」

コウスケは涙を拭う。

「レイ、覚悟を決めろ。そして祈るんだ。シンジ君は必ず帰ってくると。」

「そうよ、レイ。あんたが信じなきゃ誰が信じるのよ!」

アスカもレイを諭すように言う。

「特務一尉・・・アスカ・・・」

レイはしばらく俯くが

「・・・・はい。」

その声ははっきりと聞こえた。

・・・

 

夜はすでに明けていた。

二体のEVAは作戦位置についている。

コウスケも愛機とともに再び大空を飛んでいる。

超高高度には戦略爆撃機の姿が幾重にも見える。

すべてNN爆雷を搭載しているのだ。

『爆雷投下60秒前』

「そろそろか・・・」

あと60秒後に結果が出る。

シンジが助かるのか・・・

そう考えると緊張してくるものだ。

コウスケはひそかに呼吸を整えて作戦に備えた。

(時間だな・・・)

コウスケがそう思った時、使徒の本体が突如割れ始める。

それに一番最初に反応したのはアスカだった。

『何が始まったの?』

「まだ何もしてないぞ!」

コウスケも突然のことなので何が何だかわからない。

『状況は?』

『解りません。』

『全てのメーターが振り切られています。』

仮発令所でも何が起こっているのかわかっていないようだった。

「何が起こっているんだ?!」

コウスケは割れていく使徒を見ながら必死に状況を整理する。

使徒の陰である球体が真っ黒になり、手が出てきた。

手は左右に広がり、球体を真っ二つに裂く。

そこから初号機が出てきた。

初号機が咆哮を上げている。

「・・EVAにこんな力があるのか。」

コウスケは初号機に畏怖を覚えた。

単独で別の宇宙から帰還を果たしたのだ。

こんなものが無限のエネルギーを得たらどうなるのか

初号機は地上に降り立つ。

真っ赤に染まった初号機は悪魔のようにも見えた。

・・・

 

その後初号機は活動を止め、シンジは無事に救出された。

今はNERVの病院にいる。

レイはそんなシンジに付き添っていた。

アスカも二人が心配なのか、こっそりと様子を窺っているようだった。

コウスケはシンジが目を覚ましたとの連絡を受けたので、さっそく見舞いに行くことにした。

「よう、シンジ君。元気か?」

「コウスケさん。・・すみませんでした。」

シンジが済まなそうな顔で言う。

横にはレイもいるが何やら俯いていた。

「無事だったからいいが、今回のことはちゃんと教訓として覚えておけ。」

「はい。」

するとレイが声をかけてきた。

「あの・・・・特務一尉・・・・」

「なんだ?」

レイは俯いたまま何も言わない。

「・・ダメだよ、綾波。ちゃんと言わなきゃ。」

シンジがレイを諭すように言う。

「・・・あの時・・・叩いたりして・・・ごめんなさい・・・」

などと俯きながらレイは言うのであった。

そんな様子のレイにコウスケは思わず笑ってしまう。

「別にいいよ。レイの気持ちはわからんでもないし。それに俺も叩いたからな。」

「はい。」

などと安心したようにレイは答えるのであった。

「さて、シンジ君。今回の君の罪だ。」

シンジはコウスケの言葉に体が緊張しているようだった。

「独断専行、作戦無視・・・これはいずれも重罪だ。何か申し開きがあるか?」

「・・ありません。」

そんな二人にレイは心配そうに見ている。

「・・・独房ですか?」

「ん~、本来ならな。だが、そんなことよりももっと重い罪がある。何だと思う?」

シンジは少し考えて

「・・初号機を失いかけたことですか?」

と答えた。

「そんなものよりもっと重い。」

シンジは「は?」という顔になった。

レイもわかっていないようだった。

EVAを失うことよりも大事なこととは?

「簡単なことさ。・・ファーストチルドレン綾波レイを泣かせた。これは重罪だ。」

とコウスケは真顔で言うが、当然演技である。

心の中ではニヤリが炸裂している。

二人はきょとんとしている。

「よって処分を言い渡す。・・・サードチルドレンはファーストチルドレンと出かけるように。・・日時は好きに決めてよし。ああ、当然二人っきりだからな。」

「え・・ええ!それって・・・」

予想外の答えにシンジが驚いている。

「所謂デートってやつだな。ついでにレイの分もあるぞ。名目は命令無視、上官に対する暴行。

処分はシンジ君と一緒だ。」

とコウスケは真顔で言うが、内心のニヤニヤが止まらない。

「ちなみに碇司令からこの処分でいいと許可を貰っている。」

コウスケの言うことは本当だった。

たちが悪いことに、わざわざ処分の内容を明記した書類まで作ったのだ。

しかもゲンドウのサイン入り。

つまりは正式な処分ということになる。

コウスケはNERVを使ってとんでもない謀略に二人を陥れたのだ。

これを職権乱用とも言う。

「綾波とデートなんて・・・そんな・・・」

シンジは相当恥ずかしいようあった。

「何?この処分に不満なのか?・・独房の方がいいのか?」

「いえ、別にそういうわけでは・・・」

「ならいいだろ?・・そんだけレイに寂しい思いをさせたんだ。それくらいしてやれ。」

「・・わかりました。」

とシンジは覚悟を決めた。

「いつ行くとは言わなくていい。・・まぁ、証拠写真の一枚ぐらいは撮ってくれ。」

と言いコウスケはレイの方を見た。

「碇君とデート・・・・・ぽ」

なんてことになっていた。

「うん、妄想モード突入だな。・・ハードルが上がったかな?」

「ええ!そんな・・・」

などとシンジは本気で考え込んでしまう。

(・・わかってないな。レイはシンジと一緒に居ればそれで満足だろう。)

だが、あえて口に出す必要もないと考えるコウスケであった。

「じゃあ、俺は行くな。レイ、夜にはちゃんと帰って来いよ。」

(いつまでも二人の邪魔をするわけにはいかないからな。)

などと野暮なことを考えながら病室を後にするコウスケであった。




縞々使徒が出ましたね。
本編とはレイがかなり違うので何となくこうなるのではと考えながら書きました。
次は第十三使徒ですか
ここではどうなるのか
と言いたいですが三話先の話になります。
さて、どうしましょうか

今回のおまけ
綾波の謀略
とでも言いましょうか?
では、どうぞ

おまけ
使徒が殲滅された後コウスケがシンジの見舞いに行くまでの間の出来事である。
コウスケの執務室には山のように積まれた書類があった。
「あの野郎・・・俺の仕事を増やしやがって・・・」
コウスケが言うのは某作戦本部長のことではない。
「縞々、忌々しい縞々め!」
コウスケが言うのは今回現れた使徒のことだった。
「この世にある縞々と言う縞々をすべて破壊してやる!」
怒りが先行しすぎて意味の解らないことを言っているコウスケ
なぜコウスケがここまで怒っているのか。
それは今回の使徒戦で直径680mに及ぶ範囲のビルが全壊、半壊に追い込まれたからである。
第三新東京市は戦闘形態に移行しており、兵装ビルが主な被害にあった。
兵装ビルは作戦局二課の管轄であり、その課長であるコウスケの決裁仕事が膨大な量に膨れ上がったのだ。
ちなみに作戦局一課課長のデスクにも山のように書類があるが、そのほとんどが某二尉のもとに送られる。
彼の事務処理能力がまた一段と上がったのは余談だ。
「くそっ・・・滑走路どころか管制塔も見えねぇ。」
コウスケは一つ一つ確認しながら決裁していた。
ゆらゆらと揺れ動く煙草の煙がコウスケの心情をよく映し出していた。
飛ばしながらやることもできるが、こういうことは手抜きをしないのがコウスケだった。
「ん?そういえば・・・」
コウスケは今回の使徒戦で何かを思いついたようだった。
「フフフ・・・」
何やら悪だくみを考え付いたらしい。
コウスケは携帯電話を取り出した。
「碇司令、今回のシンジ君の処分ですが自分に一任してください。」
『なぜだ?葛城三佐がいるだろう。』
「葛城では同居人であるという事実から処分を軽くするものと思われます。」
ミサトがそんなことをしないというのはわかっていた。
「お前が欲しいのは口実だろ?」
と言う声が何となく聞こたような気がする。
ちなみにミサトはシンジが救出された後、シンジに泣いて抱き付いていた。
それをとある人物がものすごく怖い顔で見ていたことはコウスケしか知らない。
というかコウスケ以外気づかなかった。
だからコウスケはその人物にシンジに付き添うようにと命令したのだが・・・
『わかった。特務一尉に任せる。』
「ありがとうございます。」
コウスケは心の中でニヤリを炸裂させる。
「碇司令の許可はとった。フフフ・・・」
コウスケはPCを立ち上げた。
「きっと納得できる処分ですよ。」
こうして出来上がったのはサードチルドレンとファーストチルドレンの処分に関する書類であった。
内容は本編にある通りである。
それを見たNERVの最高責任者は
「問題ない。」
と言い即決で採択したとか
横では
「問題あるだろ・・碇」
とのつぶやきがあったとか
ちなみに作戦局二課課長のデスクは一晩で片付いたらしい。
これに関してとある眼鏡をかけた整備員の証言がある。
「最初はイライラしてたのに、次見た時にはノリノリで処理してましたよ。」
さらに彼の部下である作戦局二課のとある職員からもこんな証言を得ることができた。
「書類を持って行った時に不気味なくらいにこにこで挨拶されたよ。そのあとで・・二人の処分、フフフなんて聞こえたな。」
とにかくコウスケの仕事はちゃんと終わったようである。
MAGIの計算によれば、仕事の出来は通常時の3倍近くよかったそうだ。
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