「あの三人は今のところ無事なんだな。」
コウスケはデスクに置いてあった報告書を眺めていた。
隣にはムサシ、ケイタ、マナが笑顔で写ってる写真がある。
今は中学校に通っているとのことだ。
日本政府からの介入は認められず、戦自も目立った動きはないそうだ。
レイたちも学校に問題なく通ってるはずなのだが・・・
「はぁ~、あれ以降シンジにべっとりとはね・・・」
おかげでシンジから勉学に集中できないと愚痴られたのだ。
アスカからも苦情が来ている。
それをレイに言っても
「嫌。」
で終わってしまうのだ。
一度それを快く思わない教師に指導を受けることになるが
「私たちは婚約してます。碇司令にも許可をもらってます。」
などと言われたために口を閉ざす以外、道が無かったとか・・・
マナの襲来は思わぬ後遺症を残していったのだ。
どちらかと言うとコウスケの「嫌になった」発言の方が影響があったのだが、コウスケはそれが原因だとは思っていない。
ともかくレイは嫉妬というものを知ることになる。
聞けばシンジに近づく女性を睨みつけ、見せつけるようにべっとりとくっついているとか・・・
NERV職員には何もしないので特に支障があるわけではないが、一応気を付けるようにお触れが出ている。
・・・ゲンドウ直々に
(シンジが下手なまねをしなければ問題ないか。)
とコウスケは考えるのであった。
デスクにある内線電話機が鳴る。
「はい。綾波ですが・・・」
『日向です。緊急事態です!』
「なんだ?レイが零号機でも乗っ取ったのか?」
とコウスケは先の考え事の延長で冗談交じりに言うが、日向はそのまま続けた。
『アメリカ第二支部が消滅しました!』
「なに?!確かに消滅したんだな?」
『はい、確認しました。消滅です。』
「解った。」
コウスケは受話器を置いて、部屋を後にする。
・・・
コウスケは会議室にいた。
下には大きなモニターがあり、VANISHEDの羅列が流れていた。
会議室は暗く皆の顔がよく見えなかった。
「参ったわね。」
ミサトが腕を組みながら言った。
「上の管理部や調査部は大騒ぎ、総務部はパニクってましたよ。」
日向はここに来るまでに把握しておいたのであろう。
「で、原因は?」
「いまだ解らず。」
リツコがそういうとモニターにアメリカ第二支部があったところが映し出される。
大きなクレーターになっていた。
「手がかりは衛星からの静止映像だけで他に残ってないのよ。」
モニターに第二支部が映し出される。
伊吹がカウントダウンを始めた。
伊吹のコンタクトと言う言葉とともに第二支部に赤い円ができ、徐々に広がって行った。
そしてモニターは砂嵐になる。
「酷いわね。」
「こりゃ、誰も生きてないな・・証人は無しか。」
「EVANGELION四号機、ならびに半径89㎞以内の関連研究施設はすべて消失しました。」
伊吹が被害状況を報告する。
心なしか声が低く感じた。
「数千の人間も道連れにね。」
リツコは冷静に言ったつもりだろうが、コウスケには少し震えているように聞こえた。
「タイムスケジュールから推測して、ドイツで修復したS²機関の搭載実験中の事故と思われます。」
青葉はいたって冷静に報告した。
だからこそ青葉の心情をよく表していた。
「予想される原因は材質の強度不足から設計初期段階のミスまで32768通りです。」
伊吹がMAGIで計算したのだろう。
「妨害工作の線もあるわね。」
ミサトが言うことはあり得る話だった。
なにせNERVはあまり友好的に思われていないからだ。
「でも、爆発ではなく消滅なんでしょ?つまり消えたと。」
日向がミサトの考えを否定した。
「多分、ディラックの海に呑み込まれたんでしょうね。先の初号機みたく。」
リツコがこれまでのデータから推測したのだろう。
(このまま消滅ってことになったら楽だな。)
人知れずコウスケは思った。
「じゃあ、せっかく直したS²機関も?」
「パーよ。夢はついえたわね。」
リツコの言う夢とはEVAの稼働時間のことだ。
(止めろよ。EVAが無限に動いたらそれこそ悪夢だよ。)
コウスケは先日の使徒戦の初号機を思い出していた。
別の宇宙から単独で帰還できるEVA
それが使徒のように無限に動けたら
そしてそれが暴走などしようものなら人類はどうやって対抗すればいいのか?
結論から言えば無理である。
NNを使ったところで足止めにしかならない。
そんなものをどうやって処理しろと言うのか・・・
「無くなった物をあれこれ言ってもしょうがないか。」
とミサトがあきらめるように言った。
「そういや、アメリカには参号機もあるんだよな?」
コウスケはアメリカと聞いて参号機のことを思い出していた。
参号機と四号機はアメリカが勝手に製造権を主張して作られたのだ。
「ここで引きといることになったわ。米国政府も第一支部まで失いたくないみたいね。」
「怖くなったからうちに押し付けるってことか。」
「そう言うことね。」
「起動試験はどうするのかしら。例のダミーを使うのかしら?」
ミサトの声は少し震えていた。。
ミサトはコウスケから教えてもらったのでダミープラグの正体を知っている。
「これから決めるわ。」
と言うリツコも声色があまりよくなかった。
・・・
コウスケはゲンドウとリツコとともに地下にいた。
目の前には一本の赤いエントリープラグがぶら下がっている。
「試作されたダミープラグです。レイのパーソナルが移植されています。ただ、人の心、魂のデジタル化はできません。あくまでフェイク、擬似的なものです。」
リツコは淡々と説明するが、どうも顔色は良くなかった。
「EVAがそこにパイロットがいると思い込み、シンクロすればいい。各EVAにデータを入れておけ。」
ゲンドウの声はいつもより低かった。
「問題が残っていますが・・・」
「構わん。・・使徒を殲滅できればいい。」
「はい。」
リツコはしぶしぶながら了承する。
「しかし、この色はどうにかならないのか?赤木。」
コウスケはダミープラグを見ながら言う。
「なぜかしら?」
「・・・レイの瞳を連想させるんだよ。」
コウスケはダミープラグを見るたびにレイの紅い瞳を思い出していた。
「赤城博士。色は変更できるか?」
ゲンドウがリツコに聞いていた。
「確かに嫌なものですね。変更します。」
ゲンドウとリツコはコウスケの言葉でレイのことを考えていたのだろう。
「・・できれば今すぐにこれを破棄したいですな。」
プラグにあるレイの素体
それを考えると今すぐに壊したいのだ。
「だが、必要なのだ。・・我々は使徒に負けるわけにはいかん。」
「解ってますよ、碇司令。」
「・・すべてが終われば・・」
ゲンドウは途中で言葉を切る。
だが、コウスケにはゲンドウが言いたいことがわかっていた。
リツコもわかっているようだ。
「早く終わらせたいですな。」
コウスケ以外の二人も同じ思いなのだろう。
二人は静かに頷いていた。
「参号機はどうするのですか?」
コウスケはこれが気になっていた。
ゲンドウはリツコに顔を向ける。
「調整、ならびに起動試験は松代で行います。」
「テストパイロットは?」
「ダミープラグを使うのはまだ危険です。」
リツコの顔は冴えない。
リツコの顔から何が言いたいのかわかった。
「・・四人目を選ぶのか。」
リツコは何も答えなかった。
「まったく、悪夢だよ・・・」
それ以降、沈黙が続き静寂が支配した。
・・・
「しかし、碇司令。第二支部はよろしいのですか?」
コウスケはゲンドウとともに総司令執務室にいた。
ダミープラグの視察が終わった後、コウスケはそのままゲンドウの後について行った。
傍らには冬月もいる。
「構わん。SEELEに近い支部だ。後日我々の妨げになる。」
「碇、委員会への報告はどうする?」
「問題ない。原因不明だ。」
ゲンドウはおくびも出さずに言った。
「派手にやってくれましたな。」
「そのために剣崎を送ったのだ。」
「その剣崎はいつ到着しますかな?」
「明日には到着する。」
「予定通りですな。例の荷物は第四ゲージに運び入れます。」
「そうしてくれ。」
・・・
「お疲れさん。剣崎。」
コウスケは第四ゲージにいた。
コウスケの前には黒服-剣崎キョウヤが一人立っていた。
「いえ、任務ですので。」
と剣崎はそっけなく答える。
「はぁ、その答え方・・まるでレイみたいだな。」
「彼は昔からこうだったわよ。」
とリツコは言う。
剣崎とリツコ、ミサト、加持は同じ大学の同期であった。
「今回のアメリカ第二支部の消滅は、人為的な事件ではないかと疑っているスタッフもいるのよ。」
リツコが剣崎を険しい眼で見ていた。
「同じNERVの仲間2000人を無為に殺す必要が本当にあったのかしら。」
そんなリツコに剣崎はピクリともしない。
「あれはS²機関実験中の事故だ。赤木もわかっているだろ?」
「解ってるわ。・・そのために人が一番いない時を狙ったものね。」
それでも嫌なものなのだろう。
実際コウスケも嫌なものだった。
「奴らに負けるわけにはいかない。」
「・・・奴らとは?」
コウスケの言葉に興味を示したのか剣崎が口をはさんでくる。
「なんだ?知りたいのか?」
「いえ、なんでもありません。」
「任務に忠実・・・大変結構だ。で、お前さんに聞きたいことがある。」
「何でしょうか。」
「何がしたいんだ?」
「どういうことでしょうか?」
「何を望むんだ?」
任務を忠実にこなす剣崎にコウスケはずっと疑問をいだいていた。
同じNERV職員を2000人も殺すことになった今回もなんも疑問を持たずに剣崎はやり遂げた。
諜報部員としては有能・・それがコウスケの評価である。
「諜報部員にそんなものは必要ありません。」
「違うだろ。見えないだけ・・いや、見ようとしないだけだろ。・・最初のレイと似てるな。」
(レイの場合は意図的に見ないようにしたというのが正しいか。)
そんなコウスケの言葉に剣崎が動揺したように見えた。
「そういや、赤木。ここの担当はお前さんなのか?」
「いえ、違うわ。ここの荷物に関しては加賀ヒトミに任せてあるの。」
とリツコが言うと一人の白衣を着た女性が現れた。
「彼女よ。」
ダークブラウンのショートカットであるが前髪はヘアピンで抑えられていて、どことなく幼さが残っていた。
そんな加賀は剣崎をじっと見つめていた。
「どうしたんだ?加賀さん。」
「剣崎さんがこの実験素材を持ってくるときにアメリカ第二支部が消滅したでしょう。それはこれを内密に奪取するためにやったことではないんですか?」
(鋭いね。・・まぁ、少しわかりやす過ぎるか。)
「アメリカ第二支部はS²機関実験中の事故だ。」
「そうでしょうか?あなた方が一切関与していないと断言できるんでしょうか?」
加賀はいつの間にかコウスケの方を向いていた。
そもそもなぜこんなところにコウスケがいるのか理解できないようだった。
「それについては否定もできんし、肯定もできん。まぁ、不幸な事故だった、そういうことだな。」
「そんな・・・罪のない2000人もの命が奪われたのよ!不幸な事故だったなんてよく言えますね。」
キッと加賀が睨みつけてくる。
(レイの方が怖いな。)
なんてコウスケは思うのであった。
「NERVの仕事は人類を守ること。未来に人類の命を繋ぐことだわ。それなのに無為に人を殺すなんて、本末転倒だわ!」
「確かにNERV本部の仕事はそれだよ。本部はな・・・」
コウスケの知る限り他の支部が本部よりSEELEに近いことはわかっている。
表立って対立は無いが、裏では稚拙な衝突が繰り返されているのだ。
「本部はってどういうことですか?」
コウスケの言葉に疑問を持った加賀が聞いてきた。
「さあな、どういうことだろうか。」
よく見ると剣崎もじっとコウスケを見ていた。
横で黙っていたリツコはため息をついているようだった。
「じゃあな、あとは頼んだよ。」
・・・
「全員そろったな。」
夜、家に帰ったコウスケはミサト、加持、パイロット二人を呼び出した。
「どうしたの?いきなり呼び出して。」
「今回の事件のことを知ってもらいたくてな。」
「今回って第二支部のことか?綾波。」
加持が胡散臭そうに聞いてきた。
ちなみに加持はコウスケを綾波と呼んでいた。
レイはレイちゃんである。
彼曰く
「女の子は特別だ。」
だそうだ。
なら、ミサトも名前で呼んでやれよとコウスケは思うのであった。
「そうだよ。」
と言って今回の第二支部の事故が意図的に作られたものであることを話した。
「やっぱりな。剣崎が絡んでたか。」
「ここまでする必要はあったの?」
ミサトの疑問はもっともであった。
「あったよ。敵対組織は一つでも少ない方がいい。」
「敵対って同じNERVじゃないですか。」
シンジが少し怒りながら言ってきた。
「確かに同じNERVだ。だが、本部以外は正直なところよくわかっていない。そこは葛城や加持はわかるだろ?」
コウスケの言う通り本部と支部の間は友好的ではなかった。
本部に対してあまりにも隠していることが多いからだ。
本部も似たようなことはしているが・・・
とにかく各支部は何とかして本部を蹴落としたい。
そんな意図が見え隠れしていた。
「中途半端に期待するより敵としてみた方が楽だからな。」
コウスケの言葉にシンジは黙るしかなかった。
「まぁ、四号機はこっちに渡ったしSEELEも予定を修正しているだろ。」
「そうだな。予定外の出来事だからな。」
と加持が言う。
「あと、参号機の処遇も決まったよ。」
「レイのダミーを使うのかしら?」
ミサトはレイの様子を窺いながら聞いてきた。
レイは少し震えていた。
そんなレイにシンジは肩を抱き寄せていた。
「はぁ?なんでお前が知らないんだよ。」
ミサトはきょとんとしていた。
「だってコウスケ君って私よりも上だし・・・」
「あのな、俺は建前では葛城の部下なんだぞ。葛城のところにも正式に送られているぞ。」
確かにコウスケはミサトよりも上位にいるが、それは裏での話である。
「ミサトさん・・・ちゃんと見てませんね。」
シンジとアスカがジト目でミサトを見ていた。
「あはは・・まぁ、いいじゃない。ここでわかるんだから。」
ミサトはごまかすように頭を掻いていた。
「それで誰なのよ。」
アスカがしびれを切らしたようだ。
「・・・鈴原トウジ君だ。まだ確定ではないが・・・」
「トウジ?!」
「ええ~!あのジャージ?!」
レイを見るとシンジの方を気にしているようだった。
どうもシンジのことが心配のようだ。
「碇司令からシンジ君にすまないと伝えてくれと言われたよ。」
「そうですか・・・」
シンジの顔はすぐれなかった。
「碇君・・・」
「ありがとう。綾波。」
「・・いい。」
そんな二人を見てコウスケは
(以心伝心か・・・羨ましいな。)
とついつい考えてしまうのであった。
・・・
コウスケはレイたちの通う学校にいた。
今回は警備状況の視察ではない。
「次は鈴原君ですか。」
目の前にいる校長からさりげなく批判の声を聞いた。
「解ってますよ。」
NERVのことを知っているとはいえ校長とて一介の教師なのだ。
子供が戦場に送られるなんてどう考えても嫌に決まっていた。
それはコウスケも同様であった。
「なんとかならないのですか?」
「それができれば自分も苦労しませんよ。」
校長は顔を伏せてしまう。
「・・今、呼び出しますので」
「お願いします。」
・・・
数分後、呼び出されたトウジが校長室に現れた。
校長はすでにどこかへ去っていた。
「コウスケはん。」
トウジは意外な人物と出会い戸惑っていた。
「よう、鈴原君。」
「どないしたんでっか?こんなところで・・・」
「まぁ、そこにかけてくれ。」
トウジがコウスケの前に座った。
「今日、君を呼び出したのはお願いがあるからだ。」
「なんでしょうか?」
「今度NERVにEVA参号機が配備される。・・それのテストパイロットになってもらいたい。」
トウジはある程度予測していたのであろう。
あまり驚いては無かった。
「そら、シンジたちと一緒ちゅうわけでっか?」
「そうだよ。」
トウジは顔を伏せていた。
「まぁ、強制じゃなからな。」
(拒否してくれれば一番楽なんだけどな。)
ゲンドウから本人が拒否すればそれを尊重してほしいと言われていた。
トウジは何かを考えているようだった。
「・・・今すぐに決断してくれなんて言わない。もし、決まったのならここに連絡をくれ。」
コウスケはトウジに電話番号を渡す。
「コウスケはんはどない思て居るんでっか?」
「・・・できれば拒否してもらいたいよ。」
「そうでっか・・・」
「じゃあ、連絡を待ってるよ。」
・・・
「レイ、食事ができたぞ。」
久々にコウスケは夕食の準備をしていた。
久々になるのはコウスケが押し付けていたからではない。
レイは最初、交代で夕食を作っていた。
時々コウスケの事情で代わったりしていた程度である。
だが、レイが料理を覚えるとともに代わりにやると言い出し始めた。
それがなし崩し的に増加し、現在では朝はコウスケ、夕方はレイという構図が出来上がったのだ。
そのためレイがやると言っていたのだが、コウスケはそんなレイを押しのけて自分がやると言ったのだ。
「・・・レイ、鈴原君の様子はどうだった?」
学校を離れた後、トウジがどうしていたかずっと気にしていたのだ。
「何か思いつめてました。」
「そうか。」
(思いつめてるってことは・・・)
了承してしまうかもしれない
コウスケは苦く考えていた。
「特務一尉は・・・」
そんなコウスケにレイが声をかけた。
レイが何を言いたいのかわかっていた。
「乗ってほしくないよ。本人にもそう言った。」
「そうですか・・・」
「だけど、最後に決めるのは鈴原君自身だ。」
そう言ってコウスケは食べるが、何とも味気が無かった。
それはコウスケが料理したからではないだろう。
・・・
「そうか・・それでいいんだな?」
・・・
「わかった。」
コウスケは携帯電話を切った。
「ふぅ~。」
コウスケはベランダで煙草を取り出した。
煙草の煙が第三新東京市の空に飛び出していった。
そんなコウスケを後ろでレイはじっと見ていたのであった。
なんか悪役街道まっしぐらなコウスケ
ちなみにトウジのセリフは苦労しました。
本編ではここから一気に暗くなっていきました。
ここではどうなるでしょうか?
なんせ前回はあんなことをしでかしましたからね。
新劇場版では参号機にアスカが乗りましたしここでは・・・