十二日目
あれからというものの調査は一向に進まなかった。
相手が予想以上に用心深いのか
それとも大きな組織でも動いているのか
とにかくEVA初号機はいまだに妨害されていなかった。
コウスケは今、初号機にいた。
警備の状況を見に来たのであった。
傍らにはレイとアスカもいる。
コウスケが初号機を見に行くと言ったときについてきたのだ。
初号機の顔はすでに隠されており、いつもの角が復活していた。
ただ、いろんなケーブルが繋がれている点がいつもとは違う。
ふと気を周囲に回すと所々から零課の気配がする。
「さすがはシンゴだ。」
ここの警備にコウスケはシンゴを責任者にしていた。
シンゴはその体格とは裏腹に施設の制圧を得意としていた。
他には重火器の扱いである。
ちなみにミツヒサは爆薬と接近戦、ユキは狙撃と機動力である。
ともかくコウスケはシンゴの仕事ぶりに満足していた。
「これにシンジが入ってるのよね・・・」
アスカが初号機を見ながら言う。
いつもより弱々しく聞こえた。
一方レイはじっと初号機を見ていた。
「サルベージの要綱はあと二日もあれば終わるそうだ。」
それはゲンドウの奮闘を物語っていた。
シンジを取り戻すと全職員に放送した後、ゲンドウはほとんど休まずにサルベージの指揮を執り続けた。
しかも他の職員には休憩を取らせる間にも自分でできることはすべてやっていたのだ。
それでもゲンドウは倒れることが無かった。
そんなゲンドウに他の職員が奮起したのは言うまでもない。
その結果、三十日はかかるとされていたサルベージの要綱を半分の期間で準備するに至ったのだ。
「シンジの奴・・帰ってくるわよね。」
「当たり前だ。」
「もし、ママみたいになったら・・・」
と言ってアスカは口を閉ざした。
何故そんなことを言ってしまったのか
そんな言葉がアスカの表情から読み取れた。
「ごめん、レイ。変なこと言って・・・」
「大丈夫・・それに碇君は必ず帰ってくる・・・そう信じてる。」
レイの顔が少し凛々しく見えた。
だが、コウスケにはわかる。
泣きたいのを堪えているのだと
泣かないのはゲンドウの影響だろう。
NERVの中で一番泣きたいのがゲンドウなのだから
そのゲンドウがシンジをサルベージするために頑張っている。
自分にできることは祈ること
泣かずに祈ることが自分のすることだと
レイがそう思っていることがコウスケには解っていた。
「あの時と立場が逆だな。」
第十二使徒の時はレイが弱気であった。
今はアスカが弱気になっている。
「そうね・・・・よし!」
アスカが自分の顔を叩いた。
「レイや碇司令が頑張ってんのにあたしだけ弱気になってられないわ。」
そしてアスカは初号機に向かって
「だから、必ず帰ってきなさいよ!」
と叫ぶのであった。
コウスケは思わず笑ってしまう。
「何よ。」
「いや、そういうところは美点だなと思ってな。」
するとアスカは赤くなっていきながら
「な、何言ってんのよ!」
と言ってそっぽを向てしまう。
「素直に喜べばいいのに。」
と言うコウスケをレイはあきれ顔で見ていた。
「どうした?レイ。」
「何でもありません。」
と言うレイの言葉には何か含むところを感じた。
(何かしたか?俺・・・)
だが、心当たりはない。
褒めただけなのに
・・・
十四日目
サルベージの要綱はすでに完成していた。
明日サルベージが行われる。
今日はサルベージの準備が強行軍で進んだのでゲンドウが技術局を中心に一日休暇を出したのだ。
ゲンドウも今日一日は休むそうだ。
頑なに断ろうとしたらしいが、冬月がそれを咎めたそうだ。
なんでも総司令が休まなきゃ他の職員が安心して休めないとか・・・
コウスケにも一日休暇の申し出が来たがそれを断った。
「何故だ?」
「技術局が離れるということはそれだけ他人が近づきやすくなります。」
「そうか・・・シンジを頼む。」
そんなやり取りがあった。
実際コウスケはこの時が一番危ないと踏んでいた。
なので第七ゲージは零課総動員で警備についている。
定期的にコウスケのところに報告が入る。
今のところは異常なし
それでも油断はしない。
「課長、長良です。」
外から長良の声が聞こえた。
執務室のドアが開き、長良が入ってくる。
「どうした?」
「EVAを狙うもののおおよその見当が付きました。」
それは願ってもない情報だった。
「どうやら技術開発部の者の中でEVAに恐怖を抱くものがいるそうです。」
「・・・なるほど、だから消そうというわけか。」
EVAが怖いというのはコウスケにもある。
「それなりに優秀な者だな。」
優秀だからこそ気づけるとでもいうのだろうか。
「いまだに絞り切れていませんが・・・」
「構わない。・・今日、技術開発部の者がいるか?」
「数名います。」
「そいつらの監視を怠るな。」
「了解。」
ふとコウスケは第四ゲージにある荷物のことが気になった。
(あれも狙われるかもしれん。)
そう思うとコウスケは第四ゲージに向かうことにした。
・・・
コウスケが第四ゲージに行くとそこには無傷のEVA四号機があった。
形は参号機と同じだが、銀色の塗装がされている。
何よりもS²機関が導入されているのが他のEVAとは違う。
四号機はただじっとそこに拘束されているだけだ。
これは先日アメリカのネバダから「持ってきたもの」だ。
ふとコウスケは人の気配を感じた。
その方向に振り向くと白衣を着た男がいた。
髪はぼさついており、顔がやせていて目つきがよくないので嫌な雰囲気を醸し出していた。
「失礼だが、あなたは?」
「俺は開発局一課の駿河ハジメだ。」
「俺は・・・」
「言わなくてもわかってるよ。作戦本部副部長さん。」
と言われたが何か含むものを感じた。
「ここには何の用だい?」
「最近、物騒ですから。」
「なるほど、ここの様子を見に来たってわけか。」
少し嫌なニヤつきであった。
「駿河さんはなんでここにいるんですか?」
「なあに、この実験素材の担当でね。休みがもらえるとこだったが、これを放置するのは怖くてね。」
彼が言うことは嘘ではなさそうだ。
だが、何かを隠している
そう言う風にコウスケは捉えた。
「担当者がいるなら大丈夫か。」
「そうだと言いたいが、なんせこの実験素材は気難しくてね。」
駿河は声を押し殺すように笑っていた。
「しかし、あんたも大変だね。」
「どういう意味ですかね?」
「あのファーストチルドレンの保護者・・彼女のことを知っている人ならだれでもそう考えるさ。」
何故か引っ掛かりを感じるが、駿河からレイの秘密を知っているようには見えなかった。
「別にレイは感情を出すのが苦手なだけですよ。」
「ふ~ん。」
駿河は面白くなさそうに相槌を打つ。
(一体何が目的だ?)
「まぁ、なんにせよ俺は与えられた仕事をするまでだよ。じゃあな。」
と言って駿河は奥の方に去っていった。
コウスケは駿河が去った後も妙に嫌な気分が離れなかった。
・・・
十五日目
いよいよシンジのサルベージが始まる。
コウスケがNERVに行くとすでに技術局を中心に慌ただしい動きがあった。
珍しくミサトも遅刻することなく発令所にいる。
いまだにギプスは取れていないが、順調に回復しているらしい。
リツコは頭の包帯が取れている。
本来なら学校に行かなければならない二人も発令所にいた。
第二発令所のメインモニターには初号機の後背部が映し出されている。
初号機のエントリープラグは半射出のまま固定されていた。
「いよいよだな。」
コウスケのつぶやきに誰も答えなかった。
上にはゲンドウと冬月がすでに座っていた。
いつもと変わらない体勢だが、雰囲気がいつもの倍以上は重くなっていた。
『全探査針打ち込み終了。』
「自我境界パルス、接続完了。」
伊吹からサルベージの準備が完了したことが報告される。
「了解。サルベージスタート。」
リツコが厳かに告げる。
「了解。第一信号を送ります。」
「EVA第一信号を受信。拒絶反応なし。」
「続けて第二、第三信号送信開始。」
『対象カテクシス異常無し。』
『デストルドー、認められません。』
サルベージの第一段階が無事に終了した。
それをレイ、アスカ、ミサトがじっと聞いていた。
「了解。対象をステージ2に移行。」
「碇君・・・」
レイが呟くように言う。
コウスケはレイの頭にポンと手を乗せた。
レイは幾分か緊張が解けたようだ。
レイが心配になるのも仕方がない。
サルベージの本番が始まったのだ。
発令所には先ほどとは違う緊張感が立ち込めていた。
コウスケも思わず固唾をのむ。
EVAからのサルベージは過去に失敗しているのだ。
対象者は碇ユイ
ふとゲンドウを見る。
ゲンドウはサングラスで表情が解らなかった。
いや、わざと解らないようにしていた。
ゲンドウからしてみれば絶対に成功させたいところだろう。
失敗すれば初号機に妻と息子を奪われることになる。
それは今のゲンドウにとって最悪のシナリオだろう。
冬月もそんなゲンドウを心配そうに見ていた。
黙々と時間だけが過ぎていく。
それは無限に続くのではとコウスケは思い始めた。
不意に発令所にアラームが鳴り響く。
「どうしたんだ?」
「ダメです、自我境界がループ状に固定されています。」
「全波形域を全方位で照射してみて!」
リツコがすぐさまに指示を下す。
「・・・だめだわ、発信信号がクライン空間に捕われている・・・」
「どういうこと?」
リツコの言うことは専門的な用語なので意味が解らずミサトが聞いた。
「つまり、失敗。」
リツコの言葉にレイが表情をこわばらせる。
リツコもつらそうに顔をそらした。
「干渉中止、タンジェントグラフを逆転、加算数値をゼロに戻して。」
「はい。」
すぐさまにサルベージの中止が行われる。
「Qエリアにデストルドー反応、パターンセピア。」
「コアパルスにも変化が見られます!プラス0.3を確認!」
青葉と日向からさらなる報告が入る。
「現状維持を最優先、逆流を防いで!」
「はい。」
伊吹が操作する。
「プラス0.5、0.8・・・変です、せき止められません!」
「これは・・・なぜ・・・帰りたくないの?シンジ君・・・」
メインモニターにはぼこぼこと気泡が立っているエントリープラグの内部が映し出されている。
「EVA、信号を拒絶!」
「LCLの自己フォーメーション分解していきます!」
「プラグ内、圧力上昇!」
サルベージは失敗どころか最悪のシナリオとなっていた。
LCLも加熱すればそれだけ体積が増すのだ。
そのまま体積が増すとエントリープラグの破裂
それを阻止するためにエントリープラグにはある程度内圧が上がるとLCLを排出するようにできている。
ここでLCLが流れ出る意味は・・・
「現作業中止、電源落として!」
「だめです、プラグがイクジットされます!」
手遅れだった。
無情にもエントリープラグからLCLが流れ出る。
中にあったシンジの服も流れ出ていた。
「いか・・・」
「シンジ!」
レイが叫ぶ前にさらに大きな声で叫ぶ者がいた。
コウスケがその方向を見ると座っていたはずのゲンドウが立っていた。
そしてゲンドウは走り出す。
「碇!」
「碇司令!」
皆が叫ぶもゲンドウは止まらなかった。
「くそ!」
コウスケはゲンドウを追いかける。
こんな状況で取り乱したNERVの総司令が一人・・・
どう考えても危ない。
ゲンドウがどこに行くかなんてすぐにわかった。
・・・
コウスケが第七ゲージに行くとシンジの服の前にゲンドウがいた。
「・・なぜだ・・・なぜだ!ユイ!・・シンジ・・・」
ゲンドウはふらつくと膝と手をついていた。
「なぜだ・・・なぜ、私を置いていくのだ・・・・」
サングラスから一筋の水が零れ落ちる。
それが限界だったのだろう。
関を切ったようにゲンドウは泣き出した。
それをコウスケは黙ってみているしかなかった。
今のゲンドウにどんな慰めの言葉をかけられるのか
碇シンジは死んだ。
いや、正確には生きている。
初号機の中に
それは碇ユイと同じ末路である。
それを死んだと表現するのは間違いであろうか
コウスケには解らない。
ゲンドウの泣き声がゲージに響く。
「碇司令・・・」
どうやらレイも追ってきたようだ。
レイはそのままゲンドウのもとに行く。
「・・・レイ・・・これは私の罪なのか?私に対する罰なのか・・・」
レイは何も答えない。
「なら、なぜ私ではないのだ!・・・シンジ・・・」
レイはじっとシンジの服を見ていた。
そして初号機の方に向いた。
泣きたいのをこらえて何かを決心するように・・・
レイは目をつぶると口を動かした。
レイは歌を歌っていた。
その歌はコウスケが数日前に教えた歌だった。
シンジのために歌いたいと教わった歌を
シンジが居なくなった今、歌ってどうしようと言うのか?
いや、だからこそ歌うのであろう。
もう聴いてもらえない
もう笑ってもくれない
もう名前も呼んでくれない
もう触れ合うこともできない
だからレイは歌うのであろう。
レイの気持ちをシンジに届けるために
誰もレイを止めなかった。
いや、むしろ聞き入っていた。
それはレイの思いが純粋だからだ。
レイの歌声がゲージに響く。
ゲンドウも泣き止んでレイの歌を聞いていた。
いつもの落ち着いた声であったが、なぜか惹かれる歌声であった。
長くも短くも感じた歌が終わる。
「・・・さよなら・・・」
紅い瞳から一筋の涙が零れ落ちる。
・・・
一滴の涙にしては大きな水の音だった。
そもそも一滴の涙でこれほど大きな音はならない。
それに今の音はまるで人が水の中から這い出たような音だった。
コウスケは音が鳴ったほうに視線を向ける。
そこには仰向けに倒れた碇シンジの姿があった。
「シンジ!」
ゲンドウがシンジに駆け寄る。
「シンジ!しっかりしろ!」
「碇君?!」
レイもシンジのそばに駆け寄っていた。
コウスケはあまりの出来事に呆然としていた。
「・・・・はっ!救護班だ!救護班を呼べ!大至急!」
・・・
NERVの病院で体の検査やDNA鑑定を行った結果、碇シンジ本人に違いはなく、体も健康そのものであった。
ただ、記憶はどうなのかはわからなかった。
コウスケの目の前にはシンジがベットに寝ている。
傍らにはレイとゲンドウがいる。
アスカとミサトはレイとゲンドウに気を使って外に待機していた。
コウスケがなぜ病室の中にいるのか
それはレイとゲンドウに中にいてほしいと頼まれたからだ。
不安なのだろう
本当に碇シンジなのか
もし記憶が無ければそれは碇シンジの形をした別人なのだから
「・・・父さん・・・綾波にコウスケさん?」
「シンジ!私がわかるのか?」
「何言ってるんだよ。どう見たって父さんじゃないか。」
シンジは起き上がる。
そんなシンジを見てゲンドウは再び泣き始めた。
「ちょっと、どうしたの?父さん。」
「まぁ、簡単に説明するぞ。」
コウスケはシンジに説明した。
使徒との戦いのなかでEVAに取り込まれたこと
サルベージが行われたが失敗したこと
奇跡的にシンジが帰ってきたこと
「そうですか・・・あれは夢じゃなかったんですね。」
「夢?」
「母さんにあったんです。」
それにゲンドウがいち早く反応する。
「ユイにあったのか?」
「うん。それで僕にもう戦わなくていいって言ってくれたんだ。そしたら僕もなんで戦ってるんだろうって思い始めたんだ。・・ここに居ればもう戦わなくて済むって。」
なかなか耳が痛い話だった。
息子を愛する母ならそう思うだろう。
そしてその息子を戦場に追い立てるのは自分なのだから
するとシンジはレイに顔を向けた。
「でも、聞こえたんだ。綾波の歌が・・・」
シンジは微笑みながら言う。
「英語だよね?だから所々意味が解らなかったけど、綾波が僕のために歌ってくれたのはわかったよ。」
「碇君・・・」
「そしてなんで僕がEVAに乗るのか・・その意味がようやく分かったんだ。」
するとシンジは悲しそうな顔になって言う。
「ごめん・・さよならなんて言うなって言ったのに僕が言わせて・・・」
「・・いい。」
と言うとレイは微笑みながら
「おかえりなさい。」
シンジも
「ただいま。」
と返すのであった。
コウスケは思う。
人の純粋な思い
それが大きな力になると
レイはそんな思いをいだけるように成長した
それがただただ嬉しかった
・・・
あの後、レイが歌った歌はNERV内で流行することになる。
NERV職員にとってはレイが初めて歌った歌と言うのもあるが、シンジが戻ってきたきっかけの歌として伝わったようだ。
青葉などは休憩中にエアギターをしながら歌っているし、伊吹などはイヤホンをしながら聞いているようだ。
日向はひそかに練習しているとのことだが裏はとれていない。
ゲージが監視されていることをレイは完全に失念していた。
そのため歌のことを言われると恥ずかしそうに俯いてしまう。
ゲージが監視されていることを失念していた人物がもう一人いた。
ゲンドウである。
ゲンドウはNERVで意外な支持を受けていた。
冷徹で息子に対しても冷たく人情などない人物と言われていたが、サルベージの準備期間やゲージで息子のために泣いたことなどが全職員に知れ渡ったのだ。
つまり息子のために頑張る親
それがゲンドウに対する評価であった。
一度NERVの職員がシンジが助かってよかったとゲンドウに言ったことがあった。
「ああ、ありがとう。」
とぶっきらぼうにゲンドウは返すのであった。
だが、それはゲンドウの照れ隠しではないのかと皆が思うのであった。
一方、シンジは親泣かせ、彼女泣かせと言われていた。
だが、そう言われながらもシンジは無事に帰ってきてよかったという皆の心がわかったのか少し嬉しそうにしていた。
コウスケのところには歌を教えてほしいという女性職員が何人かいた。
レイに歌を教えたというのがどこからか漏れたとコウスケは考えていた。
だが、レイが歌を歌うなど今まで考えられないことであったため、歌を教えたのは保護者であるコウスケ以外いないという簡単な推理で導かれたものである。
ともかくそんな職員にコウスケは
「レイから教えてもらってくれ。」
と返すのであった。
コウスケにとっては大事な思い出の一つであり、そう簡単に他人に教える気はないのだ。
そう言われた職員はかなり残念そうにしていたが・・・
・・・
「しかし、意外だな。ファーストチルドレンが歌うなんて・・・」
コウスケはNERVの通路で駿河と出会っていた。
と言うよりは駿河がコウスケを待っていたというのが正しいだろう。
「別に変ではありませんよ。」
「いや、以前の彼女なら歌なんて歌わないだろ。」
それはコウスケでもわかる。
「どうやら彼女が変わったのはあんたのおかげなんだな。」
「なぜそう思うのですか?」
「簡単な話だよ。あんたはファーストチルドレンの保護者だろ?」
「確かにそうですがね・・・でも、自分はきっかけに過ぎない。変わったのはレイ自身がそう望んだからですよ。」
確かにコウスケは変わるきっかけを何度か作ったかもしれない。
だが、それを逃さずにいられたのはレイ自身の功績であり、自分はあくまでもサポートをしたに過ぎない。
それがコウスケが考えることであった。
「謙虚なんだな。まあいい。」
駿河が真面目な顔になる。
コウスケには解っていた。
そんなことをこの男が話に来るわけがないと
「EVAを壊そうとする者がいる。」
コウスケは身構えた。
「その様子だとやっぱり知ってたんだな?・・あんたが闇の執行部だったわけだ。」
「闇の執行部?」
「俺たちの仲間が幾人かやられててね。俺たちの中でのコードネームさ。」
コウスケが追っていたSELLEの手駒が目の前にいる。
それはコウスケを緊張させるには十分であった。
「そんなに警戒するなよ。第一、俺は上のことなんて知らんよ。俺は末端にすぎないからな。」
そういう駿河の言葉に偽りは感じられなかった。
「何が目的だ?」
「あんたこそ何が目的でこんなろくでもない場所にいるんだ?」
駿河の質問にはぐらかすこともできたがそれは躊躇われた。
駿河は本気で聞いているからだ。
「・・・子供たちの未来を創る。それだけだ。」
だからコウスケも本音で答えた。
駿河は意外そうな顔をした後、笑い始めた。
「意外だな。そんな青臭いことを本気で言うやつがいるなんて・・・」
駿河の言いようは大変失礼であろう。
何故か不愉快な思いはしなかった。
「だが、納得もした。」
一体何を言いたいのだろうか
コウスケはそう思うと駿河が口を開く。
「ファーストチルドレン・・この言い方は失礼だな・・・綾波レイがあんな歌を歌える訳がわかったよ。」
「どういうことだ?」
「やっぱりあんたのおかげってことさ。・・碇司令や赤木博士ならあんな風にならんだろ。」
何故か駿河が自分を褒めている
そうコウスケは感じた。
「じゃあ、俺は行くな。」
「どこに?」
「俺は組織を裏切ったんだ。」
NERVのことを言っているのか
それとも・・
「あんたの考えている通りさ。NERV以外の組織を裏切った。・・たった今な。」
駿河は困ったような顔になる。
「何故?」
「嬢ちゃんの歌を聞いてな・・俺はなんでエンジニアになったのか思い出したのさ。」
駿河は寂しそうに言う。
「初心を忘れるな・・それが今ではこんな風になっちまったがね。・・・それでもまだ戻れると思うからさ。」
「それなら・・・」
「おっと。それ以上は言うな。・・自分の身くらい自分で守るよ。」
駿河は真面目な顔を崩さない。
目からは強い決心が見えていた。
「・・もう会うこともありませんね。」
「だろうな。じゃあ、俺は行くよ。頑張れよ、綾波レイの保護者さんよ。」
駿河は白衣を翻しながら去っていく。
・・・
技術開発部の中から行方不明者が三人もでた。
一人は駿河であろう。
もう二人は駿河の協力者であったのかもしれない。
長良は追跡するように言うがコウスケは止めた。
「何故ですか?」
「もう彼らは俺たちに不利益をもたらさない。」
「・・・わかりました。」
「それよりも残りを洗い出してくれ。」
長良は了解と答えると執務室を後にした。
「・・・こんな風になってくれれば一番楽なんだけどな。」
人を殺さずにいられるのならそれに越したことは無い。
だが、きれいごとだけで済むのならこんな苦労はしない。
「さて、お仕事お仕事・・・」
コウスケは決裁仕事に身を任せる。
駿河がどうなったかは知らない。
だが、大胆不敵な笑みを浮かべてどこかで生きているだろう。
何となくコウスケはそう思うのであった。
ゲンドウ泣く
自分が読み返して一番印象に残ったものです。
このサルベージをどうするかは意外と簡単に決まりました。
当初の予定はこれよりもとんでもないサルベージの仕方でした。
なぜこのようになったのか
それは28話に起因します。
今回のおまけはレイの疑惑が晴れます。
ついでにとんでもない事実も
では、どうぞ
おまけ
私が歌った歌
NERVで知らない人はいない
あの時みんな聞いていたみたい
・・・・
恥ずかしい
もしかしてわかったのかしら
なんであの歌を歌ったのか
・・・・
ダメ
恥ずかしい
・・・
何人か歌を教えてほしいと言われた
特務一尉に教えてもらえと言われたらしい
そう言えば特務一尉はいつ知ったのかしら
・・・
「どうした?レイ。」
「歌・・いつ知ったのですか?」
「ああ、あれか・・・」
特務一尉、悲しそう
「満月の夜だったな・・・彼女に呼び出されて行ってみたら歌ってたんだよ。」
彼女・・・
特務一尉の恋人だった人ね
「教えてもらったのですか?」
「いや、何度も歌ってたから覚えただけだ。」
特務一尉・・恥ずかしそう
必死に覚えたのね
「そういや、何人か俺の所にきて歌ってたな。」
特務一尉がため息ついてる
「なんで俺なのかな・・・」
・・・つらいのね
思いに答えることができなくて
「練習なら他のところですればいいのに・・・」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
何を言ってるの?
「赤木も俺のところにきて歌ってたな。」
赤木博士・・・
「なんて答えたのですか?」
「ん?歌がうまいなと言ったが?」
「いえ、なんて答えたのですか?」
「だから歌がうまいって言ったんだよ。赤木は意外と歌がうまいんだな。」
誤魔化してない
顔が真面目になっているもの
「赤木博士はどうしましたか?」
「帰って行ったよ。・・・何故かがっかりしていたけどな。」
・・・
赤木博士かわいそう
「まったく、練習台にするなよな。赤木も碇司令に直接歌えばいいのに・・・」
本気で言ってるの?
赤木博士は確かに碇司令のことを・・・
でもそれは前の話
「ロジックじゃないのよ。」
そう赤木博士が言ってた
赤木博士からよく特務一尉のことを聞かれる
アスカからも・・・
「あいつも事あるたびに呼び出して歌ってたな・・まぁ、だから俺が覚えられたんだけど・・・」
あいつ・・・
特務一尉の恋人のこと
?
事あるたびに呼び出した?
「しかし、今考えるとなんでなのかな?」
どういうこと?
恋人ではないの?
解らない・・・
「特務一尉、恋人ではないのですか?」
「恋人?!そんなわけないだろ。第一、よくはたかれたし・・・そういや歌を歌い終わった後は必ずはたかれたけどな・・・」
どういうこと?
特務一尉は想い人と言っていた
想い人
恋人でないなら?
・・・
片思いの相手
・・・
そう言うことなの?
でも彼女はよく歌っていた
特務一尉のために
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
こういうのをなんていうのかしら?
そう、たしか・・・
「鈍感。」
「何か言ったか?レイ。」
「・・・何でもありません。」
そういう人だったのね
・・・
彼女がかわいそう
でも、特務一尉には言わない方がいい
絶対に言わない方がいい
彼女も想っていたなんて
「なんだ?何か言いたいのか?」
「何でもありません。」
「そんな顔して・・・なにか俺に言いたいんだろ?」
なんでこんなことはすぐに気づくの?
特務一尉
よくわからない
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
あらあら、困ったリリンね