NERV航空隊隊長綾波   作:浩介

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第38話 選択

遥か昔

神は七日間でこの世を作ったとされる。

 

1日目 暗闇がある中、神は光を作り、昼と夜が出来た。

2日目 神は空(天)を創った。

3日目 神は大地を作り、海が生まれ、地に植物を生えさせた。

4日目 神は太陽と月と星を創った。

5日目 神は魚と鳥を創った。

6日目 神は獣と家畜をつくり、神に似せた人を創った。

7日目 神は休んだ。

 

神は赤き土から自らを模った一組の男と女-人を作った。

男と女は神の作った楽園で過ごすが、長く続かなかった。

女は男に対等の地位を要求するが、男がそれを断った。

女はそれに絶望し、男のもとを離れる。

…………

もし、対等の立場を求めたのが男であったのなら

女はどうしたであろうか

・・・

 

最近のリリスの様子がおかしい

コウスケは執務室で業務を行いながらそう考えていた。

コウスケとリリスが会う時間は家以外にあまりない。

レイが出てくる時間はシンジと一緒にいるときが多い。

そのため、コウスケといるときはリリス、シンジといるときはレイなどという構図が出来上がっていた。

レイが出ているときはリリスは眠るようにしている。

そう言う取り決めが二人の間であったらしい。

原因はリリスのことを初めて紹介した時のことだ。

リリスがレイの心情を吐露したことをレイ自身が恨んでいた。

そのための取り決めなのだ。

最もリリスが出ているときにレイの心情がリリスに漏れているんじゃないかとコウスケは疑問に思ったが……

コウスケ自身レイといる時間が減っていることに多少不満はあるものの、リリスに面として言うことは無かった。

それが何故かはわからない。

一つ言えることはコウスケがリリスとの時間をそれなりに大事に思っていることは確かだ。

そんな時間にふと感じたことであった。

「…リリス、いったいどうしたんだ?」

「何が?」

「……いや、なんでもない。」

そう言ってコウスケはリリスを見ていた。

どことなく悲しそうに見えた。

何かを思いつめているように思えた。

リリスの異変を感じ取ったのは、加持リョウジを救出した後である。

どんなに揺さぶっても口を割らないためコウスケは断念するが、やはり気になってしまうのであった。

そんな時、コウスケの執務室にリツコが現れた。

「ん? 赤木か。……休憩時間じゃないよな。」

コウスケは時間を確認しながら言う。

コウスケが休憩するにはまだ早かった。

「……あなたに見てもらいたいものがあるの。」

そう言ってリツコは一つの資料を差し出した。

表情がないリツコに疑問を感じる。

こういう表情のリツコは何か嫌なことがあった時のものである。

「……レイの定期検診の結果?」

レイはリツコのもとで定期的に検診を受けている。

とは言ってもコウスケと同居してからというものの特に異常がないため、その頻度は大きく減っていた。

先日、リリスが現れてから初めての検診があった。

そのデータをリツコは持ってきたのだろう。

「なんでわざわざ持ってきてくれたんだ? データを送信してもよかったろ。」

コウスケのPCはNERVのネットワークに繋がっている。

そのためこうしたデータはネットで送信した方が早いのだ。

実際、レイの定期検診のデータはずっとネットで送られてきていた。

「ことがことだけに直接渡しに来たのよ。」

「……そうか。」

どことなく釈然としないものを感じるが、コウスケは資料を見ることにした。

「………そう言うことか。これは本当なんだな。」

「……ええ。」

「これを知っているのは?」

「私とコウスケ君だけよ。」

「……手立てはあるのか?」

「今のところないわ。」

「そうか………」

表向きでは平然としているコウスケを見てリツコが不思議そうに言う。

「もっと怒ると思ったのだけど……」

「それでどうにかなる問題なのか?」

「それもそうね。」

・・・

 

家に帰宅したコウスケの前にはレイとシンジがいた。

リリスにはシンジとレイに話したいことがあると言って代わってもらった。

「すまないな。急に呼び出して。」

「いえ、大丈夫です。」

レイはぴっとりとシンジの横に座っていた。

既に夕食は済ませておりシンジの前には紅茶があった。

「……これは、綾波が入れたものですね。」

一口飲んだシンジが答えた。

「よくわかったな。」

「何となくですけど…」

「愛は格別の調味料と言うやつかな?」

そう言うとシンジはお約束通り赤くなってしまった。

「愛が調味料になるんですか?」

レイはきょとんとしながら聞いてくる。

「ああ、そうだよ。」

コウスケがそう答えるとレイは紅茶を一口飲んだ。

「……特務一尉のと変わりません。」

「そりゃ、そうだ。自分の愛しい人が作ってくれたものなら嬉しいし、おいしく感じるものさ。」

そう言うとレイは少し考え込んだ。

「……リリスが作ったものもそうなのですか?」

「…………は?」

思わず間抜けな返し方をしてしまった。

「リリスが作った料理もそう感じるのですか?」

「……誰が。」

「特務一尉。」

コウスケは少し動揺していた。

まさかレイがこんなことを言ってくるとは思わなかったのだ。

横にいるシンジも目を丸くしていた。

「そんなわけないだろ。」

「……嘘。今日の夕食を食べてる時、とても嬉しそうだった。」

レイの言葉にコウスケは疑問を持った。

「……レイが準備したものだろ?」

「違います。リリスが準備しました。」

レイはニヤっと笑っていた。

そう思うと確かに味がいつもと違うものだった。

「どうでした?」

「どうだったと聞かれてもな……」

今までで一番、美味かった。

そう言うのをグッと堪えた。

「……まあまあだな。」

そう答えたがレイは相変わらずニヤっと笑っている。

「……よくわかりました。」

納得しているレイに釈然としないものを感じる。

するとシンジが口を開いた。

「……コウスケさん。」

「なんだ?」

「今、すごく嬉しそうでしたよ。」

「……何を言ってるんだ。」

そうは言うが実はコウスケは嬉しかったりする。

リリスが料理の練習をしていることは知っていたが、まさかこんな短期間で上達するとは思わなかったのだ。

黒焦げの何かを食べさせられた時が一番死を覚悟したときだった。

……ATフィールドで拘束されてはコウスケも抵抗できなかったのだ。

その後の記憶はコウスケには無い。

気付いたら朝になっていて、リビングで起きた。

横にはレイが寝ていたが、目がかなり腫れていた。

コウスケが倒れたことに驚いてリリスは泣いていたのだ。

「コウスケさん…もしかして…」

シンジが言おうとしていることを察知したコウスケはすぐに反応した。

「そんなこと…」

「あります。」

レイに妨害された。

「何を根拠に言ってるんだ?」

「特務一尉はリリスといる時、一番嬉しそう。」

「それはレイが勝手にそう思っているだけだろ。」

「そんなことない。…リリスが抱き付く時、特務一尉は優しく受け止めてる。」

「それは……しょうがないだろ。」

「嫌なら嫌だと特務一尉は言える。でも言わない。」

実際コウスケは危ないとは言うが嫌だとは言わなかった。

「それにリリスを見ている時の特務一尉の目は私の時よりも優しい。」

思わぬレイからの猛攻であった。

レイはニヤリと笑っている。

「そうだったんだ。コウスケさんってリリスさんのことが好きだったんだ…」

シンジは意外だという表情を隠さなかった。

「そんなことない。」

「本当にそうですか?」

レイがじっと見つめてくる。

「当たり前だろ。」

「リリスに代わっても同じことが言えますか?」

「ぐ……」

(本人を目の前にして……)

そう考えたときリリスの悲しそうな顔が浮かんだ。

コウスケは何も言えなくなった。

二人はそんなコウスケを楽しそうに見ていた。

・・・

 

コウスケはなんとか切り抜けた。

レイが学校に登校する前に鏡の前で笑顔を作る練習をしていることをばらすという、かなり大人げない切り抜け方だった。

レイは真っ赤になりながらコウスケに謝ることになる。

「シンジ君、何故レイがそんなことしているのかわからないって顔だな。特別に教えてやろう。レイはな、いか…」

「特務一尉ごめんなさい。私が悪かったです。敗北を認めます。だからそれ以上言わないで…」

「別いいだろ? それにもうばれたみたいだしな。」

「……特務一尉のいじわる…………」

ちなみにレイがそんな練習をしている理由は、とある少年のためにだ。

シンジは夜遅くになったということで葛城家に帰って行った。

レイはリリスと代わっている。

コウスケはリビングで残業を片付けていた。

「ねえ、コウスケ。」

そんなコウスケにリリスが声をかける。

「どうしたんだ?」

「シンジを呼んだのって何か話したいことがあったのよね。」

リリスがいつになく真面目な顔になっていた。

「……そうだよ。」

「何の話だったの?」

「………レイは?」

「寝てるわ。」

「そうか。」

コウスケはPCを閉じた。

「今日、赤木がレイの定期検診の結果を持ってきてくれた。」

「どうだったの?」

「………」

これを言うべきなのか

コウスケは迷っていた。

これを信じたくないという心情が働いていた。

だが、決心してコウスケは口を開いた。

「一か月後にレイは死ぬ。」

リリスは目をぱちぱちさせていた。

「死ぬ? ……レイが?」

「心臓の組織が衰弱し始めているらしい。……MAGIの計算では持っても一か月だそうだ。」

「どうして? 今まではそんなことなかったんでしょ?」

コウスケは一枚の資料を差し出した。

レイの体の組織の活性度を示すものだ。

「この日を境に変わった。」

折れ線グラフは三つの坂で出来ていた。

一つ目は下り坂になっていて、コウスケと同居する前

最もコウスケと同居した日に近づくにつれて下り坂は緩慢になっていた。

真ん中は同居した後

緩やかながら上向きになっていた。

だが、それも突然下り坂に変わっていった。

それが三つ目の坂だ。

二つ目と三つ目の坂の境目をコウスケは差していた。

「この日って…」

「そう、俺とリリスが初めて会話した日だ。」

忘れるわけがなかった。

あの時ほどコウスケが焦ったことは無かった。

「……もしかして私が原因なの?」

リリスの声は恐る恐ると言う表現が正しいほど震えていた。

「あくまで推測に過ぎないが、リリスが表に出てきたことが原因らしい…」

「なら、私がいなくなれば…」

コウスケは首を横に振った。

「そうしてもダメらしい。……衰弱が思ったより進行している。リリスが離れても一年がやっとだそうだ。」

「そんな…」

「……親より先に死ぬなんて親不孝な奴だな………」

リリスは黙っている。

コウスケもそれ以上言う言葉が見つからなかった。

・・・

 

翌日

綾波執務室

コウスケはいつも通りに執務室にいた。

朝、レイはいつも通りに学校へ登校していった。

その様子から昨日の話をレイは知らないようだった。

ただ、コウスケは気がかりな事があった。

あの後、黙っていたリリスは

「ねえ、私が何かしても信じてくれる?」

などと言ったのだ。

いきなり何を言いだすのかと言いたかったが、リリスの目が真剣であったためコウスケは頷いていた。

ふと時計を見るとレイたちはNERVに登庁している時間だった。

「いったい何をするんだ?」

コウスケの呟きは人知れず消えていった。

・・・

 

同時刻

NERV第6ゲージ

ここにはアスカの搭乗機であるEVA弐号機が格納されている。

初号機のある第7ゲージと作りは同じでEVAの顔の前にブリッジがある。

そこに青い髪の少女が一人

「行きましょう。アダムの分身、リリンの僕。」

その言葉と同時に弐号機の目が光る。

・・・

 

NERV第二発令所

コウスケは警報を聞きつけて発令所に駆け付けた。

「状況は?」

コウスケの声に日向がすぐに応答した。

「EVA弐号機が起動しています!」

(弐号機が起動? どういうことだ…)

発令所からの発進命令が出ていなければ、弐号機を使った実験もない。

弐号機が何故、起動したのかわからなかった。

「アスカは!」

「確認済みです。パイロット控室に移動中です。」

「無人です! 弐号機にはエントリープラグが挿入されていません!」

(無人……ダミーでもないな…)

尚更わからなかった。

弐号機が何故、動けるのか…

この時、コウスケの脳裏にピンと来るものがあった。

(まさか…)

「セントラルドグマ周辺にATフィールドの発生を確認! パターンブルー……使徒です!」

日向の報告を聞いてコウスケは誰が弐号機を動かしているのかわかった。

「モニターに出ます。」

発令所のメインモニターを見てコウスケ以外の全員が驚いていた。

ゲンドウや冬月ですら唸っていた。

「れ、レイちゃん!?」

伊吹がかろうじて声を出せたようだ。

モニターにはNERV職員なら誰でも知っている蒼い髪の少女がひどく無表情で映っていた。

弐号機はそれを守る騎士のようにそびえ立っている。

(リリス……何故だ。)

発令所にミサトとリツコも駆け込んできた。

「……レイ!?」

「………」

リツコは黙ってモニターを見ていた。

「これはどういうこと? コウスケ君!」

「綾波特務一尉……」

視線がコウスケに集まる。

前からは憐れみと同情

後ろからはどう責任を取るのか

上からは成すことを成し遂げろ

「……あれを第十五使徒と識別……個体名はリリスと名づける……」

「でも…」

「あれは使徒だ。レイの体に寄生したんだろ。……殲滅だ。」

「しかし…」

日向が何かを言おうとするが言えなかった。

コウスケが無表情でモニターを見つめていたからだ。

・・・

 

セントラルドグマ メインシャフト

リリスは弐号機を従えて下に降下している。

「今頃大騒ぎね…」

リリスは悲しそうな表情になるが、それも一瞬だった。

「でも、あなたにとっては一石二鳥のはず…」

リリスが下を見ると、隔壁が閉まっていった。

「……来てくれるかな……」

その呟きは誰にも聞こえない。

・・・

 

NERV第二発令所

「初号機で追撃だ。……構いませんね。」

コウスケはゲンドウに確認を取った。

初号機は凍結処分が下されている。

その撤回を求めたのだ。

「わかった。初号機に追撃させろ。」

その指示を聞いてオペレーターが一斉に動き出した。

「何故、弐号機なのかしら?」

ミサトが言わんとしていることはわかる。

レイの体ならば零号機で行くこともできたはずだ。

「単純な計算だ。零号機で行けば追撃が増える……だからだろう。」

「それにシンジ君のことも考えてるのね。」

リツコが付け加えるように言った。

「シンジ君?」

「そうよ。使徒とは言えレイの体よ。」

「……そう言うことね。」

それを聞いたコウスケは

「すまんが、後を頼む。」

とミサトに言う。

「なんで?」

「……子供の尻拭いは親の務めさ。」

そうしてコウスケはゲンドウを見た。

「構わん。」

ゲンドウは一言言った。

コウスケは発令所を出ようとした。

「コウスケ君!」

ミサトが止める。

「大丈夫よね?」

「……刺し違えてでも止めて見せるさ。」

それだけを言うとコウスケは走り出した。

・・・

 

初号機エントリープラグ内

シンジは表立って騒ぐことは無かったが、内心では平然としていられなかった。

(綾波なわけがない……リリスさんどうして……)

そう思っていると弐号機の姿を確認した。

「いた…」

初号機は弐号機に追いつくと弐号機に掴みかかった。

弐号機もそれに応じる。

初号機と弐号機で取っ組み合いになった。

「リリスさん、どうして…」

「レイのためよ。」

「綾波の?」

シンジにはわけがわからなかった。

レイのためならば何故こんなことをするのか

「それなら止めてよ! どうしてこんなことをするんだよ!」

「ダメよ。……私の本体が必要なのよ。」

この時、シンジはこれもリリスの計画だったのではと考え始めていた。

サードインパクトを起こすのに障害となるものを排するために人に近づいたのでは

「……リリスさんは裏切ったんだ……僕たちを……なによりコウスケさんを!」

「………あなたに何がわかるの……」

「そうじゃないか! 今こうして……」

シンジは言葉を続けられない。

……リリスが泣いていたのだ。

「あなたに何がわかるの? ……私はリリンと一緒になれない。……リリンはリリンに惹かれ合うもの………コウスケだって………」

シンジはハッとなってリリスを見た。

「そんなことない! コウスケさんだって……」

「下手な慰めはいらないわ。」

弐号機がプログレッシブナイフを取り出し、初号機の胸に突き刺した。

その痛みがシンジにも伝わる。

「ぐ……この!」

初号機も負けじと弐号機の首に突き刺す。

「リリンにとって忌むべき存在……それを使ってまで生きようとする……不完全でありながら不完全ではないのね……」

リリスは目を瞑った。

・・・

 

NERV第二発令所

突如大きな振動に見舞われた。

「どうしたの?」

「これまでにない強力なATフィールドです!」

「光波、電磁波、粒子も遮断しています! 何もモニターできません!」

オペレータの報告を聞いたミサトは呟く。

「まさに結界か……」

横ではリツコが何とかモニターしようと伊吹に指示を出している。

ミサトは一人の男を思い出した。

「コウスケ君は?」

「ダメです。反応をロストしました。」

「……頼んだわよ。」

・・・

 

NERV通路内

コウスケは走っていた。

あと少しでターミナルドグマ最深部直通エレベーターにたどり着く

そう思った時、大きな振動が起こった。

「……やり過ぎだ。」

それをリリスがやったことを直感で感じた。

「……あのバカ野郎……」

コウスケはエレベーターに飛び乗った。

・・・

 

ターミナルドグマ ヘブンズドア前

コウスケはついにたどり着いた。

後ろでは何かの音が聞こえてくる。

弐号機と初号機が戦闘しているのだろう。

だが、徐々に近づいていることはわかった。

コウスケは暗い通路を進んでいく。

いつもなら厳重な隔壁があるのだが、今は開いていた。

その隔壁を越えるとLCLの池と目的の人物がいた。

「リリス…」

コウスケが声をかけるとリリスは振り返った。

「来てくれたのね。」

よく見ると白い巨人に刺さっていたロンギヌスの槍が無くなっていた。

コウスケは特に気にせずリリスに近づいた。

「何をするんだ。」

「レイの治療よ。」

「レイの?」

「そのためには私の本体が必要なのよ。」

そう言うとリリスは白い巨人の方に振り返った。

「……止めないの?」

「何言ってるんだ。信じろと言ったのはリリスだろ?」

コウスケの方からリリスの顔は窺えなかったが、嬉しいという感情だけは伝わった。

「そうよね……ありがとう。」

リリスの体から一つの紅い光が離れた。

コウスケは膝から崩れ落ちるレイの体を抱きとめる。

赤い光は白い巨人に呑み込まれていった。

白い巨人-リリスが楔から離れてLCLの池に降り立った。

LCLが雨のようになり、コウスケたちを打ち付ける。

リリスが腕をコウスケの方に向ける。

途端にレイの体が光った。

光は徐々に薄くなり、やがて消えた。

コウスケはとっさにレイの状態を確認する。

「……見た目、脈、呼吸音ともに異常なし。気を失っているだけか。」

そう言うとコウスケはほっとした。

それと同時に何かが倒れる音がした。

弐号機だった。

頭には初号機のプログレッシブナイフが刺さっていた。

その先には初号機がこっちに歩いて来ていた。

『コウスケさん!』

「シンジ君か。」

『綾波は?』

「大丈夫だ。」

レイを確認した初号機はリリスに目を向けていた。

『リリスさん……ですね。』

『そうよ。』

レイと似ているがレイとは違う声が聞こえた。

リリスのどこから声を発しているのかわからなかった。

まるで心に直接語り掛けてくるような感覚だった。

『さて、私のしたいことは終わったし……その槍で刺してくれれば元通りになるわ。』

初号機は動かなかった。

『……間違ってますよ。そんなことしてコウスケさんが喜ぶわけないじゃないですか……』

「何を言ってるんだ?」

『リリスさんは死ぬ気なんですよ!』

「何!?」

コウスケはリリスに視線を送る。

「死ぬだと? いったいどういうことだ!」

リリスはコウスケを見ていた。

なかなかの威圧を感じるが、コウスケはそれどころではなかった。

『そのままの意味よ。使徒を倒して終わり……ただ、それだけよ。』

「使徒って……まさか……」

『さあ、早くしてちょうだい。』

リリスは両手を広げていた。

『……やっぱりダメなのね。でも……』

コウスケはリリスの言葉にはっとなった。

「シンジ君! 弐号機を止めろ!」

コウスケの声に初号機が弐号機の方に振り返る。

いつの間にか弐号機はロンギヌスの槍のそばにいた。

初号機が止めに入る。

弐号機はロンギヌスの槍を手にした。

初号機が弐号機を後ろから羽交い締めにする。

『どうして邪魔するの? あなたたちNERVの仕事でしょ?』

「なんでこんなことをするんだよ。」

『……こうすれば使徒として私が記録に残るわ。そうすれば覚えてくれるでしょ?』

「……バカ野郎……」

『何?』

「お前さんはバカ野郎だ。……こんなことするバカなんて一瞬で忘れるわ。」

コウスケの言葉にリリスは狼狽えていた。

『……レイは治療したし、使徒は殲滅される。それに私がいなければサードインパクトも阻止できるのよ。』

「だから死ぬのか?」

『そうよ。』

コウスケは俯いた。

後ろでは初号機と弐号機の争いが続いている。

「……初めてだったんだよ。」

コウスケはぽつりとはっきりと言う。

「俺のために何かをしてくれた人はお前さんが初めてだったんだよ。」

『それはコウスケが気づいてないだけ……』

「そうだよ。だからだ。」

『いったいなんのこと?』

「……昨日、料理を作ったのはお前さんだろ? レイから聞いた。」

『それがどうしたの…料理ならレイだって……』

「確かにな……でも今までで一番うまいと思った。」

レイの顔に滴がぽつり、ぽつりと落ちていた。

「もう、俺のために作ってくれないのか……」

リリスはただじっと聞いているだけだった。

・・・

 

NERV第二発令所

「綾波コウスケ特務一尉、只今戻りました。」

「「「綾波特務一尉!」」」」

コウスケは発令所に戻っていた。

リツコはレイの検査を行っている。

「コウスケ君! 無事だったのね。」

「すまん、心配かけたな。」

「全くですよ。反応がロストした時はもう終わりだと思いましたよ。」

青葉が軽い口調で言っていた。

「ところでコウスケ君…」

「なんだ?」

「その人は誰なのかしら? 一般人を入れてほしくないんだけど……」

ミサトはコウスケの横にいる人物を指さしながら言う。

その人物はビクリと反応するとコウスケの後ろに隠れてしまった。

「ん~、誰かに似てるわね。」

アスカが何かを思い出しながら言う。

「レイちゃんに似ていますね。」

「でも、髪は黒いぞ。」

「目も黒いですしね。それにどことなく大人っぽい…」

オペレーターたちが次々に言った。

上では

「碇、見たか?」

「ああ、ユイにそっくりだ。だが、違う。」

そんな発令所の反応にコウスケは笑っていた。

「ほれ、隠れてないで出て来いよ。」

コウスケに促されてその人物はコウスケの後ろから出てきた。

姿形はレイと似ているが髪は黒く、瞳も黒かった。

肌の色もレイとは違い普通の人と変わりがない。

背丈はレイより高いがミサトより小さかった。

服は少し大きいようで、襟と袖の端に白いラインが入った黒いシャツに黒いスラックスを着ていた。

スラックスは少し折り畳んでいる。

靴はリツコから借りたハイヒールだ。

「それ……コウスケの制服よね。」

アスカが指を差しながら言う。

「着る服がなかったからな。」

「それで誰なの?」

「ああ、リリスだよ。」

コウスケの言葉に発令所全体に緊張が走った。

青葉と日向はUSPを取り出したが、何かに弾かれた。

コウスケがグロック17でUSPだけを正確に撃ち抜いていた。

「綾波特務一尉!」

「使徒をなんで……」

(まぁ、無理もないか…)

「彼女は人として生きる道を選んだ。ただ、それだけだ。」

それを聞いたゲンドウが口を開いた。

「リリス。」

「な、何?」

「今の話は本当か?」

「ええ。」

それを聞くとゲンドウはフッと笑った。

「リリスは人として生きることを選んだ。……私は受け入れよう。」

「ふむ、そうだな。人として生きることを選んだというのであれば、ことを荒げることもあるまい。」

NERV首脳部が認めたのだ。

青葉と日向も消極的ながら同意した。

「説得したんですね。」

伊吹がコウスケに言った。

「まあな。」

「え~と…リリスでいいのかしら。」

「ええ。」

「なんで人として生きようと思ったのかしら?」

伊吹は興味本位で聞いたのだろう。

思ったよりも軽めに話していた。

見た目が人とかわりがないからだろう。

そんな伊吹の様子にほっとするコウスケであった。

「私自身が人として生きたいと思ったから。それに………」

リリスは何やら赤くなりながらもじもじとしていた。

「コウスケがプロポーズしてくれたから……」

リリス以外の全員に電流が走った。

コウスケとて例外ではない。

「プロポーズって……」

「あの……結婚してくださいってことだよな……」

「それも綾波特務一尉が……」

「ちょっと待て! 俺がいつそんなことを……」

リリスが上目使いでコウスケを見る。

とても悲しそうだ。

「違うの? あれはそういう意味じゃなかったの?」

「う……いや……そのだな……」

「だから私、リリンになったのに……」

リリスはさめざめと泣き始めた。

コウスケに向けて一斉に白い眼が向けられた。

さすがにコウスケも狼狽えていた。

そこに制服に着替えたシンジが発令所に現れる。

「どうしてリリスさんが泣いてるんですか?」

「シンジ君。コウスケ君がプロポーズしたってホント?」

ミサトがシンジの疑問に答えずに聞いた。

ことの真相を知るものはコウスケとリリスの他にはシンジしかいない。

「プロポーズ?」

アスカがミサトに変わって聞いた。

「……リリスを説得したとき、コウスケはなんて言ってたの。」

コウスケはシンジを睨んだが、必死に思い出しているシンジは気付かなかった。

「確か……リリスさんの料理がうまいと言っていて……俺のために作ってくれないのか……そう言ってたよ。」

それを聞いたミサトは少し呆れて

「う~ん……プロポーズに取れなくはないわね……」

と言った。

ざわざわと外野が騒ぎ始める。

リリスは泣いている。

コウスケは狼狽えている。

シンジはぽかんとしている。

アスカは放心状態のようだ。

ミサトはどう事態を収拾すべきか迷っている。

冬月はコウスケを興味深そうに見ている。

ゲンドウはニヤリと笑っている。

そんな時、リツコも発令所に現れた。

「レイの検査結果が……これはいったいなんの騒ぎなのかしら?」

「先輩! 実は……」

伊吹がリツコに耳打ちした。

リツコはどこか納得していた。

(チャンスだ!)

「それで赤木、レイはどうなんだ?」

これを機にコウスケは話の転換を行おうとしたのだ。

「レイは無事よ。目覚めれば退院できるわ。それに体が100%人になっていたわ。」

リツコの言葉に青葉と日向以外の全員がその意味を知った。

「姿形は変わらないけど、私たちと同じになったのよ。」

リツコは一息つくとさらにつづけた。

「それに遺伝子も変わっていたわ。……コウスケ君、あなた名実ともにレイの父親よ。」

発令所がさらに騒がしくなった。

一方コウスケは難しい顔をしていた。

「何? 嬉しくないの?」

そんなコウスケにミサトが聞いた。

「そんなことは無い。俺にとっては重畳だ。」

「なら、なんでそんな顔をしてるの?」

「……俺と同じでは無くて父親と言うことは、母親もいるんだろ? 誰なんだ?」

(碇ユイなんて言わないだろうな……嫌だぞ。)

ふと見るとゲンドウも難しそうな顔でコウスケを睨んでいた。

おそらくコウスケと同じ考えをしたのだろう。

シンジも複雑そうな顔でコウスケを見ていた。

「………わからなかったわ。」

「はぁ?」

「MAGIには世界中の人のデータが登録されているのにわからなかったの。……ここから出る答えは一つね。」

リツコが何を言いだすのか皆が集中していた。

「リリスしかいないわ。」

「どうしてそうなるんだ!」

コウスケは思わず叫んでいた。

「なら検査してみればわかるわよ。少しいいかしら。」

リツコはリリスに近づいて髪を一本抜いた。

既に泣き止んでいたリリスは痛みで再び涙を流すことになる。

リツコはリリスの髪を何かの機械にかけて操作する。

「……出たわ。やっぱりレイの母親はリリスね。……しかもリリスも人になってるわ。」

「てことは……」

「レイはコウスケ君とリリスの間に生まれた子供……そうなるわね。」

発令所が今までにないくらい騒がしくなった。

「リリス……なんで……」

「こうすればコウスケは私がいなくなっても覚えてくれると思ったの。……コウスケなら気づくって……」

リリスは顔を俯かせていた。

「嫌だった? ……嫌よね……」

そんなリリスにコウスケは

「いひゃい! いひゃい!」

思いっきり両頬を抓った。

「勝手にこんなことしやがって! 30で14の子供がいるってどういうことなんだよ!」

コウスケはすでに誕生日を迎えている。

第十四使徒と戦闘した次の日であったが、被害が大きすぎてコウスケ自身も忘れていた。

シンジがサルベージされた後にコウスケは気付いたがさほど気にしていない。

発令所にいたメンバーは今の言葉で初めて気づいた。

コウスケ自身はレイのことを娘のように思っているが、本当の娘となるとさすがに平然としてられなかった。

単純な話がコウスケが15歳の時にレイが生まれたとなってしまう。

「ごへんなしゃい!」

「全く…」

コウスケはリリスを抱き寄せた。

「この大バカめが……」

そう優しく言うのであった。

・・・

 

使徒との戦いが終わったあと発表された使徒との戦闘記録がある。

通称「葛城レポート」

そこには第三使徒からの戦闘記録が残されている。

それを見た人々は使徒の脅威を想像し震えあがるが、誰もが必ず目に止めるものがあった。

それは第十五使徒に関する記録だ。

第十五使徒はファーストチルドレンと弐号機を乗っ取る。

初号機で追撃するも、ターミナルドグマの最深部に侵入を許してしまった。

だが、同時にたどり着いたNERV作戦局第二課課長が説得に成功する。

そのような内容が書かれていた。

その他のレポートは当事者たちの話とまみえて事実であるとされている。

そのため第十五使徒に関する記述も事実であると認識されている。

そうなると疑問が出てくる。

説得に応じた使徒はどこにいるのか

それは今だに公開されていない。

ただ、その説得した人物には「使徒を口説き落とした男」と言う二つ名と妻と娘がいるということだけは確認されている。




これを書き終わった後、ふと思ったこと
やばい…
同じ顔が三人いる……
………色違い?

37話を書き終わった後、コウスケの周りにいる女性(リツコ、アスカ、リリス)について考えたところ自分で書いておきながら面白いなと思ってました。

心のリリス
技のリツコ
体のアスカ

狙ったわけではありません。
本当にただの偶然でした…

今回のおまけ
ただのアホな話です。
食べるレイを想像していたらこうなりました。

おまけ
第十五使徒襲来から数日後
葛城家
「本当にいいの? アスカ。」
ミサトはニヤニヤしながら言う。
「別にいいわよ。それにコウスケからプロポーズしたんでしょ? なら潔く引くのが乙女ってやつよ。」
とふてくされながらアスカは言った。
「リツコの奴も簡単に引いちゃったし…」
ちなみにリツコの言い分は
「諦めたわけじゃないのよ。…ただ、それが原因でサードインパクトなんて起こされたらどうするのよ。私は責任とれないわよ。」
だそうだ。
これを聞いたシンジは
(アスカとリツコさんってコウスケさんのことが好きだったんだ…)
などと考えていた。
ちなみにコウスケに至ってはまだ知らない。
死ぬまで気づかないだろう…
そんな時、葛城家の玄関のドアが開く音がした。
「誰かしら?」
「加持さんじゃないの?」
アスカの答えにミサトが動揺している。
ちなみに加持は綾波家の隣に住んでいる。
特殊な階級を持つ男の仕業である。
それを見たアスカは
「ミサトには加持さん……シンジにはレイ……コウスケにはリリス……頭がお花畑な連中だらけね。その筆頭が…(作者の権限で削除されました。)」
と呟いていた。
そうこうしているうちに誰かがドタドタと中に入ってくる。
「「「リリス(さん)?」」」
泣きじゃくっているリリスが立っていた。
リリスが来ている服はミサトがNERVで着ているものと同じものだ。
ただしジャケットは緑色。
緑の理由はコウスケにある。
「うう……うえ~ん!」
とシンジに泣きついた。
シンジは困惑しながらも
(綾波が大きくなったらこうなるのかな…)
などと考えていた。
ちなみにリリスはレイより女性らしくなっている。
シンジがそう思うのも無理はない。
何故リリスがレイに似ているのかと言うと
「長い間レイと同化していたからよ。…それにコウスケは男だから………」
とリリスは答えている。
「どうしたのよ。」
「何かあったの?」
アスカとミサトの問いにリリスは泣きながら答えた。
「ひっく、コウスケが………………………レイもいたのに……無理やり…………私………嫌だって………」
リリスは泣きながら言うのでかなり途切れていたが、かろうじて聞き取れた言葉は葛城家に大きな衝撃を与えた。
そこにコウスケが現れる。
「ここにいたか…」
だが、コウスケは異様な視線にさらされた。
ミサトとアスカからは侮蔑の視線を、シンジからも白い眼で見られていた。
「なんだよ…」
「サイテ~…」
「コウスケ君、プロポーズしたからっていきなりは酷いわよ。」
「しかも綾波の前で……」
コウスケは皆が何を言いたいのか理解した。
「違う! 断じてそんなことはしてない!」
「コウスケさん!」
シンジがらしくもなく叫んだ。
コウスケは少し怖気づく。
「男なら潔く覚悟しろって言ってたじゃないですか!」
「それは…」
「まさか自分で言ったことを破るんですか!?」
コウスケはシンジに気圧されていた。
とにかく事態を収拾するためにコウスケは動いた。
「……リリス、すまない。もうあんな辛いカレーは出さないから許してくれ。」
いったい何が起こったのか
少し時は戻る
・・・

コウスケは自分が作った料理をおいしそうに食べるリリスに不満を感じないが、疑問も持っていた。
(リリスに味覚があるのか?)
コウスケの作るものをおいしいと食べてくれるのは嬉しいのだが、疑問が募るばかりであった。
ちなみにレイの食事の量は半分になっていたが、リリスは変わらない。
なんでリリスは変わらないのかコウスケは疑問に思ったが、ATフィールドが関係しているのだろうと結論付けた。
……作者が大食いキャラを作りたかったなんてことはない。
そういうことにしてください。
そして久々にコウスケが夕食を作るのだが、メニューをカレーにしたのだ。
カレーにしたのが拙かった。
コウスケは日頃の疑問を晴らすべく、リリスのだけ5倍辛いレトルトのカレーを出したのだ。
それを一口食べたリリスはぶるぶると震えだして
「から~い!」
と泣き出してしまうのであった。
「私のは辛くない。…………辛い………特務一尉、リリスのだけ違うものを出しましたね。」
自分に出されたカレーとリリスのカレーを食べ比べたレイが言う。
リリスのカレーを食べたレイも少し目が潤んでいた。
「なんでそんなことするの?」
「すまん。リリスに味覚があるのか少し……」
さすがにコウスケもばつが悪そうに言う。
涙目の二人に罪悪感が先行し始めていた。
「リリスで実験したんですね。」
レイの声は鋭く非難していた。
それを聞いたリリスはスプーンを取り落として、ぶるぶると震えだしていた。
「私で実験……」
「違うんだ! ちょっとした好奇心で…」
「私で実験しないって言ってくれたのに……実験は嫌だって言ったのに……」
「だから…」
「裏切ったのね……私の気持ちを裏切ったのね!」
そう言ってリリスは家を飛び出すのであった。
・・・

ことの真相を聞いて葛城家一同は
「アホらし…」
「カレーなら私の方がおいしいのに…」
「綾波は大丈夫だったんだ…」
と答えたそうだ。
ちなみにリリスが泣きながら言ったことはこうなる。
「コウスケが(とても辛いカレーを食べさせたの。)レイもいたのに(私だけ)無理やり(食べさせたの。)私、(実験は)嫌だって(言ったのに)…」
とにかくコウスケが謝ることで解決はした。
だが、シンジは密かに
(綾波も僕の作るものを美味しいって言ってくれるけど……)
と考えていた。
後日、加害者と被害者を変えて似たようなことが起こった。
ただ、被害者が某組織のとある博士に泣きついてしまった。
運悪くその弟子もいたため、某組織に広く伝わってしまったのだ。
加害者は誤解を解くのに相当な時間と労力が必要だったとか…
加害者の実の親は
「全く期待させおって…いつになったら孫を見せてくれるのだ。」
とコメントした。
ちなみにこのことが広く伝わった時、第一種警戒態勢が敷かれた。
被害者の父親がまたもや暴走すると考えられたからである。
やけに諜報部が張り切っていた。

……作者はカレーに嫌な記憶があるわけではないことをここで明言しておく。
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