午後7時40分
腕時計にはそう表示されていた。
NERVでの探索を終え、あてがわれた家へ一時帰っていたコウスケは荷物の整理を終えてとあるマンションに向かっていた。
コンフォート17
彼が向かう先の名前であった。
(歓迎会ね。)
午前中ミサトの独断で行われることとなった就任パーティ
彼は律儀にも参加することにしたのであった。
(そういえば葛城の家にはサードチルドレンがいたな。)
午前中に見た彼の写真を思い浮かべる。
(綾波レイと同じだったらどうしようか…)
などと考え少々うつな気分になる。
(でも数日前まで民間人だったのだから大丈夫かな?)
考えが堂々巡りになる。
(まっ、大丈夫だろう。)
そう思い足を進めた。
・・・
ピンポーン
「はい。」
プシュウー
と音を立ててドアが開く。
目の前には男の子が立っていた。
「あのー。どちらさまでしょうか?」
「綾波コウスケだ。」
「……ああ、綾波さんですね。どうぞ。」
「お邪魔します。」
彼の後に続き中に入った。
リビングではミサトが待っていた。
「おっそーい。」
「部屋を片付けていたんだしょうがないだろう。それに何時に来いとは言わなかっただろう。」
「うっ…」
「だからまだ常識的な時間に訪ねたんだ。」
「ごみん。」
「……はぁ」
(ほんとにこいつは軍人なのか?)
軍人も人なので律儀な奴、おちゃらけた奴、何かたくらんでそうな奴などいろんな人がいるが、時間についてはずぼらなものはいなかった。
なぜなら数秒で有利から不利になりえる戦場で時間を守らないなど自殺行為に等しい。
なので時間だけは守るように皆なっていたのだ。
(……考えないようにしよう。)
とミサトについては考えることを放棄した。
テーブルを見るといろいろな料理が並んでいる。
正直感心した。
「これは葛城が作ったのか?」
「いえ。シンちゃんが作ったのよ。」
「シンちゃん?」
「そっ。碇シンジ君。シンジだからシンちゃん。」
「………」
「なによ。」
「葛城…お前はそういう趣味なのか?」
「なっ……バカなことを言わないでよ!」
「そうか、よかった。」
「中学生相手に手なんか出さないわよ。」
「………」
「なによ。」
「……別に」
(ほんとに大丈夫か?)
などと一抹の不安を感じる。
「……それにしてもシンジ君がこれを作ったのか。」
「そうよん。シンジ君の料理はすごいおいしいのよ。」
「葛城、お前は作らないのか。」
「あたしだって作るわよ。」
「……そうか。」
(たぶん無理なんだろうな。)
などと思い、後日リツコに聞いてみようと思った。
「料理もそろったし始めましょうか。」
そういってミサトはビールを渡してくる。
シンジはお茶のようだ。
「では綾波コウスケ特務二尉の転属に………乾杯!」
「「乾杯。」」
三つの缶がテーブルの上でぶつかり合う。
コウスケは料理に手を伸ばす。
「……うまいな。」
「でしょ?」
「お前が自慢げに言うなよ。」
「でへへ。」
「シンジ君はすごいな。」
「そうですか?」
「ああ。君の才能と言っていい。」
「そこまで褒めなくてもいいですよ。」
「いや、本気だ。いっそのこと料理人を目指したらどうだ。」
「ちょっと、うちのパイロットになんてこと言うのよ。」
「彼は14歳だろう? EVAは17歳くらいまでしか乗れないらしいからな。だから一つの道を示したまでだ。」
「そう………そうよね。」
ミサトの顔が少し暗くなる。
「何せよまだ時間はあるんだ。それにやらなくちゃいけないことがあるだろう。それが終わった後でもいいだろう。」
「そうね。」
少し明るくなる。
「ところでシンジ君。本気で料理人にならないか?」
「僕はまだ何になりたいのか考えてないんで……」
「そうか。もし料理人になるなら全力で応援するぞ。」
「ありがとうございます。」
「そういや自己紹介がまだだったな。俺は綾波コウスケ、階級は特務二尉、作戦部の副部長兼航空隊隊長だ。隊長と言っても俺ひとりだが」
「僕はサードチルドレンの碇シンジです。」
「なんにせよ使徒が来たらともに肩を並べて戦うことになるからな。今後ともよろしく。」
「はい。よろしくお願いします。」
「戦闘になったらお前らだけに負担をかけるようなことはしないよ。全力でサポートするからな。」
「はい。」
そういってシンジは笑顔を見せた。
(こりゃ………天然のジゴロになれそうだな。)
中性的で整った顔立ちで屈託のない笑顔を見ながらコウスケはそう思った。
「そういや碇ってどこかで聞いたな……」
コウスケはゲンドウのことを名前よりも格好で覚えていた。
「ああ、碇司令のこと?」
「そうだ。司令の名前だったな。」
「シンちゃんは碇司令の息子よ。」
「そうなのか?」
「あっ、はい………」
シンジは暗い表情になる。
「……何があったかは聞かないがあまり思いつめなくていいぞ。とはいっても難しいか。」
「……そうですね。」
「暗い!そうやって物事を悪い方向にもっていくのは美徳ではないよ。」
「そうよん。せっかくのパーティなんだから。」
「そうですね。」
少し明るくなったようだ。
(でも根本的な解決にはなっていないな。)
コウスケの目には少年が無理しているように見えた。
「……少しいいことを教えよう。碇司令はすごいプレッシャーをかけてくるがあれは見せかけだ。」
「見せかけ?」
「そう。俺もいろんな人を見てきたが、ああいう人は他人に対して臆病なだけだ。」
二人は目を丸くしている。
「他人に拒絶されるのが怖いからこっちから先に拒絶する……まぁ、あまり大人とは言えないな。」
二人は唖然としている。
そこまで考えが及ばなかったのだろう。
「だからこっちは拒絶するつもりはないと意思表示していけば変わるかもしれないな。時間はかかるだろうが……」
シンジは複雑な表情を浮かべている。
「どうするかはシンジ君次第だがな。ゆっくり考えるんだな。」
そういってビールを一口
「それよりも料理はいいのか?せっかくのごちそうが台無しになっちまう。」
「そうね。時間はあるし難しいことはゆっくり考えましょうシンちゃん。」
「……そうですね。」
そういって食事が再開した。
学校はどうか、恋人はいないのかなど他愛のない会話をしながらパーティは続いた。
「……シンジ君はレイとあったのか?」
「レイ?」
「そうだ。綾波レイ、君と同じEVAのパイロットだ。」
「一回だけ……」
「どうだった。」
「どうだったと言われても………あの時はそんな暇ありませんでしたから。」
「あの時?」
ミサトは苦い顔をしている。
「ええ、突然呼び出されてパイロットになれと言われて……何が何だかわからないうちに彼女がストレッチャーで運ばれてきたんです。すごい怪我でした。」
「………」
シンジは顔を俯けた。
「そしたら……父さんがその子を乗せようとして……だから僕が代わりに乗ったんです。」
「その時、碇司令以外に誰かいたか?」
「父さんとリツコさんとミサトさんです。」
「葛城、今の話は本当か?」
「ええ。事実よ。」
ミサトは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「……ひどい茶番だな。」
「茶番ですか?」
「ああ、レイは美人と言えるだろう。いや美少女か。そんな子が大怪我を負って、しかもEVAに乗せられるかもしれないなんて思ったら、大抵の男の子は自分が代わりになんて考えるだろう。」
「………」
「でも君の選択は間違いではないだろう。もしあんな状況でレイがEVAに乗ったら、間違いなく死んでただろうからな。そういう意味では君はレイの恩人でもあるかな?」
「恩人だなんて…そんな……」
「それが事実だろ。まあレイ自身がどう思っているかはわからんがな。」
「その子はどういう子なんですか?」
「それは君自身が決めることだな。…そうだ明日お見舞いに行くつもりだがシンジ君も来るか?」
「いいんですか?」
「もちろんだ。同じパイロット同士顔くらいは知っておかんといけないだろう?」
「わかりました。僕も連れて行ってください。」
「なになに? シンちゃんもレイに興味があるの?」
「なっ……そうじゃありませんよ。ただ怪我がひどいみたいだから心配なだけで……」
「そっか、おっとのこだもんね。」
「ミサトさん!」
シンジの顔は赤い。
(思春期だもんな…)
コウスケはビールを飲み干す。
(それに比べればレイは…)
思わず二人を比較してしまう。
(もしかしたらシンジ君ならレイを救い出せる………?)
と考えて慌ててやめる。
(危ない危ない。俺は何を考えているんだ?)
二人の関係がどうなろうがそれは二人で決めるものだ。
他人が口出ししていいものではない。
「明日は学校があるだろう。」
「ええ、ただ土曜日なので午前中で終わりですが」
「なら決まりだな。明日午後2時にゲート前で会おう。」
「わかりました。」
・・・
パーティは家主がつぶれたためお開きとなった。
片付けも手伝おうとしたがシンジに断られたため帰ることにした。
(綾波レイと碇シンジか…)
今日会った二人のチルドレンのことを考える。
いまだに14歳
勉学、部活、恋愛など様々な経験を積み始める年頃だろう。
そんな子供たちを戦場に駆り立てる大人たち
そんな子供たちと肩を並べて戦場に出るコウスケ
正直気が重い。
(まっ、俺は二人を全力でサポートする。それしかないな。)
人類の命運を14歳の少年少女に預ける。
二人を支えられるのは戦場に一緒に立つ俺だけだろう
そんな独善的なことを考えるコウスケであった。
(なんにせよ、なるようにしかならんか。)
そう思いコウスケは暗い夜道を歩いていく。
その先に見えるのは希望か絶望か
暗い夜道はまだまだ先の見えない未来を映しているかのように見えた。