キールからカヲルを預かって既に数日が経っていた。
カヲルは一人でNERV施設にて寝泊まりしているのではなく、綾波家の一員となった。
部屋は葛城家で言うシンジの部屋だ。
カヲルが持ってきたものはかなり少なく部屋の整理も既に終わっている。
また、フィフスチルドレンとして登録されており、NERVでカヲルを知らないものはいない。
さらにミサトやリツコと言った上級職員にはカヲルが使徒であることが既に知れている。
コウスケがカヲルと会った日にゲンドウが公開したのだ。
そしてカヲル自身も使徒であることを隠さなかった。
「驚かないんですね。」
「もう、前例があるからな。」
発令所のメンバーはカヲルが使徒だと言っても驚いていないようだった。
その前例となった人物はカヲル以上にNERVを騒がせたのだから、人型の使徒が現れたと言って今更驚くことのほどではなかった。
そんな発令所のメンバーたちの反応にカヲル自身が驚いているようだった。
カヲルのテストが行われたが、自由にシンクロ率を変えられるという結果が出てきた。
どのEVAでもそのような結果なのだ。
それにリツコが驚いているが、コウスケはさほど気にしていない。
つまりは所詮、特技の一つに過ぎないということだ。
ただ、リツコが怪しく笑っていたことはコウスケに取ってとても怖いことだった。
・・・
コウスケが目覚めるといつものようにリリスが横で寝ている。
もう慣れてしまった光景だ。
コウスケが床を見るとばらばらになった目覚まし時計が落ちていた。
これも慣れてしまった光景だ。
「ふむ……以前に比べれば破片が大きく残ってるな。」
リツコが喜ぶだろうとコウスケは思った。
リツコは当初、自分が作り上げた極地型の目覚まし時計を見事にばらばらにされたことにかなりショックを受けていた。
「そう………これは私への挑戦なのね……」
そう呟いたのをコウスケは覚えている。
(やはりマッドサイエンティストと言うのは間違いないようだな。)
などとコウスケは内心で思った。
それからと言うもののリツコは必ず目覚まし時計の破片を持ってくるようにとコウスケに言った。
そのデータはリツコが必死に解析をしている。
リリスのATフィールドに耐えられる目覚まし時計ができるのもそう遠くはないかもしれない。
ATフィールドに耐えられるということは当然ながらNN爆雷にも耐えられるということである。
今ではEVAの拘束具より硬い素材でできているとリツコと伊吹が自慢げに語っていた。
開発中である素材は「耐ATF装甲」と名付けられている。
リツコが解析したデータはEVAの拘束具とNERVを守る装甲にも使われており、日に日に強固なものとなっている。
そのデータはゲンドウと冬月にも届けられており、二人は研究を継続するように指令を下している。
予算は二人のバックボーンから無限ではないが出てくるので全く心配はない。
技術と言うのはこのように進歩していくものなんだなとコウスケは妙に感心していた。
……いずれは民間にも出回るかもしれない。
とにかくコウスケはいつもの通りにリリスを起こす。
「いひゃい!」
「起きろ。」
リリスは起き上がると抓られた頬をさすっていた。
「もう……優しくしてくれてもいいじゃない……」
不満そうに膨れっ面になるリリスにコウスケは少し罪悪感を感じるが、それもいつものことである。
それでもこの起こし方を止めないのはコウスケ自身がかなり気に入っているからである。
リリスの頬の感触がコウスケに取ってかなり気持ちがいいのだ。
人、それを変態と呼ぶ。
そんな考えがコウスケにもあるが、自分でも止められない。
「今日はお前さんが作ってくれるんじゃないのか?」
「へ……きゃああああ!」
リリスは叫ぶと慌てて部屋を飛び出していった。
「やれやれ……」
コウスケもベットから身を起こした。
・・・
コウスケはテーブルの前に置かれた椅子に座っている。
台所を見るとリリスが慌てながら、しかし着実に料理を作っていた。
そんなリリスの姿にコウスケは心の安らぎを覚えていた。
「ルシファー。」
コウスケが振り向くとアルカイックスマイル浮かべているカヲルがいた。
既に制服に着替えている。
カヲルはレイたちと同じ学校に通っている。
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
カヲルはコウスケの対面に座った。
そして興味深そうにリリスを見ていた。
とても複雑そうな顔だ。
そんなカヲルをコウスケはじっと見ているのであった。
「特務一尉、おはようございます。」
レイも起きだしたようだ。
コウスケが挨拶を返すとレイはカヲルの横に座った。
「おはよう、レイ君。」
「……おはよう。」
カヲルの挨拶にレイが答える。
カヲルはレイをレイ君と呼んでいた。
綾波家に来た時に綾波さんと呼んだのだが……
「なんだ?」
「何かしら?」
「何?」
と三人に反応されてカヲルは困ってしまったのだ。
「これは……厄介だね。」
カヲルはそう呟くしかなかった。
カヲル以外は全員「綾波」なのだから無理もない。
それ以降レイはレイ君、リリスはリリス、コウスケはルシファーと呼んでいた。
なんで俺だけが名前じゃないんだとコウスケは抗議するが…
「一番わかりやすいからです。」
と答えられては反論できなかった。
「できたわよ。」
リリスが料理を運んでくる。
コウスケは立ち上がって運ぶのを手伝っていた。
コウスケを基準にするとざっと3.5人前はあるのだ。
カヲルもコウスケくらい食べる。
使徒ならS²機関があるだろうと聞いたのだが…
「僕の順番が来てませんから。」
と答えた。
いつなのかを聞いてもカヲルは答えなかった。
「これで最後ね。」
リリスが料理を運んでくるが、足を滑らせた。
「きゃああああ!」
コウスケがとっさに反応する。
訓練で鍛えた反射神経は期待に応えてくれた。
リリスが持つ皿を受け取り、残った腕でリリスを支えた。
「あ、ありがとう。」
「全く……」
コウスケは心配そうにリリスを見る。
コウスケが思ったより顔が近かった。
リリスはコウスケの視線の感じて徐々に赤くなっていった。
それを見たコウスケも同じく赤くなっていく。
「特務一尉。」
不意に声をかけられて振り返ると
「いつまでそうしているのですか?」
ニヤリと笑ったレイが目に入った。
ニヤリと笑うレイを見た時、シンジはこのようなコメントを残している。
「最初は父さんの真似だと思ってたんですけど、違うんですよ。あれはコウスケさんの影響です。」
それを言われた時、コウスケは一時間ほど考え込んだそうだ。
とにかくレイの声でコウスケは我に返った。
「え……あ、ああ……」
コウスケはリリスを立たせた。
「これがラブラブと言うやつですね。」
レイから追撃が来る。
ここでコウスケが黙っているわけがない。
「お前さんだって似たようなことをしてるだろ。」
「何の事ですか?」
「言っていいのか? この前の日曜日だって……」
そこまでコウスケが言うとレイは慌てふためきながら赤くなった。
「特務一尉、ごめんなさい。私が悪かったです。だからそれ以上言わないで……」
「なんだよ……これから面白くなるのに……」
そう言ってレイを沈黙させたコウスケは皿をテーブルに置いた。
リリスはいまだにぼーっとしている。
それをカヲルは複雑そうにじっと見ているのであった。
・・・
コウスケが執務室に入るといつものように書類の山が出迎えてくれた。
「今日は多いな…」
「私も手伝えればいいのに……」
リリスが残念そうに呟いた。
「これは俺の仕事だからな。お前さんは自分のできることをしてくれ。」
「私、頑張るから!」
そう言って張り切りながらリリスは自分のデスクに向かった。
リリスの仕事とは漢字の書き取りである。
ひらがなとカタカナは既にクリアしており、漢字も小学二年生レベルまではクリアしていた。
それに日を追うごとに間違いは少なくなっており、リリスが一般的に使われる漢字をマスターするまでそう時間はかからないとコウスケは思っている。
懸命に書き取りに励むリリスを横目にコウスケは少し悩んでいた。
上司が何かと厄介ごとを持ち込むとか、そのバックボーンがうるさいだとかそういうものではない。
「良い話もなければ悪い話もない……か………」
コウスケが頭を悩ませているのは、新たなる同居人になった渚カヲルのことである。
チルドレンに関する情報は逐一にコウスケのもとに届けられるようになっている。
そのためコウスケは誰が何をしたかと言うのをNERVで一番知っている。
なのだが、カヲルだけは何もないのだ。
あると言えば、学校でかなりの人気‐特に女子からの人気があることと一人で歌を歌っているということだけだ。
誰と何をしたというものがない。
そしてコウスケが見る限りカヲルと積極的に係わろうとする者もいなかった。
唯一シンジだけはカヲルに並々ならぬ関心があるようだ。
別にシンジがカヲルに惚れているというものではない。
レイとカヲルが学校に登校するときにコウスケは玄関まで見送りに行くのだが、必ずシンジがカヲルを警戒するように見ているのだ。
レイはそれを見ながらよく首を傾げている。
そんなレイにコウスケは
(うむ、絵になるな。……NN並の破壊力だ。)
なんて考えていたりする。
リリスも全く同じしぐさをする。
その時は目を逸らしてしまうのだ。
その時によくレイのニヤリが発動する。
とにかくシンジがカヲルを警戒する理由はただ一つ
綾波レイだ。
シンジからしてみれば自分の婚約者が同年代の少年と一つ屋根の下で暮らしているのだ。
それで心配するなと言うほうが無理ではないだろうか。
最もレイには完全無欠の親ばか課長がいるが……
そういうわけでカヲルは常に一人でいることが多い。
これに対しコウスケはカヲル自身が人との係わりを持とうとしていないのではと考えていた。
(このままだと……使徒として殲滅……そうなるな……)
それは避けたかった。
今までの使徒とは違い、カヲルは人と意思疎通ができるのだ。
そんな彼を使徒として殲滅などしたら、シンジやアスカ、特にレイがどれほどの心理的ダメージを負うかわかったものじゃない。
「はぁ~……」
「どうしたの?」
リリスが心配そうにコウスケを見ていた。
「カヲルだよ。」
「あの子ね……確かに心配だわ。」
「人として生きようと思って無いのかもしれんな……」
「よく一人で歌を歌ってるわよね。」
リリスは悲しそうな表情になっていた。
「あの子の歌声は嫌いじゃないけど……何となく寂しいのよね。」
それはコウスケも感じていることだった。
「歌か………歌………音楽…………」
「どうしたの?」
コウスケは黙って考え込んだ。
そんなコウスケをリリスはじっと見つめているのであった。
・・・
「よし、集まったな。」
綾波執務室にはコウスケとリリスの他にミサトと加持、リツコとチルドレンたちがそろっていた。
「いったいどうしたのよ。」
「まだ、仕事が終わってないのよ。」
「俺もこれからスイカ畑に行く予定なんだが……」
一名、かなり私的なことを言っているがコウスケは無視した。
「これから重大発表がある。」
コウスケの言葉にカヲル以外の全員が息を飲んだ。
本人が望んでなったわけではないが、NERVでもVIP中のVIPに入るコウスケである。
そんな人物から重大な発表があるなんて聞かされたら緊張するのもおかしくない。
皆がコウスケの言葉を待った。
「多分、これはNERV創設以来の重大な出来事だろう。」
「そ、そんなに重大何ですか?」
シンジの声が緊張で少し震えていた。
「ああ。」
コウスケはひと間おいて続けた。
「NERVで………演奏会を開く。」
綾波執務室は沈黙で彩られた。
どこからかぴよぴよと言う音が聞こえているようだった。
コウスケが何を言ったのか皆が理解できていないようだ。
鳩が豆鉄砲を食ったような顔とはこういうことを言うんだなとコウスケは一人だけ思っていた。
そんな沈黙を破ったのはリツコだった。
「コウスケ君、なんて言ったの?」
「演奏会だ。」
「なんでこんな時期に演奏会なの?」
ミサトの疑問は最もである。
使徒との戦争を担っているNERVでそんなことをする余裕など正直無いのだ。
「葛城が言いたいことはわかってる。」
コウスケはその目的を話すために言葉を続けた。
第一に演奏会を開くことでNERV内の連帯感を強めること。
第二に対外的にNERVに対するイメージアップを図ること。
「でも、いいのか? 綾波。」
「なんだ? 加持。」
「NERVは非公開組織だろ?」
「全くもって問題ない。」
コウスケはそう言ってゲンドウポーズを取った。
一度やってみたかったのだ。
おまけにニヤリともしている。
正直不気味であった。
コウスケが思った通りに皆は少し引いていた。
「NERVは確かに非公開組織だ。だが、第三新東京市のあらゆる企業にスポンサーとしてNERVは活動している。」
コウスケの言うことは事実であった。
郊外にある温泉街にはNERVのロゴが入ったお土産が陳列されているし、市内にある日用品にもそのロゴが入っているものもある。
普段コウスケが市内を散歩しているときによく見かけるのであった。
「まあ、時間がないから演目は二つの予定だ。」
「何をするの?」
「歓喜の歌とパッヘルベルのカノン。」
「それで、私たちが呼ばれた理由は何?」
さながら当然のようにアスカが言った。
「お前たち四人には一つの演目を任せることになっている。」
「え、ええ!」
シンジが驚きで声を上げていた。
「そんな! 無茶ですよ!」
「無茶じゃない。それにシンジ君はチェロができるだろう?」
「できますけど……」
シンジの顔には不安しか見て取れなかった。
「アスカもできるだろう?」
「バイオリンならできるわよ。……あんまりうまくないけど……」
「レイはヴィオラができるんだよな。」
「はい。」
「それでカヲルは……」
「僕もバイオリンですよ。」
相変わらずのアルカイックスマイルで答えるカヲル
コウスケは四人が楽器を演奏できることを当然ながら知っていた。
シンジは過去の経歴から、アスカはドイツ支部から無断で拝借した。
カヲルはSEELEに確認を取って、レイはリリスに聞いたのだ。
「なら、決まりだな。演目はカノンだ。」
コウスケは満足そうにうなずいた。
「それで、俺たちは何をすればいいんだ?」
「葛城は作戦局から、赤木は技術開発部から、加持は他の部署から人員を選んできてくれ。楽器が扱えるものと……後は合唱団だ。」
コウスケの言葉に皆がさらに驚いた。
今度はミサトの方が早かった。
「コウスケ君、合唱団も編成するの?」
「当たり前だ。やるからには全力でやらせてもらう。」
コウスケの目は真面目になっていた。
「と言うことは……指揮者もいるのね?」
リツコが一番肝心なことを聞いてきた。
「………未定だ。」
「そんなこと言わないで教えてよ。もしかして……リリス?」
ミサトが軽めの口調で言ってきた。
「リリスは合唱団だ。」
「へ……合唱団?」
「そうなのよ。コウスケがどうしても私の歌声が聞きたいって言うから……」
リリスは嬉しそうに言った。
コウスケはゲンドウポーズを崩さなかった。
意外と気に入ってしまったらしい。
そんなコウスケを見て皆はリリスを利用したなと考えた。
しかし、レイだけはニヤリと笑っている。
「特務一尉、本音ですね?」
レイがそう言うとコウスケはびくりと反応した。
「図星みたいだな。」
「そうね。」
「コウスケ君、よかったわね。」
大人たちがニヤニヤとしていた。
「リリスさんの歌声か……綾波に似て綺麗なんだろうな……」
そんなシンジの言葉にレイが膨れっ面になる。
「違うわよ、レイ。シンジはレイの声も綺麗だって言ってるのよ。」
アスカがにやけながらレイに言う。
「べ、別に……リリスさんの歌って聞いたことないから……だから前に聞いた綾波の歌声がよかったから……」
などとしどろもどろになっているシンジ
「そう言えば、チェロとヴィオラの二重奏ってあるのよね。」
「た、確かにあるけど……」
赤くなりながらシンジは答えた。
「これを機にやってみたら?」
にやけ顔でアスカは言う。
「何言ってるんだよ! でも……綾波との二重奏か……」
「碇君との……」
レイとシンジはともに妄想モードに突入
「やっぱり飽きないわね。」
アスカは二人をからかえて満足そうだった。
「よ~し! そう言うことなら私も頑張るわよ!」
とミサトが大張り切りで言った。
「ミサト? 何を頑張るの?」
「何って、合唱に決まってるじゃない。」
「おお、葛城もやってくれるのか。」
ミサトのやる気にコウスケが嬉しそうに言った。
「決まってるじゃない。」
そんなミサトの声を聞いてリツコと加持は汗を流していた。
「どうしたんだよ。」
「コウスケ君……悪いことは言わないからやめなさい……」
「リッちゃんの意見に俺も同意だ……」
「なんでだよ。本人がやる気なんだからいいだろ。」
ミサトも不満そうに二人を見ていた。
「……なら、私の研究用のファイルにあるMKにアクセスして。」
リツコの声は震えていた。
「必ずイヤホンをするんだぞ。」
加持もそのようなことを言う。
コウスケは不審に思いながらもPCにイヤホンを取り付けて操作した。
(……MK……これだな……)
「………な……ぐわああああ!」
突然コウスケはもだえ苦しんだ。
「大丈夫!?」
リリスが声を張り上げながら言う。
コウスケは何とか気絶するのをこらえることができた。
リリスはコウスケからイヤホンを取ると自分につけた。
「!!!!!」
リリスは固まってしまった。
「おい! 大丈夫か!」
「コウスケ……」
そう言うとリリスはコウスケに抱き付いた。
「うう、ポカポカしない……しなかったよ………」
などと言い、リリスは泣きだした。
「何よ……」
ミサトが不満そうにコウスケたちを睨んでいた。
「……すまんが、葛城は仕事が残ってるだろ? それを優先してくれ……」
完全に元気が無くなったコウスケが聞いたものはミサトの歌であった。
耳に襲い掛かる不協和音の調べ…
コウスケは心の中で全領域決戦兵器と言うあだ名をミサトに名付けるのであった。
何故、そんなデータをリツコが持っているのかと言うと、非殺傷兵器のサンプルにするためである。
MKとは葛城ミサトの頭文字から取ったものである。
とにかくコウスケの言葉を聞いたミサトはかなり不満そうだった。
「………そう言えば、副司令がこんなことを言っていたな……葛城三佐の勤務態度に問題あり、減俸、あるいは降格も考えねばならん……だったか?」
「結構たまってるからな。葛城の仕事。」
加持がコウスケを援護するように言った。
それを聞いてミサトは顔を引き攣らせた。
「秘書からも証言を得られたからな……早速……」
そう言ってコウスケは受話器を手に取った。
「わかったわ! だから……」
「職務に励んでくれよ。葛城三佐。」
コウスケは心底安心した。
ふと見るとリツコと加持も安心したようだ。
「とにかく明日から練習だ。時間は1730時からだ。場所は追って連絡する。三人は選出を急いでくれ。」
そう言うと皆は頷いた。
コウスケはこの演奏会にかなり期待しているのだ。
最もコウスケが期待しているのは皆が考えることとは違うものである。
ふと見るとカヲルが我関せずという態度だった。
しかし、カヲルの横顔にはどことなく寂しそうに見えた。
「さて、うまくいってくれればいいな……」
そうコウスケは呟くのであった。
コウスケが期待することとは一体なんでしょうか?
それは次回までのお楽しみです。
四人の演目がカノンになった理由
皆さまならおわかりですよね。
今回のおまけ
人によって感じ方は違う
そういうお話
おまけ
「特務一尉は何もしないんですか?」
レイが唐突にそのようなことを聞いてきた。
傍らにはシンジとアスカ、リリスがいる。
カヲルは話が終わってどこかに行ってしまった。
「俺はお前たちの練習に参加するよ。」
「コウスケも楽器ができるの?」
アスカが聞いてきた。
「……できないよ。」
「そうなんですか?」
シンジは驚いていた。
なにせコウスケは大方のことなら一通りできるのだ。
ある意味なんでもできる超人に見えていたのだ。
「……楽器だけはダメなんだよ。」
これでもコウスケはいろいろ挑戦したのだ。
だが、どんな楽器を扱っても全く上達しなかったのだ。
しまいには引いた途端に弦が切れたり、パーツが破損するなどということが起きていた。
リコーダーですらダメなのだ。
そんなことが起きてしまえばやりたくてもやる気が失せるというものだった。
「だから監督者としていることになるよ。」
「へぇ、コウスケにもできないことがあるんだ。」
「当たり前だ。」
「リリスさんはどうなんですか?」
シンジがリリスに聞いた。
「私はね……」
「カスタネットだろ。」
答えようとするリリスを遮ってコウスケが言う。
「こう……片手に持って……うん、タン、うん、タン……てな。」
コウスケは動作もしていた。
それを見たレイとシンジ、アスカは笑いをこらえていた。
「ぷ……似合ってるわ……」
アスカが苦しそうに言う。
「む~!」
リリスが膨れっ面になっていた。
一方、コウスケは何かを考え込んでいた。
「コウスケさん、どうしたんですか?」
シンジがコウスケの様子を窺いながら聞いてきた。
だというのに反応がない。
「特務一尉?」
「コウスケ?」
レイとアスカの言葉にも反応しなかった。
「………いいかもしれん。」
「「「へ?」」」
三人が同じ反応を返した。
「カスタネットにリリス………いいな。」
「ちょ、ちょっと……」
「特務一尉?」
「コウスケさん、大丈夫ですか?」
コウスケの反応に三人は心配になった。
「…………可愛すぎる………」
とコウスケは呟くのであった。
・・・
演奏会が終わった後、リリスはコウスケの前でカスタネットを叩いたそうだ。
ニコニコの笑顔でコウスケがしていたことと全く同じことをしたそうだ。
それにコウスケがどのように反応したかは記録されていない。
ただ、それを間近で見ていた娘と同居人はこのようなコメントを残している。
「リリス、嬉しそうだった……私も碇君にやってみようかしら……」
「僕には理解できないけど、ルシファーにとっては抱きしめたいくらい愛くるしいと言うわけなんだね。参考になるよ。」
だそうだ。