NERV航空隊隊長綾波   作:浩介

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第42話 明けの明星

NERV交響楽団の結成宣言から三日が立った。

思ったよりも早く人員の確保に成功したコウスケである。

どうやら趣味でそう言ったことをしている人がかなり多かったのだ。

普段はNERVでの仕事で奮闘しているNERVの職員たちは休暇などで趣味に耽っていると言うことなのだ。

そういうわけでその話をすると嬉しそうに返事をしたとミサト、リツコ、加持から話を聞いたのだ。

最も加持は自分の担当の多さに愚痴をこぼしていた。

「綾波、なんで俺だけこんなに多いんだ?」

「スイカ畑に精を出せるんだからいいだろ? それにお前さんはいろいろとつてがあるだろう。」

「そうとは思わないけどな…」

「そうか…」

コウスケはニヤリと笑った。

加持はそれを見て背筋が凍るような感覚に囚われる。

「こんな面白い話があるぞ。この前、作戦局の誰かさんが休暇の時に広報部の子とデートしていたって話がな。」

それを聞いた加持は顔が青ざめた。

「い、いや……それは……」

「その前の時は開発部の子だったよな?」

「な、なんで……」

「いや~、葛城さんが怖いね。」

「……精一杯、がんばります。綾波特務一尉……」

「そいつは重畳。頑張ってくれたまえ、加持三尉。」

そんなことがあったことは全くの余談である。

ちなみに加持は基本的にミサト一筋なのだが、長年染みついてしまったものはそう簡単に取れなかったのだ。

とにかく、オーケストラだけでも100名、合唱団は200名に上った。

もっと人数を集めることもできるのだが、これ以上集めると編成に困るためコウスケが選抜したのであった。

合唱団の編成にはリリスが当たっている。

リリスは初めての仕事だと大張り切りだった。

オーケストラは発案者であるコウスケが見ている。

最もオーケストラは独自で練習させている。

歓喜の歌自体がすぐに演奏できるものでもないので独自に練習する時間が必然的に長くなるからだ。

それに指揮者が誰になるのかまだ決定がなされていない。

チルドレンたちは学校が終わるとNERVでカノンの練習をするようにしていた。

カノン自体はそんなに難しくないのですぐに覚えて演奏できるのだが、どうも統一感がなかった。

それがコウスケを悩ませる。

「レイ、テンポが半分くらい遅かったぞ。」

「シンジ、第三弦が半オクターブずれている。」

「アスカ、お前さんはレイの逆だ。少し早い。」

などとコウスケは指導していた。

そんなコウスケに皆は驚いていた。

カヲルに対しては何も言わなかった。

特にミスらしいミスをしていないからだ。

だが、コウスケは何故、統一感が得られないのかを正確に把握している。

最もそれを言わないのは自分自身で気づいてほしいからだ。

とはいうもののこのまま放置するわけにもいかない。

コウスケは目の前のPCで少し調査をしていた。

・・・

 

「今日は練習を中止して、少し出かけるぞ。」

コウスケはチルドレンたちにそう言った。

「どこに行くのよ。」

「それは行ってからのお楽しみだ。」

そう言ってコウスケはカヲルを見た。

特に関心を示しているわけではないようだ。

・・・

 

「ここは……どこですか?」

コウスケが運転する車から降りたシンジはそう言った。

ぱっと見ただけではどこかわからないのでシンジの疑問は当然と言えるだろう。

ちなみにリリスもついて来ている。

コウスケがリリスにも見てもらいたいと思ったからだ。

「ここは火葬場だ。」

コウスケから出てきた言葉に皆が驚いていた。

「なんでそんなところに連れてきたのよ。」

アスカは明らかに不満そうな声を出していた。

レイも訝し気にコウスケを見ている。

するとコウスケたちの目の前を喪服で身を包んだ集団が通り過ぎた。

先頭には棺があった。

「……誰か亡くなったんですか……」

シンジの声には張りがなかった。

「ああ、行くぞ。」

コウスケはそう言うと喪服の集団について行く。

皆もコウスケの後に続いた。

・・・

 

コウスケたちは建物の出口に立っていた。

親族ではないのでさすがに中には入れなかったのだ。

それでも中の様子は外から十分に見ることができた。

親族の前に立っていた僧侶が何かを言っている。

僧侶が言い終わると棺が焼却炉の中に入って行く。

「おじいちゃん! いっちゃやだ!!」

おそらく孫であるのだろう。

一人の子供がそう言うと大声で泣き出してしまった。

それにつられるように泣き声が所々から漏れ出していた。

声を出していないものも目尻から涙が出ていた。

そんな中で一人だけは他の人とは違った。

棺は人々の鳴き声の中を進んでいく。

そして扉が閉ざされた。

それを見届けた親族は悲しみを携えて待機室へと向かって行った。

そんな光景を目のあたりにしていたコウスケとカヲル以外の皆は悲しそうに顔を俯かせていた。

「カヲル、あの人たちの中で誰が一番、悲しんでいたと思う。」

コウスケは不意にそのように聞いた。

「それは……あのリリンの子供ではないのですか?」

「違うわ。」

カヲルの答えにレイが否定した。

「あのおばあちゃんよ。」

「レイ君、どういうことだい? あのリリンは泣いてもいなかったし、悲しそうでもなかったよ。」

「だからよ。」

「そのとおりだ。」

コウスケは嬉しく思った。

レイがそのように答えるとは思ってもなかったのだ。

「ルシファー、どういうことですか?」

「あの婦人は棺に入っていた人の妻なんだろう。」

コウスケは言葉を続けた。

「あの人にいったい何があったのか……俺にはわからない。だけど、凛とした強さがあった。何故だと思う?」

「……わかりません。」

「想いだよ。受け継がれた想いさ。最もどんな想いかはわからないけどな。」

カヲルは不思議そうに首を傾げていた。

「レイには言ったよな。死んだらどうなるか……」

「覚えています……」

「それでも死は免れない。それが人と言うものだ。俺だって順当にいけばお前さんたちより十五年は早く死ぬことになる。」

ふとレイを見ると悲しそうに見ていた。

なんでそんなことを言うの?

そういう風に目で訴えていた。

「そんなに悲しそうに見るなよ。それに俺は永遠に生きるんだからな。」

「S²機関もないのに無理ですよ。」

カヲルがさも当然のように言ってきた。

「そうだ。俺自身はいつかは死ぬ……だが、残されるものもあるんだ。」

「……それが想いなんですね。」

「そうだよ。シンジ君の言うとおりさ。だが、それを残すためには絶対に必要なものがある。……一年前の俺では絶対に無理だった。今もどうかはわからん。」

「………絆。」

「そのためには他人がいなければならないのね……」

レイの後にアスカが続けて言う。

「だから人は強くなれるんだ。それが人の強みなんだ。心を通わせることのできる人のな。」

コウスケはカヲルを見た。

何かを苦しんでいるように見えた。

「カヲル、お前さんは何を想うんだ? そしてそれを次の世代に受け継がせることができるのか?」

「ぼ、僕は……」

「もし、それができないなら……悲しいことだな。」

カヲルは黙って考え込んでしまった。

そして口を開く。

「……ルシファーは何を想うんですか……」

「俺はな………未来だ。未来が欲しいんだ。みんなが笑って暮らせる未来がな。そして、その中にカヲル……お前さんもいる。」

「でも、僕はあなたたちが葬ってきた使徒と同じですよ。」

「使徒……か……分かり合えたらどんなに良いことなんだろう……」

コウスケの表情には陰りがあった。

「ATフィールドが有るということは使徒にも心があるんだろう……でも、使徒は俺が守りたい人たちを殺してしまう存在だ……複雑だよ……」

カヲルは何も言えないようだった。

「だからさ、リリスが人として生きてくれることを選択したときは嬉しかったんだ。使徒として殺さずに済んだってな。」

そう言ってコウスケはリリスに微笑みかけた。

リリスはコウスケに飛びついた。

「お、おい……」

「ありがとう……でも、いきなり死なないでね。」

「当たり前だ! レイを残して死ねるかよ。」

リリスはむすっとした顔になった。

「レイだけなの……」

「む……そんなこと言わせるな。」

リリスはじっとコウスケを見ている。

「むう……」

コウスケは困り果ててしまった。

・・・

 

あの後、カヲルの変調が見られた。

家では何かをずっと考え込んでいるようで、学校でもそんなそぶりを隠さないようだった。

歌も歌っていないらしい。

演奏でもミスを連発していた。

そんなカヲルにレイやシンジ、アスカは心配そうに声をかけるが、気のない返事を返されるだけであった。

「カヲル、また同じところを失敗してるぞ。」

「………すみません…………」

これも何度か繰り返した事である。

だが、この時はそうではなかった。

「あんた! やる気あんの!?」

アスカがバイオリンの弓をカヲルに突き付けながら言った。

カヲルは何も答えない。

「ちょっと! 返事くらいしなさいよ!」

「アスカ! 止めなよ!」

シンジが止めに入るがアスカは止まらなかった。

「シンジは黙ってて! こんなやる気がない奴なんてこっちがいい迷惑よ!」

するとカヲルはすっと立ち上がった。

「僕にはリリンの考えていることなんてわからないよ………」

そう言ってカヲルは出ていった。

「アスカ、言い過ぎ。」

「そうだよ! いくらなんでもあれは酷すぎるよ!」

「そうだな。もう少し言葉を選ぶべきだな。」

三人から言われてアスカもばつが悪そうにしていた。

「まあ、アスカの言いたいことはわかる……俺が行ってくるから、三人は練習しててくれ。」

そう言うとコウスケもカヲルの後を追って行った。

・・・

 

カヲルはNERVの休憩室で一人たたずんでいた。

「浮かない顔だな。」

「……ルシファー………」

「横に座るぞ。」

コウスケはカヲルの横に座った。

暫く沈黙が続く。

沈黙を破ったのはコウスケの方だった。

「人の考えていることなんて完全に理解はできない。」

「……そうです。僕は……」

「それは違うな。」

コウスケはカヲルの言葉を切った。

「だとしたら、リリスはどうなるんだ? 彼女も俺たちからすれば使徒だぞ。」

カヲルは何も答えなかった。

「リリスとお前さんの違い……それは分かり合おうとしているかどうかだ。」

「でも……」

「自分には人の心なんてないってか?」

コウスケがそれを言うとカヲルは驚いていた。

「だとしたら、なんであの時……子猫を殺さなかった。」

コウスケの言葉にカヲルは目を見張った。

「何故、それを……」

「俺は軍人だぞ。それくらい触ればわかる。」

コウスケは煙草を取り出した。

「言っておくが、子猫は俺が始末した。」

「なんで!」

「あのままだと確実に死んでいたからだ。お前さんは最も残酷なことをしたんだ。徐々に死んでいく苦しみをな……」

そう言うとカヲルは顔を背けてしまった。

「……最後までトドメを刺さなかったのは、お前さんが子猫を哀れに思ったからだろ。一人でいる自分と重なって……」

コウスケは煙草に火をつけた。

「図星か……そうやって悩んでいるのはお前さんの心なんじゃないか?」

カヲルがコウスケの顔を見る。

コウスケはカヲルの顔を見ずに煙草を吸っている。

「それに歌が好きなんだな。」

「歌を歌っていると一人でいることを紛らわせることができますから……」

「だろうな。」

「そうです。」

カヲルは俯いていた。

「……歌には人の想いが込められている。どんな歌にもだ。それにお前さんの心が反応してるんじゃないか?」

「僕の……心が………」

「人の想いを歌で感じ取れるんだろ。それに紛らわせるってことは一人でいるのが寂しいってことじゃないか。」

カヲルははっとなりコウスケを見た。

コウスケは煙草を消して灰皿に入れる。

「ちゃんとあるじゃないか。使徒なんてものじゃない、渚カヲルの心がここに……」

「……そうか……あるんだ……」

コウスケはこっちに近づいてくる気配を感じた。

「……それにお前さんは一人じゃない。」

カヲルが顔を上げると練習していたはずの三人がそこにいた。

「カヲル君、ここにいたんだね。」

「心配かけないで。」

アスカは黙っていた。

「アスカ。」

「わかってるわよ!」

レイの問いかけにアスカが答え、カヲルの前に出てきた。

「……さっきは悪かったわ。少し言い過ぎた。」

ぶっきらぼうに言うアスカにコウスケは少し笑っていた。

「ほら、行くぞ。」

コウスケは立ち上がりカヲルに手を差し伸べた。

カヲルはゆっくりと手を伸ばして

コウスケの手を握った。

「よし! お前たち! 練習再開だ!」

そう言ってコウスケは歩きだした。

カヲルは引っ張られながらも一つ笑みを浮かべると自分の足でしっかりと歩き出した。

再会された練習でいくつかのミスがあったが、嬉しそうに笑顔を浮かべる皆にコウスケはこれ以上の監督は必要なしと判断し、チルドレンの練習に参加しなくなった。

コウスケの目的はもう果たされたのだから……

・・・

 

コウスケはシンジとレイとともに総司令執務室の前に立っていた。

シンジにとって一大イベントを迎えようとしている。

「そんなに緊張するなよ。」

「は、はい……」

「中には一緒に入るが、それ以降はシンジ君だけだからな。」

何故、彼らはここにいるのか

それはゲンドウを演奏会に来るように誘いたいとシンジが言いだしたのだ。

今までゲンドウから働きかけが何度かあったが、シンジからと言うのは初めてなのだ。

それ故にシンジは緊張していた。

レイは何も言わずにシンジの手を強く握っていた。

「ありがとう、綾波。もう大丈夫だよ。逃げたりなんかしない。」

レイはシンジの目を見て手を離した。

「じゃ、行ってくるよ。」

シンジがそう言うとコウスケとともに中に入って行った。

・・・

 

「綾波特務一尉、参りました。」

「い、碇シンジです。」

「うむ、ご苦労。」

コウスケとシンジの言葉に冬月が答えた。

ゲンドウはいつものポーズで座っている。

暫く沈黙が続く。

コウスケは何も言うつもりはない。

ただ、待っているのだ。

シンジは緊張しているようだ。

ゲンドウのことを怖がっているのではないが、今までそんなことをしたことがないので無理もないだろう。

コウスケはシンジの背中をポンと叩いてやった。

「と、父さん! 今度のNERVの演奏会に……来て欲しいんだ!」

「そうか……だが、私はNERVの総司令だ。そう簡単にここを動けん。」

「……そうだよね………」

「NERV総司令としては行けないが、父親としては行くつもりだ。」

それを聞いたシンジは嬉しそうにゲンドウを見ていた。

「シンジ、期待している。」

「うん……」

(不器用なことで……)

冬月もやれやれというような顔だった。

「それでは失礼します。」

そう言うとコウスケはシンジを連れて部屋を後にした。

「冬月先生……」

「わかっている。行って来い。」

「ありがとうございます。」

・・・

 

コウスケは執務室で雑務をこなしている。

リリスは合唱団の練習に行っている。

ふと見るといつもいるリリスがいないので少し寂しいコウスケであった。

そこにレイが現れた。

「どうしたんだ?」

「演目の追加はできますか?」

「できないことは無いが……何かやりたいものがあるんだな?」

レイはこくりと頷いた。

「……特務一尉に教えてもらった歌をやりたいんです。」

「……Fly me to the moonか?」

「はい。」

コウスケはレイの目を見た。

レイは真面目に返してきている。

「……わかった。好きにやってみろ。」

「ありがとうございます。」

そう言うとレイは嬉しそうに戻って行った。

「……嬉しいことを言ってくれるじゃないか。」

そう呟くとコウスケは仕事に戻った。

・・・

 

演奏会まであと少しなのだが、オーケストラと合唱団は不安に彩られている。

いまだに指揮者が誰なのか発表されていないのだ。

代理としてカヲルが指揮を取っている。

そのため練習は滞らない。

本番もカヲルが指揮を執るのかと聞いても

「僕じゃありませんよ。」

としか答えなかった。

コウスケもこの演奏会の発案者としてその場にはいるが、そこにいるだけである。

・・・

 

演奏会当日

NERVは第三新東京市にあるコンサートホールを借りていた。

収容人数は約2500名

コンサートホールを借りるのにSEELEから資金が出ているので観客から料金は取らなかった。

基本的に第三新東京市の市民がここに来ていた。

無論市長も招待されている。

レイたちが通う第三新東京市立第壱中学校の生徒たちも観客として招待された。

SEELEのメンバーも招待されている。

日本政府と戦自にも招待状は出しているが、返ってきた答えはNOだった。

国連にも出してはいるが、時間的に無理であると返答が返ってきた。

だが、モニターで見ることはできないかと言われたので即座に可能であると返答している。

第三新東京市と国連のみであるが、TV中継もされている。

NERVでも中継されており、全職員がこの一時間だけ休憩を言い渡されていた。

会場の周りは諜報部と零課で厳重に警備されていた。

そんな会場の中でコウスケはいつものNERVスタイルで控室の前に立っていた。

「初めまして。ルシファー。」

急に声をかけられたので振り返ってみると、タキシードを着た見たことのない男が立っていた。

顔つきはカヲルと似ているが、カヲルよりも背は高く、髪は茶髪で目も青い瞳だった。

声もどことなくカヲルに似ている。

「失礼ですが……どなたでしょうか?」

「君とは会ったことがあるんだけどね。」

そんなことを言われてもコウスケはピンと来ない。

「SEELEの13と言えばわかるかな?」

「SEELEの方でしたか。」

「私はミカエルと言うものだ。」

そう言うとミカエルはすっと頭を下げた。

頭を戻すとミカエルは続けた。

「渚カヲルは元気かな?」

「はい。……もしかして………」

「そう、彼の遺伝子提供者だよ。……最も会ったことは無いけどね。」

「そうでしたか……カヲルは人として生きることを選びましたよ。」

「そうか……では、失礼するよ。」

ミカエルは去って行った。

(妙な男だ。)

それがコウスケの評価であった。

・・・

 

「しかし、驚きだよな。NERVがこんなことするなんて…」

ケンスケが感心しながら言う。

横にいるトウジはどことなく不安そうだ。

「せんせたち……だいじょうぶやろうか……」

「大丈夫よ。学校でも練習してたんだから。」

「そやな。」

ヒカリの言葉にトウジは同意する。

「そうだぜ。碇達なら大丈夫さ。」

・・・

 

NERV第二発令所

「副司令、間もなく演奏会が開始されます。」

青葉が時刻を確認しながら言う。

「よし。総員、一時間ほど休憩だ。」

「演奏会か……大学以来かな。」

日向が何かを懐かしみながら言う。

「俺もこんなのは大学以来ですよ。」

青葉が言い終わると同時にメインモニターにコンサートホールが映し出された。

(ユイ君、君も見ているかね。)

冬月はそのように思っていた。

ちなみに初号機と弐号機の前には巨大なモニターが設置されていて発令所のモニターと同じものが映し出されている。

ゲンドウが強く要請したからである。

少しシュールに見えるのは

………

気のせいではないだろう。

・・・

 

赤木研究室

「そろそろ始まるわね。」

ミサトがコーヒーをすすりながら言う。

横では加持も同じくコーヒーを飲んでいた。

「そうだな。」

「あら、もうそんな時間?」

リツコはPCのモニターをコンサートホールに切り替えた。

「こんなことをするなんて……NERVらしくないわね。」

ミサトがそのような事を口にした。

「そうね……少なくとも一年前までは考えられなかったわ。」

「いい方向に変わったのは綾波が来てからだな。」

加持は感慨深くモニターを見ていた。

「ルシファーか……コウスケ君にぴったりね。」

「堕天使の名前なのに?」

リツコの呟きにミサトは訝しがっていた。

「あら、ルシファーはラテン語で明けの明星と言う意味なのよ。」

「明けの明星か……確かに綾波に似合うかもしれんな。」

「最もそう呼ばれているのはリリスの夫だからと言う理由だけどね。」

そう言うリツコにミサトがにやけ顔になる。

「なに? コウスケ君のこと諦めきれないの?」

「そ、そんなんじゃないわよ! ……コウスケ君もリリスといる方がいいみたいだしね。そう言うあなたはどうなの?」

リツコの反撃にミサトは少し狼狽えた。

「あたしは……」

「俺は葛城の横に暮らせるから不満はないぞ。同じ所なら言うこと無しなんだけどな。」

「ちょ、ちょっと! 加持!」

「よかったわね。ミサト。」

本人たちは気付いてないだろうが、三人の雰囲気は大学生であった頃よりも穏やかな空気だった。

・・・

 

VIP控室

「お待ちしておりました。議長。」

「碇か。」

ゲンドウの言葉にキールが答えた。

キールは髪が白くなっており、目にはバイザーがかけられている。

服はゲンドウが着ている物と同じ形で色が深い緑である。

「こちらへどうぞ。」

キールはゲンドウが勧める席につくとゲンドウもその横に座った。

「NERVで演奏会とは……とんでもないことを考え付いたな。」

「はい。おかげで対外的にもイメージアップが図れます。」

キールはフッと笑った。

「ルシファーはそんなこと考えておらんのだろう?」

「綾波特務一尉はフィフス…渚カヲルのためだけにやっています。」

「だからと言ってこんなことを思いつくとは……やはり面白い男だな。」

「だからこそNERVは救われました。」

「我々も同じか………演奏会、楽しみだな。」

・・・

 

「始まるみたいだぞ。」

ケンスケが言い終わると第一ブザーが鳴る。

続けて第二ブザーが鳴ると緞帳上がっていった。

舞台に一人の女性が立っている。

NERVの制服を着た伊吹マヤだ。

マヤは司会としてここに立っていた。

最初は加賀ヒトミに受けてもらう予定だったのだが、予想以上にドジであることが発覚したのだ。

台本を読んで噛んだり、舞台に出ようとして転ぶなど……

最もその時に黒服が一人フォローしていた。

そのためコウスケの策謀で零課の内、第四班だけはNERV本部の防衛に当たっている。

四班の班長はドジな技術者と一緒にモニターを見ているのは余談である。

「………最初にパッヘルベルのカノン、続けてFly me to the moon、最後に歓喜の歌をお送りします。短い間ですが、どうぞお楽しみください。」

マヤは舞台袖に去って行った。

代わりに制服姿のアスカ、レイ、シンジ、カヲルの順で舞台に入って行く。

舞台は中間幕で仕切られている。

皆が座るのを確認するとライトアップされ、シンジがチェロを構える。

「行くよ。」

シンジは静かに言うとチェロを弾き始めた。

それにつられるようにアスカ、カヲル、レイと続く。

とても静かな旋律

プロ並みにうまいと言うわけでもない。

それでも観客は四人に魅せられていた。

四人とも実に良い顔で演奏するからだ。

時折、互いの顔を見やって笑っている。

コウスケはそれを見届けると舞台裏に去って行った。

しばらくして四人の演奏が静かに終わる。

客席から拍手と口笛が聞こえてくる。

するとリリスが舞台袖からマイクを持って出てきた。

「別嬪さんやな……」

そんなトウジの声にヒカリはむすっとしながら続けた。

「綾波さんに似てるわね。」

ケンスケはパンフレットを確認して驚いた。

パンフレットには出演者の簡単な紹介文が乗せられているのだ。

これについてはゲンドウと冬月が制作にあたった。

「へぇ、綾波リリスさんか……綾波特務一尉の妻!? それに綾波の母親だって……」

「綾波のおかんやって!」

「綾波さんにもお母さんがいたんだ……」

そんな三人をよそにシンジがチェロを弾き始める。

それに合わせて残る三人が弾き始める。

そしてリリスはマイクを構えて歌いだした。

・・・

 

楽屋でコウスケはリリスの歌を聞いている。

少しテンポが速いようだがリリスはそれに合している。

「嬉しいことしてくれるね。」

リリスが歌を歌うなどコウスケはこの時知ったのだ。

コウスケの顔には笑みがこぼれている。

リリスが誰のために歌っているのかわかるからだ。

「………あ、不味い!」

・・・

 

リリスが歌い終わると中間幕が上がっていった。

オーケストラと合唱団は既に配置についている。

リリスたちも自分の配置に戻って行った。

しかし、皆は落ち着きがなかった。

指揮者が現れないのだ。

だというのにカヲルは動かない。

いったいどうするのか?

皆は不安でたまらなかった。




今回は長くなったので分けました。
指揮者がいない状態で続けるのか……
それとも……
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