コウスケはいつも通り執務室で多いとは言えない量の書類相手に格闘していた。
とはいえ最近の量に比べると大凡1.2倍くらいはある。
そしてコウスケはいつもの紅茶では無く、珍しくブラックコーヒーを手にしていた。
「時間が長く感じる……やっぱりコーヒーは好きになれんな………」
いつになくコウスケはどんよりとしていた。
とは言うものの上司から厄介事を頼まれたとか、支援者から無理難題を無茶な要求をされたとかいうものでは無い。
「………さて、お仕事お仕事…………」
どんなコンディションであれ仕事はきっちりとこなしているのが彼の長所とでも言えるものであった。
だからこそ密かに人気も出るのだが、上層部からは漠然とした不安が出てくるのである。
つまるところコウスケの普段とは少し違う雰囲気から嵐の前の静けさなのではないかと疑うのであった。
コウスケは基本的に好んで騒ぎを起こそうとする人ではない。
だが、NERVの上層部‐特に冬月などからは目をつけられている。
冬月がコウスケに目をつけるのは、コウスケがある意味で問題児であるからだ。
本人にそんな気は全くないにも関わらず、彼を中心に時々冗談にならないような騒ぎが起こる。
だが、冬月が目をつけるのはそんなことではない。
もしそうならば、コウスケよりも目をつけるべき相手がいる。
葛城ミサトの出勤態度、赤木リツコの怪しい研究、加持リョウジの多岐にわたる女性関係、剣崎キョウヤが時々持ってくる謎の紅茶による諜報部からの苦情……
これらに比べればコウスケは遥かにいい方である。
最もコウスケの家族が絡むと話が変にこじれるなんてことはあるが……
とにかく冬月がコウスケに目をつける理由はリリスにある。
コウスケの押しかけ女房である第二使徒のリリス
今は人として生きているが、その力は人の領域を遥かに超えている。
人類の持つ最強の兵器であるNN爆雷をもってしても破ることのできないATフィールドを展開できるだけにあらず、生物をLCLに還すことのできるアンチATフィールドを自在に扱うことができる。
彼女がその力を持って世界を征服など行ったら人類になすすべなどないが、今の彼女にそんな気がないのは幸いであろう。
だが、コウスケに何かあろうものならリリスがどんな行動に出るかわからない。
本人たちは全く意識してないが事の真相を知る者たちにはこの世で最も危険な夫婦であり、サードインパクトへの一番近いトリガーがコウスケにあると認識されている。
それ故にリリスの存在はなんの変哲もない女性と言うことで情報がねつ造されている。
全くの余談だが、コウスケが何かをやらかすたびに冬月の髪が少しずつ後退していたりする。
そんな人類の命運とイコールで考えられている綾波コウスケはやはりどこか陰鬱な表情であった。
そして……
「………ふあ~……………」
あくびをしていた。
コウスケにしては珍しく寝不足であった。
そのためコウスケは好きでもないコーヒーを啜っているのである。
「眠い………」
そう呟くとコウスケは隣に視線を向けた。
「……コウスケ……もう、やめて………私のライフポイントは…………もう……零よ………」
などと寝言を言いながら腕を枕にしているリリスが居た。
「……どこかで聞いたことあるセリフだな。」
そう言ってコウスケは暫く考え込んだ。
「……ああ、あのアニメか。」
最近のリリスはアニメも見ているのだ。
NERVの職員にそれに詳しい人がいるようでブルーレイディスクをちょくちょく借りている。
そしてコウスケと一緒に見るのだが……
「あの時は本当に……」
そう言ってコウスケはその時のことを思い出していた。
・・・
朝、コウスケが起きると何か違和感を感じていた。
何かが足りない
コウスケは何が足りないのかすぐにわかった。
「………あれ? リリスが居ない………」
いつもならコウスケの横ですやすやと眠っているリリスが居なかった。
もう起きたのかとも思ったのだがいつも壊されている目覚まし時計が無事でいるのを見ると、どうやらリリスはコウスケの横で眠らなかったようだ。
ちなみにコウスケが眠る時は一人なのだが、コウスケはベットの真ん中で眠ることは無い。
必ず一人分くらいは入れるスペースが開けられているのだ。
(珍しいこともあるんだな……シーツが冷たい……)
それに少し寂しさを感じるが、気持ちを切り替えコウスケは部屋を出ることにした。
部屋を出ようと扉を開けるとレイとカヲルが扉の前で何かを話していた。
何故かひどく怯えたように見えた。
「どうしたんだ?」
コウスケがそう言うと二人は恨めしい表情で見返してきた。
「な、何なんだ?」
「特務一尉、リリスに何をしたんですか?」
レイが非難するような声で言った。
「リリス? ……別に何もしてないが………」
「リリスが怒ってましたよ。近づくだけでLCLになってしまう……そう僕の本能が訴えかけてくるんです。」
カヲルの言葉にレイが黙って頷いていた。
神妙な顔つきの二人にコウスケは冗談ではないということを悟っていた。
(リリスが怒ってる? …………何故だ?)
コウスケがそう思っているときに声が聞こえてくる。
「レイ、カヲル、いつまでそこにいるの。」
その声にレイとカヲルがビクリと反応した。
二人は暫く見つめあっていたが、何かを覚悟したようにダイニングへと向かって行った。
コウスケも二人の後に続いたが足が突然動かなくなった。
(………これ以上進むのは危険……)
そのように脳内で警告が発せられたからである。
だが、このままでいるわけにもいかないので、嫌がる足を無理やり動かした。
ダイニングに足を伸ばした途端にコウスケは止まった。
その姿は地雷を誤って踏んでしまったかのようであった。
コウスケの視線の先には居心地悪そうにしているレイとカヲル、そして無表情のリリスがあった。
「あの~…………リリス……さん?」
「なに。」
コウスケの声に反応してリリスが睨めつけてくる。
その視線から逃れようとコウスケはテーブルに視線を移して気が付いた。
三人の前には朝食が置いてあったがリリスの横、つまりコウスケの席には何も置いてなかった。
「………俺の分………」
と言いかけてコウスケは止めた。
リリスがより強く睨めつけてきたからである。
コウスケは全く動けないまま冷や汗をかくことになる。
その時、遠くから携帯電話が鳴り響いた。
NERVからの呼び出しである。
コウスケはこれ幸いにとそそくさと自分の部屋に逃げた。
呼び出しの理由は富士の樹海で謎の破壊活動があったそうだ。
破壊活動が行われる寸前にパターン緑とアンチATフィールドを観測された。
つまり、リリスが関係しているのだ。
その事情聴取のためにコウスケが呼び出されたのである。
コウスケはそれを利用し、リリスが何故機嫌が悪いのかを探ることにした。
加持やミサトのみならず、ゲンドウやWILLEのメンバーにも意見を求めていた。
そして
「済まなかった! 俺が悪かった!」
コウスケは帰宅すると同時にリリスに土下座で謝っていた。
リリスの機嫌が悪かった理由とはコウスケがリリスとの約束を破ったからである。
その約束とは夕食が終わったら一緒にアニメを見てほしいというものだった。
だが、コウスケはNERVでの仕事がいつもより忙しく、先にリリスを帰して残業するほどであった。
リリスは一人寂しく帰宅するが、コウスケが帰ってくるまで夕食も食べずに待っていた。
一方、コウスケはと言うと精神的にへとへとになっていては約束のことなどきれいさっぱりと忘れてしまっていた。
コウスケは帰ってくるや否やベットに直行したのである。
「今後、こんなことがないようにするから許してくれ!」
これを聞いたリリスはかなり穏やかな表情になっていた。
富士の樹海に八つ当たりをしたというのもあるが、コウスケが誠心誠意謝っていることがわかるからである。
ここで許そうかとリリスが考えたとき、ドラマのワンシーンが頭に思い浮かぶのであった。
「……ねえ、コウスケ。私と仕事……どっちが大事なの?」
リリスからしてみればちょっとした意趣返しだったりする。
この質問でコウスケを少し困らせてやろうというのだ。
そしてリリスの中ではある一定のシナリオができていた。
そんなリリスを見ていたレイとカヲルはほっとしながらもリリスのシナリオと似たようなことを考えていた。
そんな和やかな雰囲気であったのだが、床しか見えていないコウスケにはそんなことがわかるわけがなかった。
「………………仕事だ。」
「え……」
「仕事の方が大事だ。」
コウスケの言葉にリリスのみならずレイとカヲルも衝撃を受けていた。
「私より仕事の方が大事なの……」
「当たり前だ。」
きっぱりと断言したコウスケの言葉にリリスはへなへなと座り込んだ。
レイとカヲルはどうすればいいのかわからず困惑するだけであった。
いつの間にか正座になっていたコウスケはそんなリリスを見てばつが悪そうにしながら続けた。
「正直、お前さんと言いたいんだが、俺はNERVの作戦局二課の課長で零課の課長でもあるんだ。そんな俺が仕事をちゃんとやらないばかりにレイやカヲル、リリスに万が一のことがあったら、俺はどうすればいいんだ?」
「それは……」
「だから仕事の方が大事なんだ。……すまん。」
そう言ってコウスケはリリスに頭を下げた。
不意にリリスが泣き出した。
「お、おい……どうしたんだ。」
「……嬉しいの……コウスケがそこまで考えているのに………」
と言いつつリリスは泣き止まない。
ほどほど困ったコウスケはリリスに近づいてそっと抱くのであった。
「ふえ?」
「もとはと言えば俺が約束を忘れていたのが悪いんだ。」
「私もごめんなさい。」
と言いつつも嬉しそうなリリスである。
コウスケももう少しこの状態でもいいかなと思ったのだが、視線を感じた。
「レイ君、これはどう言えばいいのかな?」
「ラブラブと言うのよ。」
「そうか、そう言うのか。」
興味深そうに見ているカヲルとニヤリと笑っているレイだった。
「お、お前ら………」
「二人の周りだけ少し熱い。」
とレイに言われてコウスケは慌ててリリスから離れた。
リリスはムッとしながら言う。
「そんなこと言っていいのかしら? あのことをみんなに……そうね、シンジに言ったらどうなるかしら?」
レイは怪訝そうな顔つきになる。
「ヤシマ作戦の前までレイの関心があった人って……ゲンドウじゃないのよね。」
悪戯っぽい顔つきでリリスは言う。
一方、レイは慌てていた。
「それってシンジだろ?」
「それが違うのよね。そうでしょ? レイ。」
コウスケは少し考えて言う。
「……それってレイの初恋の相手ってことか? それは興味深いな。」
「それは僕も聞きたいですね。あの繊細な心を持つシンジ君以上にレイ君が関心を持っていたリリンですか。」
「だって、どうしようかしら?」
「ダメ! 邪魔したのは謝るから、それは言わないで!」
赤くなったレイは慌てながらちらりとコウスケを見ていた。
「別にいいだろ? 今はシンジがいるんだし、時効だろ。そんなことでからかわないよ。」
それでもレイはフルフルと顔を横に振っていた。
「まあ、安心して。レイのその心は私が受け継ぐから。」
とリリスがコウスケに対して少し呆れながら言った。
「そうか、そう言うことか。」
「なんだ? わかったのか? カヲル。」
「これはおいそれと言えることではありませんね。」
そう言いながらカヲルはアルカイックスマイルを浮かべていた。
コウスケは一人だけ怪訝そうにしているのであった。
ちなみにこのことを聞いた某博士の一言
「対使徒用のフェロモンでも出ているのかしら?」
・・・
コウスケがそんな回想をしている間にもリリスののんびりと眠っていた。
そんなリリスを見てコウスケは思わずため息をついていた。
「リリスは良いよな。暢気に寝てても怒られないんだから……」
などと言うものの寝ていなくてもリリスを怒れる人なんてたった一人しかいないのだが……
「全く……のんびり煙草を吸いにも行けない……そんなことしているうちにリリスが目覚めたら、大騒ぎになるからな……」
そして冬月に呼び出される。
コウスケに取ってそれは既にお決まりのパターンであるのだ。
「……はぁ~………お仕事お仕事………」
そう言って仕事に取り掛かるが思うように進まない。
集中力が続かないのだ。
「ダメだ……気分転換でもしないとやってられないな。」
コーヒーは飲む気になれないし、煙草も横でリリスが寝ているのでさすがに吸おうとは思わない。
コウスケは思わずため息をつきながら寝ているリリスを見ていた。
リリスはあどけない寝顔をコウスケに見せている。
全くの無防備であった。
「…………そうだ。」
そう言うとコウスケはそっと手をリリスの方に伸ばした。
「リリスの仕事も俺がやっているんだから……これくらい、いいよな。」
(ターゲット確認、周囲に敵反応なし……)
「……こうしてほっぺたに触れるのも久しぶりだな。」
(目標に動きなし、起きたら無理だろうからな………いける!)
ここ最近のコウスケはリリスのほっぺたに触れられずにいた。
触ろうとしてもリリスが勘づいて警戒するからである。
起床後を狙っても必ずリリスが目覚めて不機嫌そうな表情を見せてくるのだ。
そっとコウスケの手がリリスの頬に近づく。
今のところリリスが起きだす気配は無い。
それでもコウスケは慎重に手を近づけていた。
過去にリリスに噛まれるという失敗をしているからだ。
リリスは寝息をたてていること以外に動きは無い。
(あと少し………)
手が近づくにつれてコウスケは成功を確信した。
「綾波、入るぞ。」
その声に慌ててコウスケは手をひっこめた。
だが、あまりにも勢いが有り過ぎて椅子ごと後ろに倒れそうになる。
それでもなんとか重心を前に戻して事なきを得ることに成功した。
「ん………コウスケ? どうしたの?」
リリスが目覚めてしまった。
こうなっては頬を触ることなどできない。
コウスケは恨めし気に侵入者を睨んだ。
「……どうやらお楽しみを邪魔したみたいだな。」
執務室の入り口にはにやにやしている加持リョウジが立っていた。
「お楽しみ? どういうこと?」
リリスは目をぐしぐしとこすっていた。
「その様子だと……昨日の夜もお楽しみだったみたいだな。」
加持のにやつきながら言う。
「夜って…………ば、バカ! そんなことあるわけないだろ!」
「昨日の夜? 確かに楽しかったわよ。」
コウスケは赤くなりながら、リリスは半分寝ぼけながら答えていた。
「リリスだってこう言っているんだ。往生際が悪いぞ、綾波。」
「お前さんが考えているようなことはしてない。」
「隠すなよ。第一、夫婦なんだろ? そうやって愛し合うのはしごく自然なことじゃないか。」
加持はにやついた顔を隠そうともせずに続けた。
「それに専らの噂になってるぞ。」
「噂?」
「レイちゃんに弟か妹ができる日が近いってな。」
それを聞いたコウスケは全くもってわからなかった。
「何なんだ? なんでそんな話になるんだ!」
「今日、リリスを背負って登庁しただろ?」
コウスケは確かにリリスを背負って登庁した。
それは着替え終わったリリスが寝てしまって起きそうにないから仕方なく背負ってきたのだ。
背負った時にリリスは幸せそうな顔をしていた。
そんな二人を見てNERVの職員が無責任な想像を働かせたのである。
そしてとんでもない味付けがされてしまったようだ。
「はぁ……全くもってそんなことは無い。」
コウスケはため息をつきながら言う。
そんなコウスケを見た加持は標的を変えることにした。
「リリス、昨日の綾波はどんなだった?」
「聞いてくれる? コウスケったら酷いのよ。私をいじめて楽しんでたんだから。」
もはや加持はにやつきを押さえられそうになかった。
「そうか……綾波はそんな趣味だったんだな。」
「そんな趣味って……人聞きの悪いことを言うな。いや、それはそれでいいかも……じゃなくて! お前さんが考えているようなことなんか一切なかった!」
そう言ってコウスケは昨日の夜にあったことを話し始めた。
・・・
綾波家の一つの部屋で誰かが起き上がる。
コウスケでもリリスでもない。
綾波レイである。
「………午前0時……予定通り。」
そんな深夜に起きたのは偶然でも何でもない。
レイの計算通りなのだ。
リリスが分離してからと言うもののレイは真夜中に無意識で彷徨うということがなくなっていた。
当初はさほど気にしなかったが、徐々に何か物足りなさを感じていた。
「朝一番に碇君の顔を見れる……それはとても嬉しいこと。」
などとレイは呟いていた。
そう、レイはこれから葛城家に侵入し碇シンジのベットで眠ろうとしているのだ。
何故、こんな時間なのか
それはこの時間なら起きている人がいないことを知っているからだ。
特にコウスケが寝ているときを狙っているのだ。
念入りな調査の結果、コウスケはどんなに遅くても午後11時には寝るようにしていることを突き止めた。
そしてリリスはその30分後にコウスケを部屋に向かうのだ。
つまりこの時間にレイの行動を阻むものはいない。
「……行動開始。」
レイはベットから出る。
ちなみに最近のレイはシンジの部屋に行った時、必ず行うことがある。
それは寝ているシンジの頬をつつくこと
普段、コウスケがリリスの頬を触ろうとしているのを見て好奇心からシンジの頬を触ったのだ。
その感触にレイは何とも言えない幸福感に浸ることになる。
その時の感触が忘れられず今日まで至った。
ちなみにシンジはそのことを知っている。
何故ならレイがコウスケと同じ失敗をしたからだ。
噛まれはしなかったが、代わりに舐められた。
さらに余談ながらレイは「ほっぺたハンター」とも呼ばれていた。
きっかけはシンジ以外の頬はどんなものかと言う好奇心からである。
アスカやカヲル、洞木やトウジ、ケンスケなどのクラスメイトはもとより、伊吹やリツコなどのNERV職員もその餌食となっている。
それから省かれたのはコウスケとリリス、そしてゲンドウだった。
ゲンドウも標的の一人だったのだが、立派な髭を思い出し取りやめたのだ。
ゲンドウの髭を思い出すと、何故か嫌な気分になるのだ。
レイでもわからずにいるが、それは一人目の記憶だったりする。
そんなレイの行動を見た人々は明らかに綾波コウスケを影響であると確信しているのであった。
とにかくレイは己の立てた計画通りに第一の関門である自分の部屋の扉に向かった。
「………光?」
扉の隙間から光が漏れていた。
レイの部屋はそのままリビングへとつながっている。
光が漏れているということはリビングの明かりがついているということだ。
消し忘れと言うわけでもない。
何故なら寝る前にコウスケがすべての明かりを消していることを知っているからだ。
これらが意味するものとは……
「特務一尉が起きてる……作戦失敗……」
レイは落胆の色を隠さずにベットに戻ろうとした。
「……ダメ! 止めて!」
「今のは………リリス?」
扉の向こう……リビングからリリスの声が聞こえた。
レイは思わず聞き耳を立てていた。
「バカ! 大きな声を出したらレイが起きるだろ。」
「だって……あっ……そんなところに……」
(何をしているの?)
レイはそう思わずにいられなかった。
聞こえてくる声からレイは二人が何をしているのか想像する。
(………特務一尉がリリスをいじめてる……?)
行きついた答えはそれだった。
「うう……コウスケ、ひどい……」
「何も泣くことないだろ。」
(……リリスをいじめてる……止めないと……)
そう決心してレイは扉を開いた。
すると二人はテレビの前にならんで座っていた。
レイは困惑する。
どう見たってリリスがいじめられているように見えなかった。
扉の音に気付いたコウスケがレイの方に向いた。
「はぁ~……レイが起きたじゃないか……」
「だって………あ!」
リリスが声を上げるとテレビ半分の画面にLOSEと言う文字が映し出されていた。
「……何をしているのですか?」
「ゲームだよ。」
コウスケがばつが悪そうに答えた。
そう言われてレイは気付いた。
綾波家にある唯一のゲームソフトであり、以前にコウスケが暇つぶし程度にやっていた物である。
ジャンルは落ちもの系パズルゲームである。
これはレイと同居し始めた時にコウスケが何となく買ってきたものである。
とは言ってもレイは全く興味を示さず、コウスケも暇つぶしにもならないと判断したため、長らく埃をかぶっていたものだ。
「起きたものはしょうがない……眠くなるまでやるか?」
「いいえ。」
と答えたレイは少し怒り気味であった。
こんなもののために計画をつぶされたのだ。
レイは部屋に戻ってふて寝しようとした。
「うう……これに勝てたらコウノトリが来る方法を教えてくれるのに………勝てない………」
その言葉にレイが反応した。
「残念だったな。」
そう言うコウスケの言葉には幾分かほっとした感情が滲み出ていた。
「コウノトリが来る方法?」
「そうなのよ。これに勝ったらコウスケが教えてくれるって……」
「私もやります。」
レイは踵を返してテレビの前に向かった。
「寝るんじゃないのか?」
「気が変わりました。」
「別にいいが……」
「勝ったら私にも教えてください。」
コウスケは一瞬きょとんとなった。
「……コウノトリか?」
「はい。」
「何を言ってるんだ……」
そう言うとコウスケはため息をついていた。
「不戦勝。」
「何?」
「特務一尉はやる気がない。戦う気がない。だから私の勝ち。」
「……全く、この娘は誰に似たのか………」
そう言うとコウスケはコントローラを持った。
「やるぞ。」
こうしてコウスケとレイのバトルが始まった。
………
……………
……………………
「そんな……レイでも勝てないなんて……」
「どうしてそうなるの?」
レイは悔しさで唇を噛んでいた。
「もうあきらめろ。これで5連敗だぞ。」
レイは何も答えずに立ち上がるとすたすたと歩き始めた。
コウスケは視線で追ったが、レイは自分の部屋にはいかなかった。
暫くするとレイが戻ってきた。
「レイ君……こんな時間に叩き起こすなんてひどいじゃないか。」
レイの後ろには恨めしそうにレイを睨んでいるカヲルが立っていた。
「渚君、これをやって。」
「これは……なんだい?」
「いいから。」
レイは無理やりカヲルをコウスケの隣に座らせてコントローラーを握らせていた。
「おい、レイ……」
「これに勝てば特務一尉が人として必要なことを教えてくれるわ。」
「それは……興味があるね。」
カヲルはレイから説明書を受けとり読み始めた。
「……そうすればいいのか……ルシファー、よろしくお願いしますよ。」
コウスケはもうあきらめている。
「目的のためには手段を選ばないとは……全く誰に似たんだよ……碇司令か? それとも赤木か?」
………
……………
…………………
「簡単そうで意外と難しいですね。」
対戦の結果はコウスケの勝ちである。
「もう、気は済んだろ?」
「……いいえ、まだよ。」
ずっと黙っていたリリスが言う。
「これは四人でもできるんでしょ?」
「ああ、そうだが………まさか……」
「レイ、カヲル。三人でコウスケを倒すのよ。」
「三人寄れば文珠の知恵……リリス、わかったわ。」
「単体では無く群れで……リリンの性質だね。」
リリスの言葉にレイとカヲルは乗る気であるようだった。
「はぁ……気が済むまで付き合うよ。」
と言うわけでゲーム大会が続いたのだが、リリスが訝し気にコウスケに聞いた。
「ねえ、さっきからずっと同じキャラクターを使っているけど……」
リリスの声は少し不機嫌なトーンであった。
「そう言えばそうですね。」
「……もしかして、特務一尉の好みなんですか?」
コウスケがずっと使っているキャラクターは眼鏡をかけた教師であった。
ただ、教え子をハンマーで叩いて記憶を飛ばすとんでもない教師であるのだが……
「そんなわけないだろ。」
「………もしかして、眼鏡が良いの?」
リリスが不意にそのようなことを言った。
「NERVで眼鏡をかけているリリンはそう多くないですね。碇司令と………榛名三尉くらいですか?」
「渚君、碇司令はサングラスよ。」
とカヲルに突っ込みを入れるレイ
それを聞いていたコウスケが言う。
「何を言うんだ。俺に眼鏡属性なんて無い。」
コウスケの言葉にレイが疑問符を浮かべながら聞いた。
「……眼鏡属性ってなんですか?」
「うっ……何でもない! ただの妄言だ! 忘れろ!」
後で調べればいいと思ったレイは特に追及することは無かった。
ただ……
「そう……眼鏡がいいのね。」
なんて呟くリリスが居たが……
・・・
「それで綾波一家はめでたく全員が寝不足と言うわけか……」
加持は呆れかえった表情をしていた。
「護衛からの報告によればレイとカヲルも授業中に居眠りしているそうだ。」
そう言うコウスケも冴えない表情だ。
「お前さんも少し休んだらどうだ?」
「そうも言ってられんよ。俺が止まったら二課が止まる。」
「真面目だね。まあ、そこが綾波の良いところでもあるんだが……」
「それで、そんなことを話すためにここに来たのか?」
コウスケは目の前にある書類を確認しながら言う。
少し機嫌が悪そうだった。
それは寝不足だけが原因ではない。
「そうだった。」
加持はそう言うと一つの書類をコウスケの前に差し出した。
その書類を見たコウスケはカッと目を見開いた。
そして加持を見る。
加持は真剣な目つきでコウスケを見ていた。
「……これは本当なのか?」
「裏は取れてる。」
コウスケは急に立ち上がると外に出ようとした。
「こ、コウスケ? どうしたの?」
「………ちょっと休んでくる。」
「なら……」
「リリスはここで休んでていてくれ。まだ、眠いだろ?」
そう言ってコウスケは出て行ってしまった。
「リョウジ、コウスケはどうしたの?」
「こればかりは本人に聞いてくれ。」
「……教えてくれるのかしら?」
「教えてくれるさ。ただ、綾波にも考える時間が必要だ。」
そう言われてもリリスは納得できないようだった。
それを察した加持が続けて言う。
「綾波にとって長い間探していたもの……今はそれしか言えない。」
そう言って加持は出て行った。
こっちに時間を割けず、やっとの更新です。
これを機に……といきたいところですが、次の更新もかなり遅れます。
おまけ
今日も忙しい赤木研究室に部屋の主がのんびりとコーヒーを飲んでいた。
「……どうにかしてリリスの協力を得たいわ。」
「そうですね。あれがわかれば女性には大人気商品になること間違いなしですよ。」
そう言うのはリツコを左腕とまで言われている伊吹マヤである。
この二人が考えていることは人類の命運とはかなりかけ離れたことである。
そんなことでいいのかと思われるだろうが、女性にとってはある意味、一生をかけて求めるものとも言えることである。
そんな考え事をしている二人の部屋に一人の女性が現れた。
「リツコ、はかどってる?」
リツコの親友である葛城ミサトであった。
「さっぱりね。どうしたらあんな風になれるのかしら?」
「全くです。リリスが羨ましいです。」
「あら、マヤちゃんだってまだまだいけるでしょ?」
「でも、リリスのようにはいかないですよ。」
この三人が求めているもの
それはリリスの肌であった。
「外見年齢は30……なのに肌年齢は10代なんて………リリスの実年齢を考えると納得いかないわ。」
「リリスの実年齢? 30歳じゃないの?」
リツコの呟きにミサトが疑問を投げかけた。
伊吹も少し興味あるようだ。
「話を聞いてみるとリリスはファーストインパクト(ジャイアントインパクト)の時には既に意識があったみたいなの。」
「ファーストインパクトって……あの、月ができたってやつ?」
「ファーストインパクトは今から46億年前の話ですから………」
伊吹の言葉にミサトは少し呆然としていた。
あまりにも途方もない話に頭がついていけないようである。
「46億歳以上であんな肌だなんて……」
「ATフィールドの応用ですね……」
そう言って三人はため息をついた。
「レイちゃんも将来はああなるんですね……いいな。」
と伊吹が呟いた。
「それについてなんだけど……」
「どうしたの?」
「リリスはどうしてあの姿になったのかしら?」
それを聞いた伊吹が当然のように答えた。
「それはレイちゃんに寄生していたからですよね。」
リツコとミサトはそうではないことを知ってるが、伊吹にはレイにリリスが寄生していたという説明がなされている。
そのため伊吹がそのように言うのは何ら不思議はなかった。
「だとしたら、髪と瞳の色が違うのは何故かしら?」
「レイと記憶共有してる部分があるんでしょ? だからじゃないの?」
すると伊吹が何かを思いついたようだ。
「あれじゃないですか? 綾波特務一尉がレイちゃんに恋してるって話ですよ。」
「そんな噂あったわね。レイに話しかけるのNERV職員ではコウスケ君ぐらいだったからね。今思うと大人げないわね。あたしたち……」
ミサトの声は少しトーンが暗かった。
そのためか伊吹もシュンとしていた。
「はぁ……リリスは良いな……」
「まあ、リリスの特権よね。」
一方、リツコは何かを考えている。
「ねえ、ミサト。仮に姿を自由に変えられるとしたらどうする?」
「藪から棒に何よ?」
「加持君に嫌われるような姿になりたい?」
ミサトは急に何を言いだすのかと思っていたが、リツコは真剣に見つめていた。
「そりゃ、好かれた方が良いに決まってるでしょ。」
それを聞いたリツコはまた考え込む。
「もしかして……」
「マヤは気付いたの?」
「ん? いったいどういうこと?」
リツコと伊吹はどこか納得したという顔つきであった。
「つまりはね、リリスのあの姿はコウスケ君にとってかなり……いえ、一番好みの容姿なんでしょうね。」
「え~と……つまり、レイの姿はコウスケ君にとって好みのタイプってわけ?」
「だからリリスは今の姿になったのよ。使徒と言う固定観念が強すぎたのね。」
「ついでに言うと黒髪に黒い瞳も好みなんですよね。」
そうして三人はため息をついた。
後日、この三人の推測は正しいものであることが判明する。
「そうじゃなかったらこの姿になるわけないじゃない。」
と某三尉が語ったからである。
だが、絶対に他言するなと念(というか脅迫?)を押されたため、その話が広く伝わることは無かった。