コウスケが加持から何かを受け取った翌日
リリスは例のごとくコウスケの部屋で目覚めた。
ベットの横には見事にばらばらになっている目覚まし時計が落ちている。
「またやっちゃった………」
もうこれで何十個目かわからない。
当初は目覚まし時計を壊すたびにコウスケに怒られていたのだが、今は完全にあきらめたのか何も言ってこない。
ばらばらになった目覚まし時計を見ながらリリスは少し落ち込んでいた。
壊さないように努力はしているのだ。
だが、それが一向に実を結んでおらず、リツコをはじめとする技術開発部に良いデータを作り上げることになる。
少し憂鬱なリリスであった。
「…………あれ?」
ふとリリスは何かが足りないことに気付いた。
横を見ると誰もいなかった。
いつもならコウスケがリリスのほっぺたを触ろうとして手を伸ばしているはずである。
「……………ああ、今日はコウスケの日ね。」
朝食の当番のことである。
リリスがレイから分離した当初はリリスがずっと作っていたのだが、コウスケが自分も作ると言ってきたのだ。
「リリスばかりに任せるのもなんだし……それに………たまには俺が作ったやつも食べてほしいしな………」
なんてことを明後日の方向を向きながらコウスケは言っていたのだ。
「うふふ、ああいう時のコウスケは本当に可愛いわ。」
とリリスは微笑みながらベットから降りた。
そして部屋の扉を開けてダイニングへと向かうのだが……
「ん? レイ、何してるの。」
リビングではダイニングの方を向いて突っ立っているレイがいた。
「レイ?」
リリスが呼びかけても反応がない。
そんなレイに疑問をいだきながらもリリスはダイニングに向かった。
「おはようございます。」
「おはよう、カヲル。」
椅子にはカヲルが座っていた。
既に制服に着替えている。
「今日は楽しみですね。」
「そう?」
「ええ、いつもはリリスが作るものですから。」
そうしているうちにリリスの前に料理が運ばれてきた。
「レイ、いつまでそうしているの? 早く来なさい。」
「え、ええ……」
レイは歯切れの悪い返事をしながらも席についた。
そして食べ始めるのだが……
「あら? 今日は何か違うわね……」
「どう違いますか?」
「ええ、何かが足りない気がするの。」
「そうですか。」
「どうしたの? いつもと声が違うわよ。風邪でも引いたの? こう……す……け?」
そう言いながら台所の方に向いたリリスは固まってしまった。
「体調は万全です。」
そう答えるのはサングラスをかけた全身真っ黒のNERVの黒服であった。
いつもと違うところと言えば、PIYOPIYOと言う字とヒヨコの絵がプリントされているエプロンをしていることだろう。
「……………えっと、キョウヤよね?」
リリスはやっとのことでそう言うことができた。
「はい。」
と剣崎は答える。
「……何してるの?」
「朝食を作りに来ました。」
「コウスケは?」
「NERVにいます。」
それを聞いたリリスはますます混乱していた。
それを感じ取ったのか剣崎はつづけた。
「綾波から頼まれました。今日は作ってやることができないから代わりに頼むと。」
「どうして?」
「そこまではわかりかねます。」
すると剣崎は真剣な目で(と言ってもサングラスでよくわからない)三人を見ていた。
「それで、何が足りないのでしょうか?」
「えっと………こう、食べてほしいって気持ちが足りないのかしら………」
「そうですか……」
リリスの答えを聞いた剣崎は少し落胆ながらつぶやいた。
「まだまだ、研究の余地ありか………」
それを聞いたレイが反応する。
「誰かに作ってあげたいのですか?」
剣崎は無言だった。
それに対しレイはニヤリと笑いながら言う。
「加賀さんですね?」
剣崎は微動だにしなかった。
「……そう言うところは綾波にそっくりですよ。」
「似てない。」
「いいえ、レイ君は明らかに綾波の影響を受けています。この前、頬にいきなり触れてきたときもそうです。」
ちなみにレイが剣崎の頬に触れた時の感想は……
「硬い。」
だった。
「どうしてそう言うこと言うの?」
「それが事実だからです。」
「そんなことない。」
「事実です。認めてください。レイ君を知っているものは全員そう思っています。シンジ君だってそう思っています。」
それを聞いたレイは少し驚いていた。
「碇君も?」
「はい。」
剣崎のはっきりとした返事を聞いてレイは無言になった。
カヲルはというと……
「リリスの言うことがよくわからない。」
などと言いながら黙々と食べていた。
リリスは一人で黙々と何かを考え込んでいた。
・・・
リリスは一人でNERVに登庁した。
いつもはコウスケとともに車で登庁するのだが、コウスケがいないのでリニアに乗って登庁した。
車で登庁するときのリリスはとても静かにしている。
一番最初に運転中のコウスケに抱き付いてめちゃくちゃに怒られたからである。
リリスが抱き付いた反動で車は反対車線に飛び出してしまったが、対向車線がいなかったのとコウスケが思ったよりも冷静に対処したため事故にならずに済んだのだ。
ちなみにリリスが抱き付いた理由は二人きりになれて嬉しかったからと言うものだ。
とにかくリリスはすれ違うNERV職員にあいさつしながらも、まっすぐ執務室へと向かって行った。
コウスケが執務室にいることはすでに分かってるのだ。
(昨日、リョウジから何かを貰った時からコウスケが変なのはわかっていたけど……)
リリスは執務室に向かう通路でそんな事を考えていた。
コウスケの異変はリリス以外にもレイとカヲルもなんとなく感じ取っていた。
レイとカヲルは何があったのかコウスケから聞きだそうとしたが……
「必ず話してくれると思うわ。だから待ちましょう。」
とリリスが止めた。
それでもリリスはやはり心配ではあった。
もう少しで執務室に着くという所でリリスは足を止めた。
「何かしら……歌?」
とは言っても周りに人はいない。
つまり歌っているのはコウスケと言うことだ。
執務室は防音処理がされており、人の声程度なら完全にシャットアウトできるのだが、リリスは人‐特にコウスケが何をしているのかをある程度察知することができる。
今は執務室からかなり近い位置にいるので声まで聞くことができたのだ。
コウスケの歌を聞き入っていたリリスは不意に悲しさに包まれた。
(……悲しい歌だわ。コウスケは何が悲しいの?)
そう考えているときにコウスケの言葉が続いた。
「世界は悲しみで満ちている……それを感じられないのはレイやみんな、そしてリリスのおかげか……幸せは罪の匂い……そうなのかもしれない……」
それを聞いたリリスは執務室に踏み込んだ。
扉が開く音を聞いたためかコウスケは入り口の方に視線を向けていた。
コウスケの顔はよく見えるのだが、表情がよくわからなかった。
何故ならコウスケはいつもと違いサングラスをかけていたのだ。
「リリスか……今日はすまん。」
リリスはそれに答えずコウスケをじっと見つめていた。
「どうしたんだ?」
「………何が悲しいの?」
「聞かれていたのか……」
コウスケはばつが悪そうにしながらリリスから視線をそらした。
「今はそのままにしてくれ。いずれ話すよ。」
そう言ってコウスケは目の前の書類を相手にし始めた。
・・・
「何なんだ? これは……」
NERVでの仕事を終え、コウスケは自宅に帰宅した。
サングラスは家でも取ることは無かった。
そんなコウスケが椅子に座ると
「ハーブティーです。これがいいと赤木博士に聞きました。」
「音楽集です。休憩の時にでも聞いてください。」
と言いレイとカヲルが差し出した。
それに対してコウスケは何故とは聞かなかった。
「ありがとう。」
と言い、口が僅かながら微笑むのであった。
「ところでリリスはどこに行ったんだ?」
いつもならコウスケが帰ると真っ先に反応するリリスがいないことにコウスケは気が付いた。
「ルシファーが帰ってくる前にどこかに出かけましたよ。」
「ちょっと買い物に出かけてくると言ってました。」
「買い物? 何か足りないものでもあったのか?」
そうコウスケが疑問に思っていると、玄関の方からドアが開く音が聞こえた。
玄関からリリスが顔を出した。
「ただいま。あ、帰ってたのね。」
「お帰り。どこに行ってたんだ?」
「えへへ……」
リリスはニコニコと笑いながら一つのビニール袋を差し出した。
「これをコウスケにあげたくて急いで買ってきたの。」
そう言うとリリスは袋からものを取り出した。
金色で七福神の一人が描かれている缶だった。
「これは………お酒ですか。」
「ビール……葛城三佐の主食……」
カヲルは不思議そうに、レイは真顔で言う。
いや、レイは少し赤くなっていた。
その理由は……(21話のおまけ)
「ミサトがね、落ち込んでる時にはこれが良いって言うから。」
そう言うとリリスは金色の缶をコウスケの前に置いた。
「お前さん……………俺が酒を好んで飲まないことを知らないんだな。」
「へ……」
「そう言えばルシファーが家でお酒を飲んでいるところを見たことがありませんね。」
「私も無い。煙草はあるけど……」
それを聞いたリリスは焦っていた。
「だ、だって、リリンはこれを好んで飲むってミサトが……」
「そういう人もいるが、全員が好きなわけじゃない。」
コウスケはそう言うとさらに続けた。
「第一、酒と言うものは脳の活動を阻害するんだ。この前(EX4)俺が飲んで帰ってきたときのことを覚えているだろう? 正常な判断ができずにとんでもないことを口走っていたし、体だってふらふらしていた。あれは体のバランス機能が失われているという証拠だ。あの時は思わず飲んでしまったが、正直言って後悔した。付き合い程度ならいいが、好んで飲もうとは思わん。」
そうはっきりとコウスケに言われて、帰ってきたときのテンションを完全に喪失したリリスはしゅんとしていた。
「………そう、これを余計なお世話って言うのね……」
リリスは完全に意気消沈としていた。
このままアンチATフィールドでも展開させるんではと思われるほどだった。
コウスケは人知れず冷や汗をかいていた。
不意に視線を感じる。
「リリス、かわいそう。」
「そうか、これが同情と言うものか。」
この言葉にコウスケの冷や汗はさらに増すことになる。
「あ、いや……俺は酒が嫌いなだけでリリスの好意を無気にしたいわけじゃ無いんだ。」
コウスケは慌ててそう言うが、リリスに何ら変化はなかった。
「むう……………酒は百薬の長とも言うしな。たまには飲んでもいいかな。」
そう言うが否やコウスケは一気にビールを飲み干してしまった。
そんなコウスケの行動に皆は驚いていた。
「こ、コウスケ、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。こんなことで倒れていられるか。」
とは言うが、コウスケの頬は若干赤くなっていた。
「みんな、ありがとうな。」
と言うとコウスケはリリスを手招きしていた。
不思議に思ったリリスは招かれたとおりに近づくと不意に強い力で引っ張られた。
リリスが気が付くとコウスケの胸の中にいることがわかった。
「ちょ、ちょっと………」
リリスは身じろぎするがなかなか強い力でコウスケに抱きしめられているのでどうすることもできなかった。
「お前さんが酒を飲ませたせいで俺は正常な判断が下せないようだ。」
「でも、普通に……」
「そう言うことだ。」
リリスが見上げるとサングラスで目の表情がわからないが、先ほどよりコウスケの頬が赤くなっていることに気付いた。
これを見ていた銀髪の少年と蒼銀の少女は酒を飲むということ以外のことを見事に再現する。
その際、銀髪の少年は赤毛の少女に鉄拳制裁を食らい、蒼銀の少女は黒髪の少年を危く窒息死させるところだった。
その後、綾波家のお隣さんである少女と少年は綾波執務室にて部屋の主に抗議をするが……
「どうせ嬉しかったんだろ? よかったじゃないか。」
と言われ沈黙したという証言が残っている。
「リリス、ちょっと席に座ってくれ。」
「どうして?」
「ちょっと話したいことがある。」
リリスは名残惜しそうにしていたが、コウスケに言われたとおりに自分の席に座った。
「今から話すことは正直に言ってあまり面白い話じゃない。」
「何の話ですか?」
レイに聞かれたコウスケは少し間を開けて口を開いた。
「……とある少年の話だ。」
・・・
今から15年ほど前……
レイとさほど歳が変わらない少年がいた
少年はごく平凡な中学生で多少、理数系が得意なぐらいのどこにでもいるような少年だった
少年の家族はやはりその当時ではごく平凡で、兄弟はいなく両親は共働きだった
普段は穏やかだったが、時々父親がアホなことをして母親に叱られたりもしていた
それを少年は笑いながら見ていた
学校では友人と呼べる人たちがいて、ともに競い合ったり、帰り道には道草もしていたし、時には悪戯なんかもして一緒に教師に叱られたりもした
それが当たり前だと思ってた
そんな生活が幸せなことだとは考えられなかった
ある日、少年は夜中に目が覚めた
どうしても眠れないんで仕方なくリビングに足を向けた
するとそこには少年の両親が向かい合ってテーブルに座っていた
手にはグラスを持っていた
少年が現れたことを知った父親は少し照れくさそうにしていた
何でも両親の結婚記念日だったそうだ
普段は酒なんて飲まない二人だが、結婚記念日には毎年ワインを二人で飲んでいたそうだ
起きだしてしまったものはしょうがないからとその少年も二人の中に加わった
その時、初めて少年は酒を口にしたのさ
ほんの少ししか入ってないワインだったけどな
それでも少年が酔うには十分だった
それを見た父親は笑っていたし、母親は少年を心配しながらも父親のことを咎めていた。
こんな日々が続けばいい
少年はその時そう思った
そしてその次の日に悲劇が起こることになる
そう、セカンドインパクトだ
その時、学校にいた少年は大きな津波が来るということで県外に避難することになった
だが、少年はそれを無視して家へと向かった
両親のことが心配になったのさ
いつもよりも早く走って家へと向かったが、途中で気を失ってしまった
避難する人たちにぶつかってしまったのさ
少年が目を覚ますと、見慣れない白い天井が見えた
少年が目を覚ましたことを知って看護師が駆けつけてきた
少年はその看護師から状況を大雑把に聞いた
少年が住んでいたところは既に水没したこと
両親の安否は情報が混乱していてわからないこと
少年はただただ愕然としていた
突然に少年の日常が崩されたんだ
そうなってもしょうがないだろう
その後、少年は病院から出ることになった
いや、正確には放り出された
少年は気絶していただけで体には問題がなかったからな
それにセカンドインパクトの影響で医薬品が圧倒的に不足していたし、重傷を負った人たちが次々に運び込まれるものだから無傷の少年に構っている余裕なんて無かった
施設に入ることもできなかった
そうして少年は一人で生きていくことになる
両親の安否を知るために
だが、たかが一人の少年にできることなんて何にもなかった
働こうにも受け入れてくれるところなんて無かった
だから、少年は似たような境遇の少年たちと組むことにした
そうしなければ生きていけないからだ
そうして二年ほど生きていたが、ついに治安当局に少年たちのアジトを発見されてしまった
大人しく降伏すればよし
そうスピーカーから流れていたが、完全武装した部隊を見て少年を含めたみんなは悟った
皆殺しにするつもりだと
中には戦おうとした者もいた
だが、相手は大人で完全武装している
こっちは武器なんてあるわけがない
だから逃げることにした
固まって逃げると危険だということでばらばらに散って逃げたのさ
少年は仲間との別れを惜しみながらも逃げた
必ずどこかで会おうと約束してな
少年は必死に逃げた
森に逃げ込んで隠れながら逃げていた
時折、どこからか銃声が聞こえていた
それに怯えながらも少年は逃げ続けた
逃げて逃げまくった
そして少年は運よく逃げ切ることに成功した
あの時の仲間たちはほとんどが死んだことを逃げ延びた町で知った
何でも凶悪な犯罪集団として処理された
そういう風に新聞に書かれていた
正直、少年には生きた心地がしなかった
それでも少年は死のうとは思わなかった
両親の安否がわからないという希望があったからだ
そうして一人で暮らしていたが、それも限界があった
そこで少年は決意する
人を殺してでも生きようと
そして少年は人を襲うが、逆に返り討ちにあってしまった
相手が悪かったのさ
既に初老の人だったが、元々自衛隊出身だったんだ
少年は死を覚悟する
自分は失敗した
だが、どこかで気が楽になるのを感じた
もう、辛い目に合うこともない
そう思いながら少年は気を失った
少年が目を覚ました時、どこかの部屋の中だった
ついに天国とやらに行ったんだなと思っていたが、妙に体の感覚があることに気付いた
はっとなって起きだすと人がいることに気付いた
その人は少年が襲おうとしていた人だった
少年には訳がわからなかった
それを察したのかその人は言ったのさ
「本来、子供と言うのは国の宝なんですよ。先ほどは急なことだったのでとっさに体が動いてしまいましたが………体は大丈夫ですか?」
少年はその言葉に涙した
セカンドインパクト以降に初めてまともな大人に会えたと思ったのさ
そして少年はその人と暮らすことになる
その人からいろんなことを教わった
高校生ぐらいに必要な知識と護身術を
その少年に取ってその人は命の恩人であり、また師匠でもあった
そうこうしているうちに少年は二十歳になった
もう十分に一人で生きていける
だから少年は恩師から離れようと思った
だが、恩師がそれを止めた
少年の経歴上ろくな教育を受けていないことになってしまうと
それでは今の情勢ではかなり厳しいだろう
そう言われてしまった
それならと少年はそういう教育をただでできる所はないのかと聞いた
今まで暮らしてきて恩師も余裕がないことを十分に理解していたからだ
恩師が紹介してくれたのが士官学校だった
少年は喜んだが、恩師は良い顔をしなかった
今の世界で軍人と言う職業がどれほど厳しいものかを十分に知っていたからだ
だが、少年はそこに行くことにした
少しでも恩師のようになれればとも思った
それにもしかしたら両親の安否もわかるかもしれないとも思った
そんな少年に恩師は一つの物をくれた
グロック17だった
「それを持っていきなさい。ただ、武器と言うものは守るためにあるのです。それを十分に理解してできるだけ無害な軍人になってください。」
その時の恩師の顔は今まで見たことないとても厳しいものだった
そして少年は軍人への道を歩くことになった
・・・
「すまんな。かなりつまらない話だろう。」
「その少年がお酒を嫌うのは……」
コウスケの話を聞き終えたレイが言う。
「そう、両親のことを思い出すから嫌いなんだよ。だから一人では絶対に飲まない。」
コウスケのよこではリリスがすまなそうにしていた。
「そんな顔をするな。それに少年はな、今は幸せなんだと思うぞ。」
「へ?」
「かなり特殊だとはいえ、妻と娘、そして一人の同居人とともに暮らしているんだ。」
それを聞いたリリスは理解した。
何故、コウスケがあんな歌を歌っていたのか
「それにしても酒と言うのはろくでもないな。とんでもないことを喋ってしまう。」
そう言いつつもコウスケの口元には少し晴れ晴れしたような笑みがあった。
「ところで少年の恩師と言うのは誰なんですか?」
ふとカヲルがそのように聞いてくる。
「その恩師とは再会できたのですか?」
レイも気になっていたのかそのように聞いてくる。
「あったよ。ここ、第三新東京市でね。」
「誰かしら……会ってみたいわ。」
そのように言うリリスが言うとコウスケは不意に笑い出していた。
「レイとカヲル、リリスも知っている人だよ。」
「私も?」
「もっと言うとシンジやアスカも知っている人だ。」
コウスケの言葉に三人は疑問符を浮かべていた。
「いったい誰なんだろう……」
「リリスも知っている人?」
「ヒントを言うならば……リリスはレイと分離する前に知りあっているな。もっともあまり意識したことないだろうけどね。」
それを聞いてもいまいちピンと来ない三人であった。
「レイやカヲル、シンジやアスカはほぼ毎日会っているよ。」
「………わからない。」
「僕もほぼ毎日会っているリリン?」
三人は必死に頭をフル回転させていた。
「まだまだだな。恩師の名前は根府川と言う。」
「根府川…………?」
「おいおい、自分の担任の名前くらい覚えておけよ。」
そうコウスケに言われてレイがはっとなった。
「担任の先生!」
「いつもセカンドインパクトの話しかしないあの先生ですか。」
リリスは驚きで何も言えないようだった。
「レイのクラスはパイロット候補たちが揃っているんだぞ。そんなクラスにただの教師が担任を務めるわけないだろ。俺が来るまではあの人がレイを陰から護衛していたんだからな。」
その事実にレイはただただ驚愕するだけであった。
「だから、レイが俺の娘になった経緯もある程度は知っている。」
「そうですか………」
「あまり無下に扱うなよ。」
ちなみにこのことを知ったシンジやアスカも驚くことになる。
「うそ! あの人、そんな風に全然見えないわよ!」
「コウスケさんの恩師だったんだ……」
とのことだ。
「さてと……リリスとレイは明日、朝早くに行きたいところがあるから少し早く起きてくれ。」
「僕は良いのですか?」
「カヲルはいずれ連れていくよ。だが、今回は二人だけにしたいんだ。」
「どこに行くの?」
リリスが不思議そうにコウスケに聞いた。
「それは明日になったらわかるさ。」
そう言うとコウスケは自分の部屋に戻って行った。
これを読んでいる読者たちのなかにはいつ終わるんだと疑問を感じていらっしゃる方もおられると思います。
ちゃんと終わりに向けて書いています。
次回は
NERVに栄光あれー!
な話です(嘘)
今回のおまけはとある人物のセリフがかなり読みづらいですが、頑張って解読してください
おまけ
「うう……頭が痛いよ………」
と言うのはベットで寝込んでいるリリスである。
「自業自得だ。少しは反省しろ。」
「うう……コウスケが冷たい………こんなに弱ってるのに………」
今にでも泣き出しそうなリリスを見ながら
(こんなリリスもいいな……)
なんて思ったのは本人と作者と読者以外知らない。
庇護欲といじめてみたいというとんでもない感情がコウスケの中でせめぎ合っていた。
普段、元気であるリリスが弱っているなんてかなり珍しいことなので、いじめてみたいという感情の方が僅かながら優勢であったりする。
本来、リリスは風邪をひかない。
リリスの体内に入ったウィルスはすぐに察知されアンチATフィールドで無害化されるからだ。
これが解明できれば人類から風邪と言う病気がなくなるであろうが、残念なことにリリス以外にできる芸当ではない。
とにかくリリスがこのようになった訳をコウスケの視点から見て見ることにする。
・・・
コウスケはNERVでの仕事を終えて一人で帰宅していた。
この日の仕事は少しばかり時間が掛かりそうだったのでリリスは先に帰したのだ。
車を地下の駐車場に止めてコウスケは階段を駆け上がっていく。
リリスがいるときはエレベーターを使うが、一人の時はこうして階段を使うのだ。
地下一階から11階まで一気に駆け上がる。
作者がそんなことをすれば生きた死体となるのは間違いない。
とにかくコウスケは自宅のある11階までたどり着くとそのまま家へと向かったのだが……
「ん? レイとカヲルじゃないか。」
家の前でレイとカヲルが待っていた。
「何してるんだ?」
「る、ルシファー……僕はちょっと畑が気になるからジオフロントに行くよ。」
と言うとカヲルはかなりの速足で去って行ってしまった。
「私は………碇君のところに行きます。」
と言ってレイも葛城家に行こうとするが、コウスケがそれを止める。
「待て……なんでそんなに怯えているんだ?」
レイが葛城家に行こうとするときは大体、嬉しそうにそわそわしているのだが、コウスケの目にはそんな風に見えなかったのだ。
「…………リリスをお願いします。」
そう言うとレイはコウスケを振りきって葛城家に飛び込んでしまった。
まるで何かから逃げるように……
「お、おい……」
(何なんだ? ………まさかリリスが怒っているとでもいうのか?)
レイの不自然な様子からコウスケはそのように思った。
だが、心当たりなど全くない。
とにかくコウスケは正確な情報を得るために自宅に足を踏み入れた。
「こうしゅけ? かえっらの?」
玄関のドアが開いた音で気が付いたのかリリスの声が聞こえた。
だが、何かがおかしい。
そんな風に思いつつもコウスケはダイニングへと足を向けた。
「おかえり……こうしゅけ。」
とリリスはニコニコしながら言うが……
(何なんだ? いつもと違うぞ? 怒っているわけじゃなさそうだが……)
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「べちゅになにもないわよ。へんなこうしゅけ。」
とリリスは笑いながら言うがどう見ても様子がおかしかった。
コウスケはリリスに近づいた
それだけでリリスに何か起こったのかを完全に把握することができた。
「お前さん……酒を飲んだな?」
コウスケが近づいた時に僅かながらアルコールの匂いがしたのだ。
それにリリスの手には金色の缶が一つ握られていた。
「らって………ろういうものかしりたかったんらもん。」
コウスケはため息をついた。
「リリス、今日は早く寝た方がいい。」
「ろうして?」
「お前さんは酔っている。」
「これくらいれ……ようわけないじゃない。」
と言うがどう見ても酔っ払いにしか見えない。
「まあいいわ………こうしゅけ、そこにすわって。」
「なんでだよ。」
「いいから。」
コウスケは言われたとおりにリリスの対面に座った。
「ねえ、わらしが……てれびをみててきづいたの。」
「何を?」
「ときろきね………りりんろうしが……かおをあわせている……れいもしんじにされてたんらけど………あれはなんなの?」
コウスケは表面上普通にしているが、内心ではかなり動揺していた。
いきなりこんなことを聞いてくるとは思いもよらなかったのだ。
「そ、それはだな………」
(どうする……)
「うふふ、こめんらしゃい。もう、しっれるわ。」
そう言うとリリスは残っていたビールを一気に飲み干してしまった。
「お、おい……」
「ねえ……ろうして、わらしにはしてくれないの?」
「それは………他人の前で気軽にやるものじゃないからだ。」
「じゃあ、いまは?」
と少し潤んだ目でリリスはコウスケを見つめていた。
コウスケは人知れず冷や汗をかいていた。
確かにリリスに対してそういったことをした覚えがない。
せいぜい抱きしめるくらいだ。
それに今はレイとカヲルもいない。
チャンスではある。
だが、リリスは酔っている状態だ。
そんな状態でしたいとは思わない。
そんなことをコウスケが考えているうちにリリスが泣き始めた。
「うう………わらしにはそんなかちがないのね………」
「い、いや! そんなことは……」
「うう……こうしゅけごのみのすがらになったのに………」
そう言うとリリスはテーブルに伏しながら泣き始める。
少し気になることをリリスが言っていたがコウスケの耳には入らなかった。
(おいおい、勘弁してくれ…………どうすればいいんだ? 誰か教えてくれ!)
コウスケがそんな風に考えがぐるぐると回っているうちにリリスの鳴き声がぴたりと止まった。
「……? リリス?」
コウスケが呼びかけても何も反応がなかった。
いや、僅かながら寝音が聞こえてくる。
「はぁ~……………」
寝ているリリスを見ながら少し安心するコウスケであった。
・・・
つまるところリリスは見事に二日酔いだったのだ。
ウィルスなどの生物であればLCLに還元できるが、アルコールはできないのである。
ふとコウスケが時計を見ると出勤時間が迫っていた。
「……じゃあ、俺はそろそろ行くぞ。」
「いや、行かないで。」
リリスは今にも泣き出しそうな顔でコウスケを見つめていた。
「ダメだ。今日は俺が行かないとどうにもならないことがあるんだ。」
「わかってるけど……」
コウスケが自ら行かねばならない理由は……次話にて
とにかくコウスケにそう言われたリリスはわかってはいても不安の表情を隠しきれていなかった。
「昼には一度戻ってくる。だからこれで我慢してくれ。」
不思議に思っていたリリスはいきなり視界を塞がれてしまった。
何をするの?
と言いたかったが、口も何かで塞がれてしまった。
少し柔らかい感触だった。
暫くすると唇の感触が無くなり、視界も広がった。
その時リリスに見えたものは赤くなっているコウスケだった。
「コウスケ……今……」
「じ、じゃあ、俺は行くからな。」
そう言うとコウスケはそそくさと行ってしまった。
・・・
NERVに登庁したコウスケはかなり動揺していたらしい。
「とても柔らかかった……」
などとの呟きから他の職員たちは何か新しいほっぺたでも見つけたのかと思ったそうだ。
一方、リリスはベットの上でぼけーっとしていた。
所謂、夢見心地と言うやつだ。
そしてレイは何故か祝福を受けることになる。
なんでも妹か弟ができるとのことだ。
リリスはいなく、また少し赤くなっていたコウスケを見てかなりの邪推を行った結果である。
誰かは敢えて言うまい。
ただ、零課課長の権限で某三佐の給与がカットされたとだけ言っておこう。