「レイ、今日はやけに早いな。」
いつもなら寝ているはずのレイが早く起きていた。
パジャマではなく白いワンピースを着ていた。
レイはコウスケに気づき何かを隠した。
「どうした?レイ。」
「・・・何でもありません。」
と言うレイの顔には明らかに何かありますと書いてあった。
だが、コウスケはそれに気づかぬフリをした。
「そうか・・・どこかに出かけるのか?」
「はい。」
レイの声ははっきりとしていた。
何か楽しみにしているような感じだった。
「気を付けて行って来いよ。」
「・・行ってきます。」
と言ってレイは荷物を持って家を出ていった。
「・・・行ったか。」
コウスケはレイが家を出たのを確認し、携帯電話を取り出した。
「葛城か?シンジ君は?・・そうか家を出たか。」
コウスケはニヤリとする。
「じゃあ、予定通りに。」
コウスケは電話を切る。
「・・フフフ、甘いな、レイ。」
コウスケのニヤニヤは止まらない。
「俺が気づかないとでも思ったのか?」
今日は日曜日
NERVでのテストもない。
コウスケがそのように手を回した。
そして数日前からそわそわしていたレイ。
ミサトから同じく数日前からシンジの様子が変だという報告。
リツコからレイがそわそわし始めた日に何か約束をしていたという報告。
極めつけは服装についてレイから相談を受けたという伊吹の報告。
「これだけ状況証拠は集まっているんだ。・・フフフ」
双眼鏡は準備できている。
デジタルカメラも
どちらもNERVの最新技術で作られたものだ。
零課の職員たちも配置についている。
MAGIからの援護もある。
上司からは許可どころか、結果報告をするように言われている。
怖いものはない。
「0830時・・・作戦開始。」
コウスケは厳かに告げるのであった。
・・・
「甘いな、レイ。そんなことで撒けるとでも思ったのか?」
コウスケは双眼鏡を手にし、車の中から様子を窺っていた。
コウスケが見る先には公園でボーっと待っているレイがいた。
ちなみにコウスケが座っているのは運転席である。
「ねえ、コウスケ君。本当にシンジ君が来るの?」
横にいるミサトは眠そうにあくびしていた。
なぜミサトがここにいるのか?
それはこの作戦に参加すれば手当がもらえるというコウスケにそそのかされたのである。
「来る。絶対に来る。」
「どうしてそういう風に言い切れるの?レイは友達と遊びに行くだけかもしれないじゃない。」
ミサトの言うことももっともであった。
初期に比べだいぶ社交的になったレイである。
友達と遊びに行ってもおかしくない。
「お前には解らないのか?レイのあの嬉しそうな顔を。」
と言うがレイの顔は普段の無表情と変わらなかった。
社交的になっても無表情に見えるのは変わりがなかった。
「・・・わからないわ。」
「ふぅ、よく見ろよ。レイの口元が2㎜微笑んでいる。それに目尻もいつもより3㎜下がっている。あれは何かをかなり楽しみにしている顔だ。」
ちなみに目尻が2mmだとそれなりに楽しみにしているとコウスケは補足した。
「あんた、よく見てるわね。」
ミサトはものすごく呆れていた。
「それくらいできなくて何が保護者だ・・・おい、来たぞ。」
「ほんとだ。」
レイのもとにシンジが駆け寄っていた。
シンジは白地のポロシャツにすこし薄い青色をしたズボンをはいていた。
・・・
「綾波、ごめん。待った?」
シンジはすまなそうにレイに言った。
「・・いえ。」
と言うレイはとても嬉しそうだった。
「ごめん。ミサトさんがついてくると思って少し遠回りしてたんだ。」
さらりとひどいことを言うシンジ
レイはそのことを聞いて何かを考え始めた。
「どうしたの?綾波。」
「特務一尉が気になって・・・」
「コウスケさん?」
「・・こういうの好きそうだから。」
「確かにそうかも。」
と言ってシンジはあたりを見回す。
「いないみたいだよ。」
「特務一尉も気づかなかったのかしら・・・」
「そうなんじゃない?」
「・・・よかった。」
朝の様子からもおそらく気付いていない。
レイはそう思いほっとする。
前回の使徒戦の処分とはいえ、何をしていたかを知られたらどんなからかいを受けるかわかったものじゃない。
・・・きっと一週間は言われ続ける
そんな風にレイは考えていた。
「それじゃ、綾波。・・行こうか。」
レイは首を縦に振った。
・・・
「甘いぞ、二人とも。俺がそう簡単に見つかるようなことをするか。」
シンジが辺りを見回したのを見てコウスケが言う。
コウスケは私服姿でさらにサングラスまでかけていた。
「それ、自慢するところ?」
とミサトが突っ込むが、コウスケには聞こえなかったようだ。
「しかし、シンジ・・・そこは手を握ってだな・・・」
などとコウスケは感想を漏らした。
既に写真は撮ってあった。
この写真はとある人物に届けられるのだ。
「そうね。そこは男の子からリードしてあげないとね。」
ミサトも呆れたように言った。
ミサトはなぜかいつものNERVスタイルである。
「しかし、安心しきっているようだな。あの二人。」
「みたいね。」
「さて、どこに行くのかな?」
・・・
第三新東京市は遷都予定とあってか、年々人口も増加していたのだが、使徒の襲来もあって最近は徐々に減っていた。
それでも地方の町に比べればだいぶ発達している方だ。
いや、大都市にも負けないくらい発達しているだろう。
そんな街中をシンジとレイは駅前へと足を向けるのであった。
そしてそれをつける車が一台
・・・
「ほう、映画館か・・・無難だな。」
コウスケは二人を見ながら言う。
「確か・・・恋愛ものじゃなかったかしら。」
ミサトが少し考えながら言った。
「シンジ君はそのこと知ってるのか?」
「多分知らないはずよ。」
「だな、知ってたら入ろうとしないだろう。」
と言ってコウスケは一つ疑問が浮かんだ。
「・・何で葛城がそんなこと知ってるんだ?」
「そ、それは・・・ちょっちね・・」
「・・・加持だな。」
ミサトがギクッという顔になった。
「図星か・・いいんじゃないか?」
コウスケは今、二人に集中しているので、ミサトがどこで何しようがどうでもよかった。
「ただ、仕事は自分の力でしろよ。」
「あはは・・・」
・・・
映画の内容はすれ違う二人が様々な困難をクリアしていき最後には結ばれるという内容だった。
王道と言えば王道だが、映画館など初めてである二人は食い入るように見ていた。
シンジが今まで育ってきた環境を考えれば、当然である。
親戚とはいえ厄介に思われていた。
勉強部屋と称して庭に簡素な部屋を作りシンジを家に入れないくらいである。
そんな保護者がシンジを映画館などに連れていくなどあり得ない話なのだ。
レイはずっとNERVで過ごしてきた。
計画のために存在しただけあってゲンドウとリツコが連れていくなどない。
まぁ、あの二人が映画館に行くということ自体想像できないが・・・
モニターに映る二人がすれ違うさまを見てレイが何かを考える。
「・・あの時、苦しかった。」
「あの時?」
「・・・碇君が私を避けていた時。」
と言うレイを見てシンジが暗い顔になる。
「あの時はごめん。」
「いいの。」
と言いレイは思い出しながら
「最初は解らなかった。なぜ碇君が避けるようになったのか。」
悲しそうな顔になるレイ
「特務一尉から私のことが碇君に知られたと言われたとき解った。」
「綾波・・・」
「元々ここにいるはずのない存在・・それが私だった。なら計画を遂行して消えてしまえばいい。」
・・・
「そうか・・あの時のレイの言葉はそんな意味があったのか。」
コウスケはイヤホンから流れる会話を聞きながら言う。
NERVの最新技術を駆使して作られた盗聴器である。
どんな雑音もばっちりと聞き取れるのであった。
製作者は金髪の女性である。
・・かなりノリノリで作ったことは誰も知らない。
「どういうこと?」
ミサトが説明を求めてきた。
「レイのことは話したろ?・・計画のためにあったと。シンジ君にレイのことが知られたと言ったときなんて言ったかわかるか?」
ミサトは少し悩みながらも言う。
「もう死にたい?」
「無に帰りたいと言ったんだ。・・俺はその時計画なんて知らなかったからな、そう言う意味だと俺も思っていた。だが、レイは何となくわかっていたんだろうな。計画が遂行されれば自分が消えるということに。」
コウスケは苦い顔になる。
「もう、シンジ君は自分を見てくれない。・・人じゃないと知られたから。だったら碇司令の計画を遂行して消えてしまえばいい。・・そうすれば自分も消えて苦しまなくっていいから。そういうことだろう。」
「・・・とんでもない話ね。」
「それだけ罪深いことをしてきたんだ。」
コウスケは煙草を取り出す。
・・・
「特務一尉に殺されると思った時、計画よりも碇君が見れないことが怖かった。」
レイはシンジの顔を見る。
「でも、今はこうして見ていられる。・・碇君と特務一尉が居てくれたおかげ。」
「僕はあの時どうすればいいか解らなかったんだ。綾波が人じゃないなんて言われて。・・たくさんの「綾波」を見て。」
シンジはレイを見つめながら言う。
「でも、コウスケさんに今のレイ自身を見ろと言われて連れてこられたんだ。・・外で全部聞いてたよ。綾波が悩むのを聞いて・・僕を呼んでくれるのを聞いて情けなく思ったよ。」
シンジの顔は自然と落ちていた。
「自分と何が違うのか?綾波がそんな風に生まれたかったのか?・・いろんなことを考えたよ。そして銃声が聞こえて、綾波が消えちゃう、なんで綾波だけこんな目にって考えたら・・・」
レイは目が潤んでいた。
「コウスケさんが居なかったら僕はどうなってたんだろ・・・」
「解らない。でも、そんなこと考えたくない。」
「そうだね。・・綾波、これからは僕が横に居られるように頑張るから。」
「碇君・・・」
モニターには手を握って見つめあう二人が映し出されていた。
・・・顔の距離は近づいていた。
・・・
「コウスケ君?殺されるってどういうこと?」
「ああ、俺がレイに向けて実弾を撃った。」
コウスケは煙草を吸いながらあっけらかんと言う。
「あんた、そんなことしたの?!」
ミサトは信じられないという顔だった。
「そうでもしないとレイの感情を出せないと思ったんだよ。当たらないように銃は逸らしたけど・・死は生命にとって一番避けたいことだからな。」
「失敗していたらどうするつもりだったのよ。」
「正直お手上げだったさ。」
コウスケは手をひらひらと上げた。
そんなコウスケにミサトは内心あきれていた。
「あんたって・・・考えなしだったの?」
「それだけ焦っていたんだ。あの手も正直言うとやりたくなかった。成功率が低かったからな。」
コウスケは吸い終わった煙草を携帯灰皿に捨てる。
既に何本か役目を終えて眠っている。
「それより、二人が出てきたぞ。」
コウスケは双眼鏡を向けた。
「お、レイが喜んでる。」
コウスケがミサトに双眼鏡を貸すが・・・
「・・わからないわ。顔が赤いのはわかるけど・・・」
「よく見ろよ。顔の角度が3度下がってる。目もぼんやりしてる。・・嬉しくて恥ずかしいことがあったんだな。」
コウスケはニヤリと笑う。
「あんた、よくわかるわね。」
「それができなくて何が保護者だよ。」
・・・
「これ、綾波が作ったの?」
シンジは目の前に広げられた弁当を見て言う。
シンジとレイは第三新東京市を一望できる公園にいた。
木の下にレジャーシートを敷いている。
端っこにUNのロゴが入っているが・・・
レイは恥ずかしそうにうなずく。
「ほんとによくできたね。こんなにうまくなるなんて思わなかったよ。」
と言ってシンジは何かを思い出していた。
「最初は大変だったな・・・」
包丁をプログレッシブナイフのように持ったレイや、焦げた食材の前で立ち尽くすレイをシンジは思い出していた。
ちなみにある程度料理ができるようになったレイはその両手鍋いっぱいに入った味噌汁をシンジに渡していた。
それはでめでたく葛城家の食卓に並ぶことになるが、綾波家には無かった。
残念ながらレイの意図がちゃんと伝わらなかったのだ。
シンジはアスカに両手鍋の味噌汁でからかわれることになる。
「碇君・・それは言わないで。」
レイが拗ねるように言う。
「ごめん。じゃあ、食べよう。」
黙々と食べ始める二人。
・・・
「やっぱり弁当だったか。」
コウスケは朝の光景を思い出しながら言う。
片手にはおにぎりがある。
「あれ、おいしそうね。」
ミサトはパンをかじっていた。
どちらもコンビニで買ったものだった。
「俺のやつを勝手に持ち出したな?」
コウスケはレジャーシートを見ながら言う。
国連軍にいたとき売店で見つけたものなのだ。
一度も使う機会はなかったが・・・
「ねえ、なんでレイは料理をしようと思ったのかしら。」
ミサトからしてみれば不思議なのだろう。
なにせ初期のレイを知っているからだ。
「簡単なことだよ。初日目に俺が料理したらそれに感動したらしくな、自分も作りたいと言い始めたのさ。」
「シンジ君のために?」
「いや、もっとおいしいものを食べたいという欲求だよ。」
今までどんな食生活だったのかしらとはミサトは言わなかった。
何となく想像できたんだろう。
「コウスケ君って料理できるの?」
「普通にできるくらいだ。シンジ君に比べれば大したことない。・・お前よりは遥かにできるがな。」
それを聞いてミサトは怒る。
「あたしだって・・・」
「言ったろ?あれは兵器だ。わかったな?」
「そこまで言わなくてもいいじゃない。」
ミサトはいじけてしまう。
「シンジ君に習ってみたらどうだ?・・レイでもいいと思うぞ。」
「・・・本気で考えようかしら。」
ミサトは真剣に考えているようだった。
「そういや、レイが作った味噌汁はどうだった?」
「レイが作った?」
と言ってミサトは考え込む。
「・・ああ、あの見慣れない両手鍋はレイだったのね。」
「レイがとある目的があって作ったものだ。」
コウスケは新しいおにぎりを取り出した。
「ある目的って・・・え!あたしそんなもの食べちゃったの?」
「レイには言うなよ。知らないはずだからな。」
・・・
「碇君。」
レイは食べている途中でシンジに呼びかける。
「何?綾波。」
「どうして私に料理を教えてくれたの?」
これはレイの疑問だった。
シンジから突然料理を教えてあげると言われたのだ。
レイが即決で頷いたのは言うまでもない。
「へ?聞いてないの?」
「?」
「コウスケさんに頼まれたんだよ。綾波に料理を教えてくれって。」
「特務一尉が?」
「うん。」
「・・・そう」
レイは寂しく思う。
シンジはコウスケに頼まれただけだったということに
「でも、僕は嬉しかったな。」
「なぜ?」
と聞かれたシンジは赤くなりながら
「綾波と同じ時間を過ごせるんだなって思って・・・」
と言うのであった。
「私も・・・・・嬉しかった。」
レイも赤くなりながら言う。
・・・
「やるね~。」
コウスケは口笛を吹いた。
「シンジ君って普段は恥ずかしがってできないのに、こういう時に限って決めてくるのよね。」
「ほんとに加持とは違うタイプだな。」
「なんでそこで加持が出てくるのよ。」
加持の名が出てきて動揺を隠せないミサト
「別に他意はないぞ。比較対象が欲しかっただけだ。」
そこに連絡が入った。
「どうした?」
『ターゲットの近くに柄の悪い男三人が近づいてきてます。』
ミツヒサからだった。
「うまく誘導できそうか?」
『やってみますが・・・』
「ダメなら排除しろ。」
『了解。』
「コウスケ君・・排除って」
ミサトが恐る恐る言う。
「別に殺すわけじゃない。」
「そこまでしなくてもいいじゃない。もしかしたらシンジ君が・・・」
「ダメだ。」
「なんで?そっちの方がかっこいいじゃない。」
ミサトが言おうとしていることはコウスケにもわかる。
「シンジ君に勝てると思うか?」
「・・今じゃ無理ね。」
「だろ?」
未来のシンジならまだしも今のシンジは戦闘訓練を受けているとはいえ強いとは言えなかった。
「しかし、コウスケ君も大変ね。」
「レイにとってもシンジ君にとってもこれは初めてだろう。いらぬ邪魔は極力排除すべきだ。」
「素直に心配って言ったらどうなの?」
「そうとも言うな。」
・・・
昼食が終わったシンジとレイはのほほんとしているところに
「ぐわー」
「ぎゃー」
「お、お助けー」
なんていう悲鳴が聞こえてきた。
その悲鳴を聞いてレイがビクリとするが、何やら優しい感じに包まれた。
レイが横を見るとシンジの顔が間近にあった。
シンジは悲鳴を聞いてとっさにレイを抱き寄せたようだ。
すこし警戒するようにあたりを見回すシンジ
そんなシンジにレイは見入っていた。
「大丈夫みたいだね。・・ん?綾波、どうしたの?顔が赤いよ。」
「・・・・・何でもない。」
「ならいいけど・・・って、ごめん。」
シンジは慌ててレイを離した。
「・・別にいい。」
レイは少し残念そうだった。
シンジの方はレイの感触が頭から離れなかった。
・・・
「とっさにあんな動きができるようになったのか。」
「シンジ君、ほんとにレイのことを思っているのね。」
ミサトは慈しむように二人を見ていた。
「あらら、シンジ君離しちまった。」
「シンジ君らしいわ。」
「レイの方も残念そうだな。」
「・・・わかるの?」
何度見てもレイは無表情にしか見えない。
「顔が拗ねたようになっているだろ?頬が2㎜膨らんでる。」
とコウスケは解説する。
「・・・あんた、すごいわ。」
「これくらい・・・」
「出来なくて何が保護者だ・・・でしょ?」
「その通り。」
ミサトは感心する。
「どうやったらレイの感情を知ることができるの?」
「レイはな、感情が表にで出ることが無い。ほんとにわずかな動きしかないんだ。・・かなり強い感情の時は過大に出るけどな。」
「そりゃ、解るわよ。」
「だがな、その分レイは雰囲気と言うかオーラとでもいうのかな?・・そういうのでわかりやすいんだ。」
「そうなの?」
ミサトは半信半疑だった。
「人は普通、相手の表情で相手の状態を判断する。つまりは見た目だな。」
「そうね。」
「レイはパッとした見た目では解らない。だからなのか佇まいというか、雰囲気、声色でわかるんだ。人一倍にな。」
「へぇ~。」
と感心しながらミサトは何かを思い出した。
「そういえば、レイって時々あたしを見てるのよね。・・何でかすごい重い空気になるんだけど・・・」
「・・・解らないのか?」
コウスケは疑わしくミサトを見る。
「コウスケ君はわかるの?」
「レイがうらやましがってるんだ。」
「私に?」
「正確には葛城とアスカにだ。」
「なんで?」
「解らないのか?」
ミサトは何がなんやら解らない様子だった。
「・・・シンジ君だよ。お前たちは一緒に住んでるだろ?」
「ああ、なるほど。」
「頼むからシンジ君に手を出すなよ。・・レイが怖いぞ。」
コウスケの脳内にはなぜかサーチライトに照らされる零号機が映し出されていた。
零号機はNERVのピラミッドの上にいて足で踏んずけている。
NERV職員が説得を試みるもすべてが無駄に終わる。
そして半壊する発令所・・・
そんな想像がコウスケの脳内によぎった。
(そうなったら・・シンジにしか止められんな。)
コウスケは自分の想像にぞっとしていた。
・・・
公園を後にしたシンジとレイは再び駅前へと移動していた。
ふと見かけたアクセサリー店に入っていった。
「ここ、来たことある。」
レイは店内を見回しながら言った。
「へ~、綾波もこういうところ来るんだ。」
「その時、特務一尉も一緒だった。」
「コウスケさん?」
レイはこくりと頷いた。
「帰ろうとしたら、少し付き合ってくれって。」
「・・・なんでだろう?」
「解らないわ。」
レイは少し考えながら
「でも、あの時怖い顔をしてた。」
「怖い顔?」
「辺りを警戒していたわ。」
「・・・・きっと綾波が危なかったんだね。」
レイはきょとんとしていた。
「コウスケさんが意味もなくそんなことするとは思えないもん。」
「・・そうだったの。」
するとシンジは難しい顔になった。
「綾波を守ってるのっていつもコウスケさんなんだな。・・なんか悔しいな。」
「・・そんなことない。碇君は私を守ってくれてる。」
「そうかな・・・」
「そう。・・ヤシマ作戦の時も、使徒が空から落ちてきたときも・・碇君が守ってくれた。」
そしてレイは俯きながら
「それに・・碇君といるとポカポカする。」
「へ?」
「特務一尉といるときもポカポカするけど、碇君のとは違う。」
それを聞いたシンジは赤くなりながら
「・・僕も綾波といると一番ポカポカするよ。」
・・・
「ねぇ、どういう意味?」
ミサトが二人の会話を聞いてコウスケに聞く。
「解らないのか?」
「解らないから聞いてるんじゃない。レイの専門家に。」
「なんか嫌な専門家だな。・・ポカポカと言うのは好きと言う言葉が転化された言葉だろう。」
(レイ語とでも名付けるか?)
それを聞いたミサトは少し考えた後
「でも、コウスケ君といるときもポカポカするって言ってるじゃない?」
「それは人として好きだということだろう。現にシンジ君とは違うと言ってるだろう?」
コウスケは続ける。
「シンジ君の場合は異性として好き、俺の場合は人として好き・・シンジ君の方が上なんだよ。」
「じゃあ、なんで同じ言葉なのかしら?」
当然の疑問だろう。
人として好きと異性として好きは次元が違うのだ。
「単にレイがまだ区別できてないだけだろう・・言葉ではな。」
「ふ~ん。さすがレイの専門家。」
「そ・・・」
「それができなくて何が保護者だよ・・でしょ?」
「解ってきたじゃないか。それにしてもシンジ君には伝わったようだな。」
「そうみたいね。」
・・・
「ここにコウスケさんと来たってことは何か買ってもらったの?」
とシンジがレイに聞いた。
「・・・」
「どうしたの?」
「言えない。」
レイは何を買ってもらったのかを言えないと言っているのだ。
「もしかしてあれ?いつも鞄につけてるやつ。」
レイは驚いているようだった。
「キーホルダーだよね?何の形なのかはわからないけど。」
「どうして知ってるの?」
「綾波が鞄から本を取り出してる時に見えたんだよ。・・前は付けてなかったのに、突然付けてくるからさ。」
レイはそんなシンジの言葉に嬉しく感じるのであった。
シンジはそんな細かいところまで自分のことを見てくれている。
それだけでレイは嬉しかった。
つまりポカポカするということだ。
「今もつけてるの?」
レイはこくりと頷きながら
「初めて人から買ってもらったものだから、それに・・・」
レイは赤くなりながら最後の方はごにょごにょと喋った。
シンジは最後の方が聞き取れなかった。
「へ?なに?」
レイは真っ赤になり何も言えなくなる。
そしてレイはキーホルダーを見せることにした。
「これって・・錨?」
レイがこくりと頷く。
「なんで錨・・・あっ」
と言ってシンジも赤くなる。
・・・
「大事に持ってるんだな。」
コウスケが嬉しそうに言う。
「なんであれを買ってあげたの?」
「レイがあれを見ながら何かを思っているようだったからな。」
ミサトは不思議そうな顔になる。
「何を考えていたのかしら。」
「葛城にもわかるさ。」
ミサトは考える。
「う~ん・・錨・・船じゃないわね・・海でもないだろうし・・・いかり・・碇・・ああ、なるほどね。」
「解りやすいだろ。」
そこに通信が入る。
『綾波特務一尉。』
今度はシンゴからだった。
『俺たちはいつまでこれを監視しなければならないんだ?・・甘すぎて気持ち悪い・・・』
『そうですよ。』
ミツヒサも乗ってきた。
「もう少し我慢しろ。・・それに癒されるだろ?あの二人に。」
『俺は殺意を抑えきれないぞ・・・』
シンゴの声は僅かに震えていた。
『僕も同感ですよ。』
ミツヒサはなかなか強い口調だった。
「みっともないぞお前ら!中学生相手に何嫉妬してんだ!」
『中学生だろうが、高校生だろうが羨ましいものは羨ましいんだよ。』
『そうですよ。これには大人も子供も関係ないですよ。』
コウスケはため息をついた。
「NERV内で探せよ!いくらでもいるだろ!」
『そうしたいがな、誰かさんがレイ、レイとうるさいからそんな暇ねえよ。』
『そうですね。何かあればレイさんですもんね。』
『・・もしかして綾波特務一尉・・あんたの方が羨ましいんじゃないのか?』
「そ、そんなわけあるか!」
と言うコウスケは明らかに動揺している。
『最近やたらとレイさんをからかってますしね。』
『それも決まってシンジがらみだからな。』
『やっぱり・・・』
『『羨ましいんだな(ですね)。』』
はもる二人。
実を言うと図星だった。
コウスケは二人の仲を温かく見守りながら、自分にもいたなら・・なんて考えたことが一度や二度ではない。
「うるさい!お前ら二人とも減俸するぞ!」
『あ、汚いぞ!』
『そうですよ!』
「ならこれ以上触れるな!」
『ちっ解ったよ。』
『了解・・・』
コウスケの何とも大人げない収め方だった。
「コウスケ君・・あなた・・」
ミサトが憐みを込めてコウスケを見ていた。
「・・葛城、お前も減俸・・」
「ごみん!それだけは許して!」
・・・
その後シンジとレイは特に問題が起こることなく、平穏に過ごすことになる。
だが、二人は大変幸せそうに見えた。
そして夕暮れとともに二人は帰宅する。
「今日はこれまでだな。」
コウスケは二人の姿を確認しながら言った。
「1730時を持って本作戦を終了する。皆ご苦労だった。」
『やっと終わったか・・当分甘いものはいらないな。』
『僕も遠慮したいです。』
などと言いシンゴとミツヒサは通信を切った。
「葛城もご苦労だった。」
「いいわよ。久々にいいものも見れたし。それより・・」
「解ってるよ。手当は明日にでも振り込んどくよ。」
「やった~。ありがとねん。」
こうしてコウスケの作戦は終了した。
・・・
自宅に帰宅したコウスケは自室にあるPCの前にいた。
上司に今日のことを報告するためだ。
「・・・よし、終わった!後は送るだけだ。」
報告書は完了した。
写真の添付も終了した。
エンターキーを押せばすべて終了である。
「・・・何が終わったのですか?」
その問いかけにコウスケは上機嫌で答えた。
「ああ、今日のレイの・・・」
と言いかけてコウスケは止まる。
今、家にいるのはコウスケともう一人の同居人しかいない。
つまりコウスケに声をかけられるのはその同居人だけなのだ。
コウスケは汗をかいていた。
「私の・・何ですか?」
コウスケは顔を声が聞こえるほうに向けた。
ギギギと動いたのは気のせいではないだろう。
コウスケが見たもの
それは静かに怒るレイがいた。
「レイの・・・」
なぜレイがここにいるんだ?
それはレイが夕食の支度が出来たことを知らせに来たからだ。
中から返事が無かったので部屋に入ってきた。
そういうことだった。
コウスケは報告書に気を取られ過ぎてそれに気づかなかった。
「レイの・・・監督日誌だよ。」
苦し紛れにそう答えた。
ちなみにチルドレンの監督日誌はすでに廃止されている。
「それは廃止されたと聞いてますが?」
「誰がそんなことを・・・」
「碇司令です。」
(くっ碇司令、余計なことを・・不味い・・非常に不味い。)
レイに嘘であることがばれている。
「それで、私の何ですか?」
レイの冷ややかな声がコウスケを襲う。
「あ~・・その・・だな・・」
レイが無言で見つめてくる。
じっと・・・
じ~っと・・・
じ~~っと・・・
・・・逃げられそうにない。
結局、レイに一日中つけていたことがばれてしまったコウスケ
報告書は間一髪で送ったが、レイの機嫌は収まってくれなかった。
レイから受けた処分
それは
「レイ・・頼む・・肉も出してくれ・・・」
「ダメ。」
「俺が悪かった。」
「嫌。」
「レイ~・・・」
一週間食事が野菜のみになったのであった。
しかもMAGIと零課で監視もしており、コウスケがこっそり肉を食べたら食事を抜く+一日延長という徹底ぶりであった。
・・・MAGIと零課はかなり協力的だったそうだ。
泣く泣くコウスケは野菜オンリーの食事に甘んじることになる。
・・・
ちなみにレイはシンジにも話したそうで、葛城家では禁酒令が出たそうだ。
ついでにこの行為は綾波特務一尉の独断として処理された。
NERVのトップはそのように切り抜けたのであった。
その人物が送られてきた写真を眺めながらニヤリと笑ったのは全くの余談である。
27話の後の話です。
実を言うとこっちの方が先にできたんです。
そのために27話を書いたと言っても過言ではありません。
随分とコウスケは過保護ですね
能力を無駄遣いしていると思うのは私だけですかね?
次も少し寄り道してます。
レイとシンジの危機
と言いますが、あまりあてにしないでください。